愛し愛されて生きるのさ。

愛し愛されて生きるのさ。

2003.07.12
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『凍える牙』で直木賞を受賞し、その後も『風紋』『ピリオド』『涙』などのベストセラー小説を上梓している乃南アサの短編集。

乃南アサは基本的にミステリー作家であるが、この作品集は旅行小説のような体裁をとっている。

私は短編集が好きである。普段の生活の中で小説を読む時間は、電車の中であったり、ちょっと暇つぶしの喫茶店の中だったり、はたまたバイトの休憩中であったりと割と短い時間の中である。そんな時、長編だと面白くなってきたところで中断しなければならなくなってしまうのでテンションが途切れてしまう。しかし、短編は短い時間でも1編読めてしまうので、最初から最後までテンションが途切れずに1つのストーリーを読み通すことができる。そこがメリットである。

そこでこの『行きつ戻りつ』であるが、この作品集はもともと月刊誌『ミセス』に1年間連載されたものらしい。そのため1冊が12章で構成され、それぞれの季節に合わせた内容になっている。そしてこの12章の共通点は、様々な悩みを抱えた主婦たちが、何かを求めて旅に出る、という点である。そのため、舞台設定も12章それぞれが日本の地方都市(男鹿・天草・佐渡・熊野など)である。非常に主婦向けの内容ではある。

乃南アサという人の作品にはいつも感嘆させられる。きっと誰しもが持っているであろう、心の中のドロドロした部分をクローズアップして物語を組み立てているので、読んでいて空恐ろしくなることがある。それだけ、人物の描き方が緻密なのである。

この作品でも人物描写は見事である。それぞれの女性が悩んでいることは、夫との関係であったり、姑との対立だったり、はたまた喪ってしまった息子への想いだったりとどこにでもあり得ることである。そんな女性たちを主人公に据え、彼女たちに何かしらの救いを与えるために全国各地に旅立たせているのだ。彼女たちが自然に触れることで、凝り固まった心がほぐされていく様子に読んでいて心を打たれる。自然や風景の描写もよく出来ているから、まるで自分がその場にいるような錯覚に陥ってしまう。

人は誰でも何かしらの悩みを抱えているが、自然を前にしてしまったら卑小な存在である。それでも懸命に生きていこうとする人たちの姿に感動する。この12編の話の中に出てくる悩みや苦しみは、男女を問わず誰にでも当てはまるものであろう。必ずラストには救いが待っているので、読後感はすこぶる爽快である。

「微笑む女」「青年のお礼」という章がとても良い。久々に小説を読んで泣けた。歳を取ると涙もろくなって困る。

ここに出てくる土地が、あまり観光地化されていない土地であるという点も良い。これを読むと、自分も旅に出てみたくなること必至であろう。





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最終更新日  2003.07.12 03:15:58
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