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とかち帯広空港、2026年7月。到着ロビーのドアが静かに開くたび、冷房に慣れた身体へ、湿った草の匂いと、遠くで焼けた土の匂いが流れ込んできた。空は東京よりも高いというけれど、ほんとうは高さではなく、逃げ場の多さなのだと思う。見上げたところで何にもぶつからず、視線は雲の向こうまで、ただまっすぐにほどけていく。
彼女は、手荷物受取所の前に立っていた。到着したばかりの人々が、再会の声や、旅の終わりを告げる靴音を残して通り過ぎていく。そのなかで彼女は、まだどこにも着いていないかのように見えた。
五年前、同じ七月に、彼女はこの空港から飛び立った。あのときは、ここを出れば自分が別の人間になれると思っていた。人は場所を変えれば生まれ変われる。若い彼女は、そんなふうに信じていた。
けれど年月は、飛行機よりも遅く、そして確実に人を運ぶ。東京の小さな部屋で、彼女は何度も十勝の夢を見た。防風林の向こうに沈む夕日。牧草地を渡る風。誰もいない道の先で、名前を呼ばれたような気がして振り返る、あの不思議な静けさ。
迎えに来るはずだった父はいない。だから彼女は、誰にも告げずに帰ってきた。帰るという言葉が、行き先ではなく、失ったものの輪郭を指すことを知るまでに、ずいぶん時間がかかった。
外へ出ると、真昼の光が一斉に降ってきた。駐車場の向こう、滑走路の先には、どこまでも平らな大地があった。風が髪を乱し、白い雲の影が、畑の上をゆっくりと走っている。
彼女はスーツケースの取っ手を握り直した。
遠くで飛行機が離陸した。轟音は大きかったが、その姿が空へ吸い込まれると、あとにはまた、広い静けさだけが残った。
(文:Manusによる)
とかち帯広空港、2026年7月(写真1+Google)
とかち帯広空港、2026年7月(写真1+Artguru)
とかち帯広空港、2026年7月(写真2+Artguru)
とかち帯広空港、2026年7月(写真3+Google)
とかち帯広空港、2026年7月(写真3+Google)
とかち帯広空港、2026年7月(写真1〜3) コラージュ
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