記憶の記録

2009.08.04
XML
カテゴリ: 住宅革命
八雲立つ

エアバス社のA300は中海上空から低空を飛び、宍道湖の湖面すれすれを通過してランディングする。
途中、中海に浮かぶ大根島を巻き込むように40度ほどの進路変更をする。
機体が傾いたおかげで大根島の全景が良く見える。
周囲を中海の汽水に囲まれたその島は、のんびりと孤立した夢の国のように見える。この島だけが時間が止まっていて、たゆたう時の流れがつむぎ出している歴史という織物のうねりを、傍観しているかのようだった。
(あんなところに住みたい。)
僕は行ったことも無い汽水の中にたたずむ島を、上空から一目見ただけでそう思ってしまった。


 出雲空港には高山正が待っていた。
「よく来たな!待っていたぞ!お前に会うのが楽しみでなあ。」

お互いに握り合った手に力が入る。高山の手はがっしりと力強い、男の手だった。久しぶりに会う旧友は日に焼けてたくましく、都会の日陰で暮らす僕から見ると少しまぶしく感じた。

「話したい事が山ほどある。今夜は飲み明かすぞ。覚悟しておけよ。」
他愛も無い話をするだけで笑ってしまう。
「ばかやろう!望むところだ。」「ワッハハ」
友達というものはありがたい。逢った瞬間に日ごろのストレスも消し去ってくれる。もっとも僕にとってのストレスは杉山の顔と研究所付近の饐えた臭いだけだけれど。

高山の車はダイハツハイゼット軽トラック4WDだった。セルフビルドしようというくらいだからこの車が最適だろう。(おぬし、やるな)と思いながらも、
「とにかく、建築現場を見せてくれ。何をやらかしているか確認しておきたい。」と、伝えた。
「了解!シード。しかし、その前に安全祈願をしなければならん。少し寄り道をするぞ。」
高山はそう言うと車の進路を西に取った。
身長が180cmを超えようかという男が二人で軽トラックに乗り込んだ姿はかなり滑稽に見えるのじゃないかと少し気になったが、久しぶりの再開で会話も盛り上がり、30分ほどのドライブはあっという間に終わった。到着したのは、静かなたたずまいのモダンな建物で、何かの博物館らしかった。長いエントランスは、遠近感を強調し、フラットなデザインの建物をよりフラットに見せている。
< 古代出雲歴史博物館 >は、出雲地方から出土した歴史的資料が展示されているのだという。エントランスに向かって歩き始めた僕を高山が呼び止めた。

てっきり博物館に入るのだと勘違いしていた僕は引き返して高山に続く。
「博物館は帰りに見る事にしよう。まずはあちらへ参らねばバチが当たる。」高山はそう呟くと西側の鬱蒼とした森に向かって歩いていった。
その森こそ、神々の杜、出雲大社だった。
始めて出雲を訪れた僕を、まずは出雲大社に参拝させ、安全祈願を口実に観光案内をしてやろうという高山の配慮だったのだ。
こうして僕は、出雲という土地へ、八百万の神々の聖地へ、第一歩を記したのだった。


この雲たちは、
須佐之男の尊が自分の結婚式のときに見た、立ち上る幾筋もの雲を詠んだ日本最古の和歌、
「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を」の八雲のことなのだが、なぜか七つしか雲は描かれず、永遠に完成されない美を象徴しているのだと伝えられている。
永遠に完成しない八雲。永遠に完成しない出雲大社。完成しないからこその永遠を選び取ることとした古代人たちの英知に僕は驚きを覚えた。そして、七つの雲たちは建築物の環境の研究をしている僕に、建築物の究極の完成ははるか遠いところにあると暗示していよう思えてならなかった。
IMG_1258.JPG





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2009.08.04 13:06:52
コメントを書く
[住宅革命] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

×

Profile

フライングシード

フライングシード

Calendar

Archives

2026.05
2026.04
2026.03
2026.02
2026.01
2025.12
2025.11
2025.10
2025.09
2025.08

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: