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2006年10月27日
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カテゴリ: 孤舟
 きっと耐えられぬほど辛かったに違いない。それであんな風になってしまったのだ。そして、自分の名前さえ思い出せぬまま、我が子を我が子ともわからぬまま、惨めな狂乱のうちに死んだ。それでは母があまりにも可哀想だ。

 袈裟は母を思ってずいぶん長い間泣いた。泣けば泣くほど、母への憐れみは募って行った。

 それだけではない。それに伴って、袈裟は自分のことも、言葉にできぬほど惨めに思った。父親が誰かもわからず、誰からも望まれずに生まれ、牛馬のように売り飛ばされようとしていたなど、一体人であるとすら言えるだろうか。

 そして、母と自分への憐れみがこれ以上ないほど膨れ上がった時、袈裟の胸の中に押さえがたい感情が湧きあがって来た。

 それは、母を無残に捨てた人への憎しみだった。袈裟はそれからずっと、その憎しみを糧にして生きていくことになったのである。

 だが、憎しみは憎しみしか生み出さない。さきくさへの憎しみに凝り固まった袈裟は、その時から誰の思いやりも優しさも受けつけず、それに気付きさえしない女になってしまったのだった。





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最終更新日  2006年10月27日 09時55分28秒
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