2025年11月15日、東京の楽天本社で開催されたRakuten Technology Conference 2025において、楽天のChief AI & Data OfficerであるTing Cai氏が、同社の革新的なAI戦略について発表を行いました。この発表は、日本を代表するテクノロジー企業が描くAIの未来像を示すものとして、大きな注目を集めています。
デバイス上で動作する「Rakuten AI for Desktop」の登場 Rakuten Technology Conferenceの数日前、楽天はパーソナルコンピューティングと人工知能における大きなマイルストーンを発表しました。HP Japanとの協業により、「Rakuten AI for Desktop」を発表したのです。これは、ユーザーが初めてオンラインとオフラインの両方で楽天のエージェントにアクセスできるデバイス上のインテリジェントなAIプラットフォームです。このプラットフォームは、2026年春から夏にかけて日本国内のHPのコンシューマー向けおよび商用デバイスにプリインストールされる予定です。楽天の大規模言語モデルがデバイス上で直接動作することにより、クラウドとローカルデバイス間のシームレスな移行が可能となります。楽天のAI製品責任者であるRaju Vasanth氏は、このプラットフォームが東京への出張準備をどのように支援するかをデモンストレーションしました。楽天トラベルでホテルを探すことから始まり、機内のオフラインモードでメールを要約してレポートを作成し、最終的に現地でプレゼンテーションを作成して翻訳するまでの一連の流れが示されました。Vasanth氏は、「Rakuten AI for Desktopはタスクをローカルデバイス上で直接実行することにより、プライバシーを強化します」と述べました。「これは本当にどこにでも持ち運べるインテリジェンスであり、機密データや重要なデータを管理するための強力なソリューションを提供し、ブラウザベースの生成AIプラットフォームに依存することへの懸念を解消します」と続けました。
ハイブリッド・アプローチの真意と強み 楽天の「最高のパートナーと提携し、最高のものを構築する」というハイブリッド戦略は、非常に理にかなった現実的なアプローチです。 垂直統合 vs. 水平連携:GoogleやMetaが巨大な単一モデルを自社で開発・独占しようとする「垂直統合」型の戦略を取る一方、楽天はAnthropic (Claude Code) やOpenAIとの協業を取り入れています。「土台となる大規模言語モデル(LLM)は外部の最先端技術を活用し、その上に楽天の独自データとエコシステムを組み込んだエージェント層を構築する」という「水平連携」に近い戦略です。このアプローチは、LLM開発競争の熾烈さから距離を置きつつ、恩恵を最大限に享受できる賢明な選択です。楽天の競争力の源泉は、LLMそのものではなく「950万契約超の楽天モバイル、楽天市場、トラベル、フィンテックなど、多岐にわたる巨大なユーザーデータとサービスの連携性」にあります。エージェント型AIは、この強みを最大化するためのインターフェースとして機能します。 独自開発の意義(GENIACプロジェクト):一方で、経産省のGENIACプロジェクトに参加し、メモリ機能を拡張したオープンウェイトモデルへの投資を続けることは、将来的なリスクヘッジと技術主権の確保を意味します。パートナーの技術に完全に依存せず、特に機密性の高い「ユーザーメモリ」や「ハイパーパーソナライゼーション」といった、差別化の核心となる部分は自社技術でコントロールする意図が見えます。
エージェント型AIの実現する価値 楽天が提唱する「エージェント型AI」の未来は、従来のチャットボットや単なる検索アシスタントとは一線を画します。 顧客体験のシームレス化(脱・サイロ化):記事のデモに見られるように、楽天モバイルAIアシスタントがオンラインと実店舗の体験のギャップを埋める、あるいは楽天市場のショッピングエージェントが「曖昧なクエリ」から「完璧なプレゼント」へ導く流れは、楽天エコシステム内のサービスのサイロ(縦割り)を崩す効果を持ちます。ユーザーは、楽天モバイルの契約内容をAIに尋ねつつ、そのAIに「ついでに次の旅行の予約も手伝って」と指示できるようになる未来です。エージェントは、サービス間の摩擦係数を極限まで減らし、ユーザーの「生活のプロアクティブなアシスタント」になるというCai氏の言葉は目標を端的に示しています。 Rakuten AI for Desktopのインパクト:HPとの協業によるデバイス上AIのプリインストールは、非常に戦略的です。プライバシーとオフライン機能: ローカル実行は、機密データ処理の懸念を解消し、ブラウザベースAIとの差別化要因となります。出張デモの例のように、機内などのオフライン環境でタスクをこなせることは実用性が高い。 タッチポイントの拡大:PC起動時からのデフォルトの「知性」として楽天AIがユーザーの日常に入り込むことで、検索エンジンやブラウザといった従来のデジタルな入口(ゲートウェイ)を迂回し、楽天サービスへの動線を確保できます。これは、他の巨大テック企業との競争において大きなアドバンテージです。
日本のAI戦略における楽天の役割 楽天がGENIACに選定されたこと、日本市場でデバイス搭載AIの協業を推進している事実は、同社が単なる一企業を超えた、日本のAIインフラの一翼を担う存在になりつつあることを示唆しています。 データと言語の優位性:楽天は、日本固有のEC、モバイル、金融データという質の高い日本語データセットを保有しています。これらはグローバルLLMが不得手とする日本市場特有のコンテキスト(例:商習慣、きめ細やかなサービス、複雑な漢字文化)を理解し、最高の性能を発揮するAIエージェントを構築するための生命線となります。 未来の焦点:ハイパーパーソナライゼーションとユーザーメモリ: 楽天の次の目標が「ハイパーパーソナライゼーションとユーザーメモリ」にあるのは、非常に重要です。エージェント型AIの最終形態は「ユーザーの過去の行動、好み、購買履歴、家族構成(=メモリ)を総合的に記憶し、予測的に行動する」ことです。この「メモリ」が楽天エコシステム全体で共有されるとき、その利便性とロックイン効果は計り知れないものになります。「機密データや重要なデータを管理するための強力なソリューション」としてのAI for Desktopの役割は、このパーソナルメモリを安全に守るという点で核心的な意味を持ちます。
エコシステム・インテリジェンスの覇者へ
Ting Cai, AI leaders unveil Rakuten’s agentic future: Rakuten Technology Conference 2025 https://rakuten.today/blog/rtc-2025-ting-cai-rakutens-agentic-future.htmlTing Cai, Rakuten’s Chief AI & Data Officer sheds light on the company's groundbreaking AI products and services at Rakuten Technology Conference 2025.