ふつうの生活 ふつうのパラダイス

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2008年07月10日
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カテゴリ: 日本映画


展開が早い上に、新聞社編集部内の専門用語も飛び交うし、前半はわけわかんない感をあじわいつつ観てる、という感じ。

夏の感動大作風な作りのわりに、見終わった後の感動もない。なにを訴えたいのか、監督は何を考えているのか。

この映画は、もしかすると、原作とはテーマが違うのかもしれない。

クライマーズ・ハイ

堤真一が演じる主人公 悠木和雅 は、さわやかで人間的で有能そうに見えるわりには、話のエピソードのひとつひとつを検証していくと、すごく 嫌な奴 なのだ。

編集部内で悠木と敵対する同僚等々力との話し合い、言い合いをする場が、他の同僚によってセッティングされた料理屋の一室なのだが、そこで悠木は、用意された料理にほとんど手を付けず、手に火のついたタバコを持ちながら、等々力と言い合う。その間、食べられないでいる料理の上にタバコの灰がふっているだろうなあと、そのことばかりがやたら気になった。昨今ニユースになった、「 船場吉兆 」のお客さんよろしく、出された料理には目もくれず、残そうが、タバコの灰がかかろうが、自分の意見を相手に言うことにだけに夢中で、まったく気に留めていない様子。たとえ、あの場で料理を食べないにしても、せめて、タバコを持ってないならましなんだけど。

全権デスクとして、自分が任されている「日航機墜落事故」の紙面のことに対しては、ものすごく気を使っていて、その紙面やその記事をよんだ読者がどう感じるか、不快感を与えないかということには、非情に気配りをしている。とにかく、自分の仕事にだけは、すごく熱心だ。けれど、そのためには、それ以外の他人の仕事をコケにしたり、つぶしたり、他の人間がその人たちなりに、責任と誇りをもってやっている仕事に対して、全く配慮も気配りも思いやりもない。

自分のスクープを出すためには、新聞を配達する立場の人の仕事の手順なんかは、どんなに相手が拒絶して、説明しても、無視するし、営業が必死に取ってきた広告も、自分の担当する紙面に載せたい記事をあげるために、抜いてしまうし、女性部下が調べてきたネタを土壇場で他の男性記者に担当代えするし、そこまでいろいろしながら、記事を載せる最終決定の段階で、やめてしまうし。せっかく女性記者が自分の感と能力で、持ち上げてきたものなのに。

部下が、ナマの現場を見てきて必死に村中の電話を探して送ってきた記事は、落とすし、生の現場を見て、精神的にまいっている部下に対しても、怒鳴りつけるだけで、心理的な気配りや気遣いもしない。

とにかくすごく嫌な奴なのに、なんでこんなかっこよい人物のように描かれているのか、分かりかねる。

ところが、この映画の中で、ものすごく嫌な奴として描かれているのが、この新聞社の社長であり、実は悠木の実の父である白河瀬三。

悠木はまったく自覚していないけれど、彼のこの他人をコケにするような嫌な部分は、この父親から受け継いだのだろうか。彼は、父親にいきなり、日航機墜落事故の全権デスクという大任を任されるけれど、いざとなると、肝心なところでじゃまされたり、同僚を死に追い込んでいるのがこの父親だったり、同僚がこの新聞社に見切りをつけて、東京の新聞社に移っていったとにもかかわらず、未だに、この新聞社に残っている。

母親を娼婦呼ばわりして、馬鹿にしたり、とにかくすごいいやなやつなのに、なぜ悠木はこの父親の元にいるのだろう。

彼はどうしても父親を乗り越えることが出来ない。

その悠木を救い出し、成長させ、父親にするのが、実に、彼の息子なのだ。

彼の嫌な部分は社長である父親からのもので、その悠木の嫌な部分を受け継いでいるはずのその息子じゅんが、自分の父親悠木を救う手を差し伸べているのは、なぜだろう。

悠木が父からもらった遺伝子は、彼の中で半分。その遺伝子は、悠木の息子じゅんの中では、さらに半分になって、四分の一。世代が受け継がれていく中で、だんだん「嫌な奴の遺伝子」は薄まっていく。

ものすごく「嫌なやつ」なのに、乗り越えられず、逃れられない、父からの遺伝子。決して切り捨てることのできない運命。けれど、人は、持って生まれたものをどうすることも出来ずに、その身のうちにもち続けてその生涯を送らなくてはならないけれど、人生は、さだめだけではなくて、その育っていく環境、生まれた後に手に入れる別のもの、そんなものによって、その人間性を変化させていく。

悠木が乗り越えられなかった父の存在。嫌なやつである自分。けれど、そのさだめから逃れられずにいた彼を救い出し、父親として成長させたのは、悠木から嫌な奴の遺伝子をもらっているはずの、悠木の息子自身だったのだ。

じゅんは父親から受け継いだ遺伝子を乗り越えて、悠木の知らない間に男として成長し、父を救い出す存在にまでなっていた。

成長した息子自身は映画の中では、まったくでてこない影の存在になっている。けれど、ラストで自分から息子に会いに行く悠木は、そこで初めて、父となり、自分のプライドを捨てて、人として自由になり、父としての成長を遂げることができる。

父となることではじめて悠木は父をのりこえられたのではないのだろうかと、思う。

ところで、悠木が「衝立岩」に上るために助けてくれるのは、彼のもと同僚であり、友人であり、悠木の父によって間接的に殺された安西、の息子だ。安西の息子がなぜここまで、悠木にしてくれるのだろう。それは、かつて、安西が倒れた時に、悠木が忙しい仕事の合間をぬって何度も病院を訪れ、安西のことをきずかい、手助けしていたからだろうと思う。それを安西の息子である燐太郎は見ていたのだ。

携帯もないこの時代にさらに、現場と編集部の間の連絡のための無線機すら導入しようとしない会社の上層部に、不平をいう若手社員たち。けれど、群馬の偉人が国定忠治であるように、県民の目の前で新聞者の人間がいかに苦労し、頑張っているかを見せなければ、県民や読者の支持は得られないという、意識の元に、無線機を導入しない。携帯が当たり前のようにあって、それを上の方の人間がそんなもの使うななんて止めることは出来ない今の時代には、すでに不可能な価値観なのだけれど。そんな風に目の前で見る他者の行動は、その人間に確実に伝えるものがある。

「衝立岩」のぼりの途中で落ちそうになった悠木を救ったのは、悠木のクライミングを予想して、はるか前に衝立岩に上って、父のためにハーケンを打ち込んでいた息子じゅんの行動、そのものだった。じゅんに会いたいと悠木を思わせたのは、その一本のハーケンだ。それでもまだ、足踏みして、決定的に決断できずにいる彼に「自分から会いにいけばいいじゃないですか。」と、最後の一押しの言葉をかけるのは、悠木とも、じゅんとも一緒に「衝立岩」を登った燐太郎だ。

安西のためにした悠木の行動と、そのやさしさや、思いやりは、回りまわって、息子たちを通って、最後に彼に戻ってきた。

いやな奴だったはずの悠木の中にも、人としてのやさしさはあったのに、仕事の場ではなぜそれがなくなってしまうのだろう。

父を乗り越え、同僚を圧倒して、自分の能力を他人に示したい。自分が思い描く能力と、現実の自分の能力とのギャップと、能力に伴わないプライドを、自分の中で折り合いを付けられずに苦しむのが、男性の人生というものなのかもしれない。

女性が他者との関係性に生涯悩み続ける ように、男性は、自分の能力とプライドとの誤差に生涯悩み続けるのかもしれない。それゆえに仕事にこだわり、成果をあげようとしていく仕事の現場の中で、クライマーズ・ハイに近い感覚に埋没していってしまうのだろう。

「なにか、できすぎていませんか。」という、電話の向こうの部下佐山の言葉に、水をあびせられたように、冷静になった悠木は、そこまでの準備の全て、部下の苦労を前にして、それでもなお、スクープを、一面に載せることをやめてしまう。

仕事のために、自分のプライドのために、他者を傷つけ、引き落としていく仕事の世界の中で、見失ってしまいがちな大切なもの。

それが、他者への配慮であり、仕事の成果や、能力への評価、プライド以上に守るべきもの。それが、真実というものであり、決してなくしてはいけない、誠意なのであるのだと、たぶん、そういう結論になるんじゃあないのかなと思う。

確約が取れずに、スクープとして載せるのをやめてしまった、日航機墜落事故の原因はなにかという、問題。スクープは、ほしい。けれど、真実かどうか、わからない段階で記事にしてしまうことを悠木はよしとしなかった。スクープをあげること、仕事で成果をだして、周りからの評価を獲得し、プライドを満足させること。そんなことにとらわれて、いつのまにか、真実を偽装してしまいそうになる、仕事の世界。

この翌日に大手新聞社から彼の上げようとしたネタがスクープ記事として出された。やはり、彼のスクープは、正しかったのだろうか。彼も、スクープを載せればよかったのだろうか?
けれど、結局今現在にいたっても、日航機事故墜落の本当の原因は、不明なままなのだ。

「チェック、ダブル、チェック」 真実を追い求め、真実を見失うな。自分のプライドのために、真実を偽装するな。と。

でも、この映画。見終わっても、感動できません。残念なことに。

ところで、この映画を見に行ったのは、堺雅人が出てたから。
いつもは、時代劇なので、落ち着いて大人びて見えていたのですが、スーツ姿だと、なんか幼げで、かわいかったです。それにしてもなぜ彼はいつも、いい役どころをもらっているのでしょうねえ。





クライマーズ・ハイ@映画生活








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最終更新日  2008年07月13日 10時12分22秒
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