江戸こぼれ話 笑左衛門残日録

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月夜の傘 New! 朽木一空と五林寺隆さん

2021.12.02
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​夜鷹の町  本所吉田町
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   両国橋を渡り、堅川に沿って、相生町を1丁目から5丁目へと東に向かって歩く、
 橋向うの本所界隈は同じ江戸でも神田日本橋辺りとは空気がまるで違った。
  野暮、粗野、貧しさも丸見えだが、気取っていない本所の町の方が気さくな感じがして江戸っ子ぽくも感じる。
 本所緑町、花町を過ぎ、加賀町一丁目の、北辻橋の手前を左に折れ、堅川と交差している横川に沿って北に向かう。 堀沿いの柳が頬を掠めそうに垂れ下がっている。
 「彦五郎、左の本所入江町はあの鬼平の長谷川平蔵の屋敷のあったところだ、 悪い虫が疼かねえように気をつけな」
  ご隠居と彦五郎は本所入江町を過ぎ、長崎町、清水町を過ぎ、右手にある
  幅二十間(36M)の横川にかかる法恩寺橋(報恩寺橋)を渡った。
  左手に大きな樹木の緑が覆いかぶさるように、静寂に包まれた日蓮宗の、 広い敷地の妙栄山本法寺(ほんぽうじ)の山門がでんと構えていた。
  二人は、門前丁の天秤蕎麦屋の暖簾を潜った。ここの亭主、順庵はもとは本法寺の坊主だった。
 夜毎、哀れな夜鷹の姿を見て、世の中の量りはどこかちぐはぐだ、何か夜鷹の手助けができないかと、蕎麦屋をはじめたのだ。 その天秤麦屋に入った、ご隠居と彦五郎は法恩寺橋が見える小上がりに腰を降ろして、酒と、天ぷら、ざるそばを注文した。
 天秤蕎麦屋では、夜鷹には蕎麦十文、その他の者はには30文という勘定をつけていた。 お江戸の中で3800軒もあるという蕎麦屋で、こんな不つりな勘定をつける店は聞いたことがないが、
  ちなみに、風鈴をつけた屋台を担ぎ夜の街を流す蕎麦売りは16文が相場だった。
 「ご隠居、神田から随分歩きましたねえ、それにしても風変わりな勘定の蕎麦屋でございますねえ。」
   ~ごおーーん、ごおーーん~
   横川の川岸にある本所 時之鐘の鐘撞堂から暮れ六つの鐘が聞こえてきた。
  「彦五郎、そろそろ、夜鷹のお出ましの時刻かな、、」
  法恩寺橋の西の両側の本所吉田町は夜鷹の巣窟として知られていた場所だったのだ。
  ~吉田の森に夜鷹という鳥住む~等と言われ、暮れ六つを過ぎると夜鷹は出かけるのだ。 両国の薬研堀、神田の筋違い橋、駿河台から護持院が原の方までむしろを抱き抱えた姿で春をひさぎに出かけるのだった。
  「彦五郎も話には聞いてるだろうが、夜鷹の料金は僅か浪銭六孔だ、(波銭とは四文銭のことなので、4枚で二十四文。(500円くらい)
   ~客二つ つぶして夜鷹 三つ食い~なんて川柳があるが、客二人相手して48文。16文の蕎麦が三杯 食べられるということだ。あんまりにも夜鷹がかわいそうなので、順庵はせめての夜鷹には10文でそれも大盛りの蕎麦を食わせてるんだ、
  夜も更けて、冷えてくるころにゃあ、帰ってくる夜鷹が体を温め、腹を満たそうと、店はいっぱいになるって寸法だ」
  「夜鷹ってえ商いもてえへんなことですねえ」
  「彦五郎、みろ、法恩寺橋の上を柿渋色の単衣(ひとえ)を着て、太織の帯を締めて、茣蓙を抱えている女ふたり、 これから夜の商いに出かけるのだ。ちょっと離れて唐傘をかついでいる男が歩いてるだろう、あの男が牛太郎((妓夫)だ。
