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翌日部室に入ると、外の晴れ渡る秋空とは裏腹などんよりした空気が部屋の中を充満していた。そのどんよりした空気の源を辿るまでもない。原因は彼女で、どうやら芝居に出る事は諦めはしたものの開き直れていないご様子ならばここは彼氏である俺が元気付けるのは当然の義務であろうと優しく笑いながら彼女に近づこうとしたら「・・・八つ当たりってご存知ですか?」どんよりとした空気がしだいに密度を増し鋭利になる「人として八つ当たりって最低ですよね・・・でもその引き金を引こうとするもっと最低な人がいるのなら、それも致し方無いとは思いませんか?」今ひとつ自覚は無いが、ひょっとしてもっと最低な人って俺の事なのかな・・・「ですから、その薄笑いの下に見え隠れしている下らない冗談は言わないでくださいね!」いや、優しげな笑みを薄笑いと切り捨て、心のこもった励ましを下らない冗談と断言する時点でもはや八つ当たりなのでは・・・と切り替えしたい所だが、それを言うと彼女の斜め前でレポートに筆を走らせているとりちゃんや、彼女の横にいるのに微塵もどんよりさを受け付けずニコニコしているオキデン達が一斉に「それは日頃の行いのせいでしょう!」の輪唱を始める事は目に見えているので黙っているとギィーっと部室のドアが開く音が聞こえた援軍か?と入り口をみるとボーちゃんが立っていた「ボーちゃん」彼女がドアの前に立ったままのボーちゃんに寄る「どうしたの?とにかく中に入って」「・・・あ・・・はい」おずおずと部屋の中に入るボーちゃん「オキデン、ボーちゃんよ」そう言えば、あの時オキデンいなかったっけ「あなたが紀美の暴走に翻弄されたぼーちゃんね。紀美からきいたわ」しれっと有りのままの事実を端的に表すオキデン「オキデン!」「で、改めて入部する気になった?」「ちょっと、オキデン!坂口さんじゃあるまいし、なにすっ呆けた事言ってるのよ!」確かに経緯を考えればすっ呆けてるけど、坂口さんじゃあるまいしは余計じゃない?「え?だって部室に来たって事はそうかなって」「なんでそんな坂口さんのような、前のめり過ぎてデングリ返りしそうな前進思考が出来るのよ?」なんで君こそいちいち俺を引き合いに出さなきゃ話が出来ないのかな?そんなに俺の事が頭から離れないの?「ごめんねボーちゃん。それでどうしたの?」せっかくのでんぐり返ししそうな前進思考をまったく無視して会話は続く「・・・・あの・・・」「何?」「・・・入部しようかと・・・」「・・・・・え?誰が?」誰がってボーちゃんに決まってるが、彼女のそのキョトンとした顔がまた可愛くてついツッコむのを忘れて見とれていると「・・・ダメでしょうか」「とんでもない。大歓迎よ!」今だ固まったままの彼女を素通りしてオキデンがボーちゃんの手を握り「じゃあ早速みんなを紹介するね」「ちょ、ちょっと待って」ようやくフリーズから回復した彼女「あら?何か問題?」「もちろんわたしだって歓迎するわよ・・・でも、無理だって・・・」彼女がチラリと俺を見る。分かってる。彼女がその言葉だけを信じている訳じゃあない。でも、もしかしたらボーちゃんが自分に気を使って無理して入部すると言ってるんじゃあ・・・なんて心配してるんだろう俺は彼女のご希望通りのすっ呆けた顔で答える「ああ、確かにそう言ってたな・・・でもそれは昨日の話だろ?な、ボーちゃん」ボーちゃんを見てニカっと笑うとボーちゃんは「・・・はい・・・今は・・・出来るようなような気がします」「ボーちゃん!」彼女がボーちゃんの手を握り改めて歓迎していると「今度はどんな手品を使ったんです?」俺の横にオキデンが来てニコニコして聞いてきた「手品って、人をペテン師扱いしないでもらえるかな?」俺は何もしていない。ボーちゃんが頑張っただけだ「俺がした事と言えば、犬をフモフモしたした事ぐらいさ」そう言えばまだ犬の名前を聞いていなかった「ねえ、ボーちゃん。あの犬の名前なんて言うの?」彼女にキツく握られた手をブンブンふられ歓迎されていたボーちゃんは、ゆっくり俺に顔を向け「・・・・・・・ボーちゃん・・・・・・・」「いや、犬の名前」「・・・・・・・ですから・・・・ボーちゃんです・・・・」「・・・・・はい?」それを聞いて振られていた手がピタリと止まる「・・・え?でも、あなたボーちゃんって・・・」そう言えば彼女が名前を聞く前に犬の話をしていたような・・・「・・・もしかしてボーちゃんって犬の名前?」シーン・・・・とした空気が立ち込める部室。それが我慢できずに笑ってしまう「坂口さん!」彼女が慌てて俺を咎める「まあ、いいんじゃないか?あれだけ連呼しといて、もう今更って感じだろ」「そんな事言っても・・・」「それとも、えっと・・・大林さんだっけ・・・って呼んだ方がいい?」当の本人に尋ねると「・・・あの・・・今まで愛称で呼ばれた事がないので・・・ちょっと嬉しかったです・・・」「なら構わないだろ?」彼女にそう言った後、視線を変え言った「改めてよろしくな・・・ボーちゃん」
January 13, 2014
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「本当にゴメンなさい。嫌な思いをさせちゃったかもしれないけど、せっかくこうして話が出来たんだから暇な時があったらいつでも部室に遊びに来てね」門の外まで出てきてくれたボーちゃんに彼女は再び頭を下げるが、ボーちゃんはそれに応えずジーっと何かを見ている「・・・ボーちゃん?」ボーちゃんの視線をたどると、そこには俺のバイクバイク乗りなら分かってくれるだろうが、自分のバイクを他人が見ていると妙に嬉しくなる「ん?バイクに興味あるの?」人目をはばからずニヤニヤしたいのを我慢しながら世間話のように聞くと「あ・・・あまり近くで見た事が無かったのですが・・・走っているのを見ると気持ち良さそうだなと・・・」「じゃあ乗っ・・・」「あら、案外そうでもないのよ」鼻の穴を膨らませながらボーちゃんに「乗ってみる?」と言おうとするのを彼女が遮り「髪の毛はクシャクシャになるし排気ガスは吸い放題だし、それにこけたら危ないでしょう?」ほ・・・ほう・・・そう思ってたの・・・「でもね・・・一番危ないのはバイクじゃなくて「振り落とされないようにしっかりしがみ付いて!」って鼻の下を伸ばす不心得者だけけどね!」ほ・・・ほう・・・そう思っていたの・・・「という訳で、帰りは電車で帰るから私はここで失礼します」プイッっと横を向き歩いていこうとする彼女「ちょ、ちょっと!」何?この急展開。俺が慌てて彼女を止めようとすると「なんてウソです。今日はお母さんと駅で待ち合わせしてるので電車で帰ります。ビックリしました?」ビックリするどころかオロオロいちゃったよ!「・・・あの・・・でしたら駅まで送ります」オロオロしている俺をよそにボーちゃんが見送りを申し出る「え?でも悪いわ」「いえ・・・わざわざ来ていただきましたから・・・行きましょう」と、トボトボと歩き出すボーちゃん彼女もそれに続き、俺も慌ててバイクを押しながら後に付いて行った考えてみればバイクを押して付いて行くぐらいなら俺が彼女を駅まで送って行けばいいのだが、せっかくボーちゃんが積極的に送ってくれると言うのに水を差す訳にも行くまいしかし、何で帰り道ってのは言葉数が少なくなるのかね。別にそれで間が持たないって感じでもなく、何となく暖かいような気がして、ただトボトボと、日が暮くれ、街灯が灯りだした坂道を三人で歩いて行く「ありがとうね」駅に着着き、彼女がボーちゃんにお礼を言う「・・・いえ・・・嬉しかったです・・・こう言うのってあんまりありませんでしたから」嬉しかった・・・か来た事なのか送ってくれた事なのか彼女が手を振りながら改札をくぐりホームに消えた後、俺はまだ改札口を見ているボーちゃんに話しかけた「ボーちゃん。、見送る方と見送られる方、どっちがいい?」「え?・・・」「俺は見送る方かな」振り向いた背中に想いを抱く方が気が楽だ「・・・どっちも・・・あまり経験がありませんから・・・」「じゃあ、もう一度考えてみない?入部の件。別にスタッフでも構わないから」「でも・・・」「俺で良ければ毎日見送ってやるよ?」少々キザなセリフだが、何とか気に障らない程度に言えたような気がするそれでもボーちゃんは黙ったまま俯き、しばらくして「・・・無理です・・・」とつぶやく「わたし人に合わせるのが苦手で・・・いつもそんな気は無いのに怒らせたり邪魔になったり・・・」「お?奇遇だな。俺もいつもそう言われる」あら?くすりともしない。まあ分かってた事だけど「ですから・・・無理です・・・」「そうか・・・まあいいや。ほら」あっさり話題を変え、ボーちゃんにヘルメットを渡す「・・・え?」「送るよ。言ったろ?俺は見送る方が好きなの。大丈夫、なるべく鼻の下も伸ばさないようにするから安心して」全然安心出来ないセリフだなと我ながら思うがヘルメットは差し出したままだ「バイク興味があるんだろ?」差し出したヘルメットを恐る恐る受け取るボーちゃん「俺の腰を掴んで身体を安定させて。別にくっつかなくてもいいから」もちろん彼女には「俺の腰に手を回して身体ごと密着して」と言ってるが、これもケースバイケースって奴だ何とかバイクにまたがったボーちゃんを乗せ、ゆっくりとクラッチを繋いで行く乗りなれている者からしたらアクビが出るような速度だが、車と違って身体を剥き出して走るバイクは始めて乗った者にすれば体感的に速度は早く感じる例外に漏れずボーちゃんもそうらしく、俺の腰を掴む手に力が入っているまっすぐな道から山沿いの道に入るカーブに差し掛かりバイクを軽くバンク・・・しない!バイクが傾かない?!カーブに突き刺さりそうになり慌ててブレーキを掛けバイクを止めた後ろを見るとボーちゃんは目をギュッと閉じて身体を硬くしているなるほど・・・バイクは車体を倒してカーブを曲がる乗り物目を閉じているボーちゃんは怖さが増し、きっと傾むく方の逆に力を入れていたのだろう「あのねボーちゃん」俺の言葉にやっと目を開けるボーちゃんに冗談まじりに話す「ボーちゃんのバランス感覚ってたいしたもんだと関心するんだけど、バイクって傾かないと曲がれないんだ。」「・・・え?・・・すみません・・・」訳も分からず謝るボーちゃん「いやいや、先に言っとかなかった俺が悪いから。で、一つ頼みがあるんだ」「・・・頼み・・・ですか?」いや、心配しなくてもギュッと身体を密着させろって言うんじゃないから「怖いかもしれないけどさ、目を開けて前を見て欲しいんだ。後は俺に合わせてくれればいいから」「・・・合わせる?」「バイクが傾きたいのを邪魔しちゃダメなんだ。だから前を見て、俺の背中に合わせて傾いて欲しいんだ。大丈夫。絶対転んだりしないから」なるべく安心感を与えようと精一杯微笑んでみたが、ヘルメットを被ったままなので通じたかどうかは分からない。まあ、そんなにスピードをだす訳じゃないから大丈夫か「さあ、もう一回行ってみようか!」不安を払う為の景気づけの言葉と共にバイクは動き始める今度はちゃんと前を見てくれているようで、バイクは何の障害もなくカーブを曲がりボーちゃんの家の近くまで来た。いったんスピードを落としウインカーを出しかけたが思い直し、後ろにいるボーちゃんに大声で言う「ぼーちゃん!せっかく慣れてきたんだ。どうせだからもうちょいツーリングしてみようか!」「・・・・・・・・・・・・・・」ボーちゃんは何か言ってるようだが風切り音とエンジン音でよく聞こえない「え!何だって!」「・・・お願いします!」OK今度はハッキリ聞こえたスロットルをしぼり、さっきより少しだけ早いスピードで街を見下ろす住宅街をすり抜け、山道らしい曲がりくねった道に入るボーちゃんもすこし慣れてきたようで、右左に迫るカーブに対して自然にバイクの動きに身体を合わせて、初めは力が入っていた俺の腰を掴む手も力が抜けて行くのが分かる俺はボーちゃんに見えるように左手でガードレール側を指差したそこには夜も眠らぬ工業地帯の、オレンジや白色の灯りで埋め尽くされた夜景が広がっていたまあ近所なんだからそれに近い物は毎日にように見てるんだろうけど、少しの間、風を受けながら漆黒の闇の中のバイクのライトで浮かび上がるアスファルトだけを見つめていたのだからつい見入ってしまうだろうスピードを落としゆっくり走らせた後、適当な所でUターンしてバイクは無事ボーちゃんの家の前についた「どう?怖くなかった?」バイクから降りヘルメットを脱ごうと四苦八苦しているボーちゃんに聞くと「・・・初めは・・・でも気持ち良かったです」気のせいか、無表情に近いボーちゃんの表情が少し彩が添えられた気がする「なあボーちゃん。さっき人に合わすのが苦手って言ってたけどさ、ちゃんと合わせる事が出来るじゃん」「・・・え?」なかなか外れないヘルメットのストラップをボーちゃんの代わりに外してやりながら話を続け出来なける「バイク、ちゃんと走れたろ?ボーちゃんが合わせてくれなきゃ曲がる事もできないからさ・・・だから自信を持っていいと思うよ」「・・・は・・・はい・・・」別に入部してもらおうと思って言ってるんじゃない。そんな事は自分で決める事で、無理なら無理でかまわない。ただ、さっきまで無理だった事が、怖くても目を開けて前を見つめれれば無理が無理じゃなくなる事もあってそして、それが出来た人には、やっぱり言ってあげたいわけだ・・・「なんだ、出来るじゃん」って
January 10, 2014
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しかし、世の中にお金持ちって言うのは本当にあるもんだな。初めてリアルな心霊現象を体験した現実主義者のような感覚で玄関をくぐり絵画などが飾られた廊下を通り映画の中で見たような応接間の案内された。黒檀のテーブル越しに座っているボーちゃんを彼女はいつになく真面目な顔で見つめ、思いを決したように言葉をつぐむ「あのね・・・」緊張の糸がピン!と一気に張り詰め、息をするのさえ躊躇してしまう。そして彼女は「・・・ごめん・・・ちょっとまってくれる?・・・今真面目な話をしようとしてるんですけど」前半はボーちゃんに対して、後半は俺に向かってである「え?何?固唾を飲み込みながら見守っているけど?」「どこが固唾を飲み込みながらですか!今にもトロケそうな笑顔でワンちゃんとジャレるんなら他所でやってもらえます?」フカフカの絨毯に座り込み、オオハシャギで犬をイジリ倒している俺を見下す彼女。でも仕方無いだろう。おそるおそる屋敷に入った途端、無茶苦茶でかくてそのくせフカフカの白い毛をした犬にお出迎えされたら本来の目的などどうでも良くなるってもんだ。しかしそんな事言ったら大変な事になるのは目に見えているから「な、何を言ってるのかな?俺はこの犬が話の邪魔をしないように押さえつけてるだけだぞ」どう見てもジッとしている犬を俺がせわしなくイジっているが物は言いようだ。「まったくもう・・・」あきらめた彼女は再び真剣な表情でボーちゃんに向かう「あのねボーちゃん」「ワン!」「クッ!」背筋が凍る程の視線で俺を睨む彼女だか別に俺が吼えた訳じゃないチラリと犬に視線を移し諦め顔でボーちゃんの方に向き直る「イカちゃんから聞いたんだけど、入部する為じゃなくてイカちゃんの伝言伝えに来たんだってね」「え?・・・はい・・・」「ごめんなさい」「え?・・・あの・・・え?」急に謝り出した彼女に戸惑うボーちゃんそんなボーちゃんに構いもせず彼女は「わたしの勘違いで無理な事させていまうとこだったね。みんなにはわたしから言っておくからもういいよ」「え?・・・あの・・・」ボーちゃんの戸惑いは加速する「もう無理しなくていいからね。入部の話も気にしなくていいから」そう言う彼女の言葉に「あ・・・はい・・・」と答え、彼女はそれを見て安堵の表情をもらす・・・でも・・・俺はボーちゃんの事は良く知らない。当たり前だ、これで会うのは二回目だし表情に起伏のある娘ではない。でも俺にはボーちゃんが少しガッカリしたように思えた「ちょっといいかな?」俺はボーちゃんに話しかける「あのさ、どうしても無理じゃなけりゃやってみてもいいんだよ?」せっかく安堵していた彼女が目を剥く「何言ってるんです!わたしがどんな思いでここに来たと思ってるんですか!」基本俺は彼女を最優先にする心優しき彼氏だが、彼女を見向きもせにボーちゃんに話しかける「キッカケなんてさ、何でもいいと思うんだ。勘違いであろうが間違いであろうが」かく言う俺だって高一の夏休みにクラブの練習の時間を間違えて2時間前に行っていまい、体育館の舞台の上で練習をしていた演劇部の友達がいたので暇つぶしに見ていたら、スタッフが足らないので手伝って欲しいと頼まれたのがキッカケで今こうしている「ところで、対人恐怖症って聞いたけど本当?」「さ、坂口さん!」慌てて彼女は俺を止めるが、これも無視こうやって一応会話は成立しているんだからそんなに深刻な程ではないだろうと踏んでいるが、本人のコンプレックスは聞いて見なきゃ分からん「え・・・あの・・・人と話すが苦手なので・・・そうかもしれません」そうかもしれません・・・か「だったらやってみたら?一度大人数の前で話せる事が出来れば苦手じゃなくなるかもよ?」もちろんそんな訳もないが、嘘も方便って奴だ。その嘘でボーちゃんに新しい世界が開けるのなら、きっと神様も怒ることはないだろう「坂口さん!」ああ、そうか忘れてた、・・・人は神にはなれないんだ「わたしがどんな気持ちでここに来たと思ってるんです。そりゃあわたしだって出てもらいたいですよ・・・でも無理な事を言ってはダメです・・・」彼女の気持ちも分かるが、ここは触らぬ神に祟りなしあえて彼女を見ずにボーちゃんに聞く「無理なのかな?」ぼーちゃんは少し戸惑った顔をした後、うつむき「無理・・・かもしれません」「そうか・・・悪かったね」本人が無理と言うものを無理に誘う訳にもいくまい俺は彼女に帰りを促した つづく
January 8, 2014
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それから彼女を後ろに乗せ走る事一時間。バイクは町を見下ろす高台にある住宅地に着いた。いや、言い直そう。海を見下ろす高台にある高級住宅街だ。メモしてきた番地を頼りにボーちゃん宅に辿り着く「え~と・・・ここだよな」「ここ・・・ですよね・・・」唖然とする俺たちの向こうには、車が同時に何台も通れるぐらいのガッシリとして洒落た門がそびえ立ち、その奥には歴史を感じさせる洋館がたたずんでいる。「と、とにかくインターホン鳴らしてください」「お、俺がぁ?」風邪で休んだ好きな子の家に連絡プリントと給食の三色ゼリーを届ける小学生の気分である。「なに意気地のない声してるんですか」そう言われても由緒正しい貧乏人のコセガレの俺には、それこそ敷居が高い所の話じゃないぞ。「そう言う君こそ鳴らせばいいだろ」「私だって自慢じゃないですけど、成り上がりの小金持ちの小娘ですよ!家がセントラルヒーティングだって自慢したところで、リビングに本物の暖炉がある屋敷の前では成す術もないですよ」それで唯一の暖房器具が600Wの電気ストーブの俺にどうしろと?「もう!情けない事言わないでください!苗字だけをたよりに電話帳を片っ端からかけたガッツはどこに行ったんです!」ガッツと無謀を一緒にしないでもらいたいが、そこまで言われれば仕方が無い。俺は意を決しインターフォンに指を伸ばした。ピンポ~ン案外一般庶民的なインターフォンの音に気を殺がれながらも返事を待つ。・・・5秒・・・10秒・・・15秒・・・返事がない。「ふー どうやらいないようだね」健康診断に異常が無い事を告げるイケン若手医師のような爽やかさで不在を告げる「なに安堵感に満ち満ちた顔してるんですか」と彼女は不満げにつぶやくが、小学校の頃、同級生の誕生日会の席にカップと共に備えられた一人一個のティーパックに心底驚嘆した俺にとっては致し方ない話だ。「だってさ、もしインターフォンを押してロマンスグレーの執事が出てきて「どのようなご用件でしょう?」なんて聞かれたら「すみません間違えました」って即背を向けるしかないだろ」「そんな事ありませんよ」呆れた声で彼女は言うが、この門構えと言い奥にそびえる洋館といい、無いと言いきれるのか?「そ、それは・・・」「あの・・・羊はいませんが犬ならいます・・・」「「ひいっ!」」いつの間にかボーちゃんが後ろに立っていた。くうっ!一度ならず二度までも後ろを取られるとは!しかも、見事な程のうつむき加減にツッコむ事もままならない空気。何だか分からない口惜しさに身もだえしたくなる俺をよそに「ボーちゃん!」彼女がボーちゃんに駆け寄る。「え?・・・あの・・・」「覚えてない?演劇部の林よ」と言う彼女をボーちゃんは数秒ボーっと眺めた後「・・・あ・・・奇遇ですねこんな所で・・・」奇遇って、こんな奇遇なんて20年前の少女マンガにだってないぞ。そんなツッコミもせず彼女は「ボーちゃん。この2,3日学校休んでるって」「・・・は、はい・・・」彼女は意を決したように「それってもしかして・・・わたしのせい?」「・・・え?・・・おじいさんが亡くなったのは先輩のせいなんですか?・・・」なんと言うサスペンス展開。街を見下ろす小高い丘に立つ古びた洋館の前に対峙する二人の女。まあ昔から推理小説の犯人なんてものは「いかにも」って奴より薄幸の美女と相場がきまってる。でも安心して。俺は君が罪を償うまで何年でも待つよ!「誰が幸薄そうなんですか!人を殺人犯扱いしないでください!」美女のくだりには言及しないんだ。「ボーちゃん。もしかして学校休んだのってお葬式で?」「・・・ええ、そうですけど・・・」「そ、そうなの・・・」彼女は安心したと言うより拍子抜けしたようにその場に立ち尽くしていると。「あの・・・もしかしてわたしの事を心配して来てくれたんですか?」「・・・ええ」まあ、半分は罪悪感だが。「 ・・・あの・・・よろしかったら・・・中にはいりませんか・・・」中に!?・・・キタ!本格的洋館ミステリーが「始まりません!」彼女の小気味の良いツッコミを後におれと彼女はボーちゃんに連れられて家・・・いや屋敷の中に入った。
January 6, 2014
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「だってあの子・・・対人恐怖症よ」「え?うそ・・・だって人前に出るのは平気だって・・・」確かにそうは言ってはいたが、どう見ても興奮してはしゃぐタイプには見えない。しかし、それが嘘ならなんでそんな嘘をつく必要がある?入部しに来たならまだしも伝言しに来ただけなのに「・・・なるほど、君の得意の圧力に、ついそう言っちゃだんだな」「ダ・レ・ガ・イ・ツ・ア・ツ・リ・ョ・ク・ナ・ン・カ・カ・ケ・マ・シ・タ・カ・!」今掛けてるよね?俺確実に圧力掛けられてるよね?「とりあえず部員が入ったって事で由としましょう。坂口さんもいつまでもそんなオチャラけたカッコしてないで着替えてください」確かにオチャラけたカッコをしてるのは俺だが、このカッコを教唆した首謀者に言われる筋合いはないが、とっとと着替えたい俺は黙って部室に向かった。もちろん疑問は山積みだが、今そんな事をあれこれ考えるより本人が来た時に聞くのが手っ取り早い。そう思ったが、翌日になっても当の本人であるボーちゃんは部室に姿を現さなかった。まあ彼女以外期待していた訳ではないので「ああ、やっぱりね」ぐらいにしか思わなかったが,学校にさえ来ていない事がイカちゃんから聞かされると状況は変わってくる。「ボ、ボーちゃん風邪でもひいたのかな?」と言う彼女の平然を装う言葉に「いや!もっとしっくり来る理由があるでしょ!」とみんなが心の中でツッコむが誰もそれを口に出して言わない。もちろん俺もだが。そして翌日もボーちゃんは学校に顔を出さなかった。みんな彼女に気を使い普通に振舞っているし、彼女も気にしている素振りを見せないがそれがまた痛々しい。俺はみんなが部室から出ていった事を見定めて彼女に話しかける。「やっぱり気になる?」「え?何がですか?」何がって決まってる。「・・・わたし強引に入部させたんですかね?」「気になるんなら本人に聞いたらいいじゃん」事も無げに言う俺に彼女は「聞こうにも学校にさえ来てないんですよ!」「じゃあ家に行けばいいだろ」「え?・・・」俺は小道具が入っている棚をゴソゴソ探し奥の方にしまってあったヘルメットを取り出し「あったあった。前使ってるの見た事あったんだ」シールドに積もった埃を払い彼女渡した。「入部届けに住所書いてあったろ?今から行ってみようぜ」 つづく
January 5, 2014
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今日は手伝っている劇団が大道具作り作りをしていると言うので俺も行って先週使ったケーブル類の整理と仕分けをしようと午後から出かけた場所はとある私立高校の一角車を駐車場に停め、稽古場まで歩いていると昼食中の運動部の面々が一人一人わざわざ立って挨拶してくる。一人二人ぐらいは「よう学生諸君!ガンバッとるかねガッハッハッハ」と言う気分になるが、10人を超えたあたりで「もういいから!立たなくていいから!ゴメンなさい、ホントゴメンなさい!」って気分になってくる所に俺の人としての器の小ささを思い知らさせる。なんでただ稽古場に行くだけなのに十字架を背負ってゴルゴダの丘まで歩くイエスの気分を味あわなければならないのか疑問に思いながら稽古場につくと、誰もいないどころか鍵までしまっている。ム!飯でも食いに言ってるのか?それとも今日は無いのか?とりあえずメールで今日の有無を確認した所「あ゛?大道具作りぃ?今日はねぇんだよ!寝言は布団の中で言っとけ!」と言う正確な情報と的確なアドバイスをいただいた。仕方ないので帰ろうと思ったが、今来た所でまた学生諸君の食事を邪魔するのも申し訳ないので、なるべく人のいない所を通って駐車場まで行く事にした。運動部の部室の横から食堂の前を抜け塀沿いの隙間をぬけて行く。学校と言う閉鎖された場所の部外者がほとんど通ることの無い場所。見上げると聳え立つ剥き出しのコンクリートの質感に行儀良くならんだ窓いつもは学生たちで賑わっている分、人気が無いと余計寂しくて切なくなる景色。なんだか高校の時を思い出した。あの頃はそれが日常で、明日も明後日もずっとずっと同じ景色を見ていられると思っていたから取り立てて何も思わなかった景色。それが時が経ち、始めて大切で忘れられない日であり景色である事を知る。例えば小高い建物に挟ませて長方形に切り取られた青空。雲ひとつ無く、澄んだ秋の大気のせいでよりいっそう色を深めてはいるが、ただそれだけの景色。この前まで金木犀の匂いが漂っていたのに、今ではそれも落ち、そこまで近づいている冬を予感させる匂いがするものの、ただそれだけの景色。それでも、同じ景色を見て同じ思いを共感出来る人がいてくれるだけで「一生忘れられない景色になるんだろうなあ」と思う。今当たり前にある物もいつかはいつかは形を変える。昨日一緒に見た景色もいつかは姿を変える。それがどんな物になるのかは誰にも分からない。でもね、大切な物は何一つ無くなってしまわないんだよ。心の中からけっして消えない物の事を大切な物と言うのだから。
December 2, 2012
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レザージャケットの襟元から忍び寄る風が寒さを増す初秋の宵。街頭の明かりと時折雲間から覗く月明かりが照らす稽古場を見あけながら俺は溜息混じりに呟いた。「今日・・・稽古休みだっけか?」現在時刻は午後6時55分今日こそは通して稽古を高見ようと意気込んで来たものの人っ子一人いやしない祝日だから稽古も休みか?それとも俺の知らないうちにワークスは光画部時間を採用したのか?心の中に雨雲のように広がって行く不安と疑念これがまだ若いZ橋君なら「ま、まだ誰も来ていないんですが今日は休みですか?」とハイジの腕の中でプルプル震える子ヤギのような声で誰かにみっともなく電話している所だが、子供の頃から姉とカマボコの端をどっちが取るかで争い結婚しては「あんた!料理の味が薄いからって黙って醤油掛けるのは失礼極まりないわよ!」と切れられる修羅場を乗り越えてきた大人の俺にとっては然程の問題ではない「まあ少し待ってみるか」誰も聞いちゃいないのにワザと鼻に掛けた低い声で言ってみる所が大人の余裕って奴だ。入り口前の段差に腰を掛けタバコを取り出そうとしてふと敷地の端に目が行った。「・・・ブランコかぁ・・・」街頭の灯りに照らし出された人気のない公園のブランコに座りタバコをくゆらすナイスミドル・・・これじゃね?俺が求めていた大人のイメージってこれじゃね?期待に胸膨らませながらイソイソとブランコに座る俺。そして座った限りは揺らしてみたいのは人の常って奴だがキーコ・・・ キーコ・・・冷たい秋風と共にブランコがきしむ音・・・なんだこの世界中の不幸を背負い込んだ様な切なさは・・・考えてみれば小津安二郎の映画じゃあるまいし、夜中に一人中年のオッサンがブランコに揺られてたりしたら、どう考えても人生に行き詰まった情けない情景じゃないか・・・ハハハハ・・・こんな所を人に見られたら・・・シャリリリリリリリリー不審げな顔で自転車が通り過ぎて行った「ちょ、ちょっと待て!そこの自転車!違う!違うよ!俺別に人生行き詰まってないからね!」と叫びそうになる自分を何とか抑える。これが若いT山君あたりだと、ペーターが持っているムチの先っぽの様にフルフルと屈辱に身体を震わせながら情けなく言い訳している所だろうが、「ピーマンちゃんと食べなきゃ大きくなれないぞ」と俺の分まで合法的に子供の皿にいれてしまう様な生き馬の目を抜く世界に身を置いていた大人の俺にとって大した事ではない。大人として、どんな結果であろうと、まずはそれを受け入れよう。そしてその後、そう対処するかで人生経験の差が出てくる物である。俺はやおら立ち上がり、両足をブランコの板に載せ、膝で反動をつける。「立ち漕ぎ」である。しかももう50の声が聞こえ来ようかと言うオッサンの「立ち漕ぎ」である。誰がどう見ようが、人生に疲れ果てたオッサンの図には見えまい!始めは遠慮勝ちに漕いでいたものの、興にのって次第にブランコの揺れが大きくなるとムッ!・・・これはなかなか爽快ではないかさらに膝に力を入れてみると知らぬ間に笑顔がこぼれてきた。「フフフフフ・・・ハハハハハハハハ・・・・アッハッハッハッハ!」揺れの大きさと比例し笑い声が大きくなり、それがしだいに「♪口笛はなぜ~遠くまでっ聞こえるの♪あの雲はなぜ~わた~しを待ってるの♪」なんか新しい世界を垣間見た俺「♪おし~えてっ♪ おじい・・・・・・」突然の歌声のカットアウトと共に俺はブランコを降り、ふらりと滑り台の横に立った。・・・酔った・・・人生どこに落とし穴があるか分からないモノである。まさか48にもなってブランコで立ち漕ぎして酔うなんて思いもしなかった。滑り台の手すりに片手を掛けうつぶせ気味な体制で回復を待つあーあ何やってんだ俺。街頭の明かりに照らされた滑り台の横でこんなカッコしてたらまるで人生に失敗して絶望しかけのオッサンじゃないか。もしもこんな所を人に見られたら・・・シャリリリリリリリリー自転車の音・・・今度は目が合った・・・「とまレエエエエエエェェェェェェ!そこのじてんしゃアアアアアァァァァァァァァァァ!なに哀れんだ目してんだ!今劇団の中でかけ離れて歳食ってるって理由だけでみんなにチヤホヤしてくれると言う、人生においてのボーナスステージに立つ俺をそんな目で見るなああぁぁぁぁぁ!確かにそれは小学生にシルバーシートで席を譲ってもらう老け顔の青年のように、何か大切な物を失ったような気もするが、そこは積極的にに痛くも無い腰痛をアピールしてあからさまに寝たフリしているサラリーマンからも席を譲ってもらう位の勇気もたまには必要なんだよ!「死中に活を求める」言うならばアグレッシブ・シルバーシーターである俺をそんな目で見るんじゃネねエェェェェェェェ!」と吼えてみても今宵のような月の光をさえ切る雲のように俺の心は晴れなかった。初秋の宵の公園は危険である。昨今、公園の遊具が撤去されていく理由の一端を垣間見たような気がした。
December 1, 2012
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「お前らホントにウザいわ!」実の父と二つ上の兄に向かって唾の掛かる勢いで罵倒しているのは今年短大生になった娘だ。「人がせっかくビデオ見てるのに批判ばかりして、集中できないじゃん!」娘の言わんとしている事も分からん訳ではないが、今ビデオを流しているのは「第5回喰わず嫌いもどうかと思うので、ちゃんと鑑賞してから批評しようぜ」と言う趣旨にのっとったビデオ上映会である。ちなみに今回のテーマはジブリの「耳をすませば」だ。「それにな、ついでに言うとこれは俺の私財で借りた物で、それをいつの間にか来て見ているお前に文句言われる筋合はないぞ?」息子がふんぞり返って意見する。「なによ!ジブリの何がダメなの!」おっ論点すり替えやがった。しかしそれはそれで話が面白いので乗ってやろう。「だってさー ジブリって言うか宮崎駿って「未来少年コナン」がピーク過じゃん。まあその次がラピュタぐらいで」「ナウシカは?」「なんかイイ子過ぎてツマンね」「やっぱりさ、性格の破綻した奴が出てこなきゃ物たんねーよな」うなずきあう俺と息子「もういいの!性格の破綻してる奴は家族の中だけでもうお腹イッパイなの!」そもそも自分もその家族の一員という事を棚に上げて何を言ってんだか。「じゃあ何がいいんだ?このDVDの」取り立ててドラマティックな展開があるわけじゃなし、何がいいのか分からん。「見ててキュンって来ない?中学生のピュアさにさ」「ピュア?何言ってる?若い時のピュアさなんて、年取れば大概がただの黒歴史だぞ」心の中の銀縁メガネを人差し指でクイッと上げながら大人の意見を言う俺に「汚れた大人の偏見は止めてくれない!」と娘は喰いかかってくるが、そう言う態度が「火に油を注ぐ」と分かってない所がまだまだ子供だ。「ほほう、偏見ですか・・・ちなみにお前は小学校5年生の作文で将来何になりたいって書いたか覚えているか?」娘の要望通り、汚れた大人っぽくアゴのしたの剃り忘れの髭を抜きながら娘に尋ねる「うっ、それは・・・」「たしか忍者ってかいてあったよな。小学校五年生が忍者と来ましたか・・・・クククク・・・・・ピュアで結構な事だな」ムスカすらお人好しに思える程の嫌らしさをタップリ娘に見せ付ける俺を娘は何も言えず奥歯を噛み締めながら睨んでいると「ところでトトロは評価としてどうなんだ?」と息子がたずねてくると「そうよ!トトロがあったじゃん!アニキもトトロ好きだもんね!」と待ってましたと同意を求める娘だが「いや、聞いてみただけだ。俺としてはいつになったらトトロの敵が現れて静かな農村が火の海になるんだろ?ってスタッフロールが出るまで思ってた」とニベも無い息子。息子よ、そう言う溺れてる人に向かって藁を投げ込むようなマネは親としてどうかと思うぞ。「何で?面白いじゃんトトロ!」どうせならバーベル投げ込んでトドメ刺すぐらいの優しさも時には大切だぞ。「トトロってさ、要約すると聞き分けの無いガキが人の言葉も聞かず迷子になりかけるのをトトロが助けてくれるって話だよな?」「無意味な要約はやめてくれない?」汚らわしい物でも見るように吐き捨てる娘をほっといて俺は話を続ける「でだ。トトロって必要か?」「は?」「いや、別にトトロなんて架空の生物ださなくても近所に住んでるオジサン、仮に徳田さんにしとくけど、その徳田さんが心配してメイを探してくれても話に支障は無いわけだ」「一般人がどうやってメイを探せるのよ!」こうやって人を見かけで判断している所もまだまだ子供の証拠である「おいおい、ああ見えて徳田さんも村の世話役を何年も引き受けてるんだ。見くびるんじゃないぞ」「へー徳田さんって苦労人なんだな」「だから誰よ、徳田さんって!」娘の疑問を軽くするーして話を続ける「母親に会いたいと家を出た幼女が行く所といえばバス停ぐらいしかない事など徳田さんにはお見通しなんだよ!それで徳田さんがいつも農作業で使ってる軽トラで迎えに行くんだ」「なんか、それはそれで映像が頭に浮かぶな」そうだろう。そうだろう。だがな、それじゃあ終わらないよ?いつもは優しい徳田さんが今日は厳しい顔でメイをしかる。そりゃそうだ。みんな心配してたんだからな。車をはしらせながら、もう二度と黙って家を出ない事をメイに約束させた徳田さんが急に車を止めて言うんだ。「はて?どうやら道に迷ってしまったようじゃ。悪いがそこで、ここがどこか聞いてくれんか」と・・・「も、もしかしてそこは・・・」息子がゴクリと息をのむ。「そうだ。そこはお母さんが入院している病院だったんだ」「・・・トトロいらねえんじゃね?・・・もういっそ「トトロ」じゃなくて「トクダ」という事で」神妙な顔でつぶやく息子「あーもう!」なんだなんだ?人がせっかくハートウォーミングな話をしてるのに、何をそんなに声を荒立てる必要がある?「父さんバ~カ!!勝手に徳田さんの話でもなんでもしてたらいいわ!」テーブルをたたき娘が部屋を出て行こうとすると「ちょっと待て妹!今のはダメだろ!」いつになく真面目な顔で娘を責める息子。めったに見せないそんな態度に動揺している娘だが「な、何?何がダメなのよ!」強がって入るが腰が引けた状態の娘に息子は教え諭すように言った。「ここは「メイのバカ!もう知らない!」って出て行くべきだろ。オチを考えろオチを!」
June 27, 2012
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息子よ、ちょっとそこに座りなさい。父さんは君に厳しい事を言ったことはあまりありません。君が10歳の頃、父さんが後で見ようと録画してた映画「クールランニング」の一番いい所に「クレヨンしんちゃん」を録画されていた時も奥歯を噛み締めて君を許しました。君が高校受験の時も「勉強するしないは君の勝手だがな、母さんの前だけは勉強してるふりぐらいしてくれ。じゃないと父さんが文句言われて面倒くさいだろ」と親身になってアドバイスしたものです。しかし今日という今日は言わせてもらいます。セパハンがあんまりかっこ良くない?それは父さんの青春に対して宣戦布告と見なしますが、それだけの覚悟は出来ているのですね。セパハン・・・セパレートハンドル。それはパイプ状のハンドルではなく、個々が別れてフロントフォークに付けるハンドル・・・父さんの若い頃はレーサーレプリカ全盛の時代でした。フルカウルが公道で認可された時でしたから。しかしながら父さんは貧乏だった。できればRGーガンマが欲しかった。しかし貧乏な父さんはKATANAの250を買いました。いや、それはそれで素晴らしいバイクでした。2st2気筒ゆえの低速での伸びといい燃費といい、銀色に輝く姿を見ると「ある意味しぶくね?」と満足したものです。しかし問題はセパハンを付ける程スポーティなバイクでは無いことでした。そして数年後、念願のガンマを買い早速バイクショップでセパハンを購入してつけた時は・・・ほらテレビで見るでしょ。分娩室の前でウロウロする夫が「オギャー」という産声を聞き、泣きながら生まれたての赤ん坊を抱く光景を。たぶん我が子が生まれる瞬間はそんな感じなのでしょう。え?とうさん?ええ、父さんもその場にいましたよ。仕事から帰ってネクタイを緩める暇なく陣痛が始まった母さんを病院に連れていきました。あれって陣痛が来てからすぐ生まれると思ってたら違うんですね。10時間ですよ、10時間。陣痛だからよかったものの、これがコンビニのレジ待ちなら暴動が起こってますよ。しかもその間、ずっと背中さすってました。生まれた時の感想?「あ、仕事間に合うな」ですよ。娘の時?娘の時は正月4日目で母さんの実家に帰っててみんないるから、まだ大丈夫だろうけど先に病院行ってようって、朝早く行きました父さんも母さんも前の事があるから余裕コイテましたよ。それで「ちょっとトイレ行く」って母さんが出て行ってから中々帰ってこないからトイレの前に行くと「と、とうさん・・・ヤバイ・・・うまれそう」こんな時に何ですが、そういう時でも女子トイレに入るのって気が引ける父さんって紳士だというエピソードですよ。それであわてて看護婦さん呼んですぐに生まれました。感想?そりゃあ「産湯がトイレの水じゃなくて本当に良かった~」ですよ。で、何の話でしたって・・・そうそう、そのぐらいセパハンつけた時は嬉しかったて話ですよ。そのセパハンに何たる暴言!ちょっと君の部屋から「あいつとララバイ」持って来なさい。いいから持って来なさい。あら?31巻また中途半端なところを。ん?32巻は無かったって?まあ、いいでしょう。ほら見てみなさい、この倒れんばかりの前傾姿勢。壁となって立ち憚る空気の層を突き破るためにはこの姿勢が大事なのです。風になる?バイクにとって風イコール敵です。自然と一体化?化石燃料焚いて走る機械の塊にまたがって何寝ぼけた事いってんですか。男はいつでも前傾姿勢!ゆえにセパハンとバックステップは必要不可欠なのです。分かりましたか?分かったら父さんはちょっと出かけてきますので「あいつとララバイ」読んでセパハンの魅力について考えておいてください。どこいくかって?「あいつとララバイ」32巻以降を買ってくるに決まってるじゃありませんか。
