山本藤光の文庫で読む500+α

山本藤光の文庫で読む500+α

PR

×

バックナンバー

2026年08月
2026年07月
2026年06月
2026年05月
2026年04月

カテゴリ

空白

(216)

妙に知(明日)の日記

(1580)

新・知だらけの学習塾

(564)

新・営業リーダーのための「めんどうかい」

(358)

完全版シナリオ「ビリーの挑戦」

(261)

知育タンスの引き出し

(317)

営業の「質を測るものさし」あります

(104)

のほほんのほんの本

(386)

乱知タイム

(71)

国内「あ」の著者

(24)

国内「い」の著者

(28)

国内「う」の著者

(11)

国内「え」の著者

(5)

国内「お」の著者

(21)

国内「か」の著者

(21)

国内「き」の著者

(9)

国内「く・け」の著者

(14)

国内「こ」の著者

(18)

国内「さ」の著者

(17)

国内「し」の著者

(27)

国内「すせそ」の著者

(8)

国内「た」の著者

(23)

国内「ち・つ」の著者

(10)

国内「て・と」の著者

(14)

国内「な」の著者

(16)

国内「にぬね」の著者

(5)

国内「の」の著者

(6)

国内「は」の著者B

(13)

国内「ひ」の著者B

(12)

国内「ふ・へ」の著者A

(10)

国内「ほ」の著者A

(7)

国内「ま」の著者A

(16)

国内「み」の著者

(22)

国内「む」の著者

(15)

国内「め・も」の著者

(10)

国内「や」の著者

(14)

国内「ゆ」の著者

(3)

国内「よ」の著者

(10)

国内「ら・わ」行の著者

(4)

海外「ア」行の著者

(28)

海外「カ」行の著者

(28)

サ行の著作者(海外)の書評

(23)

タ行の著作者(海外)の書評

(25)

ナ行の著作者(海外)の書評

(1)

ハ行の著作者(海外)の書評

(27)

マ行の著作者(海外)の書評

(12)

ヤ行の著作者(海外)の書評

(1)

ラ・ワ行の著作者(海外)の書評

(10)

営業マン必読小説:どん底塾の3人

(56)

笑話の時代

(19)

「ビリーの挑戦」第2部・伝説のSSTプロジェクトに挑む

(124)

知だらけの学習塾

(105)

銀塾・知だらけの学習塾

(116)

雑文倉庫

(44)

プロフィール

フジミツ

フジミツ

キーワードサーチ

▼キーワード検索

コメント新着

ヒフミヨは冥途の土産勾股弦(自然数の量化)@ Re:岡潔『春宵十話』(光文社文庫)(03/13)  ≪…岡潔は、「真善美(しんぜんび)」の…
ガーゴイル@ どこのドイツ 高半旅館は北方庁の高半島の高半温泉であ…
リンク@ Re:■過・渦・蝸・禍・鍋の「つくり」の意味は?(08/18) 参考URLには小ちゃいミスがあります。 co…
creesxuny@ erukzlyuujbn &lt;a href=&quot; <small> <a href="http…

サイド自由欄

設定されていません。
2015年07月27日
XML
カテゴリ: 国内「ま」の著者A
平凡な家庭を持つ刑務官の平穏な日常と、死を目前にした死刑囚の非日常を対比させ、死刑執行日に到るまでの担当刑務官、死刑囚の心の動きを緊迫感のある会話と硬質な文体で簡潔に綴る芥川賞受賞作「夏の流れ」、稲妻に染まるイヌワシを幻想的に描いた「稲妻の鳥」、ほかに「その日は船で」「雁風呂」「血と水の匂い」「夜は真夜中」「チャボと湖」など初期の代表作七篇を収録。(「BOOK」データベースより)

丸山健二『夏の流れ』(講談社文芸文庫)
まる丸山健二・夏の流れ.jpg

◎1行ずつ書かれた『夏の流れ』



――いずれは発覚するにしても、だが当分の間は誰にも知られたくなかった。一行分だけ切り抜いた厚紙を原稿用紙の上にかぶせ、まわりにたくさんの書類をばらまいてカムフラージュすることにした。その方法を思いつくまでに一週間も費やした。(『新鋭作家叢書・丸山健二集』河出書房新社、巻末の著者寄稿「四つの場所のなかの四つの作品」より)

 こうして書き上げたのが、処女作でもある『夏の流れ』でした。その後、『正午なり』(『夏の流れ/正午なり』講談社文庫)は結婚後の、世田谷区烏山の三畳間で書かれています。外部がうるさくて、耳栓をはめて書いたようです。『明日への楽園』(新潮社、文庫なし)は東京を逃げだして、長野県阿智村で書かれています。ところがそこは、新任の学校の先生に明け渡さねばならないことになり、長野の実家にころがりこみました。そして書かれたのが『僕たちの休日』(単行本なし)でした。これら4つの作品を読むには、先に引用した『新鋭作家叢書・丸山健二集』河出書房新社』を捜し求めるしか方法がありません。

 丸山健二には、自然を文章にしたいという欲求があります。逆境を工夫によって、乗り越える知恵があります。そしてなによりもひたむきで、自らに妥協を許さない厳しさがあります。それゆえ、研ぎ澄まされた文章が生まれます。ちょっと以前の丸山健二は、安曇野を愛し、シェパードとともに自然の中を駆けめぐり、オフロードに夢中になっていました。

 現在は安曇野に定住して、バラづくりに夢中になっています。そのあたりのことは、『荒野の庭』(求龍社)に詳しく書かれています。本書は庭師丸山健二のすべてが、写真と文章に凝縮されています。