  多分夜鷹のどちらかの亭主か紐だろうな、夜鷹の用心棒なのだが女房を夜鷹にして働かせる悪い奴でもあるな。
  だが、江戸の夜も物騒には違いねえ、 夜鷹は春夏秋冬、日の暮れるを待っていつもの場所に出て客を引き、「もしもし、遊びねえ、、」と男の手を引き、 川岸の土蔵の庇合、土手の下、または材木置き場や石置場などの物蔭に客を引き込み淫をひさぐのだが、 タチの悪い男が揚代を払わずに逃げたり、暴力をふるったり、逆に銭を巻き上げるなんてことも少なくないんで、 夜鷹にしても、岡っ引きの目もあるし、牛太郎(妓夫)の亭主が物陰から見守っていてくれた方が安全ではあるんだがな。」
 「ご隠居、夜鷹の中にも水も滴る艶麗な夜鷹もいるんでございましょうねえ」
 「そいつは、富くじにあたるより難しいかもしれねえな、そもそも吉田町に流れ着く女は吉原から岡場所や宿場に流れ、その岡場所や宿場でも通用しなくなった女が、食べていくため、やむなく夜鷹になったんだ、まあ、遊女のなれの果てだな、だから年齢も高く、四十から五六十、なかには七十なんて女ももいるそうだ。 おまけに性病などの病気持ちが多いんだよ。
 老いを隠すため、手拭いで顔を隠し、ひたいに墨を塗って髪の抜けたのをごまかし、白髪に黒い油を塗ってごまかし、 それでも提灯を寄せればところどころ白髪が見えて、見苦しく汚らしい女もいるそうだよ。 中には親や子供が病に罹り、借金を抱えてやむなく夜鷹で稼がねばならぬという女がいたかもしれねえな。」
 「そんな夜鷹を買うやつの気が知れませんなあ」
 「彦五郎は、貧乏者でもまだましだってことよ、江戸の町には女だけじゃねえ、極貧の男もいっぱいいるってことよ。
 本所界隈には、大名の下屋敷が多くあり、参勤交代で江戸へ出てきた貧乏侍も我慢できずに夜鷹の元へ通う、 旗本や御家人の武家屋敷の中間や折助、下男などの奉公人、日雇い人足も、本当は吉原や岡場所で遊びたかったであろうが、 薄給では夜鷹と交わるのがせいぜいだったのだろう、またその日暮らしの、棒て振りや、荷揚げ人足、水夫、車夫、駕籠かきもいるそうだ。 それに田舎者が江戸へきてひっかかることも少なくないそうだ。」
   ~本所吉田町には小鳥が住まぬ、すまぬはずだよ鷹が居る~
 たったの浪銭六孔(二十四文)かけ蕎麦2杯にもならねえ銭で春をひさぐ、
 そうしなけりゃあ、飯の食えない女がいたんだ。岡場所や宿場でも通用しなくなった女が、食べていくため、やむなく身銭を稼い でるんだ。
 好きで春をひさいでいるわけじゃない、自分だけなら死んじまってもいいのだが、
 病気の親がいたり、亭主が寝込んでいたり、借金が返せなかったり、いろんな暗い事情ってえ者を抱えてるんだな」
 「ご隠居、それじゃあ、まるで地獄でござんすね」
 「それがそうでもねえところがお江戸だよ、
  なあに、交合なんてえのは糞するようなもんだ、あたしゃ厠だ、男の厠、
 明日は明日の風が吹く、いちいち気にかけてちゃ暮らしちゃいくないよ。
 お江戸の女は明るいよ、またそう思わなきゃあ笑って過ごせねえがな。
 「へええ、そんなもんでござんすかね、まだまだ江戸の神髄にやあ、近づいちゃあいませんね」
   夜鷹見習い、笑って暮らそう、、、、  笑左衛門
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最終更新日  2021.12.02 10:30:05
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