November 17, 2011
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俺 「レノボ・カスタマーサポートセンターですか?ノートパソコンのキーボードが一切反応しなくなったんですが、保証期間内なので修理に出したいんですが」 レ 「修理を伺う前に機械の故障かシステムの問題かわからないので、一度バッテリーを抜いて放電 して・・・」 俺 「やったけどダメでした」 レ 「それでしたら、一度キーボードを認識してるか・・・」 俺 「デバイスマネージャーで正常に認識してる事を確認してます」 レ 「それでしたら一度セーフモードで・・・」 俺 「セーフモードにしようにもキーボードが動かないんだけど」 レ 「ああ、そうですかそれでしたら・・・」 俺 「ちなみにシステムの復元もしましたがダメでした」 レ 「じゃあ一度リカバリーしてもらってから・・・」 俺 「・・・は?何で?」 レ 「いえ機械の故障かシステムが原因か確認するために・・・」 俺 「さっきシステムの復元したっていったよね?」 レ 「でも一度キーボードが反応している買った時の状態に・・・」 俺 「昨日の時点まで問題無かったよね?問題なかったんだよ。それでシステムを一昨日まで戻してダメなものが、なぜリカバリーすれば直るの?」 レ 「ですから買った時の状態に戻して・・・」 俺 「いや、それで直るんならするよ?バックアップ含めて3時間ぐらいかかっちゃうけど直るんなするよ。で、なぜそれで直るのか教えてくれる?」 レ 「ですからキーボードが動いている時の状態に戻して貰わないと機械の故障と確認できませんから 俺 「だ・か・ら・・・買った時の状態とキーボードが作動しているシステムの状態とどう違うのか教えてくれるかな!」 レ 「・・・しばらお待ちください」 3分経過 レ 「おまたせしました。違う方法で確認できますから、まず電源を入れてください」 俺 「入れればいいんだな・・・それで?」 レ 「あ、いれましたか?すみませんシャットダウンしてください」 俺 「・・・もしかしてBIOS画面にするの?・・・」 レ 「はい」 俺 「でもBIOS画面にするのキーボード使うよね?」 レ 「え?ダメですか?」 俺 「ナ・ン・デ!電話したと思ってるのかな?」 レ 「・・・すみません。住所言いますんでそちらに送って下さい」
October 29, 2011
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あーやっちゃったよ。 そりゃ俺が悪いよ、でもいきなりサイレン鳴らすこと無いんじゃない? しかたないでしょ、客からの電話なんだもん。 そりゃ俺だって「知るか!」ガチャンって電話切りたいよ?でも生活かかってるから出来ないでしょ。 あーあ、これでまたブルー免許だよ。 ま、いいか風水では青は「冷静」ってメッセージだからいいんじゃない? あれ?そう言えば「安らかな眠り」ってのもなかったっけ? それはまずいんじゃないかな。運転中「安らかな眠り」なんかしちゃったら本当に「安らかな眠り」に付いちゃうよ。 いや、そんな事より罰金7千円をどうするかってのが今最大の課題じゃん。 どうすんだよ7千円。 嫁に頼むか? ・・・でも「切符切られたから7千円ちょうだい」って言ったら眉毛一つ動かさず「自分で払ったら」って言われるのが関の山だしなあ・・・なんか「それはしかたないねえ」ってなる口実ないかな・・・ 「いや、お袋が危篤で・・・」 ・・・いやいや、すぐにお袋に電話されて逆に怒られちゃうよ。 他に何か・・・ 「いや、オヤジが危篤で」 ・・・結婚前とは言え嫁はオヤジの葬式きてるよ。香典今すぐ返せって襟首掴まれちゃうよ。 なんですぐバレちゃうウソしかつけないんだろうね。夫婦たりとてプライバシーの侵害って奴ですよ。 もういいや、めんどくさいから自分で払っちゃお・・・でもお小遣いが・・・ ええい!俺も男だ!このさいタバコを・・・エコーに変えちゃお。 あれなら240円だからね。 それに風水で黄色は金運だからね。 ・・・でもエコーすいながら金運って言われてもなあ・・・なんか世の中間違ってるよなあ
October 21, 2011
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俺たち見送るオーナー達を後に二人を送る。まず玲子の家に寄りコーヒーを飲んだ後、きな子をチェックインしている駅前のホテルに送る為に車に乗り込んだ。考えてみるとこうして二人で車に乗るのは初めてかもしれない。いや、俺が車を運転している所を見るのすら初めてじゃないか?二人でいた時はいつもバイクだったから話をしながらドライブするなんて出来なかった。だからもう少しこうして話をしたかったが、きな子は明日は法事がありその後東京に帰らなくてはならないので早く帰さなきゃならない。「で、どこのホテルなの?」「あ、駅前のステーションホテル」ステーションホテルってどこだっけ?中銀?セブンイレブン?あったっけな。まあ俺自身引っ越してからあの辺りには行ってないからな。そう言えば「ここら辺も変わったなあ。ここ昔は本屋だったろ」この辺もきな子を乗せてバイクでよく走った道だ「うーん・・・よく憶えてないの」「何で?地元だろ?」「嫌な事でもあったのかも」「それはもしかして俺のせいか」「どうかな?」いや、そこはウソでもいいから否定しとこうよ。じゃないと俺帰りに迷子になっちゃいそうだよ。そう言えばさっき夢の話になった時、きな子がよく見る夢と言うのが迷子の夢だと言っていた。今自分がどこにいるのか分からなくて、必死にさがすけど何も見えなくて途方に暮れる夢だと言う。夢は潜在意識の表れといわれるが、それが本当なら何でだろうな。きな子ぐらい明日の為の努力をコツコツ続けられる奴はいないのに。もしかして前ばかり探してるんじゃないのか?いや、それが悪いって訳じゃない。若い時はそれでもいい、振り返ったって何もありゃあしないんだから。でもさ、今はそうじゃないだろ?振り返るとそこには思い出があって、それはグレーテルが落として行ったパンくずのようにポツリポツリとだけど辿っていけば一本の道になって。そのパンくずの一つが俺であり玲子であり、きな子がなぜそこにいるか、きな子が何者かの証しでもある。だから絶対迷うことなんて無いって。今日、きな子が会いたいって言ってくれた時はうれしかった。おまえさあ、変に意思の強い所があって、自分が見ちゃいけないって決めると前にだけ視線を向け、それ以外の方を見ようとしなかったよな。頑固とかそう言うんじゃない。なんて言うか痛々しぐらいの決意だった。おまえ優しいからさ、見ちゃうと決心が鈍ると分かってるからさ、前だけ見ようとしてたんだよな。それなのに自分は冷たい奴だって自分で思って。俺別れる時、悪い事したから罪悪感あるって言ったじゃん。さっき言った事以外に実はもう一つあって、今はそんな事考えて無いけど、なんで俺はもっとミジメな奴を演じなかったんだろって思ってた。もっとミジメにきな子にすがりついて。醜態さらして呆れられてさそしたらさ、きな子がそんなに痛々しく目を背ける必要無かったんじゃないかって。馬鹿だねぇ。何考えてたんだろうねぇ。若い時ってのはホントにはずかしいねぇ。でもしなくて良かったよ。もしそんな事してたらこんな日は来なかったかもしれないならな。俺きな子に言えなかったことイッパイあるから、せめて今伝える事が出来ることは事は伝えたいから。実を言うとさ、付き合い始めた頃はそんなにきな子の事付き合ってるって感覚が無かった。嫌いとかじゃないぞ。カワイイと思ってたし会うと楽しいし。でもおまえが高校1年のまだ中学生に毛が生えたぐらいから見てたからその感覚が残ってた。でも付き合い始めて二人であちこち行って、話をして、抱きしめて。少しずつ想いが変わって来た。いつだっけ。駅裏の小さな公園の向い合って座るブランコに座って、買ってきたコロッケを二人で食ったんだ。安っすいデートだよな。ごめんなもっといい所に連れて行ってやれなくて。それでもきな子は嬉しそうにコロッケを食いながら笑っていてさあ。夕日に照らされたその笑顔がビックリする程かわいくて愛おしくて、ああ、おれこいつが好きなんだって思った。でもそう意識すると逆にそんな事言えなくて、それどころかきな子に好きだって言った事があるのかすら憶えてない。ゴメンな、一個何十円のコロッケで。ゴメンな、小洒落たレストランじゃなくて。ゴメンな・・・その時好きだと言ってやれなくて。でも、面と向かってきな子にこんな事言わないぞ。きな子にとってはもう過去の話しでしか無いだろうし、これは俺の中だけの物語だから。そう、俺の心の中の。きな子言ってくれたよな。あの時が今の自分の価値観の基準になってるって。俺だってそうだ。きな子がいたから今の俺なんだ。楽しかったことも、辛かったこともあったけど、それに影響されて今の俺を作った。俺の心の中の一部にきな子がいて、それを全部ふくめて今の俺なんだ誰にも違うとは言わせない。え?違う?何が?道が違う?ここ左?ステーションホテルって言うぐらいだから駅の方にあって然るべきなんじゃないの?JAROはどうしたJAROは!あーあー大丈夫。間違って何が悪い。人は間違えながら未来に進んでいくんだ。でもな、たとえ間違えたとしても道は必ずどこかに継っている。だってここロータリーだもん。ここはあえて一緒にいる時間が少し延びてちょっとラッキーじゃんと思おうよ。結果オーライ?いいんだよ。 俺の人生はいつだって結果オーライ狙いなんだから。ほら交差点に出た。あ、中銀・・・あったあった。そう言えばあったよ。あれ?今小さく「地元だろ」ってツッコんだでしょ。久しぶりにきな子にツッコまれるのは嬉しいけどあんまり小さすぎて返せなかったよ。何遠慮してんだ。ツッコむ時は人を罵倒する勢いでしなきゃ。まあ久しぶりだから今回は見逃してやるが、次に会う時は多めに見ないよ。ほらバッチこーい!俺はどんな球でも打ち返して見せるぜ!って、何しに会うつもりだよ。・・・・・・・・・・・・・・じゃあ何で会いたいんだ?俺は何できな子に会いたいんだ?後悔した日々を取り戻すためか?違う。その後悔さえもが俺を作った。それは俺の一部だ。きな子が逢いたいと言ってくれたから?違う。それはきっかけでしかない。じゃあなぜ?・・・それは・・・うれしいからだ。ククク・・・何だその答えは、飴玉もらう子供と同じじゃないか。大人なんだからもっと枯れた理由があるだろ。なあきな子、今日会った時に言ってたよな。「ちっとも変わってなくて笑っちゃいました」って。まったくその通りだ。ちっとも成長していない。でも仕方ないだろ。俺はな、昔からきな子に会うとうれしくて仕方がないんだ。だから・・・「また逢おうな。今度またみんなで絶対に逢おうな」ホテルの前に着き、車を降りるきな子に助手席側に俺は身を乗り出し大きな声で言うと、きな子は小さな体を屈ませて窓の外から手を振りながら微笑む。そしてウインカーを出しスルリと車線に入るとその姿はバックミラーの中で小さくなって行った。高速に入り、タバコを買うためにSAに入り車を降り夏の星座が散りばめられた夜空を見上げふと考える。今年は織姫を彦星は会えたんだろうか。雲の奴が邪魔しなけりゃいいな・・・でもよく考えて見ると邪魔者は七夕ごとに野次馬根性をだす俺たちか。曇って奴は以外に野次馬の目から二人を守ってやってる良い奴なのかもな。そう言えば玲子にも礼を言わなくちゃな。ああ見えてあいつは人に気を使わせない気を使うやつだ。俺はタバコを買うためにジーンズの後ろポケットにやった手を戻し、携帯を出し玲子にメールをする。 件名 今日はありがとな 本件 ところで財布忘れてない?返事はすぐ帰ってきた 件名 Re今日はありがとな 本件 あったけどさ・・・ せめて件名と本件を逆にしてよね あたしへの謝辞があんたの薄っぺらい財布よりもっと薄っぺ らいみたいで深酒しそうだわ玲子はかなりご立腹のようだ。しかし玲子よ。お前は考え違いをしている。良い事を教えてやろう。「未来に於いて過去は必ずしも同じ姿を留めていない。そして、その姿が美しくなるか否かはその者の生き方に依って決められるのである」どうだ、いま適当に考えた格言だがその後に「ソレラ・C・コトイッテミター 詩人 1124~1198」なんて付ければ素晴らしい名言に聞こえるだろ。この言葉をお前にくれてやる。お前なら今がどんな状況であれ、未来に於いてそれを眩ばかりの輝かしい過去に仕立て上げるだろう。大丈夫。お前なら出来る。その時にまた逢おうな。俺は星空を仰ぎ、俺が財布を取りに行くであろう日付も変わらぬ数時間後に、玲子にとって今が過去になってますようにと、彦星様と織姫様に願いを掛けた。
October 13, 2011
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「きな子。その時の俺を好きになってくれてありがとな」きな子に礼を言われるどころか、礼を言わにゃならんのは俺の方なんだ。きな子はやや困惑気味に「え?あ・・・先輩がそんな事思うこと無いのに」そりゃあそうだ。自分だけ言いたい事吐き出してスッキリしてりゃあ世話ないな。何時までたっても自分勝手は治らない。「いやいや、俺ってヒドかったと思うぞ?俺が聞くのも何だけどいったい何が良かったの?得るものなんてあった?」これは前から聞きたかった事だ。「ありますよ・・・」何、何なの?まさか上唇の薄い男は信用ならんって言う教訓か?「あの時が今の自分の基礎になったかな。価値観とかいろんな事の」ナ・ナ・ナンダコノヤロォォォォォォォォォォ!嬉しい事言ってくれんじゃねえかァァァァァァァァァァァァ!!!そんなオジサンの動脈硬化気味のハートを鷲掴みするテクニックどこで覚えたんだァァァァァァァァァ!!!と叫びながら裸足で表に駆け出したい衝動が全身を駆け巡るが、ハタと我に帰る俺。「俺なんかしたっけ?」記憶を総動員しても、そのいろんな事が思い浮かばない俺は素で聞いてしまった。「いろいろ。だから・・・はい。あなたは今、罪悪感から解き放たれました」いやいや、自覚がないんだからイキナリそんな事言われたって無理っしょ。俺って酷かったぞ。まあこの際だから全部吐き出しちゃいましょ。フフフ覚悟しろよきな子。「きな子は憶えてるか?最後に二人で会った駅前の喫茶店。そこで別れ話を持ち掛けられた時、俺は「分かった」って。・・・理由も聞かずに引き止めさえぜずに「分かった」だけで終わらせてんの」だから実を言うと未だに別れた理由をよく分かってない。「え?それがヒドイ事なの?」「何いってんです!ヒドイ事でしょうが!」いやいやいや。何も俺が偉そうに言う事ではない。「あの時きな子は、色々悩んでそりゃあもうメチャメチャ覚悟して言った筈なのに、俺と来たら「あ、そう」と来たもんだ。何様だ俺は」女王様なら向こうの席で酔っ払ってグラスぶちまけて「あら、ゴメンあそばせ」なんて言ってるがよ。「カッコ付けてたんだろねえ。相手の気持も考えずに自分のプライドを守る為だけにカッコ付けて、ほんとバッカじゃねえの」今は他人ごとのように笑いながら言ってるが、その時から少し時間が経ってから酷く自己嫌悪をした。きな子が嫌なら仕方がない。どうせ俺が悪いんだろうからきな子を困らせたくはない。まあ、そう思う事自体が最低野郎の発想だが、でもその前に俺はきな子に自分の気持を伝えるのがそれ以前の礼儀だろ。「それで、俺が黙ってると、きな子が今まで俺があげたネックレスだか指輪を俺に返して来たの。でさ、俺それをポイっと摘み上げて灰皿に捨てるのよ・・・ガハハハハどんだけカッコ付けたら気がすむんだよ。恥ずかしィィィィィ!ちょっとそこに穴ない?俺が入れるぐらいの穴そこら辺に空いてない?」「・・・でもね、指が震えていたの」笑っている俺を真面目な顔で見つめ、きな子はそう呟いた。「え?」「指輪を持つカンペイちゃんの手がね、震えてたの。それだけは覚えてる」・・・俺の手が?「カンペイちゃん辛いんだって・・・」・・・ハハハ・・・ハッハッハッハもう自分でもおかしいぐらい笑ってしまった。なんだよ、俺カッコ付けてたつもりなのに全然カッコ付いてないじゃん。あーカッコ悪りー何を気取ったのかしれないがクールを装ったつもりがだったのに、見透かされていたなんてかっこ悪いにも程があるぞ俺。でも・・・それでも少しだけど胸のつかえが下りた気がした。まったく昔の記憶なんてそんなもんだ。いつだって曖昧で何が本当なのか分からない。今だって文面にすりゃあそれなりに歳を経た二人の会話に見えるかもしれないが、実際の俺ははきな子にあって嬉しくて嬉しくて、お子様ランチを目の前にした老け顔のガキでしかないかもしれない。だから何だ?何が悪い?文句が有る奴はかかって来い!自分のプライドを守るためにカッコつけたつもりでいる愚か者より、フラれたくせにその相手を前にニコニコ笑ってる馬鹿野郎の方がよっぽどマシだ。「ちょっとそこの大馬鹿野郎。悪いけど火貸してくれない?」グッ!いつの間にか席にもどりタバコを指に絡ませ宙を見ている玲子。自分で思う分にはいいが人に言われると否定したくなる。てか、こいつ人の心が読めるのか?しかも御丁寧に大までつけやがって。「積もるお話できたかしら?夜更かしはお肌に悪いからそろそろ帰るわよ」「あら、もう帰っちゃうの?ここにアシがいるんだからゆっくりしていけばいいのに」横のアレからアシは格上げですか?と言うかお前その為に俺を呼んだんだろ「失礼ね。その為だけに呼んだんじゃないわよ」その為もあるって事じゃあないか。「玲子ちゃん分かってる?送る順番間違えちゃダメよ。あなたが先に降りて次に彼女を送らせるのよ。そして最後がア・タ・シ」断る!!!「冗談よ冗談。本当に今日はよくお越し下さいました。またお越しくだないな」変わったオッサンだが、よほど育ちがよいのだろう。気持ちを言葉に乗せる事ができる。それが品って奴だ。俺たち見送るオーナー達を後に二人を送る。 つづく
October 11, 2011
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「ようこそいらっしょいました」店のオーナーがやって来た。「玲子ちゃんのお友達?ちょっと玲子ちゃん紹介しなさいよ」玲子にそう言うオーナーは50過ぎのスキンヘッドのオッサンだ。「えーとね。彼女はあたしの後輩できな子ちゃん。で、横のソレがきな子の元カレ。もう何十年前の話だけどね」ドーモハジメマシテ。ワタクシが横のソレです。「あ、そうなの。じゃあ元カレって事は別れたって事よね。で、どっちがフラれたの?」この店を見るかぎり実に趣味のいい人だと思うが、さすが玲子が常連の店のオーナー。別の意味で趣味が悪い。「あ、俺俺、俺の方がフラれたー」オーナーはその問いに手を上げてニコニコ答える俺を横目で見て「まあ、そんなトコでしょうね」俺の何を見てそう思ったのか知らないが、案外失礼な物言いである。「じゃあ久しぶりに会うのね?」「・・・いつから会って無かったっけ?」きな子を見ると、きな子も俺を見て首をかしげる。まあ、記憶なんてそんなもんだ。「ちゃんと会って話すのは25年近くになるかなあ」「じゃあ積もる話もあるわね。玲子ちゃんあんた邪魔しちゃダメじゃない」おいおい、無茶言うな。玲子の存在理由からお邪魔を取ったら何も無くなっちまう。「わかったわ。さっき来たお客さんの所に行って来るから二人で話してて」そう言って玲子は立ち上がるが「お客さんって。知り合いか?」「知り合いじゃなきゃ行っちゃいけないの?」そう言って「あらー、いらっしゃい。まっ!綺麗なお召し物!やっぱり着物って日本人の心よね」などといいながら客の所に座り込む玲子。「それじゃあじぶんちだと思ってゆっくりお話してね。ここはそう言う店なんだから。あ、でもいくら薄暗いって言ってもやらしい事しちゃダメよ」そう言ってオーナーは席を開ける。そして二人きりになるが、急な展開についていけない俺。もし、ニッパ片手に銅線ムキムキしていた二時間前の俺が「二時間後、きな子と二人で話す事になるかどうかカケを持ち掛けられたら「有り得ない」に全財産ベットしていただろう。これだから人生はやめられない。そう一人クスクス笑っていたら。「本当に今日はよく来てくれました。ありがとうございます」改まってきな子が礼を言う。「あ、来て下さったと言えば父の葬儀の時もワザワザありがとうございました」おいおい何時の話の礼だ?「ダンスの発表会の時も手伝って下さってありがとうございました」きな子は溜まっていたツケを急いて払うかの様にありがとうを繰り出してくる。クククク きな子お前の気持ちは分からんでも無い。人間歳を取ると、いかに自分が誰かに生かされて来たのか思い知らされて来る。自分の力だと思っていた物が、実はそうではなく誰かの助けや力があってこそだったり。若い頃には分からず、気づいた時にはそのありがとうを言える人が自分の側にいない。だがな,きな子。悪いが俺に対しては何一つ清算出来ないぞ。いや、清算出来ないんじゃ無い。初めからツケなんてモンはありゃあしないんだ。おまえにとって俺は何だったんだ?なに水くさい事言ってんだ。だいたい俺がやりたいからやっただけだし。俺がしなくちゃいけない事だからしただけだ。きな子が俺に礼を言わにゃあならん事を強いて上げるとすれば、高校の時に抹茶アイスをオゴってやった事ぐらいだ。それ以外何もない。それどころか「んー」俺は天井を見上げ考える「・・・7年ぐらい前だったら来てなかったかもしれないなあ」俺はニコニコしたまま続ける「来てなかったって言うか、来れなかったって言うか、合わす顔が無かったって言うか・・・」表情はそのまま天井に向いていた視線をきな子に向け「罪悪感っていうのかな。あー悪い事したなあってずっと思ってた」「それはあたしの方・・・」「俺が悪かったからフラれたんだ。俺はワガママで自分勝手で、思い出しただけで恥ずかしくなる」とケラケラ笑いながらで言っても信憑性もないが、暗く言おうが笑って言おうが事実に変わりない。それなら、せっかくこうやって会えたんだから明るく行こうぜ。「それが玲子からきな子が結婚したって聞いて、なんかホッとしたって言うか思い違いをしてたのに気付いた。俺なんかじゃなくて、ちゃんときな子を幸せにする役目の人がいるんだなって。俺が後悔しようがしまいが、そんな事些細な事なんだなあって・・・ガハハハやっぱり俺って思い上がりが強いんだろうね」きな子が黙って聞いてくれるのを良い事に俺は話を続ける「それでな、俺今ブログ書いててさ、ブログって言っても文字オンリーの「誰がこんなモノ読むんだ?」って奴だけど。昔の事とか書いてたらその当時の事とか色々思い出して・・・やっぱり楽しかったんだよ。楽しくて俺にとって大事な思い出で、それをさ自分の勝手な後悔なんかで嫌な過去にしてしまうのはダメだろって」後悔はする。後悔しなきゃまた同じ事を繰り返すだろうから。でもそれときな子がくれた物は別だ。「だからさ、俺が今きな子に思う事は・・・」もう二度ときな子には逢えないと思っていた。何十年もかかったけど、何となく分かった事を伝える術も無いと思っていた。それがまさかこうして言えるなんて・・・ほんと生きて行くって事は面白いよな「きな子。その時の俺を好きになってくれてありがとな」きな子に礼を言われるどころか、礼を言わにゃならんのは俺の方なんだ。
October 9, 2011
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帰省で混みだした高速をひた走り、一時間後には玲子達がいる店の近くに着き、そこから玲子に電話して詳しい場所を聞いたが、そこは繁華街などではなく、静かな佇まいを見せる観光地の一角から少し離れた所。「△電があるじゃない」「△電?あったっけ?」「あんた地元でしょ?」確かに地元だ。そこらへんの川の向かいに俺が通っていた小学校があり、さんざん遊び倒した所だ。学校から川沿いを東に行くと西村んチがあって・・・あれ?川沿いだったっけ、なんか曲がったような気が・・・でも曲がったら三浦んチに・・・三浦んチどこだっけ?思い出そうとするごとに記憶が交錯する。しかたない。もう何十年前の記憶だ。覚えているつもりでも、所々違っていたり思い込みがあったり。昔の記憶なんてだいたいそんなもんだ。「はいはい。あんたの人間性と同じくらい記憶力も怪しい事は分かったから。とにかく川沿いを走って来なさいよ。あたしが外に立ってて上げるから」当然「感謝しなさいよ」の一言を付け加え電話を切る玲子。俺は玲子の言いつけ通り川沿いに車を走らせると4,5人の影が見えてきた。二人なら分かるが、人数が多すぎるな。と思いながらゆっくり近づいていくとその中に腰に手を当てふん反り返っている玲子を見つけた。どうやら店の人も含めた全員で俺を待っててくれたようだ。そしてその中でも一際小さい人影。とりあえず店の人の指示に従い車を駐車場に入れ店の前まで戻ると、「お久しぶりです。先輩ちっとも変わってなくて笑っちゃいました」そう言ってきな子は昔と変わらず目を細め笑っていた。そう昔と変わらずに。久しぶりの再会の筈なのに何の違和感もなくきな子に向き合えた自分がおかしかった。「あのなきな子。ここ4,5年でそう言われたのお前を入れて5人目だ。もしかして俺が若々しく見えるんじゃなくて昔からオッサン顔だって事か?」「あー学生服似合いませんでしたね」「おかげで中学の時、仲間でエロ本共同購入の際は俺が買いに行く役目だったぞ」一時間ほど前、電話でテンパッてた俺は何だったんだろ。20数年ぶりにこうやって向い合って話す事が、ドキドキとかしみじみじゃあ無く、ただ単純に嬉しくてニコニコしてるだけだった。「いつまでここにいるつもり。お店の中に入ったら?」久しぶりの二人の時間に誰かが割り込んできた。そう言や玲子もいたっけ「あ、いたの?」「あたしが気持ちよく酔ってる内に店に入ってお酒飲むか、突き落とされてそこの川の水飲むか決めてくれない?」昔はよくこの川で遊んだとは言え、そんな事で懐かしがる気もないので大人しく店に入る。中は間接照明で薄暗く、品の良い調度品がならんでいて友達の家にいるような落ち着きがある。「まあ座って」かと言って決して玲子の家じゃないから、面接に来た就活の学生のような扱いを受ける謂れもない。俺の正面の背もたれの大きな木製の椅子にゆったり腰掛け足を組み微笑む玲子。以前、ベンチに二人で座った時にくるぶしから膝までの長さの違いに気付き、それ以来自尊心を守るためになるべく玲子とは並んで座らない事にしているのは内緒だ。そしてきな子は俺の横に座わる。「よく来たわね」正しい日本語としては「よく来てくれたわね」が正しいのだろうが、そんな事も気にならないぐらい俺は上機嫌だ。「そりゃあ来るでしょ。なんせ今日はお姫様がお見えになってんだから」「あら、お姫様なんていってくれんの?嬉しいわ」「なんでお前が喜んでる。俺の言い方が悪かったのか?それとも悪いのはお前の性格か?」「じゃああたしは何なのさ」「女王様に決まってんだろが」「何?その似て非なる響き。やだやだ、あたしもお姫様になりたーい なりたーい!」「あ、俺ジンジャエールね。ほら、こんなんじゃ悪酔いしちゃうでしょ」会話に割り込めずオロオロしていた店員に注文してるときな子はケラケラ笑いながら「相変わらずですね坂口先輩。あたし二人の漫才が見たかったんです」ムッ、坂口先輩?「なんだよーなに敬語なんか使ってんの?そう言う他人行儀はやめてくれよな。それに坂口先輩ってなに?今までそんな呼ばれ方されたことないぞ」もちろん俺は今ご機嫌だから責めた風に言ってるわけじゃない。それどころかニコニコしながらいってんだから始末に終えない。「え?でも」「でもじゃないの。ほらチノエちゃんっていただろ」言うに事欠いて、別に付き合ってた娘じゃないけどいい感じになりそうだった娘の名前を数十年前とは言え元カノに出す俺はチャレンジャー。「30分の電話で呼ばれ方が変わって行くんだぞ。カンペイさんから坂口先輩になって最後には坂口さんだ。心が離れていくのが分かる分かる。そういうのって悲しいぞ」「へえそう言うモンなんの?でも安心して、あたしは大丈夫よ。ハナっから心離れしてるから」そりゃ安心だ。心通い合う所から始めなきゃならないのかと一瞬不安になっちゃったぜ「じゃあ、何て呼べば・・・」困った顔で聞くきな子にピシャリと言ってやる。「カンペイちゃんって言ってたじゃん」それは付き合いだしてからであって、その前は「先輩」だったがあえてそう言った。そうやって過ぎた日々を取り返そうなんて思っている訳じゃないし、そうすれば離れた心が近づくと思ってる訳でもない。じゃあ何で?その方が俺がハッピーな気分になれるからに決まってるだろ。我ながら見事なまでの自己完結に感心していると「ようこそいらっしょいました」店のオーナーがやって来た。 つづく
October 7, 2011
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・・・やり直しだ!ただでさえ死ぬまでに清算出来ない後悔という負債を抱えてるのに、こんな事ぐらいで増やしてちゃあ利子さえ払えなくなる。濡れたままの身体もそこそこに二階に駆け上がり携帯の前に正座して深呼吸して着信履歴をリダイヤルする。着信音・・・一回・・・二回・・・三回目の途中で途切れ電話越しに街の喧騒が聞こえてきた。相手が着信ボタンを押したのだ。クワッとマナコが開かれ「あのさ、きな子・・・」と言おうとすると「なにさ」艶がありながら高圧的な、まさに「どこの女王様だ」的な玲子の声が突き刺さる。そりゃそうだ。玲子の携帯に電話したんだから玲子が出て当然だ。挫けそうになるテンションを何とか取り戻し玲子に頼む「ワルい。さっきは取り乱してみっともない所を見せたからリベンジしたい。きな子に代わってくれ」そのまま黙って待っていると電話の向こうから「クスッ」と聞こえ「あら、意外に可愛いとこあるじゃない」今頃知ったのか?お前とのこの三十年は一体何だったんだろうな。なんならこの可愛さを分けてやってもいいからさっさと代わってくれと念を送っていると「ちょっと待ってなさい」飼い犬にオアズケする如き声の後、程なくして「もしもし・・・」きな子の声が聞こえた伝いたい事だけをまくし立てそうになる自分を抑えながら「あ、電話くれてありがとな。さっきはあまりの事にテンパッて、ありがとうも言えなかったから」なんとか平然を装えてる俺ジェントルマン。「ひさしぶりにきな子の声が聞こえて嬉しかった。今度絶対に逢おうな」とにかく今自分が思っている事を素直に伝える。簡単の事だ。なぜ若い頃それが出来なかったのか首を傾げるぐらいに。もし相手がそう思ってなかったら?別に迷惑さえ掛けなければいいんじゃねえの?相手に恥ずかしい奴と思われようが、後で自分自身を恥ずかしいと思うよりよっぽどましだ。今回は電話だけの刹那の再会だったが欲を掻いてもしかたがない。「また逢おうな」と言えた事だし、今日はこれで満足しとこうと思っていたら、電話を代わった玲子が「あんたどうせ暇なんでしょ?今から来れば?」思っても見なかったお誘いにまたも動揺する俺。「え?・・・今から?」「高速飛ばせば一時間ぐらいで来れるでしょ」い、いや、距離や時間が問題じゃなくて・・・心の準備が・・・「でも、迷惑じゃないの?」「迷惑?酒の肴が一つ増えるのが何で迷惑なのさ?」おまえにとっての俺の存在意義なんざ誰も聞いちゃいないんだよ!あのね。20数年ぶりに後輩であり仲間であり彼女だった人と再会って言うシチュエーションだぞ?映画「New York, New York」じゃあロバート・デニーロとライザ・ミネリは結局逢わずに違う通路から出て行ったんだ。わかる?25年の重みって奴は「来る?」「うん行く」なんて軽いもんじゃないの!正座のまま携帯を握りしめて固まっていると玲子の声に混じって「あたしもお話聞きたいな」と声がする。ムッ。これはきな子の声・・・「で、どうすんの?」「うん、行く」ん?ロバート・デニーロ?ライザ・ミネリ?誰それ?ボク外国人の親戚いないよ?取り急ぎ場所を聞き階段を駆け下りリビングのドアから頭だけを出し満面の笑みで嫁に「ちょっと玲子のとこ行ってくる」と言って廊下を走りだすと、「何?何?嬉しそうな顔して。玲子さんからお呼ばれされたの?じゃあオシャレしなきゃ」と俺の笑みに釣られニコニコ顔で走って俺に付いて来る。「いや、時間がないからこれでいい」今はそんな時間も惜しい「それで、他に誰かいるの?」「んーーーーー内緒!」別にヤマシい事をする訳でもなからきな子に事を言っても構わないが、帰った後が面倒くさい。それにバレても構わないぐらいの秘密を持ってた方が夫婦関係にも程良い緊張感が出てくるだろう。俺は嫁の「ちょっと靴下ぐらい履いて行きなさいよ!」と言う声を後にサンダルをつっ掛けて玄関を飛び出した。 つづく
October 4, 2011
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8月14日お盆の中日であり、世間では帰省や行楽にたけなわであろうが、俺は一人自室に篭もり、舞台照明用の変換コードを作っていたら携帯が鳴った。時計は夜の8時を回ろうとしている。誰だ?着信表示を見ると30年来の付き合いの玲子からだ。ははーん。盆を良い事に酔っ払った勢いで電話して来やがったな。こっちはニッパ片手に絶縁体ムキムキしてるのに、この酔っぱらいが!「はいよ」そのテンションで電話に出ると「?????です・・・」コードとニッパはそのまま携帯を肩と首にはざんだ状態で電話しているので声が聞きづらいが少なくても玲子ではない・・・誰だ?「もしもし・・・お久しぶりです・・・きな子です」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぃ?」「あの・・・高校の後輩で・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぃ・・・」「・・・きな子ですけど」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハィィィィィィィィ!」「あ、ちょっと代わります」取り乱す俺にどう対処していいか分からないきな子は玲子に電話を代わった。「どうよ?うひょひょひょひょ」酔っぱらい丸出しの笑い声で問いかける玲子。どうよ?と言われても・・・酔っぱらいだと思って電話に出ると、それが20数年ぶりに声を聞く二十歳頃に付き合っていた彼女だったら「もう50も近いんだから少々の事じゃあ動じやしないよ?」と思っていた俺でも取り乱すに決まってるだろ!「あら、情けないわね。せっかく人が気を利かせてんだから、もっとちゃんと話しなさいよ」気をきかせると言うより単に面白がっているとしか思えないが、せっかくの機会だ。もう一度きな子に代わってもらい話をする。「久しぶり。元気だった?」「ええ、・・・坂口先輩もお元気そうで」・・・坂口先輩か何気ない会話の筈なのに何だか気持ちが引いた。間違えではない。俺は坂口だし先輩でもある。ただ、今までそんな風に呼ばれた事はなかっただけだ。きな子がそんなつもりで言ったのでは無い事は分かってる。なんせ20数年ぶりだ。呼び方がどうこう言う月日じゃない。ただ、そう思ってしまうのも仕方がない。何を隠そうフラれたのは俺の方だからだ。それから少し話して電話を切り風呂に入りながら久々の自己嫌悪に陥った。ないな・・・あれはないわ・・・何年ではない。何十年ぶりにワザワザ電話くれた人を前にみっともなく動揺して、挙句の果てに他意のない言葉に引っかかって気後れして・・・いい歳して何やってんだろ俺。この前玲子が電話して来て言っていた。「きな子がね、今度同窓会しようって。みんなに会いたがってたわよ」きな子は二十代で東京に行って今も暮らしていて、その当時の仲間とも会っていない。きな子にとって嫌な思い出かもしれないのに、それでも思いだしてくれて電話してくれたのに何てザマだ。・・・やり直しだ!ただでさえ死ぬまでに清算出来ない後悔という負債を抱えてるのに、こんな事ぐらいで増やしてちゃあ利子さえ払えなくなる。濡れたままの身体もそこそこに二階に駆け上がり携帯の前に正座して深呼吸して着信履歴をリダイヤルする。 つづく
October 2, 2011
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明日は某アマチュア劇団の照明の仕込み。 本番は23日だが会場の都合があり一人で吊り込みをする。 最近疲れ気味なので今日は英気を養うためにも温泉に行き上がってからマッサージ機に座る。 小銭を入れようとして手が止まる。 ・・・300円・・・ふつう200円が相場じゃね? いや、たかが100円じゃないか。 温泉に入ってマッサージ機に座らないなど、ラーメンの「出前一丁」を食った後にごまラー油を入れてなかったと気づく程の愚かしさだ。 明日の為にもたかが100円をケチってどうする。 財布の中から100円を取り出し投入口に入れ、マッサージ機の心地良い振動に無心になろうとするが。 でも100円って言っても考えてみれば1.5倍なんだよな・・・ これが100円だからいいものの2万円なら3万円、200万なら300万だろ・・・あ、でも100万単位になったらもう200万でも300万でも感覚にはが麻痺して一緒になるか・・・まあ俺には関係ないけど。 でも100円だって大したものですよ・・・100均に行って300円商品とか見ると何か高級に見えるもんなぁ・・・身分の高い御方がお忍びで庶民がつどう市場に紛れ込んだみたいで 「なぜあなたの様な御方がこんな所に!」 なんて平伏しそうになるもんなあ・・・ あっ・・・・・・・・・・・・・電気屋行きゃマッサージ機タダじゃね?・・・ せっかく温泉に行ったのに己の小ささに打ちのめされて帰ってきました。
September 10, 2011
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寝不足だ。 昨日の夜中、寝ていたら物音で目を覚ました。 音がする方を見ると、俺に背を向けた嫁が髪を振り乱し床に両手を打ち付けていた。 な、何?何かの儀式だ? これは例え夫婦であろうと知らない事にして寝たフリしていた方が今後の夫婦関係が円滑に進むのか? でもこの嫁の豹変ぶりが俺のこんな態度によるものなら、ここは強い態度で望むべきか? いやいや、俺が原因だと決まったわけじゃない。 これでも俺は案外優しい所があって、お小遣いをねだる時は洗濯物を干すのを手伝ったりもするし・・・ などとガクブルしながらも自己保身をしていると 「父さん!ムカデ!ムカデ!」 と嫁が叫んでいる。 なんだ、ムカデをそこにあったタオルで叩いていたのか・・・そうだよな、俺って案外頼り甲斐の有る奴だから嫁が変な宗教に走る筈がない。 安心した俺は嫁にムカデを任せてもう一度布団に潜り込もうとしたら 「ちょっと!なに寝ようとしてんのよ。ホントに頼りにならないんだから!」 あまりに心外な言葉を吐き出す嫁だが、ムカデごときに取り乱すとはいったい何年田舎者やってんだ? ムカデは少々叩いたぐらいでは死にはしません。 じゃあどうするか? 今日は田舎者がムカデの対処法をお教えしましょう。 1 まずコップを用意します。 2 そのコップをそっとムカデに被せる 3 コップと床の間にチラシを差しこみムカデを封鎖してちらしの余った部分をコップの縁 にそって折り曲げる 4 玄関を明け外に出て幼稚園の横の溝にチラシの部分を下にして落とす 5 即席の船と化したチラシがムカデを載せてゆっくりと溝を流れていく。 ついでにゴキブリの対処法も 1 嫁を呼ぶ。 2 嫁がどうにかしてくれる間、登った椅子の上で今までの人生で楽しかった事ベスト3を 頭の中で繰り返す。 嫁がいなかったら 1 何も見てないと自分に言い聞かせる 2 今までの人生で楽しかった事ベスト3を頭の中で繰り返す。
September 7, 2011
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先月、今月と舞台の照明をすることになってたので中々忙しくて更新出来ません。今も電源ケーブルを作るために絶縁体をムキムキしています。今月の23日を過ぎると暇になるのでUPするつもりですが、次回はお盆の出来事を書きたいと思います。
September 3, 2011
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ちょっと急ぎの書物をする事になったので話半ばでちょっと中断します。いや、それが理由で途中止めになってるのじゃなくて、先々週に体調を崩してそれから怠けていた事も告白しときます。
