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2023.01.16
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テーマ: 読書(10007)
カテゴリ: 日常
なんとなくソワソワして、去勢された犬みたいにあれこれと手をつけていたら、あっという間に夜だった。
こういう言い方は、いささか大げさ過ぎるかもしれない。

午前中、役所やら友人のところへ行った三郎は、今後やるべきことがいろいろと明確になったらしい。
心持ちいい具合にできあがってる、という感じ。
どことなくエネルギッシュだった(私は雨の日なのでダウン)。


「なんかできそうな気がする」
「新しいことって楽しいよな」

と車を走らせながら、しみじみと呟いている。
その度に「よかったね」とか「人生好きなことやるべきだよ」とか親切に答える私は、



コーヒーを奢ってくれるというので、駅近のスタバに行った。
野崎孝訳「ライ麦畑でつかまえて」を読んでいた私は、ホールデンくん、君も大変だよな、なんて思いながら、道行く人を眺めていた。
ふいに三郎が立ち上がり、エネルギッシュに羽織を脱いだ——腕を抜き、バサッと私に渡す——ダウンの袖がコーヒーにあたり、コートおよびワンピースが愉快なことになった。コーヒーがぽたぽたと滴る。



「まじでごめん」
「それにしても何であんな勢いよく脱ぐかな……」
しかし私、ちょっと笑えてくる。笑っていけない場面ほど笑いたくなる。
「すんません」
「ほんとさ、クリーニング代くらい出してよね」
「ウッス」
「帰りに寄ろうね」
「ウス」


でも、頭の中では別のことを考えていた。
私たちは一瞬一瞬を共有しているのに、まるで違うものを見ているんですね。考えていたのはつまり、ニーバーの祈りなんですけど、




*
ニーバーの祈り
*

神よ、

変えることのできるものについて、
それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。
変えることのできないものについては、
それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。
そして、
変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
識別する知恵を与えたまえ。

*
ラインホルド・ニーバー(大木英夫 訳)




コーヒーとラインホルド・ニーバーさんがどう繋がっているかはわからないけど、シナプスだかニューロンが反応して、パッと思い出したわけです。
そういうことってありますよね?
人の頭は宇宙だ。


もともとはマサチューセッツ州のちいさな教会で祈りの言葉にされていたこの言葉は、
アルコール依存症や薬物依存のプログラムとして採用されるようになってから、広く知られるようになったらしい。

まさに今日のように。



「白い服だったら死刑だから」と私は言った。
三郎は神妙そうに頷いていて、「高いコーヒーになったなぁ」としきりにぼやいていた。
良いこともあれば、悪いこともある。
雨はずっと降っていた。
執拗に、柔らかな簾のように。
三郎、がんばれ、と私は祈った。
クリーニング代はもらうけど。





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最終更新日  2023.03.29 10:05:46
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