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2006年09月12日
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エヴァさんがぼくを指名した。

皆の視線が集まる。何をしゃべるか、決めてはいない。

目をつぶる。

すると、学生時代、髪の毛が長かった自分の顔が浮かんだ。

フーッと息を吐いて、自分でも思いもかけなかったことをしゃべりだした。

「<いちご白書をもう一度>という歌をご存知の方があると思いますが、

ぼくは共感できない。

カラオケ店に行ったとき、年下の人からこの歌をリクエストされた。

きっと、ぼくが70年当時の学生だから、



映画の<いちご白書>は確かに70年公開だけれど、

この歌は、荒井由美時代のユーミンが75年に作詞・作曲して、

バンバンが歌ってヒットした。

わずか5年だけど時代の空気に微妙なずれがある。

70年は嵐の中にいる感覚、75年は嵐のあと。

妙に懐かしんでる雰囲気があるけれど、

僕は70年をけっしてなつかしんだりなんかしない。

貧乏のどん底で、6畳一間どころか、

3畳1間の部屋で女性と身を摺り寄せて暮らしていた。

昼間は働いて夜大学に通う生活で、

学生運動に深く関わるよりも日々の生活を支えるために



あっちこっちへデモに出かけるお金も余裕もなかった。

でも、心の中では、それまでなんとなく息苦しかった体制を、

左翼、右翼問わず、問い直そうという空気には異論はなかった。

別に反体制を気取るわけでもなかったけれど、

ぼくもご多聞にもれず、長髪で汚いジーンズをはいて毎日を過ごした。



ついでにいうとまともな就職活動もしていない。

学生時代からのアルバイト先の雑誌社にそのまま社員に加えてもらっただけ。

だから、



  就職が決まって 髪を切ってきた時

  もう若くないさと 君に言い訳したね


という歌詞には違和感がある。

就職するからと、昨日までの思いをそんなに簡単に捨てられるのか、

それじゃ、あの激しいデモの嵐はなんだったんだ? 

ぼくはわけがわからなかった。

ぼくは、結局放浪者のように、自分が定住する場所を定められず、

いろんな職業について、最後は結局自由業を選択した。

上司に会社に拘束されずに自由に生きたかった。

その末路が、学生時代からいっしょに住んでいた人とも別れ、

家もなく、子もなく、たいした財産もない今の自分。

しかし、さっきの壬生さんの話と逆で、

ぼくはいろんな人と接してきた。

神戸の震災前後に街づくりに加わった。野宿者支援にも加わった。

アジア、アフリカの人を含め、外国人との交流活動にも加わった。

モノとして、ほとんど何も持たないぼくだけれど、

心の中には、いろんな記念品がつまっている。それでいいと思っている。

ヨーコがこのセミナーに誘ってくれたとき思ったのは、

そんな記念品の飾り棚にまた一つ、いいものが残りそうだ、

そんな思いがあったのが正直なところ。

ぼくは、人生は<こんなもの>と思うタイプではない。

なにか新しいことがあると飛びついてきた。

そして自分が何かに気づき、発見し、変わっていくことを感じて、内心喜んでいる。

発見は、飛躍から生まれる。

このセミナーが、一般のセミナーと違って、

レンタルパートナーとして男女が出会うというコンセプトがあることを知って、

ぼくは心の飛躍になることを期待した。

このセミナーで、何が変わったのか、

今は分からない。でも、また何か発見しているのだと思う……」

そこまで、言い終わったとき、

ヨーコが急に立ち上がって、叫んだ。

「やめて、そんな話どうでもいい。野間さん、何を考えてるのォ!」

「話は最後まで聞いてください」

木瀬さんが発言を制止しようとすると、ヨーコは

「言わせてッ!」

と、皿を持って、豆を部屋中にばらまいた。

その豆がぼくの顔にもあたった。

ヨーコの怒りの理由が分からない。(つづく)






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最終更新日  2006年09月12日 20時17分08秒
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