June 23, 2011
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初対面で名前を聞かれてアダ名なる物で答えるとは変わっているが、考えてみたら後輩のボギャンもしれっとした顔でそう言ったし、高校の時の後輩のきわ子もそうだった。まあ、変わり者と言う奴はどこにでもいるものだが「そ、そう。ボーちゃんっていうの・・・かわいい名前・・・・ね・・・」俺ほど変わり者慣れしていない彼女は動揺しながらも勧誘を続ける。「人前に出る事は大丈夫?」「はい・・・興奮してちょっとハシャいだりしますけど・・・」とボソボソと下を見ながら話すボーちゃんとやら・・・とてもハシャぐようには見えないのだが。「あ・・・でも噛んだりはしないです」噛む?せりフを?「え?・・・そ、そう。噛んだりしないの・・・えらいよね」その前に会話が噛み合ってない気がする「それなら大丈夫ね。じゃあここにあなたのお名前と住所書いてもらえる?」彼女はイソイソと入部届けの用紙を出してボーちゃんに差し出す「・・・え?・・・」「ごめんね。面倒だけど決まりなのよ」「は、はい・・・」なんだか分からないうちに記入を終えたボーちゃんに彼女は満面の笑顔で「おめでとう。これであなたもハレて演劇部の一員よ」そのコングラチュレーションはどう見ても彼女自身に向いている気がしてならない。その証拠にボーちゃんは狐につままれた顔をして「・・・演劇部?・・・一員?」「そうよ。あなた運がいいわ。たまたま次の公演の役が一つ空いてるの」・・・たまたま・・・ね「役?・・・わたしがですか?」「そうよ。あなたなら出来るわ。いえ、あなたにしか出来ないわ!」コブシを握り締めて力説する彼女を虚ろな目で見る俺達「坂口さん・・・」「なんだい?とりちゃん」「人って切羽詰れば、谷の淵に立ってる人の背中を平気で押す事が出来るんですね」「 HAHAHAHA・・・・知らなかったのかい?」何で俺がここに居るのか教えたい衝動をグッとこらえ代わりに乾いた笑いで答えているうちに、無事入部手続きを終えたボーちゃんが何故かフラフラしながら帰って行った。「大丈夫なの?彼女、なんか話が見えてなかったみたいだぞ」満足気にボーちゃんを送る彼女に聞くと「そんな事ないですよ。やる気満々でしたよ」とてもそうは見えなかったが、いらぬ勘繰りは止めてキャストがそろった事で今日の所は由としようか。夏休みの宿題を休み明け前日までほおって置く俺である。問題の先送りは今に始まった話ではない。「おはようございます」今更ながらやって来たイカちゃんはイソイソと俺に擦り寄り「すみません。遅くなっちゃって。ホント申し訳ない気持ちでイッパイです」と上目使いで俺を見る。そんなイカちゃんにとりちゃんが「今更来て何いってんのよ。連絡ぐらいしなさいよ」「うっさいわね!来たんだからツベコベ言わないでよ」ウム!すがすがしい程の裏表である。「それにちゃんと連絡したでしょ。遅れるって」みんな顔を合わすが誰も聞いていない。「クラスの子に伝言頼んだはずよ」クラスの子に伝言・・・「もしかして、ボーちゃんって子に頼んだ?」「ボーちゃん?なにそれ?」「えっと髪はセミロングでメガネ掛けてて、あっそうだ、入部届けがある」さっき用紙に名前を記入してもらったはずだ。「えっと・・・大林信子」「ああ、それよ、それ。でもどうして彼女の名前がそんな所に書いてるの?」どうしてって入部したからに決まってる。「入部ってあの子が?嘘でしょ」嘘も何もここにある入部届けが何よりの証拠だが、なぜそこまでイカちゃんは驚いている?「だってあの子・・・対人恐怖症よ」
June 5, 2011
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「で、何で俺がこんなカッコせにゃあならんのだ?」黒のズボンと前ボタンのベストに蝶ネクタイを締め、おまけに「祭り」と赤い文字で彩らたハッピを着さされた俺は眠気まなこをこする。翌日の朝、朝と言ってもバイト帰りで寝入り鼻に彼女からラウンジでバイトしてた時の衣装を持って至急学校まで来てくれとと電話があり、訳も分からないまま大学に来たらこのサマだ。「何でって、新入部員獲得の為です」これが各クラブが総出で新入部員獲得の為に変な活気を振りまいている時期ならこんなカッコもアリだが、秋風も吹き始め閑散としたキャンパスで、ボーイ姿の男が「シャッチョサン。シャッチョサン」なんて言いながら行き交う女の子に声かけてたら恥ずかしいを通り越して痛いに決まってる。しかし彼女曰く「痛い?上等です!こんな時期に入部しようとする人に常識を求めて何とします。とにかくインパクトを!誘蛾灯に引き寄せられ身を焦がす蛾の如き人物こそ今は必要なのです!」なんかえらい言われようなまだ見ぬ新入部員。「さあ。もうすぐ昼休みに入るから頑張って勧誘しましょう!」「あのー 紀美先輩・・・」そこら辺に転がっていた衣装の着物を着せられ座敷わらしの様になっている由美ちのゃんが恐る恐る手を上げた「なあに?」「さっきオキデン先輩が今日はゼミの準備があるから来られないって・・・」「何で?わたしオキデンと同じゼミだけどそんな話聞いてないわよ」「逃げたな・・・」「逃げましたね・・・」ウサギの耳を付けられ、やる気の無い場末のキャバレーのホステスのような表情で相槌を打つとりちゃん。「もう!オキデンお肌弱いから日傘まで用意したのに」一見オキデンに気を使っているようだが「ちなみにオキデンには何のカッコさせるつもりだったんだ?」「レースクイーンよ」どう考えてもオキデンのお肌を心配して用意してないだろ。「そりゃ逃げるよな・・・」「ええ、全力で逃げますよ・・・」何を狙ってかのレーズクイーンか知らないが、もう少し思慮深さってのがほしい所だ。「じゃあ坂口さんは見たくないんですか」見たいよ!こんな事言ったら後で怒られる事は分かっている上であえて力強く「見たい」と言うよ!しかしだ。問題は大学の敷地内で見たいと切望する人間が勧誘側の俺一人だという所にある。「ふ~ん見たいんですか?へ~そうですか。そうですねオキデンスタイルいいでもんねぇ。やっぱりオッパイは大きい方がいいんですよね・・・好きにすればいいじゃないですかぁ!」好きにしたいのはヤマヤマだが、そういう問題じゃあないだろ。だいたい俺のポリシーとして、幸せとオッパイは手の平から溢れないぐらいが丁度いいのだが、それを口に出して言ったら余計に怒られる事は分かってるので「そう言えばイカちゃんはどうしたんだ?」と話をそらす。「あれ?来てないですね。絶対に来るようにあれだけ言ったのに!」不幸はみんなで分かち合いたいらしいとりちゃんの不機嫌度がまして行く。「紀美先輩。どうせ誰も来ないんだから私も食事して来ていいですか?」「どうして?これから来るかもしれないじゃない」「えー 来ませんよ」「来ます!わたしは信じてます!」彼女強く断言すると「あの~」うおぅ!ビックリした。言い合いしている彼女ととりちゃんの前、つまり俺の横にいつの間に女の子が立っていた。セミロングの髪に大きめのメガネを掛けたその女の子がボーッとした顔で立っている。みんな驚きで固まったままだったが、いち早く我に帰った彼女が応対に移る。「え?はい。なんでしょう?」「演劇部はここでしょうか・・・」「ごめんなさい。違うの。ここは演劇部なの・・・・・・・・・はい?」・・・誰が何を信じてるって?「・・・ああ・・・そうですか・・・」と引き返そうとする女の子に「ちょ、ちょっと待って!もしかして演劇部に用があるの?」「・・・え、ええ・・・でも演劇部じゃないんでしょ?・・・」「演劇部です!断じて演劇部です!そうよね?」と、こっちを向いて同意を求められても、こっちは「とりちゃん、そのバニースタイルにあってるぜぇー」「あらー坂口さんに褒めて貰えるなんて光栄ですぅー」などと方肘付きながらお互い無表情で視線を合わせずに会話する寂れたキャバレー状態だから説得力も何もあったもんじゃない。「とりあえずここ座って」それでも彼女はオロオロしている女の子を椅子に座らせ勧誘を続ける。「何年生?」「・・・え・・・2年です・・・」「そう、じゃあとりちゃんと同じね。あら?あなた犬飼ってる?」そう言うと彼女は女の子のバッグに手をやり「ほら白い毛がついてる」そう言ってバッグに付いていた毛を取ってやる。これが彼女本来の優しさなのか、好印象を与える為の手なのか疑問に思ってしまう俺はイケないのだろうか?「そう言えば名前聞いてなかったわね」「・・・ボーちゃん」「・・・・・・・・はい?」「ボーちゃん」
May 29, 2011
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「時にオキデン」「はいはい、なんでしょう」練習中、ふとある事に気が付いた俺はオキデンにたずねた。「確かこの芝居のキャストは5人で母親役がいるはずだが、俺はその五人目を見たことがないんだが?」「おや、お気づきになられましたか」気づくも何も練習に支障をきたしている。「いえ、わたしもいつ坂口さんがその事に触れるのかとドキドキしていました」「と言うと?」「有り体にもうしあげますと、いないんです」「は?」「ですから、その母親役をやる部員がいないんです。キャッ言っちゃった」キャッ言っちゃったじゃねえ!と言うか頼むからつっこみ所は分散してくれ。「本当ですか?オキデン先輩!」トリちゃんたちもその事実を知らなかったらしくザワメキ立が、オキデンは素知らぬ顔で「あれ?言ってなかったっけ?」知っててこんなに呑気にしていられるのはオキデンぐらいのものであるが、疑問は残る。「ちょっと待ってくれ。この本は既製の台本じゃない。初めから4人で書けばいいのに何でワザワザ出演者を5人にしたんだ?」「わたしもてっきり新入部員が入ってくるもんだと思ってました」俺が提示した疑問にそれぞれ口を添えるがオキデンは呑気そうに「だってもし新入部員が入ってきたら役がたらなくなるでしょ。それに大は小を兼ねるって言うしね」あー もうツッコむ気も失せてくる。「じゃあどうするんですか?」もっともな質問を口にするとりちゃんにオキデンはしたり顔で「大丈夫。ちゃんと打開策は考えてるから」憂鬱気だったみんなの顔に希望が灯る「何ですか、その打開策って」「もし新入部員が入ってこなかったら紀美にやってもらえばいいのよ」フムフムナルホド・・・って「何ですって!」今まで他人事のように話を聞いていた彼女が音を立て立ち上がる。「ちょっとオキデン!何考えてるのよ」「名案でしょ?」「名案でしょ?じゃないわよ」「何で?なにか問題でもある?」「あるに決まってるでしょ。わたしお芝居なんかした事ないのよ」「あら初めてなのね。大丈夫オネエさんが優しく教えてあ・げ・る」イッタイ何の話をしてるんだ?「オネエさんに何を教えてもらうのよ!」「じゃあオニイさんならいいんだ?」ピクッ オキデンの言葉に反応する俺「あー オニイさんで良ければここにいい頃合のオニイさんがいるが」「冗談はやめて下さい!」あっさり切り捨てられてる・・・あながち冗談ではないのに、いや、もしかしたら「冗談じゃないわよ」って事か・・・ささくれ立ちだす俺の心。そんな俺の心をよそに話を続ける二人。「とにかくわたしは無理だからね」「何で?」「何でって・・・わたし恥ずかしくてそんなの出来ないもん」ほー恥ずかしいですか・・・「どーせ俺は恥ずかし男だよ!」「何いってるんです?」心が荒むと耳まで荒んで来る。「あれか?クセ毛だろ?天然パーマがダメなんだろ?一度美容院に行ってドキドキしながらパーマ当ててもらったのに誰にも気付かれなかった事がそんなに恥ずかしい事なのか!」7千円もしたのに・7千円もしたのに・7千円もしたのに・・・「そんな事言ってないでしょ」「確かに昨日バイト中に客に「イラッタイマテ」って噛んじゃったよ!無かった事にして澄ました顔してたけど客の肩がプルプルしてたよ!でもそこまで言う事ないだろ!」猜疑心と言うアリの穴が自信というダムを崩壊させる瞬間だ。「だから言ってませんて!」「じゃあ恥ずかしくないの?」おおオキデン。そこん所追求してくれ。「オキデンまで何言ってるの」「じゃあ恥ずかしく無いのね?」「だからそう言ってるでしょ」「恥ずかしくないんならお母さん役大丈夫ね」「はい?」「だから、恥ずかしくないなら出来るよね」「え?え?」話がコンガラガッてる彼女にオキデンは詰め寄るが「だめよ。出来ないよ。だ、だってわたし音響しなくちゃならないし・・・」何とか別の理由を持ってきた。だが「大丈夫。わたし本番中は暇だからわたしが音響すればいいから」「クッ!じゃ、じゃあオキデンがお母さん役すればいいじゃん」言われてみればその通りなのだがオキデンはしたり顔で「それは無理よ。だってわたし演出だから。演出は舞台を俯瞰で見る事が大切なのよ」しかし問題をすべて俺に丸投げした奴が「俯瞰で見る」とはよく言ったものだ。きっとオキデンの「俯瞰で見る」とは「問題の上げ」と同意語なのだろう。逃げ場を失った彼女はガックリとうなだれる。そんな彼女にオキデンは「もし新入部員が入らなかったらの話だから、そんなに気にする必要ないのよ」と慰めるが、こんな時期に新入部員が入ると思う方がおかしい。しかし、その言葉を聞いた彼女の顔をゆっくり上がり呟いた。「そうね・・・新入部員が入ればいいのよね・・・それでみんなが幸せになれるのよ」ファウストが悪魔に魂を売った時、きっとこんな声をしていたのだろう。女性の引き出しの中には、そら恐ろしい表情や声色が色とりどりの下着と混じって置かれているに違いない。
May 28, 2011
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お手伝いしている劇団の公演が近づいて来ましたのでしばらく更新出来ません。決して書くのが面倒になったわけではありません。帰ってから寝るまでネット徘徊がしたい訳ではありません。ちぇっ。書いても誰も読まないじゃん!どうせ面白くないよ!と自暴自棄になってる訳でもありません。嫁に「あんたやっぱり才能無いんじゃない?」と言われたのを気にしてる訳でもありません。エロサイトの呼び込みがアカウント数の半数を締めているのがショックな訳ではありません。・・・チクショウ!どうせ俺なんて!
March 3, 2011
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久しぶりに稽古に顔を出し、舞台のセットについて説明を受けた。稽古が終わり帰りの車の中で今回の照明に付いて思いを巡らす。タバコを吸う為に開けたウインドウから忍び込むまだ肌寒い夜風が煙と共に雑念を払いのけて行く。信号が赤に変わり車を止めミッションをニュートラルに放り込み、カップホルダーの缶コーヒーに手を伸ばし口に運んだ途端クシャミが出そうになった。口の中には多量のコーヒーいかん、我慢しなくては!と思った瞬間、俺の中で何かが囁いた。”イケる!”頭の中でコーヒーを口に含みながら、それを全く噴出しもせずクシャミをするイメージが確信と共に沸き起こる。行け!ハックション!・・・で、何が”イケる!”んだ?吹き出したコーヒーが彩るフロントグラスを唖然と眺めながら自分自身を問い正す俺。コーヒーを吹き出さずクシャミする事なんが一秒考える前に出来るわけ無いと分かるハズだ。しかも前が見えなくて慌ててワイパーを動かした自分に余計凹む。考えて見れば昔から「根拠のない確信」が強かった。まだ小学校に上がる前。夏に小学校のプールが開放されていて、当時小学生の二こ上の姉とプールに行ったのだが、当然俺は幼児用のプールしか入れてもらえなかった。「ナゼだ?俺はきっと泳げる!泳いだ事は無いがきっとこのプールをイルカの様に泳げるハズだ!」供だましの幼児用プールを離れ、腰に手を当て姉が泳ぐプールを見つめていた。気分はさながら桂が浜から遠く太平洋を彼方を見つめる坂本龍馬だったが、傍から見ると根拠のない確信と変なベルトがついた海水パンツが妙に痛々しかったに違いない。しかしそんな俺も歳を経て根拠の無い確信から根拠のある確信に変わっては来ている先日も娘と銀魂のOPはどれが最強か討論していて、娘は五期のOPが最強だという「五期?ああドエスの曇天ね」「はあ?」「だからドエスの曇天だろ」「Doesです!『d??z』!」「なんだ?あろう事か親に発音記号突き付けやがって!それはどんなグレ方の進化系だ?あ゛ぁ?」この前まで過去分詞を過去分身だと思い込んでいた娘に間違えを指摘され激高する俺「ああ間違えたよ!そう思い込んでたよ!でも仕方ないだろ。これがアンパンマンのOPだったら帰国子女ばりの発音で『d??z』と即座に答えてるよ。でも銀魂だぞ?ドS一杯出て来るじゃん。仕方ないだろ!」「そう言う問題?」「そう言う問題なんだよ!アンパンマンは自分の頭かじられて喜んでるんだからドMに決まってるだろが!」変なベルトを付けた海水パンツでプールを見つめていた俺も、確信に対する根拠を提示出来る大人になっていた。人は成長するものである。一つ一つの事柄を処理し学び大人になって行くものである。だから今は、フロントガラスに飛び散ったコーヒーと咽返るほどの匂いをどう処理するか、それで頭が一杯だった。
February 25, 2011
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仕事中、ふとロッテンマイヤーさんの事が頭に浮かんだ。なぜ今ロッテンマイヤーさん?ハイジ関係のイラストやグッツが目に入る範囲に有るわけでもないし、クララやペーターならともかくなぜロッテンマイヤーさん?平安の昔。夢に誰かが出てくると自分が相手に好意を持っているのでは無く、相手が自分に好意を持っているから夢に出てくる言うカッキテキなシステムがあったが。もしかしてロッテンマイヤーさんが俺の事を・・・いやいや、そんな筈は・・・だって歳の差が・・・ロッテンマイヤーさんって何歳だ?改めてググりロッテンマイヤーさんの画像を見ると意外に若い気がする。しかし、チネットはロッテンマイヤーさんをババア呼ばわりしてたぞ。ふと自分を振り返ってみると、年齢的に言えばクララと間違えを犯す可能性よりロッテンマイヤーさんと間違えを犯す可能性の方が遥かに大きいのでは・・・そんな、俺がリアルタイムでハイジを見ていた時はクララは憧れのおねえさんで、ロッテンマイヤーさんなんかまったくの対象外だった筈なのに・・・衝撃を受ける俺。例えるならクララとモンスリーが同じ声優だと気付いた時程の衝撃だ。そうかぁ 俺オッサンになっちゃたんだよな。事実クララより年上の娘がいるわけだし。しかもその娘はどう贔屓目に見てもクララよりガキっぽく見えるうちの娘は高校二年生だが、この前も娘が一人叔母さんの家に行く為に高速バス乗る時、チケットを買う為に売り場に行き「広島まで一枚」と言ってチケットを購入した後、その料金が小学生料金だったと気付き憤慨していた。俺だって水色のワンピースを着て髪にカチューシャなどした娘に「お父様。そこの白パン取っていただける?」と言ってもらいたいよ!いや、今は愚痴っていないで、もっと人生前向きに考える事にしよう。・・・ロッテンマイヤーさんってツンデレなんじゃね。考えて見ればロッテンマイヤーさんはハイジに厳しくはあったが、けっしてイジめたり嫌がらせをしたりはしなかった。悪い言い方をすれば、空気が読めず自分の我を押し通すハイジに対して最後まで諦めず粘り強く躾をしようとしていた。ハイジが拾ってきた子猫に飛び掛られて気絶した後でも、みんなが寝静まった夜中にミルクの乗ったトレーを屋根裏部屋のドアの隙間からそっと入れて「べ、別にあんたの為に持ってきた訳じゃないわよ。給食のミルクを全部飲むまで運動場に行っちゃいけないって先生に言われるから証拠隠滅にここに隠す為だからね!」と赤くなる頬を隠すためメガネの縁を指で押上げていた。いや、別に見たわけじゃないが人生前向きに考えるとそういう事になる。さらに人生前向きに考える。ロッテンマイヤーさんが俺の家に来たとしよう。家いる9割がコタツに入ってパソコンをつついている俺の前に立ちロッテンマイヤーさんは腰に手を当て言うだろう。「アイスのフタは開けた途端に捨て、食べ終わったら速やかにカップの中を洗い、ゴミ箱に捨てに行くものかと。夏でも、冬でも」ムッ!?最近どこぞのコメントで見たような気がするセリフだが、きっと気のせいだろう。そしてロッテンマイヤーさんはそそくさとコタツの上にあるアイスのカップを片付けながら「もう!あたしがいないと何も出来ないんだから」と言いながら集めたゴミを捨てる為に部屋を出て、そっとドアの隙間からミルクの入ったトレーを部屋の中に差し入れた。どんだけ給食の残りのミルク貯めてんだよロッテンマイヤーさん!俺の中のロッテンマイヤーさん像が変わって行くやっぱあれか?子供の頃食えなかった椎茸が今では好きになったって奴と一緒か?やはり歳は取る物である。未熟な視界では見えなかった事象が新しい視点で見えてくる。大人になる事って素晴らしい。と娘に淡々と語ると「少なくてもいい歳してロッテンマイヤーさんに思いを馳せる大人には成りたくない」とヨーゼフをケダモノ呼ばわりするロッテンマイヤーさんのように言われたが、未だにドアの隙間からミルクの乗ったトレーが差し出されていない。