◎死刑囚と看守の対比

 今回紹介させていただく『夏の流れ』(講談社文芸文庫)には、他の初期6作品が収載されています。『夏の流れ』の主人公「私」は、死刑囚を収容する刑務所の看守です。塀の外の家庭には、7歳を頭に2人の息子がいます。妻の腹には7ヶ月ほどになる赤ん坊がいます。

 塀のなかは処刑を待つ囚人たちと、釣り談義に花を咲かせている看守たち。そのひとりに、若い中川という男がいます。初めての死刑執行担当を命ぜられた彼は、自分には人を殺せないと尻ごみをはじめます。魚釣りに誘いだし、リラックスさせようとするのですが、彼は退職してしまいます。

 死刑執行翌日の特別休暇で、私は子供たちを前から約束していた海へ連れて行きます。ストーリーはおよそこんな具合です。素材の面白さに加え、対比の妙がこの作品を生き生きとしたものにしています。

 塀の外と内の生活。死に行く囚人と、新しい生命の誕生を待つ家族。受刑者と看守。生涯をまっとうする職業と考えている私と、去って行く若い中川。塀の中の四角く区切られた自然と無限につづく海や川。

 丸山健二は特殊な舞台よりも、こうした職業のひとりの日常を書きたかったのだと思います。そんなふうに、この作品はさらっと仕上げられています。

――仕事を終え、皆は処刑室を出た。雨はあがり、雲は切れ切れに吹き飛ばされていた。/蝉が鳴きはじめた。ときどき吹く風がヒマラヤ杉を揺らし、しずくをバラバラ落とした。(本文より)

 丸山健二の文章には、新しい息吹があります。修飾語を極端にそぎ落とし、たたみかけるような短文でつないでいます。単行本『夏の流れ』の巻頭には、スキンヘッドではない丸山健二の写真があります。黒縁のメガネをかけ、指には煙草がはさまっています。

 私はデビュー作からずっと、丸山健二を追いかけてきました。最近の長編には、写真のような初々しさはありません。まるで丸山健二文学研究工房のようになっています。はじめて長編を手にして、辟易してしまう読者が多いようです。まずは初期作品を読んでもらいたいと思います。そうすれば丸山健二の「今」が理解できることでしょう。

◎孤高の作家といわれているが

 丸山健二の現在にふれている、文章を紹介させてもらいます。

――丸山健二は、孤高の作家といわれている。文壇から離れ、安曇野に隠遁しているからだろうか。そのことについて丸山健二は、「小説家は隠花植物」「人間嫌いだと小説は書けない。文壇以外の人とはつきあっている」などと説明している。(2005年「週刊ブックレビュー」より)

「週刊ブックレビュー」は、ネットで動画配信されています。スキンヘッドにサングラスの丸山健二と、バラの庭園をみることができます。丸山健二の最近作は、難解になってきたともいわれています。そのことについては、本人が「レベルの高い読者を意識して書いている」と述べています。(2005年「週刊ブックレビュー」を参考にしました)

 丸山健二は「私小説」を、自分のために書いている作品であると嫌っています。めくるめくような言葉に、酔いしれてもらうのが小説家だと断言しています。

 芥川賞選考委員の選評を読むかぎり、丸山健二『夏の流れ』は好評ではなかったようです。軽すぎる、うそくさい、冒険心がないなどという厳しい評価が多々ありました。それらをかいくぐったのは、若いのだからこんなものだろうというやさしい結論だったのです。

――男性的ないい文章であり、いい作品である。海に臨む刑務所の、生と死が、市民生活と犯罪が、夏の日のくっきりした光と影のように対蹠(たいせき)的に置かれているガランとした環境がよく描かれている。(中略)しかし二十三歳という作者の年齢を考えると、あんまり落ち着きすぎ、節度がありすぎるのが気にならぬではない。(三島由紀夫、芥川賞の選評より)

――この作家はなんでもこなして行く力倆を持っていると思う。資質を大切にして大成してもらいたい。(井上靖、芥川賞の選評より)

 選考委員は前記の2人のほかに、瀧井孝作、石川淳、石川達三、大岡昇平、中村光夫、永井龍男、川端康成、丹羽文雄、船橋聖一でした。候補作は丸山健二のほかに11作品もありました。第56回(昭和41年下半期)は、そうそうたる審査員となみいるライバルのなかで決定されたのです。

 しかし丸山健二は、審査員ともライバルとも決別してしまいました。「山本藤光の文庫で読む500+α」執筆のために、「丸山健二ノート」を書いて驚きました。新刊として流通している丸山健二の文庫は、見つかりませんでした。文庫になっている作品も、あまり多くはありません。これでは広く読んではもらえまい、と思いました。「売れる作品を書いてください」と頼むような編集者がいたら、一喝されて関係は終わりとなるはずです。それが丸山健二の文学なのですから。

 丸山健二は1982年の『ときめきに死す』(文春文庫)を境に、大きな変貌をとげています。大衆受けしないから、読者レベルを引き上げたのかどうかはわかりません。私は丸山健二の短編が好きです。初期作品集『夏の流れ』(講談社文芸文庫)には若い未完成な、読者目線の丸山健二がいます。

 現代の日本文学を代表する硬派の作家は、丸山健二と中上健次(推薦作『枯木灘』河出文庫)の「ダブルケンジ」だと思っています。最近マスコミに登場する20歳代の作家とくらべてみてください。文章の重さがちがいすぎます。描く世界がちがいすぎるのです
(山本藤光:2010.02.17初稿、2015.07.26改稿)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2017年11月25日 08時16分12秒
コメントを書く
[国内「ま」の著者A] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ

利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: