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翌日部室に入ると、外の晴れ渡る秋空とは裏腹などんよりした空気が部屋の中を充満していた。そのどんよりした空気の源を辿るまでもない。原因は彼女で、どうやら芝居に出る事は諦めはしたものの開き直れていないご様子ならばここは彼氏である俺が元気付けるのは当然の義務であろうと優しく笑いながら彼女に近づこうとしたら「・・・八つ当たりってご存知ですか?」どんよりとした空気がしだいに密度を増し鋭利になる「人として八つ当たりって最低ですよね・・・でもその引き金を引こうとするもっと最低な人がいるのなら、それも致し方無いとは思いませんか?」今ひとつ自覚は無いが、ひょっとしてもっと最低な人って俺の事なのかな・・・「ですから、その薄笑いの下に見え隠れしている下らない冗談は言わないでくださいね!」いや、優しげな笑みを薄笑いと切り捨て、心のこもった励ましを下らない冗談と断言する時点でもはや八つ当たりなのでは・・・と切り替えしたい所だが、それを言うと彼女の斜め前でレポートに筆を走らせているとりちゃんや、彼女の横にいるのに微塵もどんよりさを受け付けずニコニコしているオキデン達が一斉に「それは日頃の行いのせいでしょう!」の輪唱を始める事は目に見えているので黙っているとギィーっと部室のドアが開く音が聞こえた援軍か?と入り口をみるとボーちゃんが立っていた「ボーちゃん」彼女がドアの前に立ったままのボーちゃんに寄る「どうしたの?とにかく中に入って」「・・・あ・・・はい」おずおずと部屋の中に入るボーちゃん「オキデン、ボーちゃんよ」そう言えば、あの時オキデンいなかったっけ「あなたが紀美の暴走に翻弄されたぼーちゃんね。紀美からきいたわ」しれっと有りのままの事実を端的に表すオキデン「オキデン!」「で、改めて入部する気になった?」「ちょっと、オキデン!坂口さんじゃあるまいし、なにすっ呆けた事言ってるのよ!」確かに経緯を考えればすっ呆けてるけど、坂口さんじゃあるまいしは余計じゃない?「え?だって部室に来たって事はそうかなって」「なんでそんな坂口さんのような、前のめり過ぎてデングリ返りしそうな前進思考が出来るのよ?」なんで君こそいちいち俺を引き合いに出さなきゃ話が出来ないのかな?そんなに俺の事が頭から離れないの?「ごめんねボーちゃん。それでどうしたの?」せっかくのでんぐり返ししそうな前進思考をまったく無視して会話は続く「・・・・あの・・・」「何?」「・・・入部しようかと・・・」「・・・・・え?誰が?」誰がってボーちゃんに決まってるが、彼女のそのキョトンとした顔がまた可愛くてついツッコむのを忘れて見とれていると「・・・ダメでしょうか」「とんでもない。大歓迎よ!」今だ固まったままの彼女を素通りしてオキデンがボーちゃんの手を握り「じゃあ早速みんなを紹介するね」「ちょ、ちょっと待って」ようやくフリーズから回復した彼女「あら?何か問題?」「もちろんわたしだって歓迎するわよ・・・でも、無理だって・・・」彼女がチラリと俺を見る。分かってる。彼女がその言葉だけを信じている訳じゃあない。でも、もしかしたらボーちゃんが自分に気を使って無理して入部すると言ってるんじゃあ・・・なんて心配してるんだろう俺は彼女のご希望通りのすっ呆けた顔で答える「ああ、確かにそう言ってたな・・・でもそれは昨日の話だろ?な、ボーちゃん」ボーちゃんを見てニカっと笑うとボーちゃんは「・・・はい・・・今は・・・出来るようなような気がします」「ボーちゃん!」彼女がボーちゃんの手を握り改めて歓迎していると「今度はどんな手品を使ったんです?」俺の横にオキデンが来てニコニコして聞いてきた「手品って、人をペテン師扱いしないでもらえるかな?」俺は何もしていない。ボーちゃんが頑張っただけだ「俺がした事と言えば、犬をフモフモしたした事ぐらいさ」そう言えばまだ犬の名前を聞いていなかった「ねえ、ボーちゃん。あの犬の名前なんて言うの?」彼女にキツく握られた手をブンブンふられ歓迎されていたボーちゃんは、ゆっくり俺に顔を向け「・・・・・・・ボーちゃん・・・・・・・」「いや、犬の名前」「・・・・・・・ですから・・・・ボーちゃんです・・・・」「・・・・・はい?」それを聞いて振られていた手がピタリと止まる「・・・え?でも、あなたボーちゃんって・・・」そう言えば彼女が名前を聞く前に犬の話をしていたような・・・「・・・もしかしてボーちゃんって犬の名前?」シーン・・・・とした空気が立ち込める部室。それが我慢できずに笑ってしまう「坂口さん!」彼女が慌てて俺を咎める「まあ、いいんじゃないか?あれだけ連呼しといて、もう今更って感じだろ」「そんな事言っても・・・」「それとも、えっと・・・大林さんだっけ・・・って呼んだ方がいい?」当の本人に尋ねると「・・・あの・・・今まで愛称で呼ばれた事がないので・・・ちょっと嬉しかったです・・・」「なら構わないだろ?」彼女にそう言った後、視線を変え言った「改めてよろしくな・・・ボーちゃん」
January 13, 2014
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「本当にゴメンなさい。嫌な思いをさせちゃったかもしれないけど、せっかくこうして話が出来たんだから暇な時があったらいつでも部室に遊びに来てね」門の外まで出てきてくれたボーちゃんに彼女は再び頭を下げるが、ボーちゃんはそれに応えずジーっと何かを見ている「・・・ボーちゃん?」ボーちゃんの視線をたどると、そこには俺のバイクバイク乗りなら分かってくれるだろうが、自分のバイクを他人が見ていると妙に嬉しくなる「ん?バイクに興味あるの?」人目をはばからずニヤニヤしたいのを我慢しながら世間話のように聞くと「あ・・・あまり近くで見た事が無かったのですが・・・走っているのを見ると気持ち良さそうだなと・・・」「じゃあ乗っ・・・」「あら、案外そうでもないのよ」鼻の穴を膨らませながらボーちゃんに「乗ってみる?」と言おうとするのを彼女が遮り「髪の毛はクシャクシャになるし排気ガスは吸い放題だし、それにこけたら危ないでしょう?」ほ・・・ほう・・・そう思ってたの・・・「でもね・・・一番危ないのはバイクじゃなくて「振り落とされないようにしっかりしがみ付いて!」って鼻の下を伸ばす不心得者だけけどね!」ほ・・・ほう・・・そう思っていたの・・・「という訳で、帰りは電車で帰るから私はここで失礼します」プイッっと横を向き歩いていこうとする彼女「ちょ、ちょっと!」何?この急展開。俺が慌てて彼女を止めようとすると「なんてウソです。今日はお母さんと駅で待ち合わせしてるので電車で帰ります。ビックリしました?」ビックリするどころかオロオロいちゃったよ!「・・・あの・・・でしたら駅まで送ります」オロオロしている俺をよそにボーちゃんが見送りを申し出る「え?でも悪いわ」「いえ・・・わざわざ来ていただきましたから・・・行きましょう」と、トボトボと歩き出すボーちゃん彼女もそれに続き、俺も慌ててバイクを押しながら後に付いて行った考えてみればバイクを押して付いて行くぐらいなら俺が彼女を駅まで送って行けばいいのだが、せっかくボーちゃんが積極的に送ってくれると言うのに水を差す訳にも行くまいしかし、何で帰り道ってのは言葉数が少なくなるのかね。別にそれで間が持たないって感じでもなく、何となく暖かいような気がして、ただトボトボと、日が暮くれ、街灯が灯りだした坂道を三人で歩いて行く「ありがとうね」駅に着着き、彼女がボーちゃんにお礼を言う「・・・いえ・・・嬉しかったです・・・こう言うのってあんまりありませんでしたから」嬉しかった・・・か来た事なのか送ってくれた事なのか彼女が手を振りながら改札をくぐりホームに消えた後、俺はまだ改札口を見ているボーちゃんに話しかけた「ボーちゃん。、見送る方と見送られる方、どっちがいい?」「え?・・・」「俺は見送る方かな」振り向いた背中に想いを抱く方が気が楽だ「・・・どっちも・・・あまり経験がありませんから・・・」「じゃあ、もう一度考えてみない?入部の件。別にスタッフでも構わないから」「でも・・・」「俺で良ければ毎日見送ってやるよ?」少々キザなセリフだが、何とか気に障らない程度に言えたような気がするそれでもボーちゃんは黙ったまま俯き、しばらくして「・・・無理です・・・」とつぶやく「わたし人に合わせるのが苦手で・・・いつもそんな気は無いのに怒らせたり邪魔になったり・・・」「お?奇遇だな。俺もいつもそう言われる」あら?くすりともしない。まあ分かってた事だけど「ですから・・・無理です・・・」「そうか・・・まあいいや。ほら」あっさり話題を変え、ボーちゃんにヘルメットを渡す「・・・え?」「送るよ。言ったろ?俺は見送る方が好きなの。大丈夫、なるべく鼻の下も伸ばさないようにするから安心して」全然安心出来ないセリフだなと我ながら思うがヘルメットは差し出したままだ「バイク興味があるんだろ?」差し出したヘルメットを恐る恐る受け取るボーちゃん「俺の腰を掴んで身体を安定させて。別にくっつかなくてもいいから」もちろん彼女には「俺の腰に手を回して身体ごと密着して」と言ってるが、これもケースバイケースって奴だ何とかバイクにまたがったボーちゃんを乗せ、ゆっくりとクラッチを繋いで行く乗りなれている者からしたらアクビが出るような速度だが、車と違って身体を剥き出して走るバイクは始めて乗った者にすれば体感的に速度は早く感じる例外に漏れずボーちゃんもそうらしく、俺の腰を掴む手に力が入っているまっすぐな道から山沿いの道に入るカーブに差し掛かりバイクを軽くバンク・・・しない!バイクが傾かない?!カーブに突き刺さりそうになり慌ててブレーキを掛けバイクを止めた後ろを見るとボーちゃんは目をギュッと閉じて身体を硬くしているなるほど・・・バイクは車体を倒してカーブを曲がる乗り物目を閉じているボーちゃんは怖さが増し、きっと傾むく方の逆に力を入れていたのだろう「あのねボーちゃん」俺の言葉にやっと目を開けるボーちゃんに冗談まじりに話す「ボーちゃんのバランス感覚ってたいしたもんだと関心するんだけど、バイクって傾かないと曲がれないんだ。」「・・・え?・・・すみません・・・」訳も分からず謝るボーちゃん「いやいや、先に言っとかなかった俺が悪いから。で、一つ頼みがあるんだ」「・・・頼み・・・ですか?」いや、心配しなくてもギュッと身体を密着させろって言うんじゃないから「怖いかもしれないけどさ、目を開けて前を見て欲しいんだ。後は俺に合わせてくれればいいから」「・・・合わせる?」「バイクが傾きたいのを邪魔しちゃダメなんだ。だから前を見て、俺の背中に合わせて傾いて欲しいんだ。大丈夫。絶対転んだりしないから」なるべく安心感を与えようと精一杯微笑んでみたが、ヘルメットを被ったままなので通じたかどうかは分からない。まあ、そんなにスピードをだす訳じゃないから大丈夫か「さあ、もう一回行ってみようか!」不安を払う為の景気づけの言葉と共にバイクは動き始める今度はちゃんと前を見てくれているようで、バイクは何の障害もなくカーブを曲がりボーちゃんの家の近くまで来た。いったんスピードを落としウインカーを出しかけたが思い直し、後ろにいるボーちゃんに大声で言う「ぼーちゃん!せっかく慣れてきたんだ。どうせだからもうちょいツーリングしてみようか!」「・・・・・・・・・・・・・・」ボーちゃんは何か言ってるようだが風切り音とエンジン音でよく聞こえない「え!何だって!」「・・・お願いします!」OK今度はハッキリ聞こえたスロットルをしぼり、さっきより少しだけ早いスピードで街を見下ろす住宅街をすり抜け、山道らしい曲がりくねった道に入るボーちゃんもすこし慣れてきたようで、右左に迫るカーブに対して自然にバイクの動きに身体を合わせて、初めは力が入っていた俺の腰を掴む手も力が抜けて行くのが分かる俺はボーちゃんに見えるように左手でガードレール側を指差したそこには夜も眠らぬ工業地帯の、オレンジや白色の灯りで埋め尽くされた夜景が広がっていたまあ近所なんだからそれに近い物は毎日にように見てるんだろうけど、少しの間、風を受けながら漆黒の闇の中のバイクのライトで浮かび上がるアスファルトだけを見つめていたのだからつい見入ってしまうだろうスピードを落としゆっくり走らせた後、適当な所でUターンしてバイクは無事ボーちゃんの家の前についた「どう?怖くなかった?」バイクから降りヘルメットを脱ごうと四苦八苦しているボーちゃんに聞くと「・・・初めは・・・でも気持ち良かったです」気のせいか、無表情に近いボーちゃんの表情が少し彩が添えられた気がする「なあボーちゃん。さっき人に合わすのが苦手って言ってたけどさ、ちゃんと合わせる事が出来るじゃん」「・・・え?」なかなか外れないヘルメットのストラップをボーちゃんの代わりに外してやりながら話を続け出来なける「バイク、ちゃんと走れたろ?ボーちゃんが合わせてくれなきゃ曲がる事もできないからさ・・・だから自信を持っていいと思うよ」「・・・は・・・はい・・・」別に入部してもらおうと思って言ってるんじゃない。そんな事は自分で決める事で、無理なら無理でかまわない。ただ、さっきまで無理だった事が、怖くても目を開けて前を見つめれれば無理が無理じゃなくなる事もあってそして、それが出来た人には、やっぱり言ってあげたいわけだ・・・「なんだ、出来るじゃん」って
January 10, 2014
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しかし、世の中にお金持ちって言うのは本当にあるもんだな。初めてリアルな心霊現象を体験した現実主義者のような感覚で玄関をくぐり絵画などが飾られた廊下を通り映画の中で見たような応接間の案内された。黒檀のテーブル越しに座っているボーちゃんを彼女はいつになく真面目な顔で見つめ、思いを決したように言葉をつぐむ「あのね・・・」緊張の糸がピン!と一気に張り詰め、息をするのさえ躊躇してしまう。そして彼女は「・・・ごめん・・・ちょっとまってくれる?・・・今真面目な話をしようとしてるんですけど」前半はボーちゃんに対して、後半は俺に向かってである「え?何?固唾を飲み込みながら見守っているけど?」「どこが固唾を飲み込みながらですか!今にもトロケそうな笑顔でワンちゃんとジャレるんなら他所でやってもらえます?」フカフカの絨毯に座り込み、オオハシャギで犬をイジリ倒している俺を見下す彼女。でも仕方無いだろう。おそるおそる屋敷に入った途端、無茶苦茶でかくてそのくせフカフカの白い毛をした犬にお出迎えされたら本来の目的などどうでも良くなるってもんだ。しかしそんな事言ったら大変な事になるのは目に見えているから「な、何を言ってるのかな?俺はこの犬が話の邪魔をしないように押さえつけてるだけだぞ」どう見てもジッとしている犬を俺がせわしなくイジっているが物は言いようだ。「まったくもう・・・」あきらめた彼女は再び真剣な表情でボーちゃんに向かう「あのねボーちゃん」「ワン!」「クッ!」背筋が凍る程の視線で俺を睨む彼女だか別に俺が吼えた訳じゃないチラリと犬に視線を移し諦め顔でボーちゃんの方に向き直る「イカちゃんから聞いたんだけど、入部する為じゃなくてイカちゃんの伝言伝えに来たんだってね」「え?・・・はい・・・」「ごめんなさい」「え?・・・あの・・・え?」急に謝り出した彼女に戸惑うボーちゃんそんなボーちゃんに構いもせず彼女は「わたしの勘違いで無理な事させていまうとこだったね。みんなにはわたしから言っておくからもういいよ」「え?・・・あの・・・」ボーちゃんの戸惑いは加速する「もう無理しなくていいからね。入部の話も気にしなくていいから」そう言う彼女の言葉に「あ・・・はい・・・」と答え、彼女はそれを見て安堵の表情をもらす・・・でも・・・俺はボーちゃんの事は良く知らない。当たり前だ、これで会うのは二回目だし表情に起伏のある娘ではない。でも俺にはボーちゃんが少しガッカリしたように思えた「ちょっといいかな?」俺はボーちゃんに話しかける「あのさ、どうしても無理じゃなけりゃやってみてもいいんだよ?」せっかく安堵していた彼女が目を剥く「何言ってるんです!わたしがどんな思いでここに来たと思ってるんですか!」基本俺は彼女を最優先にする心優しき彼氏だが、彼女を見向きもせにボーちゃんに話しかける「キッカケなんてさ、何でもいいと思うんだ。勘違いであろうが間違いであろうが」かく言う俺だって高一の夏休みにクラブの練習の時間を間違えて2時間前に行っていまい、体育館の舞台の上で練習をしていた演劇部の友達がいたので暇つぶしに見ていたら、スタッフが足らないので手伝って欲しいと頼まれたのがキッカケで今こうしている「ところで、対人恐怖症って聞いたけど本当?」「さ、坂口さん!」慌てて彼女は俺を止めるが、これも無視こうやって一応会話は成立しているんだからそんなに深刻な程ではないだろうと踏んでいるが、本人のコンプレックスは聞いて見なきゃ分からん「え・・・あの・・・人と話すが苦手なので・・・そうかもしれません」そうかもしれません・・・か「だったらやってみたら?一度大人数の前で話せる事が出来れば苦手じゃなくなるかもよ?」もちろんそんな訳もないが、嘘も方便って奴だ。その嘘でボーちゃんに新しい世界が開けるのなら、きっと神様も怒ることはないだろう「坂口さん!」ああ、そうか忘れてた、・・・人は神にはなれないんだ「わたしがどんな気持ちでここに来たと思ってるんです。そりゃあわたしだって出てもらいたいですよ・・・でも無理な事を言ってはダメです・・・」彼女の気持ちも分かるが、ここは触らぬ神に祟りなしあえて彼女を見ずにボーちゃんに聞く「無理なのかな?」ぼーちゃんは少し戸惑った顔をした後、うつむき「無理・・・かもしれません」「そうか・・・悪かったね」本人が無理と言うものを無理に誘う訳にもいくまい俺は彼女に帰りを促した つづく
January 8, 2014
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それから彼女を後ろに乗せ走る事一時間。バイクは町を見下ろす高台にある住宅地に着いた。いや、言い直そう。海を見下ろす高台にある高級住宅街だ。メモしてきた番地を頼りにボーちゃん宅に辿り着く「え~と・・・ここだよな」「ここ・・・ですよね・・・」唖然とする俺たちの向こうには、車が同時に何台も通れるぐらいのガッシリとして洒落た門がそびえ立ち、その奥には歴史を感じさせる洋館がたたずんでいる。「と、とにかくインターホン鳴らしてください」「お、俺がぁ?」風邪で休んだ好きな子の家に連絡プリントと給食の三色ゼリーを届ける小学生の気分である。「なに意気地のない声してるんですか」そう言われても由緒正しい貧乏人のコセガレの俺には、それこそ敷居が高い所の話じゃないぞ。「そう言う君こそ鳴らせばいいだろ」「私だって自慢じゃないですけど、成り上がりの小金持ちの小娘ですよ!家がセントラルヒーティングだって自慢したところで、リビングに本物の暖炉がある屋敷の前では成す術もないですよ」それで唯一の暖房器具が600Wの電気ストーブの俺にどうしろと?「もう!情けない事言わないでください!苗字だけをたよりに電話帳を片っ端からかけたガッツはどこに行ったんです!」ガッツと無謀を一緒にしないでもらいたいが、そこまで言われれば仕方が無い。俺は意を決しインターフォンに指を伸ばした。ピンポ~ン案外一般庶民的なインターフォンの音に気を殺がれながらも返事を待つ。・・・5秒・・・10秒・・・15秒・・・返事がない。「ふー どうやらいないようだね」健康診断に異常が無い事を告げるイケン若手医師のような爽やかさで不在を告げる「なに安堵感に満ち満ちた顔してるんですか」と彼女は不満げにつぶやくが、小学校の頃、同級生の誕生日会の席にカップと共に備えられた一人一個のティーパックに心底驚嘆した俺にとっては致し方ない話だ。「だってさ、もしインターフォンを押してロマンスグレーの執事が出てきて「どのようなご用件でしょう?」なんて聞かれたら「すみません間違えました」って即背を向けるしかないだろ」「そんな事ありませんよ」呆れた声で彼女は言うが、この門構えと言い奥にそびえる洋館といい、無いと言いきれるのか?「そ、それは・・・」「あの・・・羊はいませんが犬ならいます・・・」「「ひいっ!」」いつの間にかボーちゃんが後ろに立っていた。くうっ!一度ならず二度までも後ろを取られるとは!しかも、見事な程のうつむき加減にツッコむ事もままならない空気。何だか分からない口惜しさに身もだえしたくなる俺をよそに「ボーちゃん!」彼女がボーちゃんに駆け寄る。「え?・・・あの・・・」「覚えてない?演劇部の林よ」と言う彼女をボーちゃんは数秒ボーっと眺めた後「・・・あ・・・奇遇ですねこんな所で・・・」奇遇って、こんな奇遇なんて20年前の少女マンガにだってないぞ。そんなツッコミもせず彼女は「ボーちゃん。この2,3日学校休んでるって」「・・・は、はい・・・」彼女は意を決したように「それってもしかして・・・わたしのせい?」「・・・え?・・・おじいさんが亡くなったのは先輩のせいなんですか?・・・」なんと言うサスペンス展開。街を見下ろす小高い丘に立つ古びた洋館の前に対峙する二人の女。まあ昔から推理小説の犯人なんてものは「いかにも」って奴より薄幸の美女と相場がきまってる。でも安心して。俺は君が罪を償うまで何年でも待つよ!「誰が幸薄そうなんですか!人を殺人犯扱いしないでください!」美女のくだりには言及しないんだ。「ボーちゃん。もしかして学校休んだのってお葬式で?」「・・・ええ、そうですけど・・・」「そ、そうなの・・・」彼女は安心したと言うより拍子抜けしたようにその場に立ち尽くしていると。「あの・・・もしかしてわたしの事を心配して来てくれたんですか?」「・・・ええ」まあ、半分は罪悪感だが。「 ・・・あの・・・よろしかったら・・・中にはいりませんか・・・」中に!?・・・キタ!本格的洋館ミステリーが「始まりません!」彼女の小気味の良いツッコミを後におれと彼女はボーちゃんに連れられて家・・・いや屋敷の中に入った。
January 6, 2014
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「だってあの子・・・対人恐怖症よ」「え?うそ・・・だって人前に出るのは平気だって・・・」確かにそうは言ってはいたが、どう見ても興奮してはしゃぐタイプには見えない。しかし、それが嘘ならなんでそんな嘘をつく必要がある?入部しに来たならまだしも伝言しに来ただけなのに「・・・なるほど、君の得意の圧力に、ついそう言っちゃだんだな」「ダ・レ・ガ・イ・ツ・ア・ツ・リ・ョ・ク・ナ・ン・カ・カ・ケ・マ・シ・タ・カ・!」今掛けてるよね?俺確実に圧力掛けられてるよね?「とりあえず部員が入ったって事で由としましょう。坂口さんもいつまでもそんなオチャラけたカッコしてないで着替えてください」確かにオチャラけたカッコをしてるのは俺だが、このカッコを教唆した首謀者に言われる筋合いはないが、とっとと着替えたい俺は黙って部室に向かった。もちろん疑問は山積みだが、今そんな事をあれこれ考えるより本人が来た時に聞くのが手っ取り早い。そう思ったが、翌日になっても当の本人であるボーちゃんは部室に姿を現さなかった。まあ彼女以外期待していた訳ではないので「ああ、やっぱりね」ぐらいにしか思わなかったが,学校にさえ来ていない事がイカちゃんから聞かされると状況は変わってくる。「ボ、ボーちゃん風邪でもひいたのかな?」と言う彼女の平然を装う言葉に「いや!もっとしっくり来る理由があるでしょ!」とみんなが心の中でツッコむが誰もそれを口に出して言わない。もちろん俺もだが。そして翌日もボーちゃんは学校に顔を出さなかった。みんな彼女に気を使い普通に振舞っているし、彼女も気にしている素振りを見せないがそれがまた痛々しい。俺はみんなが部室から出ていった事を見定めて彼女に話しかける。「やっぱり気になる?」「え?何がですか?」何がって決まってる。「・・・わたし強引に入部させたんですかね?」「気になるんなら本人に聞いたらいいじゃん」事も無げに言う俺に彼女は「聞こうにも学校にさえ来てないんですよ!」「じゃあ家に行けばいいだろ」「え?・・・」俺は小道具が入っている棚をゴソゴソ探し奥の方にしまってあったヘルメットを取り出し「あったあった。前使ってるの見た事あったんだ」シールドに積もった埃を払い彼女渡した。「入部届けに住所書いてあったろ?今から行ってみようぜ」 つづく
January 5, 2014
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