February 20, 2011
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「ふ~~~ 焦ったぜ。息が止まるかと思ったぞ」「坂口さん。ヨシオ君(仮)の息の方はもう止まりかけてますよ」あ、忘れてた。「ヨシオ(仮)!しっかりしろヨシオ(仮)!」俺がヨシオ(仮)に活をいれているとオキデンがイカちゃんに事情を聞くとイカちゃんはチラチラ俺を見て「今日坂口さんに言われて・・・」え?なぜ俺の話?「あたし悔しくて・・・それでちゃんと練習に出ようと思って和也に当分会うのは練習が休みの時だけにしようって話したんです」和也?誰?ああヨシオ(仮)の事か。「それでヨシオ(仮)に殴られたのか?」「ウウッ」ヨシオ(仮)の肩を握る手に力が入る。「和也です。彼いつもは優しいんです。でも今日はあたしを待ってる間にお酒飲んじゃったみたいで」「でもそれだけで殴るなんてヨシオ(仮)君ひどいんじゃない?」「あたしも悪いんです。ムシャクシャしてて今日言われたのも和也のせいみたいに言いっちゃたし・・・あ、和也ですから」イカちゃんは俯き消え入りそうな声でつぶやく「もう一度和也と話をしてみます・・・あたし今日坂口さんに言われて悔しくて見返してやりたいだけだったんですけど・・・坂口さんもあたし達の為に一所懸命なのかなって思って。見返してやるとかじゃなくて、なんて言うか自己満足じゃなくて終わってからみんなで喜べるようにあたしも一生懸命しようって。そう言えばきっと和也も分かって貰えると思うんです」イカちゃんは富山の田舎の出身でそれにコンプレックスを持っている。だからそれを押し隠す為にいつも派手な自分を演じていた。でも今は淡々となまり隠さずに内側の自分で語りかけて来た「女のわがままを全部受け止めてたんじゃ身が持たねえが、一生懸命な思いぐらいは少々辛い思いをしてでも受け止めやらなきゃな。それが男の甲斐性ってもんだ。大丈夫。きっと分かってくれるさ。な、ヨシオ(仮)」俺はさっき気がついてイカちゃんの話を聞きながらポロポロ泣いているヨシオ(仮)の肩を叩く。「リカ・・・」ちなみにイカちゃんの本名はリカだ。それが変化してイカになった。「ヨシオ(仮)・・・じゃない、和也。何泣いてんのよ」「リカ、ゴメン。俺・・・」「ちょっと、泣く事ないじゃん」「リカ~!」「ヨシオ(仮)~!」・・・はあ、もうヨシオ(仮)でいいわけね。「あーあ。なんか馬鹿らしくなっちゃったよ。帰ろ帰ろ」肩を抱き合い泣いている二人を背に改札に向かおうとするととりちゃんが立っている「あの・・・坂口さん」「何?まさかあのバカカップル置き去りにする事に罪悪感もたなきゃならない訳?」冗談めかして言うと「いえ、あの・・・冷たいなんて言って・・・その・・・」「なんだ?せっかくクールなハードボイルドガイって褒めてくれてたのに取り消すのか?俺の評価ってドンドン落ちていくのな」「そんな・・・」「ま、いいや。明日からまた頑張ろうぜぇ」ポンと肩を叩きとりちゃんの横を通り過ぎる。「あの、坂口さん」俺に背にトリちゃんが声を掛ける「ん?」「もし私が彼氏に殴られたら・・・さっきのように怒ってくれるんですか?」「とりちゃん・・・」顔だけでなく身体ごととりちゃんに振り向き「そう言う質問は彼氏が作ってからしような」そうニッコリ笑って言って改札口に向かった。なに。見なくても分かる。とりちゃんの顔が憤怒に染まり行く情景を。翌日。部室に行くと「お早うございます」珍しく早く来ていたイカちゃんが元気に出迎えてくれた。「お、おはよう」イカちゃんのテンションによっと引きながら椅子に座るとイカちゃんも俺の横にニコニコしながら座る。「え?なに?」「何って、何でもないですよ」何か居た堪れない雰囲気に身を縮こませて座っているとオキデンと彼女が入ってきた。「よ、よう!」助けを求めるように勢い良く立ち上がる。「よ、よう」「おはようございます。あれ?二人っきりですか}オキデン言う妙に俺に不安がらせる言い草は止めようじゃないか「はいまだ誰も来ていませんね。ずっと二人っきりでしたフフフ」彼女の顔がピクリと引きつるのが目に入る「ちょっとコーヒー買ってくる」慌ててその場を逃げ出そうとするヘタレな俺「あ、いいですあたし買ってきます。坂口さんは座ってて下さい・・・それとも一緒に行きます?」な、何だ?新手の嫌がらせか?やっぱりイカちゃん昨日のことネに持ってるのか?「おはようございます」そこにとりちゃんが入って来た「あれイカちゃん早いのね。どうしたの?イカちゃんは恋に生きるんじゃなかったの?」とりちゃんの軽いジャブにイカちゃんは動じもせず「あら?あたしはいつだって恋に生きる女よ」背中がゾゾゾと来た。「やっぱり自分で買ってくるよ。君ら着替えるんだろ」慌てて部室を出ようとするとオキデンが「あ、わたしもほしいな。紀美一緒に行って来て」これは・・・オキデンのフォローなのかそれとも逃げ場を封じ込められたのか?微妙な所だ俺は何も悪くない俺は何も悪くない俺は何も悪くない俺は何も悪くない呪文のように唱えながら部室を出ると「・・・さすがですね」え?何か褒められてるぞ。もしかして俺の取り越し苦労?でもそれにしては声が冷たい「冷たく突き放しておいて、弱った所でキュッと捕まえる・・・ハッ!本当に大したもんですね」「は?何を言ってるのかな?」「触らないでもらえます?そんな安い手に引っかかる女だと思われたくありませんから」そう言って歩き出す彼女「ああ、オキデンに今日は気分が悪いから帰るって伝えたもらえます?どういう意味の気分が悪いかは説明しなくても分かりますよね」「ちょ、ちょっと待てよ。 コーヒー買いに行くんじゃなにのかよ」彼女はピタリと立ち止まり「イカちゃんと二人で仲良く買いに行けば?」そう言うとスタスタと歩いて行った。なんだよ。これじゃあイカちゃんに嫌われたままの方が良かったのか?行くも地獄帰るも地獄。俺は修羅の道に入ったのだなと今やっと実感した。
January 23, 2011
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咥えようとしたタバコをポケットにしまい改札に向かおうとしたら「ヒィッ!」由美ちゃんの息を飲む声が聞こえた。何だ?振り向くとイカちゃんが殴られていた。イカちゃんが何かヒステリック叫けび、それに反応した彼氏がもう一度腕を振りかぶり・・・ながら「くの字」になり、横にすっ飛んで行った。まったく不思議な奴だ。ただ、もっと不思議な事は彼氏の脇腹に俺の靴跡がクッキリ残っている事だ。「悪ぃ悪ぃ、素手で触るの嫌でつい足で出ちゃったわ。悪いな服汚して」周りに怒気を発散させながらフレンドリーな言葉をかけると「な、何すんだよ」一応反抗する気があるみたいだ。女殴るような男の癖しやがって生意気な。怒りがムクムクと湧き上がってくる「だから服汚しちゃってゴメンネって謝ってんだろうが!」到底謝ってる態度じゃない態度で彼氏に近づこうとすると彼氏は後ずさりながら「何だよ。あんた誰なんだよ!」もっともな質問だがこんな奴に答える義理はない。「ただの出しゃばりに決まってんだろ。でもそんな事はどうでもいい」冷たく言い放ち一歩一歩近づいていく「お前こそ何したんだ?イカちゃんに何したんだって聞いてんだよ!」彼氏は俺から目を反らし「じゃあほっといてくれよ。あんたには関係ないだろ!」関係ない?ったくどいつもこいつも「だから何だ?そんなもん有ろうが無かろうがイカちゃんが目の前で殴られて黙ってられるか!」彼氏の目の前に行くと酒臭い「お前酔ってるのか?」街頭の明かりで良く見えなかったが顔が赤い「ちょっと来い」俺は彼氏の髪を掴みズルズルひこずって行く「イ、イテテテ。何するんだよ」抗議をよそに噴水の前まで連れていき持っている手ごと噴水に頭を突っ込んでやる。「どうだ?少しは酔いが覚めたか?あ?醒めたかって聞いてんだよ!」「さ、坂口さん。返事できませんって。というか死んじゃいます」今まで事の成り行きに付いてこれずフリーズしていたとりちゃん達が慌てて止に入ると「どうしたんだね?」ゲッ、警察・・・まあここは駅前だからいても不思議はない。「なんでも無いっすよ。こいつが酔っ払って噴水の水を飲もうとしてるのを止めていた所っす。な、ヨシオ(仮)」と言いながら彼氏の首に回した腕で頚動脈を締めるちなみに柔道の絞め技は気道を押さえるのでは無く、このように頚動脈を締める。俺も練習中に何度か綺麗に絞め技が入った事があるが、こうするとあら不思議、しゃべる事さえ出来なくなる。もっともあまりやり過ぎると意識まで無くなるが。警察官は不審げに「本当かね?」と女の子に聞くと、青ざめた顔でギコチナク首を縦に振ふっていただけのとりちゃん達をよそに一人オキデンが何の動揺もなく「本当ですよ。ヨシオ君(仮)ったら合コン初めてみたいで舞い上がって飲み過ぎたみたいです。もし罪があるとしたら、それはヨシオ君(仮)をこうさせた私のお色気ですね。ウッフン」オキデン!なんだそのウッフンは。端正込めて作った精進料理にケチャップぶっ掛けるようなマネすんじゃねー。それでも俺の心配をよそに警官は不審げにしながらも俺たちから離れて行った。 つづく
January 23, 2011
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大丈夫さ。俺は小さくうなずくと、彼女は小さく、それでも精一杯の笑顔を俺に見せて去っていった彼女の姿が見えなくなるのを待ちオキデンに声を掛ける「オキデン。ちょっといいか?」「はい?なんでしょ」わざわざ残っていながら「なんでしょ?」もないだろう。「どう言うつもりだ?」「どう言うつもりって、どういうことでしょう?」可愛らしく惚けるオキデンに「たしかに台本は書いたが、俺はただの客演のはずだ。憎まれ役をやれってんならやる。もうすでになってるしな。でも、演出はオキデンのはずだよな」オキデンは驚いた顔で「えー ぜんぶ投げちゃだめですか?」は?「わたし演出なんてできませんよ?」はい?「お客さんの立場でここは変とかは分かるんですけど、じゃあどうすればいいか何て言われたら、どうしましょ、としか言えませんよ」お、おい、オキデン「今まで涼子がやってくれてたから私何も知らないんですよ」涼子というのはオキデンと同期だった人だ。「でも涼子がいなくなって、三年は私だけだったからなし崩し的に演出になって、まあどうしましょですよ」可笑しそうに笑ってる場合か?「そこにのこのこ現れたの坂口さんでして」なんか日本語の使い方間違えてるぞ。TPO的な意味で「え?あ、え~と さっそうと現れたのが坂口さんです。それで、これはもう利用するしかないと」あのね「あれ?また言い方まちがえました?」・・・いや、いい。とにかくいいように使ってやろうと思ったわけだ「ええ。もう。骨の髄までしゃぶってやろうと思いました・・・ダメですか?」屈託の無い笑顔で肯定されると逆に爽快感すた沸き上がってくる。これはもう笑うしか無い。「わかった。なんの遠慮もなく俺は俺の出来る事をやればいいんだな」「はい。お願いします。後のフォローは私がしますから」フォローねえ。さっきはどっちかと言うと追い込んでいたような気がするけどな。「まあ頼むよ。好かれる事は諦めたけど、これ以上嫌われて俺の発言すら聞いてくれなくなったらお互い困るだろ」自嘲気味に言うとオキデンは意外な顔をして「坂口さん。意外に女心って分かってないですよね」ん?どう言う意味だ?「まあいいです。部室に戻りましょう」謎めいた笑みを浮かべるオキデンと部室に戻ると彼女が待っていてくれた。「坂口さん今日は電車でしょ。駅まで送ります」そう言って普通を装う彼女が痛々しい。俺としてはオキデンと話して気持ちが定まっているが、そんな事を言っても強がってると思われるだけなので車の中で窓の外の景色を眺めていた。駅に着き彼女と別れオキデンと構内に入ろうとするととりちゃんと由美ちゃんがいた。とりちゃんは車で二人を送りに来たはずなのになぜここに?オキデンが二人に声を掛けた「どうしたの?」「あ、オキデン先輩」俺達を見てちょっとバツが悪そうな顔をして少し離れた噴水がある方角を見る。そこにはイカちゃんと同じ年頃の男がいた。たぶんあれがイカちゃんの彼氏なんだろう。「なんだ、のぞき見か」「そんなんじゃありません!・・・気になるからちょっと見ていただけです」「とりちゃん。それをのぞき見って言うのよ」オキデンのツッコミに「でもケンカしてるみたいだから・・・」少し距離があるので話までは分からないが確かに二人で言い合いしているようだ。しかし、付き合うって事はその二人の距離が縮まる事で、距離がちじまればお互いに甘えが生じてつまらない事でケンカになる事もままある事だ。こう言うのは見る方も見られる方も後で気まずくなるので程々にしなけりゃな。「まあいいんじゃない。ほっとけば」そう言ってタバコを取り出し咥えようとすると「そうですね。坂口さんには関係ないですもんね」思わずタバコを口に運ぶ手が止まる。「電車来ますよ。関係ないならお気になさらず」「・・・だな」咥えようとしたタバコをポケットにしまい改札に向かおうとしたら「ヒィッ!」由美ちゃんの息を飲む声が聞こえた。何だ?振り向くとイカちゃんが殴られていた。 つづく
January 23, 2011
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「ねえ?坂口さん」イカちゃんの不満が一瞬で俺に向いた。「えー?あたしちゃんと考えてやってます。どこがいけないんですか」オキデンめ、やってくれるだが、流れがそうなるならその流れに素直に乗るのが俺のいい所だ。「セリフを言う度に変な予備動作を入れるから会話にテンポが出ない。台本を理解していないからメリハリがない。周りが見えていないから一人セリフが上っ滑りする」用意していたかのようにダメ出しを挙げ連ねていく。「まだあるけど?聞きたいならメモの用意をした方がいいぞ」それでもイカちゃんは食い下がる「あたし、ちゃんとやってるつもりですけど」カチンと来た。「へえ・・・つもりねえ。つもりでいいなら俺は世界一の男前で誰からも愛されている人格者だぞ。まあ誰もそれを認めてくれないけど、そんな事は些細な問題だよな」「なるほど!つもりにならないようにもっと練習しなくちゃダメだってことですね!」オキデン・・・何だそのとって付けたような棒読みは?まずオキデンから演技指導してやろうか。「ま、まあな」裏返りそうになる声を立て直し「とにかく今のままじゃあダメだ。何の為に三ヶ月掛けるんだ?恋に生きる?それも結構。でもそれはやる事をやった後にしてくれ」なんとかオキデンの意向に沿うように話を修正したが「そんなの坂口さんには関係ないじゃないですか」・・・関係?俺の中を流れる血が急激に温度を下げていく。「そうだよ・・・俺はただの客演で、正直君がどこで誰と何をしようが関係ないし関心もない。俺の関心と言えば三ヶ月後・・・短い人生の中の一時間程の時間を使って見に来てくれる人に、人生を無駄に使ったって思わせないようにする事だけだ」まばたきもせず波一つない夜の湖面のような眼差しでイカちゃんを見つめる「どうぞ恋にでも何でも勝手に生きてくれ。ただし、こっちの邪魔はなしな?一緒に一つの物を作るなら最低限の事はしてくれと言ってるんだ」「わ、わかってますよ。あたしちゃんと演技するつもりです」「演技?」わざと眉をよせ大げさに驚いて見せた後、イカちゃんを見つめ静かに言い放つ「あんなのは演技じゃない・・・ただ機嫌よくしゃべってるだけだ」我ながら冷たい視線を受け、次第にイカちゃんの表情が泣き顔になって行く。固まってしまっている思考や意識を動かすには、その物自体を粉々に砕いてしまわなければ先に進めない。その為にはこんな事もしなくてはならないが弊害もある。一つは結局何も変わらずに俺が嫌われ者になるだけかもしれない事と、もう一つは変わったとしても俺が嫌われ者になる事に変わりは無い事だ。あーあ、女子大まで来て何やってんだろ俺。女子大だぞ?もっとキャハハとかウフフとかあるだろうにこれからの三ヶ月。今決定したであろう俺の立ち位置にウンザリしていると「あらもうこんな時間。今日はこのへんにしときましょう」何事も無かったようにオキデンが稽古の終を告げた。みな無言のまま少しの間動けなかったがイカちゃんが足早に部屋を出て行くととりちゃんが追いかけるそして俺の横を通り過ぎる時、一瞬立ち止まり俺の顔を見もせず「冷たいんですね」とつぶやき立ち去る。こんな時は薄笑いを浮かべながらつっ立っているしかない。ふと見ると彼女が心配そうに俺を見ていた。大丈夫さ。俺は小さくうなずくと、彼女は小さく、それでも精一杯の笑顔を俺に見せて去っていった つづく
January 23, 2011
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俺が行っていたK大の演劇部はかなり待遇が良く、大学のクラブセンターの中に結構拾いホールを練習場所として確保していた。一回の公演に付いてもかなりの予算が下りていたらしいが、予算の事は同期で会計の順子姐さんにまかせ、俺は全く予算の事なんか気にせず好き放題していたから詳しくは知らない。ところがT女子大の演劇部はお嬢様学校と言え待遇は良くない。練習場所も講義室の一角をかりるので、まず机を移動してスペースを作る所から始まる。ガタガガタ講義室内に机を移動する音が響く。「な~んか中学の時の掃除時間を思い出すよな」机を運びながら昔を懐かしんでいると「机運び一つで何シミジミしてるんですか。と言うかちゃんと掃除してたんですか?」と隣で机を運んでいたオキデンが話しかけてきた。「失礼な。ちゃんとやりましたよ。キチンと雑巾を丸めてだな、それを箒のバットで打ったりなんかしてたぞ」「なにか会話が噛み合ってない気がするんですけど」とオキデンは言うが俺は更にシミジミ思いにふける「「男子ぃー ちゃんと掃除しなさいよー」なんて女子に言われちゃうんだよな。それが当時好きだった岩井のよしこちゃんだったら余計にテンション上がちゃってさ。何なんだろねアレ」「そんな変なテンションについては分かりませんが、掃除をしてない事は十分伝わりました」相変わらずニコニコしながらダメ出しをするオキデンに「バカだなオキデン。スポーツってのは参加する事に意義があるんだぜ?なあとりちゃん」ここはとりあえずツッコんで欲しい所なので確実性でとりちゃんに話を振ると「そうですね。その場に参加してるだけいいですよ」期待と相反する返事に、もう相手にさえされなくなったか?と思ったがそうではないようだ。「サボるよりはマシですから・・・ねえイカちゃん」サボり癖のあるイカちゃんを非難してるのだが、そう言われたイカちゃんは慌てもせずに「え~まだ言ってるの?今日はちゃんと来たんだからいいじゃん」「今日は来たって・・・あんた今週何回来たの?」「だから。彼氏がかまってくれってうるさいんだから仕方ないでしょ」「あんたねえ!」うん。実に女の園ならではの情景である。俺って今確実に女子大にいるんだなぁと言う感慨にも似た物が湧き上がってくるが、俺の発言が元になっているのでワクワクしながら見物しているのも無責任なような気がする。ここは男の身でありながら女の園に足を踏み入れる事を許された俺の出番なのだろう。俺は言い争いを続けている二人に声を掛ける「あー 二人ともさあ落ち着いて・・・」「だからあんたヤル気あるの?」「ヤルる気?あるわよ。ただとりちゃんと違って彼氏もあるけどね。」「あ、あの・・・」「そんな事きいてんじゃわいわよ!」「だから、クラブもやるけど、それだけじゃ生きられないの。あたしは恋に生きる女なのよ」小気味よく無視される俺。情けない顔でオキデンを見ると、オキデンは相変わらずのニコニコ顔で「パンパン」と手を叩く。一瞬で二人の視線がオキデンに向いた。俺の威厳はオキデンのclap of handsより評価が低いらしい。