
『あほうがらす』の所以は説明されていませんけれども。
この11編からなる短編集、池波正太郎の筆がとてもいい感じに肩の力が抜けていて、アッという間に読み終えてしまう。
編によっては解釈次第でひどく重いテーマもあるのだが(荒木又右衛門など)
『何を感じるかはあなた次第、まずは物語を愉しみなさい』
と、言われているような気がします。
そして何を感じるかということですが
『人間なんて矛盾だらけの生き物である』
これに尽きます。
『火消しの殿』の浅野内匠頭の公私のギャップ
職務に忠実な公僕でも私生活は淫靡な世界の持ち主である、そんな手合いの事件は(とても悲しいけれども)巷では掃いて捨てるほどよくあること
『鳥居強右衛門』腹の内と口をついて出る言葉が正反対
ああ、この結末には涙が出てしまいます。
これが『侍』の本分なんだと。
妻女よりも仕える君主に命を捧げる。
私なんぞですら、そんな瞬間はありますもの。
ただ、強右衛門と異なり現代に生きる私たちは命を取られることはありませんが。
『あほうがらす』
結末で兄さんがそれと知らずに弟の鬢の毛を燃してしまう
傍目に観れば滑稽なことなんですが、当の本人からすれば正に命がけ。
兄さんのこの気持ちは男なら誰でも共感を抱かずにはおられますまい。
真実を知らずに旅立ってしまった兄さんがとても可哀想だな、と。
そうそう一つだけ
『表の顔と裏の顔が違う』
誰しもがネガティブな感情を抱く相手に対して敏感に反応することでしょう。
(私もそうです)
でも、あなた自身もその両面を持っていませんか?
方や他者には思いやりのある言葉をかける一方でその人を傷つけて、苛みたくなる気持ちをぶつけてしまうことが。
私はその両面を持っていますし、その両面のギャップに自分自身で苦しむことも少なくありません。
そんな自分の表の顔と裏の顔のことを池波正太郎は否定しない、それが人間なんだと肯定している
だから私も自分の二面性で苦悩することはナンセンスなこと。
そうやって割り切れればどんなに楽なことでしょう。
ですけれどもその苦悩から自身を解放してしまうことはできないし、解放されずに苦悩している姿、それが『人間らしい』という側面に繋がるのやもしれません。
・火消しの殿
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