そんな俺のシェラシーをよそにオキデンは「はいはい。時間がないんだからさっさと机移動しましょう」「でもイカちゃんが・・・」「じゃあ手っ取り早く殴り合いで話をつける?」サラリと香ばしい事を言うオキデン「そ、そんな・・・」「じゃあ机移動して練習しよっか」強く押すのではなく何か知らないうちにベクトルが変えられていた。「あ、イカちゃん」机を運びながらオキデンがイカちゃんに話かける「部活に参加しないって事は、練習しなくっても出来るって自信があるからよね?」「え?も、もちろんですよ」「そう、じゃあ大丈夫ね」しかもいかちゃんに釘まで刺している。これが始終笑顔で行われた事にオキデンの恐ろしさがある。しかし、練習が始まって見ると、言葉とは裏腹にイカちゃんは酷かった。滑舌が悪いとかそんな問題じゃなく、台本を全く理解していない。イカちゃんは出戻りの姉役で彼女を中心に話が進んで行く。彼女の言動が笑いの縦糸になり、やがてそれが共感にならなければならない。それなのに意味も理解せずにただセリフを言うだけなのでテンポや間を一人で崩している。しかしながら俺はそれを言う立場にない。例え俺が書いた物であろうとそれを解釈し方向を導くのは演出であるオキデンで、客演である俺はできる限りオキデンの示す方向性に向いて行かなければならない。そう割り切っているつもりだが、それでも湧き上がってくる疲労感を感じていると、椅子に座って見ていたオキデンが「うーん ・・・坂口さんどう思います?」急に話を振られ、みんなの視線が俺に集まる。「どう思うって・・・足を組むならもう少しスカート短くした方がいいんじゃない?いや、もうチョイで見えそうとかじゃなくて、座りにくそう的な意味で」オキデンの横に座っている彼女の視線がわき腹に食い込むが、俺は無駄口を叩いている間にどこまで言えばいいのか考える。意見を言うのは構わないがあまり出しゃばらないようにしなければならない。などと考えていたら、オキデンはスカートの裾を気にしもせずに「お気遣いありがとうございます。でも聞いているのはスカートの事じゃなくてお芝居について聞いてるんですけど」「ああ、そっちね」トボけながら考えた末、この際問題点だけ挙げておこうと言う結論に達した。「テンポが悪い上にセリフが持つ意味合いを理解してないから一本調子になっている。幕が上がって始めの10分がこれじゃ、後の時間は客にとって壮大な我慢大会だ」俺としてはなるべくオブラートに包んだつもりの言葉に役者陣の顔色がかわる。まあ、この程度の刺激は必要だろう。後はオキデンにまかそうとしていたら。「ではどうすればいいんですか?出来ればもっと具体的にお願いします」「・・・言っていいの?」「どうぞ」俺の無機質な視線を笑顔でスルリと受け流し答えるオキデンオキデンがそういうのなら遠慮はいらない。俺は役者陣に向かい無表情な顔で尋ねる「君らさあ・・・台本読んでる?」「え?読んでますけど・・・」今さらな質問に戸惑う彼女らに改めて聞き直す「言い方を変えよう。セリフを覚える為じゃ無く、理解する為に読んでる?」基本的に俺は客に期待しない事にしている。有名な劇団ならいらしらず、わざわざ自分からチケットを買う客はあまりいない。普通は友達が出ているから、頼まれたからなど義理で来ている客がほとんどで、初めから笑おうと思っている客などいないどころか、他の大学の演劇関係者などはアラを探しに来ている。舞台の怖い所は、一度笑えない空気が出来てしまうと小屋全体にそれが広がり好意的に見てくれる人さえ笑えなくなる所だ。ならどうするか?方法はいろいろあるが、今回俺が意図した物は強引に面白い事をするのではなく、会話の中に摩り替えや落差を作り、少しずつ客の意識を舞台に引き込む事だ。はじめは「クスリ」や「ニヤリ」で十分。それが次第に大きな流れに繋がっていく。「で、「クスリ」や「ニヤリ」を狙ってるのはどの部分なんだ?」三人ともお互いの顔を見合わせた後、とりちゃんが「まだ練習はじめたばかりですから・・・これから分かってくると思います」「シュリーマンはさあ」とりちゃんの言葉にかぶせるように言った後、一瞬三人を見渡し言葉を続ける。「時間をかけてそこらじゅう掘り返したからトロイの遺跡を発掘できた訳じゃないぞ。ここだと考えた場所を時間をかけて掘り返したから発掘できたんだ」”これぞ間”って奴だ。皆の意識が俺に集まったことを確認して話を結ぶ「何の為にそのセリフがあるのか。そのセリフはどこにつながるのか考えてみてくれ」いつもは挑戦的な目を俺を見るとりちゃんですら真剣な眼差しで俺をみているが、一人イカちゃんだけが素知らぬ顔で髪をいじっている。一番聞いてほしい人がこれだ・・・もう少し言うべきか悩んだが、後はオキデンに任せようとしたら「ねえ、イカちゃん聞いてる?イカちゃんにいってるのよ」イカちゃんはオキデンに名指しされ不満げにしている。「ねえ?坂口さん」イカちゃんの不満が一瞬で俺に向いた。 つづく
January 22, 2011
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「今日同窓会だから娘と晩ごはん食べにいったら?」と嫁が俺に5千円置いて行った。基本俺は必要以上にお金を持たない。「だってカードがあるから」なんてセレブな理由ではなく、持っていれば使ってしまうからだ。仕事が終わり家に帰る道すがら高校生じゃあるまいし意味なくファミマに入り、帰れば飯があるのにファミチキを買ってしまう。その俺に五千円。四捨五入すれば50に手が届くオッサンの癖にスキ屋に行くと、色々なトッピングを乗せたメニューやメガ盛には目もくれず、牛丼とカレーを頼み、「これが一番得で腹いっぱいになるんだよな」と勝った気になっている俺に五千円。「よーし。お父さん今日は奮発しちゃうぞ!」気が大きくならない筈がない。「何が食べたい?」と娘に聞くと小首をかしげならが「・・・すき家?」「・・・すき家?・・・ぬはははははははははははははは。小さいィィィィィィィィ!小さいぞ!娘よ!こういう時に人間の器の小ささが浮き彫りになるという物だ」財布の中の五千円札が病気の少年の為にホームランを打つと約束した大リーガー並に俺に勇気を与えてくる俺は娘の小ささ鼻で笑い、車を走らせ目ぼしい店を目指し駐車場に乗り付けた。気分はさながら黒色のリムジンで店に横付けする大富豪だが、、結局入った店は餃子の王将という所で俺の人間の器が計り知れる。店に入りメニューを見ると新メニューとして「超餃子定食」と言う物があった。中華料理の三大要素はラーメン、餃子、チャーハンである。いや、三原則と言ってもいい。青椒肉絲?回鍋肉?そんな物はメニューが寂しいので一応入れておきました的なサイドメニューであり、人生の王道を突き進む決意をしている俺にはレベル99で手に入れた「革の服」程の価値しかないが、まあ、チャーハンの補欠としてカニ玉、餃子の身代わりとしてのシュウマイぐらいは視野に入れても良いぐらいの器量の広さは持ち合わせている。その三原則であるラーメン、餃子、チャーハンが一つのセットになって990円。何を迷う事がある?忘年会に着て行く服を選んでいる嫁の「この服どう?」と言う問い掛けに対して「いいんじゃない」と嫁がどんな服を着ているか見る前に答えるぐらいの速さでオーダーを決め店員を呼び運ばれて来た料理に舌鼓を打ったが、まさかこの後、途方も無い修羅場が待ち構えている事をを知る由もない俺だった。食事を済ませた俺は娘を車に乗せバイパスに向かう。少し遠回りになるが混雑した街並みを回避できるからだ。日は沈み、辺りは闇に包まれて車のライトと街頭が人気の無いアスファルトを照らす。走っていなければ後ろから迫る闇が車を飲み込んでしまいそうな雰囲気の中それは唐突に訪れた。「・・・キタ」額にうっすら浮かんで来る冷たい汗を感じながら俺は呟いた。「え?何が?」俺の緊張を察したのか娘も不安そうに聞き返す。「・・・キタ・・・あれが・・・キタ・・・」「・・・まさか・・・あれが?・・・」闇の中から音もなく忍び寄る獣のように・・・腹痛が俺を襲う。「父さんって・・・何で美味しい物食べた後に必ずお腹いたくなるかな?」何故かわからないが、俺はご馳走なる物を食うと腹を下す。嫁が珍しく手間暇をかけて夕食の用意をした時などテキメンで、その度に「もうあんたには手の込んだ物は食べさせないからね!」と小言を言われる。それが家の中なら「俺が悪いんじゃ無い。育ちが悪いんだ!」と捨て台詞を残しトイレに駆け込む事もできるが今はそんな場合じゃない。即座に俺の頭の中のナビゲーションが家までの距離とその途中のトイレの場所を検索する。家までの距離は約8キロ・・・それまではとてもじゃないが持たない。その途中で店らしき物は・・・約6キロ先までコンビニどころか店らしき物もない。イケルか?・・・いやイクしか無い!車と言う密室の中、思春期を迎えた娘の横でソソウでもしでかしたら・・・それだけは何としても回避しなければならない。しかし引いては寄せてくる大海原の波に翻弄される俺の下腹部は、さながら砂浜に作られた砂の城のように少しずつ瓦解していく「クウッ・・・今度の波はデカイぞ・・・・ヤ、ヤバイ・・・」「ガ、ガンバレ父さん!そうだ、何か他の事を考えて気を紛らわせるのよ!」そうか!何か違う事を考えなくては・・・やはりこういう時は爽やかな青空を思い描こう。澄み渡る青い空、そびえ立つ入道雲、そうなれば水着を着たダイナマイトバディなご婦人が俺の側で佇んでいてほしい所だ。潮風かおる海風が俺の頬をくすぐり、乾いた彼女の小麦色の肌を寄せては返す波がザブ・・・・・・ら、らめぇ~~~~~ 寄せては返しちゃ、らめぇ~~~~~!!!ハアハア・・・危うく流される所だった。何とか体制を整え直せばと思ったら「と、父さん!あれ!」娘の指指す先に一筋の光明・・・コンビニの看板が映しだされていた。単独ニューヨークから飛び立ち、幾多の難関を乗り越えてパリの灯を目にしたリンドバーグの思いを今なら誰よりも共感出来そうな気がしたが「父さん やったね!」フッ・・・娘の喜ぶ声に俺は覚めた笑いを浮かべる。亀の甲より歳の功とはよく言ってもので、世の中には齢を経る事でしか辿りつけない叡智という物があり人はそれを経験と呼ぶ。その経験から言わせてもらおう「遠足は帰って来るまでが遠足」だ。もし俺がここで安心して緩めたとする。あ、いや、緩めると言うのは気持ちの事である。そしてコンビニに入りイソイソとトイレのドアに手を掛けた時、もしも誰かが先に入っていたら・・・一度緩んだ物は元には戻ら無い。あくまで気持ちの話である。俺の経験則から言えば、こんな場合誰かが先に入っている確率は60%。しかもこの確率は切羽詰る程上がって行く。コンビニに着き車を駐車場に止めて急いで店内に入るが、努めて何気ない風を装う。少々足が内股になっているが、何かを堪えていると店員に悟られ無い為に手首を反らしワザと小指を立てて其の方面の方だと思わせる工夫も忘れない辺りが俺の大人度を表している。トイレに近づきドアノブの上の表示を確認・・・赤色・・・ニヤリ な?行った通りだろ?・・・って勝ち誇ってる場合では無い。後ろ足でトイレの横の雑誌コーナーの前に行き雑誌を手に取り、ウツロな目でページをめくるものの意識はトイレのドアに集中したままだ。仕方ない待つかと思っていると・・・キタ! 最大の波が押し寄せてキタ!ど、どうする?このまま・・・・・・・・・待ってられるかーーーーっ!!!急いで出口に向かいドアの外に出ると娘が「何?どこいくの?」「どこって決まってる。向こうのコンビニだ」ここやら2キロ先にもう一軒コンビニがある「すぐに空くから待ってた方がいいって!」「すぐ空くってなぜ言い切れる?お前は予知能力者か」大人気無い事この上ないが、切羽詰った奴にそんな物を求める方が間違いだ。「誰もコンビニのトイレに10分も入ってないでしょ」甘いな。「ここに中学二年生の少年、仮に義信君がいるとしよう」「は?」「義信君が今日コンビニに来た理由は今上映中の映画の予約チケットを受け取る為だ。義信君には好きな娘がいて、告白する切っ掛けとしてこのチケットを渡そうと思っている。チケットを受け取り出口に向かおうとすると出口のドアが開き優香ちゃんが入ってきた」「・・・はあ、優香ちゃんっていうんだ」「チャンスか?一瞬トキメイた義信君の瞳に陰りが宿る。コンビニのドアをくぐる優香ちゃんの横に義信の親友の智昭がいた・・・「え?何?」義信君は心の中でつぶやく」「あたしがつぶやきたいよ」義信君の存在に気付き足取りが止まる二人。気まずくなりそうな雰囲気に義信君は努めて冷静を装い二人に話しかけるんだ「あれ?どうしたの二人して」「あ、いや・・・お前こそ何してんだよ」そこで義信君が持っていたチケットを見た優香ちゃんが義信に話しかける「あ、義信くんもその映画見に行くの?面白かったよ」ふと見ると優香ちゃんの手にはその映画のパンフレットが握られていた。「あのさ、お前だから言うんだけどさ、俺たち付き合ってるんだよ」「え?そ、そうなんだ?何だ言ってくれればいいのに。まあお前らお似合いだからなハハハハ」作り笑いが虚しくコンビニに響く「今日もその映画観に行ってたんだ。みんなには内緒だぜ」「分かってるって」・・・言える訳ないだろ・・・コンビニを出て行く二人を見つめながらチケットを握りしめる義信くん・・・「そんな義信くんがトイレに入ってサメザメ泣いてたら10分や20分で出てこれる筈無いだろうが!」「・・・こんな状況で、よくもそこまで込み入った取り越し苦労が出来るよね・・・」「あ゛~~~~!とにかく!こんな所で待ってられん!」「ちょっと待ちなさいって」必死の形相で車に戻ろうとする俺の手を掴む娘「離してくれ!男はいつだって前のめりで生きて行きたいんだよ!」もう言葉の意味を介しているかも怪しくなる俺。その時、俺の腕を引っ張っていた娘の力が緩んだ。娘を見ると店内を凝視している。慌てて娘の視線の方向を見ると、トイレのドアがゆっくりと開かれようとしていた。ドアの隙間から漏れてくる光はさながらAngel's Ladderの如く神々しく、俺のすさみ切った心の中まで優しく照らすようだった。「おお、カミよ・・・」「いや、紙の心配より、先にトイレに入らないと」・・・ロマンの最大の敵は女である。かくしてカミの試練を乗り越えた俺は家に帰り娘と二人でグッタリしていると、同窓会から嫁が帰ってきて言った。「おいしかった~ 5千円のコースなんだけど今度みんなで食べにいこうね」顔を見合わせる俺と娘「「行かねーよ!」」990円の定食でこの有様である。もし5千円の飯なんか食ったら俺の腹はビッグバンでも起こしかねない。
January 7, 2011
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慣れと言う奴は恐ろしい物で、この前まで女子大に足を踏み入れる資格を持つ自分に異様なまでの自尊心を感じていたのに、一週間も経たない内に「だから?」とさえ考えないぐらいの日常に変わってしまっている。それが本来俺の持つストイックな性格ゆえか、お魚がイッパイいると言われてmy醤油持って行ったら水族館でした的な勘違いに気付いたゆえかは分からないが、とにかく淡々と校門をくぐり部室に向う。「おはよう」ドアを開き部室に入るととりちゃんが一人机に向かいレポートを書いている。「おはようございます」レポートに落とした視線を外しもせずに硬い声で言葉だけの挨拶をするとりちゃん。ああ、俺って嫌われてるんだな・・・と気落ちするどころか、わざととりちゃんの横に座り馴れ馴れしく話し掛ける。やはり慣れって奴は恐ろしい。「とりちゃんさあ、いつも遅れずに部室に来てるけど、ちゃんと講義受けてる?」・・・無視・・・いや、お前が言うな的な空気だけは発している所がカラカイ甲斐があると言う物だ。「しかし毎日毎日部活ってのも大変だよね。・・・とりちゃん彼氏いないの?」今まで淀み無く流れていたボールペンの動きが一瞬ピタリと止まり、すぐに何も無かったかの様に動き出す。「坂口さんにお答えしなきゃならない理由はありません」ククク・・・なんて素直な奴だ。さっきみたいに無視すりゃいいものを。俺はすかさず、「あ、悪い事聞いちゃったかな?ごめん、そんなつもりは無かったんだ」と、さも同情した様子で言うと、「は?別に悪い事なんて聞かれていませんけど?」キツイ視線で俺を睨む。「いや、いいんだ。誰にだって聞かれたく無い事はあるからな」「ですから!別に聞かれて困る事じゃあないです!」「じゃあ彼氏いるの?」キツイ表情のままフリーズするとりちゃん。「聞かれて困る事じゃないんだろ?」してやったり顔で聞き直す俺を奥歯をギリギリ噛みしめたまま睨んでいるとりちゃんに。「あ?やっぱりいないんだ?」「いないんじゃありあせん。今必要ないだけです」「え?あ、そう。・・・そうだよね。そりゃあ仕方ないよね」努めて冷静を装うとりちゃんを可哀想な子を見る目で見ながら言うと「本当です!彼氏なんて作っても面倒臭いだけですから。それにクラブなんかしてたら彼氏なんて作ってる暇なんてないです!」いつにも無くムキになっているとりちゃんに内心ニヤニヤしていたら「おはよう」二回生のイカちゃんが入ってきた。とりちゃんは何も無かったかの様に席に座ってレポートの続きを書き始め、「おはようじゃあないでしょ。あんた最近練習来てなかったじゃない」といつものクールさを取り戻してイカちゃんに苦言を呈している。せっかく盛り上がっていたのにちょっと残念に思っていると、いかちゃんがシレっと「だって彼が会いたいって駄々こねるんだもん。しかたないじゃん」ガキッとりちゃんの握るシャーペンの芯が折れた音だ。とりちゃんの肩をポンと叩き、同情めいた瞳で見ると、一瞬怒りの炎を目に宿したがすぐに冷ややかな目になり「ところで、そう言う坂口さんは彼女いるんですか?」「え?俺?」急なとりちゃんの反撃に動揺していると、とりちゃんはクスリと笑い「ゴメンなさい。悪い事きいちゃいましたか?」数分前同じ事をしていた俺がカチンと来た。「自分がされて嫌な事は人にするな」と学校で習ったが、正にその通りである。「な、何言ってんだ?いるに決まってんだろ」「へえ、そんな物好きな人がいるんですか?」「いるんだよ!そんな物好きな奴が!」と言い返し、ふと視線を上げるとオキデンと一緒に部室に入って来ていた彼女と目があった。どんな目だったかは言わなくても分かるだろう。「・・・あ、いや、物好な奴って言うのはその・・・言葉のアヤかな・・・ハハハ・・・」つい目を伏せてシドロモドロになっている俺をとりちゃんは見逃さない。「へえ、じゃあどんな人ですか」と挑発的に聞いてくる「それは・・・」恐る恐る彼女と見ると、「余計な事言ったらタダじゃ置かないわよ」的な表情で俺を見ている。挙動不審さが増す俺。「そ、それはだな・・・この世の物じゃ無いぐらい可愛くて鬼の様に優しくて、ヒールでドリフトなんかしちゃうような人だ」何言ってんだ?俺。彼女の視線が俺をおかしくさせる「ふ~ん。そうですか」案の定冷ややかな目付きでとりちゃんは俺を見る。「な、なんだ?疑ってるのか?」「疑ってるなんてそんな・・・いるんでしょうね・・・坂口さんの頭の中には・・・クスクス」「おい!人を脳内一人遊び上手みたいに言うな!」さらにヒートアップし出す所にパンパンオキデンが手をたたいて俺たちの注意を引き「はいはい。そろそろ時間だらかきがえましょ」と止めに入るので「でもとりちゃんがさあ・・・」と抗議すると「関係無い第三者としてはもうちょっと見ていたい気もしますが・・・」オキデンが彼女をチラリと見て小声で「後が怖いですよ?」な、なぜ?・・・ちゃんと可愛くて優しいって言ったじゃないか。「あの、着替えたいんですけど」「あ、ああ・・・」俺は部屋を出る為に入り口のドアに向かおうとして躊躇した。ドアの前には彼女が立っている。しかしそれを理由に部屋に留まる訳にも行かず足を進めると彼女がドアを開けてくれた。「あ、どうもすみません」ついオドオドと敬語になる俺。すると彼女は小さな声で「いえいえ、こちらこそ物好きなこの世の物とは思えない鬼ですみません」とニッコリ笑ってバタンとドアを閉められた。・・・あれ?俺そんな事言ったっけ?言わばいわれの無い怒りを受けた訳けだが、そんな理不尽な怒りに憤慨する前にまあ女性が文節を理解するより前に、耳に残ったインパクトのある単語に過分に反応する事を忘れていた自分を責めていた。まったく以って、慣れと言うのは恐ろしい物である。
November 9, 2010
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さあ!これからが俺のターン!
October 31, 2010
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「バッカじゃね!あんたらは何を基準に甘さと理不尽さの線引きをしてんだ?」俺の声が教室に響いた。嫁が慌てて俺の袖を引っ張るが知ったこっちゃ無い。敬語?丁寧語?初対面であろうと自分の甘さを棚に上げて被害者面している奴にそんな物を使ってやる義理も毛程もない。はじめ俺の言葉に唖然としていた中心で話していた母親がふて腐れた顔で「は?訳分からんし」つぶやいた。俺はそいつの顔を冷め切った顔で見つめ言う「だ・か・ら・・・どうやって線引きしてるんだ?まさか子供言い分のみを鵜呑みにして「まあ可哀想に」で練習サボらせてる訳じゃないだろうな?」「でも二年生の態度が・・・」「その二年生の態度は一年生の態度の結果かもしれないんだぞ。子供ならまだ自分の甘さに気付かなくても仕方が無い。でも、あんたらは大人として親としてそれでいいのか?」しゃべっているうちに次第に冷たい怒りに変わってきた。「誤解されないように言っておくが、俺は基本的に二年生が悪いと思っている。でもこんな脅しの様なゴネ物勝ちのやり方で子供が何を得るんだ?理不尽?だから何だ?世の中に出りゃそんな事ばかりだ。これも経験でせっかくいい機会を与えられてるんじゃないか?今辛い事や嫌な事を通り過ぎたその後に何があるのか、その意味合いを教えてやるのが親の役目だろうが!・・・うちの娘は一人だけ一般で入ってクラブの中じゃあ一番バレーが下手くそで試合に出れるかどうかも怪しい。でも、毎日吐きそうになりながら起きて、隠れて泣きながら寝て・・・それでも辞めずに続けてる。俺はそう言う娘を誇りに思うぞ」久ぶりに本気で腹が立った。自分の娘がいやな目に会えば親として辛いのは分かる。しかし、だからと言って、子供が成長するチャンスを親の手で潰して良い訳ではない。「あの、ちょっといいですか?」俺がしゃべり終えた後、俺の横に座っていた母親が言った。俺はふとその人を見て、思わず二度見し嫁に小声で聞く「誰?」その人は二年のエースアタッカーのMの母親らしい。いやそんな情報はどうでもいい。驚くほど綺麗なお母さんと言う情報だけが俺の頭にインプットされた。「綺麗な人でしょ?・・・どうでも良いけど・・・見っとも無いから、だらしなく開けてる口閉じなさいよ」嫁の軽蔑しきった眼差しに俺は慌てて真面目な顔をして話を聞く。「うちの娘も一年の時は毎日先輩にこんな事言われたとか泣いて帰ってきて・・・本当に毎日ですよ。その度に話を聞いて「あなたはそう聞こえたかもしれないけど、先輩はこう言う意味で言ったんじゃない?」と諭してみたり、時には「そんな事言われたの!」って一緒に怒ったり。それでも一年頑張って二先生が引退した後の試合の後で「母さん。あたし試合でこんなに不安になったのは初めてだった。今まであたしは先輩に甘えていた事に初めて気が付いた」って言ってましてね・・・これも成長なんだと思います。経験して初めて分かる事もあるんですよ」淡々としゃべるお母さん。やはり美人は言う事に味がある。「それでね、ムスメちゃん。あ、ここの(俺を指し)娘さんですけど・・・とってもおっとりしてて・・・悪く言えばトロいんですけど」いきなり娘の話になり焦る俺。「試合の時なんか一年生は雑用で忙しくてご飯を食べる時間もないんですけど、ムスメちゃんはおっとりしてるから一口食べるのもゆっくりで・・・」申し訳ない!!!責任はこの俺が!と言ってお母さんの手を握りしめたくなる俺。あくまで下心では無く責任感だ。「だから娘がムスメちゃんに「早く食べなよ。あんたのせいで時間なくなるよ」って言ったらムスメちゃんは「ゴメン!気をつける」て言って、それからはガーって食べたり、時間が無い時は食べずに用事をしてました」・・・褒められたの?今褒められてるの?「それで、その内娘も限界が来て「母さん・・・あたし辞めようかな・・・」って言い出しまして うちの娘ですらこうならムスメちゃんもそう言ってるのかな?聞いてみると「何言ってんの。ムスメはね「ここまで来て辞めるか。わたしは三年間続ける!」って言ってるよ」って。人は成長するんです。少しづつかも知れませんが強くも慣れるんです。一年生も今は辛いでしょうけど、それを見守ってあげる事も大切なんじゃないでしょうか」仰るとおり!聞いたか?え~い頭が高い、控えおろう!俺は黄門様にしたがた介さんのような面持ちで一年生の保護者を見ると、皆静まり返り俯いていた。そして、一年生の父親が顔を上げ話し出した。「わたし達も何とか娘達には頑張って続けて欲しいと思ってます。ですから今日こうして話をしに来た訳でして。受け入れ態勢が出来次第練習に復帰させたいと思ってます」・・・・まだそんな事言ってやがる・・・せっかく人が目の保養をして機嫌よくしている所邪魔しやがって、「で、あんた達は帰って「ちゃんとお膳立てし来たので是非練習に参加してください」っていうの?」俺は呆れた声で問い掛けると「あ、そう言う意味じゃなくて・・・」「こっちが悪い事は帰って娘に言う。それは当然の事だ。でもそれはこっちの話で、あんた達がしなくちゃならない事は「今は辛いかも知れないが必ず得る物があるから頑張れ」って励ます事じゃないのか?いくらここで親同士が話し会っても、実際に部活するのはたかが16,7の小娘なんだぞ。いくらお互いに気をつけようが必ず同じ事が起きるに決まってる。それを我慢して付き合っていくしかお互いを認める方法なんてあるもんか」あわてて保護者会の会長が一年生の保護者を取り成しているが俺は更に畳み掛ける。「あー 今良い事言っても仕方ないから言っとくけどさあ、ウチの娘すら「もういい!あたらしだけでやる!」ってい言ってたぞ」妙に楽しげに言う俺の言葉に一年生の親がざわつく「そりゃあそうだよな。一年生と二年生同士で話をして、じゃあ二年生は二年生なりに反省して頑張るって事になったのに、一日だけ来てまたボイコット。そう思うのもしかたがない。まあ、試合に必要な人数はいる事だし、娘は三年間雑用と玉拾いする覚悟が出来たみたいだし・・・別に一年生が来なくても問題無い。だって居なくても困らないもん」「あんた楽しんでたでしょ?」その時の俺を見て後で嫁が俺言った言葉だ。ただし、そんな顔もここまでだ。俺は真剣だ面持ちで続けた。「その中に戻ろうするんだ・・・よっぽどの覚悟と努力が必要だ。それを「可哀想に」だけで済まされたんじゃ、それこそ子供のほうが可哀想だろ」俺はそう言い終わると、興味が無くなった様に窓の方を向き会長が話をまとめるのを待った。いや、その窓の方向にMのお母さんが居るのは本当に偶然で、保護者会の会長達が上手く話をまとめている間、常に視線の端にMのお母さんが居た事も全くの偶然である。そろそろ話が終わるかと言う時、二年生の保護者が「思い出しましたが、入学の時、校長の前で誓約書を書いたのもこの教室でしたな。皆さんもあの時の事を思い出して初心に戻り頑張りましょう」ほー誓約書・・・俺の唇が笑いで歪んでいく。「あのさ」今まで黙っていた俺が急に口を開いたので皆の視線が俺に集まった。「校長の前で誓約書かくの?へーしらなかったなあ。ほら、ウチは勉強して入学した口だから・・・」俺のにこやかな顔に比例して空気が重くなるのを楽しみながら言ってやった。「じゃあ一般で受験した親の立場として言わせて貰うけどさ・・・ならツベコベ言わずにバレーしろ!」嫁があわてて嫁が俺の裾を引っ張るが知ったっこちゃ無い。二先生の保護者をも敵に回す?言っておくが、俺は二先生の肩を持ったつもりは無い。ただ、自分の甘さを棚に上げて被害者面している親が気に食わなかっただけだ。自分が嫌で仕方なかった先輩に今自分がなっている。それだけで二年生に責任がある。家に帰って保護者会の内容を教えてやった後に娘にそう言うと「当たり前じゃん」と逆に胸を張られた。ちなみに、以外な事に二年生の方には好評だったらしく、嫁も胸を撫で下ろしていたが、俺はもう二度と保護者会に関わるつもりはない。やはり親なんて子供の努力の影にかくれてコソコソと応援したり助言するぐらいで丁度いい。ただし、Mのお母さんと二人だけなら影に隠れてコソコソと保護者会を開きたい物である。
October 6, 2010
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「おはようございま~す」まだ薄暗い娘の部屋に、俺の爽やかな朝の挨拶が響き渡り、蛍光灯の煌々とした灯りが灯る。娘が寝ているベットがもそもそと動き「う゛~、もう!電気消して!寝れないじゃん」「何の為にこうしてんだ?さっさと起きろ、このサル!」いつもと同じように朝の爽やかな罵声が飛び交う。時間は朝5時30分部活の朝練がある為に、毎朝この時間に起こして弁当を作る。初めはは嫁がしていたが、嫁も仕事があって大変だから今では交代でしている。冷凍食品をレンジに放り込み、卵焼きをイソイソと作っていると娘がようやく台所に姿を現したそして俺を見るなり顔をしかめ「あーあ、また父さんのお弁当か、父さんのお弁当の明けた時の残念感は何とも言えない物があるよね」入って来るなり何を言うかと思えば俺の愛情弁当への不満だ「なんだ?ちゃんと肉と卵が入ってるだろが、どこに非の打ち所がある?」「彩りって物が無いよね。何か「腹いっぱいになればそれでいいだろう?あ゛?」って感じ」「あー 一言言っておこう。今は父さんの弁当か母さんの弁当か選択肢は二つだが・・・なんならお前が作るって選択肢一択にしてもいいんだぞ?」「それは無理!」「なら文句を言わず、有難く黙って食っとけ!」だいたいもう二年生なのに、親に弁当を作ってもらい、あまつさえ文句を言うなど言語道断である。「君ね、二年生になってちょっとは楽になんたんだろうから少しは親の負担が軽減してもいいんじゃないか?」目玉焼きの焼き加減を確認しながら娘に不平を漏らす俺。ちなみに息子がいた頃は卵焼きだったが、二個も三個も卵を使って半分も使わないのは不経済だから目玉焼きを弁当につっこんでいる。娘曰く「お弁当に目玉焼きが入ってるのは、ちょっとしたカルチャーショックだわ」らしい。話を戻す「楽になった?・・・ふん!」俺の問いに鼻息で返す娘。「三年生に今まで通り怒られる上に、一年生にもっと怒れって怒られるし。あたしそう言うの苦手だからストレス倍よ」まあ、その気持ちは分かる。「それに。自分も出来てない癖に一年生を偉そうに怒る二年生にも腹が立つ」娘が一年生の時、一年生全員が当時の二年生に一番不満に思っていた事だ。「だからそうなるって父さんは予言しただろ?やられたらやり返す。ある意味その位のエゴが無けりゃスポーツマンとして成り立たないし、そんな理不尽さを耐えて育つ精神力や自信もあるからな」もっとも、スポーツマンでもスポーツマンの父になったつもりも無い俺は、自分の娘にそれをされるのは構わない。それも一つの経験だからだ。でも、娘がそれをするのは許せない。「ただな、 その二年生は自分の姿に気がついていない。君の先輩と同じように自分はちゃんとやってると思ってる・・・なら、それに気づいているのに注意できないお前が一番悪いんじゃないか?」作ったおかず(目玉焼き、冷凍食品のハンバーグ、ウインナー)を弁当箱に詰め込みながらサラりと言ってやると「・・・・だって、あたし発言力ないから・・・」「それは言い訳か?それとも 弱音?」そう言い娘を見つめると娘は目を伏せる「まあいい、時間は十分にあるんだ。自分に何が出来るかよく考えろ・・・ただし、集合時間まではあまり時間は無いけどな」時計を見た娘は慌てて弁当をカバンに入れ「行ってきますと」玄関を飛び出して行った。 問題が起きたのは三年生が引退して初めて一年生と二年生だけの合宿だった。この合宿は県内県外の何校かのバレー部が娘の高校で合同合宿する物で、保護者が食事の用意など行っている。そして、合宿の夕食時。バレー部の伝統と呼ばれる物の中に、一年生は二年生より多く食べなければならないと言うものがある。夕食は毎回カレーだが、二年生が二杯食ったら一年生は三杯食わなければならない。娘も一年生の時に泣きながら吐くまで食わされた。まあ、くだらない伝統だが、10年も経てば懐かしい思い出として笑い話になる物だ。ところが、一年生の保護者がそれを見て、二年生を叱った。「あんたたち、一年生になんて可哀相な事してるの!」気持ちは分からないでも無い。自分の娘が泣きながらカレー食わされたら、過保護な母親はそう言うかもしれない。ただ問題は、その怒った一年生の母親が、現三年生の親でもあり、つまり去年娘達はその母親の娘に同じ事をされていた事だ。娘達は何か納得いかないが、 言い応えする事も出来ずに黙って叱られていた。そして、合宿が終わった後、一年生は集団で練習をボイコットした。理由は二年生の横暴さに付いていけない事、自分はしないくせに一年生に怒る事などなどの不満。一度は一二年生で話し合い、練習に出て来る事になったが、それも一日だけで、その後の他校での合同合宿にも参加しなかった。そして緊急の保護者会が開かれる事になった。子供の世界に当たり前の顔をして親が出て行く事に違和感を感じる俺は、今までそう言った物とは無縁を通して来ている。一度だけ嫁に連れられ試合を見に行った事があるが、保護者全員そろいのTシャツを着て応援しているのを見て、一緒にその場にいる気も失せた。本来ならこんな保護者会などに行くつもりはなかったが、今回は嫁と一緒に行く事にした。子供の意思の他に一部の親の介入が感じられたからだ。まあ、ぶっちゃけ、バカな親の顔でも見に行こうかと思ったのが理由なのだが。会場に着き周りを眺めていると嫁が「あんた冷静に話をしてね」と釘を刺してきた。「何言ってるんだ?俺はいつでも冷静だぞ?それに俺が話すかどうかは分からないだろ」そう嫁に小声で言っていると二年生の保護者である保護者会の会長が話を始めた。さっそく一年生の保護者が不平を言い出す。中心になっているのは、合宿の時に二年生をしかった母親と違う生徒の父親だ。曰く「二年生の目が気になって水分補給が出来ない」・・・イラそんな事はコーチに言ってちゃんと水分補給出来るす機会を作ればいい事だろ、後は自己責任曰く「たった五人で玉拾いなんて出来る筈がない、なぜ無理な事をさせるのか」・・・・イライラ出来る出来ないかじゃなく、やろうとする努力が進歩に繋がるんじゃないか?一度子供達で話し合いをしたのに、二年生の受け入れ態度がなってない。そんな事では練習に行きにくい・・・イライライラどこのお客様だ?曰く「もっと一年生を認めて欲しい」・・・・プチ練習ボイコットする奴の何を認めるんだ!「バッカじゃね!あんたらは何を基準に甘さと理不尽さの線引きをしてんだ?」俺の声が教室に響いた。
October 4, 2010
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何気に付けていたテレビの画面では制服を着た女子高生が自転車に乗っている。眩しい日差しを浴びた長い髪をキラキラと靡かせ、ただ暑苦しいだけの夏に彩を与えている。「お、そう言えば・・・」テレビから目を離し、テレビ台やサイドボードの中を探し出した俺を娘が不思議に思い声をかける「何してんの?」「いや・・・確かウチにも有ったはずなんだよな・・・」「何が?」「女子高生・・・・確か有ったような気がするんだよな・・・」タンスの引き出しを覗く俺の肩を叩く娘「トントン」「何?」「ここ。ここにいるじゃんプリプリのリバリんの女子高生が」「・・・・・・」「ん?ん?」「・・・・・・・えっと、確かあったような・・・・」改めてタンスを探す俺。「どこ見とんじゃい!」「だから!サルには用は無いんだよ!」ウチの娘の髪型はショートカットである。いや、前髪は眉毛に届かず、後ろも襟に掛からず、横も耳は丸出しの髪型がショートカットと呼べるのならサルはすべからくショートカットと言う事になる。「あーあ。チッチャい頃はツインテールにしていつもヌイグルミ抱えていたのに、なぜこうなったんだ? あれか?人体練成に失敗して魂をサルに蒸着されたのか?」「あたしはアルフォンスですか?どこをどう押しても今時の女子高生でしょうが!」ジャージにヨレヨレのTシャツを着て憤る娘に「返せよ~~~!たった一人の娘なんだ。返せよ~~~~~!」とわざわざ引き出しに入っていた軍手着けて叫んでやったらプンプン怒って嫁にチクリに行きやがった。まったく、父親のお茶目な冗談も解せ無いとは情けないが、娘も好きでそんな髪型をしているわけではない。娘のその髪型は娘の入っている部活の決まりである。娘は県立の商業高校に通っていてバレー部に入部していて、そこのバレー部は市内では名門校であり、そう言う厳しい伝統を受け継いでいる。部員もスポーツ推薦での入学で中学の時からエースが勢ぞろい。ただし、ウチの娘以外であるが。娘は一般入試で入学した。身長も152cmしかなく、性格も体育会系ではない。その娘が入学式の数日後「バレー部に入る」と言い出した。「は?何言ってんだ?」「あんた気は確か?」俺と嫁の反応だ。「よく考えろ。高校の部活なんて少々ぬるい方がいいぞ。「先輩~おごってくださいよ~」なんて部活帰りにアイス食ったり、遊びに行ったり。バレー部なんて入って見ろ。青春の淡い思い出なんて皆無だぞ」「あんた知ってるの?あそこはもう軍隊よ。軍隊。規則も上下関係も厳しいし一年中バレーよ。しかも三年間玉拾い確実じゃない」俺と嫁の説得にもかかわらず「それでも入る」と言って娘はバレー部に入部したが、現実は予想したより遥かに厳しかった。毎朝五時半に起きて帰ってくるのは夜の九時。土曜も日曜も無い。部の規則で制服で店に入ってはダメだの、炭酸飲料はダメだのとどこの小学生の規則だ?と思うほど細かいルールがある。もちろん上下関係は厳しく、事あるごとに説教。まさに軍隊。一週間もしない内に衰弱する娘。遅い夕飯をボソボソと食っている娘に嫁が声を掛けた「クラブどう?」「・・・・」「他の一年生は何て言ってるの?」「・・・・みんな辞めたいって・・・」まあ、それはそうだろう。「わたしも辞めようかな?」わざと笑ってそう言う娘に俺も笑いながら答えた「辞めればぁ?誰一人お前にバレー部に入ってくれって頼んだわけじゃないからな。入ったのがお前の責任なら、辞めるものお前の責任だ」そう言うと、娘はそっと箸を下ろし黙って部屋に戻って行った。「ちょっと!あんな言い方したら辞めにくくなるでしょ」嫁の抗議を俺は鼻で笑い「辞めるもんか。そんな奴だったら入る前にあんなに反対しないさ」「何で言い切れるのよ」もっともな質問であるが、俺にとっては愚問だ。「そう言う自分が嫌いだからだ。なりたい自分になる為に未熟ながらも食いしばる。そう言う奴だ」そう言うと「じゃあ頑張ってレギュラーになれるかな」目をキラキラさせながら質問してくる嫁に冷たく言い放つ「それは無理なんじゃない?」「何で?」ムキになる嫁に「娘は優しすぎる。スポーツマンとしてのメンタリティじゃない。あ、別に褒めてる訳じゃないぞ。厳しさを知らない優しさなんてただの甘さでしかないからな。厳しさや強さや覚悟を知ってはじめて優しさになるんだ。ま、それを知るいい機会じゃないか?」俺がもっともらしい事を言うと「そうね・・・今は見守るしかないのね・・・」と俯くだけだった。それから数日後いつもヨレヨレになって帰って来て、疲れた顔で飯を食う娘が、飯をかき込みながら「わたし辞めないからね。三年間頑張る」と言った。何かあったのかと聞くと、今日練習試合の用意をする時に何をしていいか分からずモタモタしていると二年生に怒られたらしい。他の一年生は推薦で決まっているので春休みから練習に参加してたので段取りは分かっている。それを見た三年生の先輩が二年生に「ムスメはまだ入ったばかりで何も知らないんだから、教えてないあたし達が悪いでしょ。娘を怒る理由にならないよ」と注意してくれた。その注意してくれた三年生は今の二年三年の中で娘と同じで唯一一般入試で入学した。娘はその優しさに泣いたらしい。初めて人前でワンワン泣いたらしい。その先輩が「え?あたし何か悪い事言った?」と動揺するぐらい。「わたしはあんな先輩になる!」そう言って飯をガツガツ食っていた。娘のモチベーションが「あんな選手になる」。じゃなくて「あんな先輩になる」という所がどうかと思うが、まあ、娘らしいと言えば娘らしい。飯を食い終わり娘が風呂に入りに部屋を出た後「ふ~なんか安心していいみたいね」と嫁が嬉そうに言うが、まだまだ心配するのはこれからだ。しかし、せっかくの喜んでいるのに今の嫁に水を差すような事は言いにくいので「よかったな!これから三年間毎日五時起きで弁当作る事が確定だ」と祝福を送ってやったらなぜか落ち込んでいた。ただし・・・数ヵ月後には週の半分は俺が五時に起きて弁当を作る事になる事を知っていれば、無理にでも娘を辞めさせる方法を考えていたかも知れない。
September 28, 2010
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さて、今日は「洒落怖」でも覗いて夜更けまで一人 gkbrするか・・・ブックマークを開きクリック・・・あ、ヤベェ。間違えて自分のブログ開いちゃったよ・・・最近は家族がいない時にゴキブリを発見したときの様に「見てない見てない、俺は何も見てないよ・・・気付かない物は仕方ないだろ」と意識的に視線から外していたのに、自分のケアレスミスに舌打ちをする。お?コメントが入っている・・・またイカガワシイサイトへの導入か?まったく、こんな所に書き込んでも誰も見ないんだから無駄だって言うのに。まあ、一応消しておくか・・・あれ?お盆。過ぎましたよ~!!お盆。 りくみり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーー!!!現実を突き付けないでェェェェェェェェェェェェーーーーーーーーーー!!!だって、まだ連日三十度を越してるもん!お手伝いしている劇団の公演もあったもん!パソコン起動して、気付けばIMEをひらがな変換にせずにシャットダウンする日々が楽だったもん!未来のネコ型ロボットはドラえもん!でも、つっ込まれると司会にイジられる若手芸人の様にちょっと嬉しい自分がいる。分かりました!そこまで言うなら(え?誰も言ってない?)再開しましょう!またやるやる詐欺になるかどうか・・・自分との戦いだ!
September 23, 2010
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暑い!忙しい!頭が回りません!紫外線にやられて目がショボショボします!だからお盆過ぎたら書く!きっと書く!
August 8, 2010
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まだ痛む足をひこずりながら「おはよう」と部室に入ると「おはようございます」と返事が返ってくた。どこかぎこちなさがあるが、敵意であるとか反感などは感じない。なんせオキデンの横に座っている彼女が一番不機嫌さを醸し出しているのだから少々の反感など消し飛んでしまう。仕方ないので空いているとりちゃんの横の席に座るが、さすがとりちゃん。俺が座ってもピクリとも俺に視線を移さない。これは親交を深めねばと、内心ニヤニヤしながらとりちゃんに話しかけた。「よう、とりちゃん。どう?最近調子は?」我ながら、まったく頭を使わない会話の典型だ。しかし不機嫌な顔をしながらもとりちゃんは視線を上げ「調子ですか?何の調子でしょう?」適当な事を答えておけばいい物を真面目な奴だ。「ん~?化粧のノリ?」「生憎ですが、わたしはほとんど化粧をしないから分かりません」とさっさと書きかけのレポートに目を移そうとするが、そうはさせない。「へー とりちゃん化粧してないの?その割にはあれだね。やっぱりあれだから?」レポートに視線を移しかけたとりちゃんは少し苛立った顔で俺を見て「あの、申し訳ありませんけど、話をされるんでしたら、もっと具体的に話をしていただけませんか?」そんな事言われても、こっちはただ単にちょっかい出したいだけで後は何も考えていない。しかし、そんな事はおくびにも出さず「具体的にって、これ以上どう具体的に言えばいいんだ?これは言葉がどうこうじゃなくて人間関係の希薄さがお互いの意思疎通を妨げてるんじゃないか?ねえ由美ちゃん」とりちゃんの向かいで黙って台本を読んでいた一回生の由美ちゃんが急に話を振られキョどる。「え?え?」「やっぱり君もそう思ってるんだろ。うんうん、仕方ないよね。入部したてで慣れてないからね」話が見えていない由美ちゃんをそのままに話を進める俺。「ここいらで一発、胸の内を晒してお互いの距離を縮めて行こうじゃないですか!」「そんな事で人間関係が改善されるとは思いません。むしろ坂口さんの胸の内なんて聞いたら距離が遠のきますよ」冷めた目でしごくもっともな意見を述べるとりちゃんだが、もっともな意見なら「どう?調子は?」の段階ですでに放棄しているので聞こえない事にする。「じゃあ、順番に好きな子言おうぜ」「何を!」呆気にとられる二人を置き去りに更にヒートアップする俺「いいじゃん、言えよー。俺も言うからさー じゃあイッセイノーセイで一緒に・・・」「ここは修学旅行二日目の宿ですか!」おお!とりちゃんがツッコミを!・・・何だか二人の距離が少し縮まった気がする。「しません!」とキツイ目で否定するとりちゃんを無視して一人感慨にふけっていると「程よく親交が深められた所で、そろそろ練習しましょうか」とオキデンが割って入った。「いいけどさ、なんか人数が少ない気がするけど」キャストは5人。今いるのは俺ととりちゃんと由美ちゃんだけだ。「ええ、少ないですけど、始めましょう」事もなし気にオキデンは言うが、何か引っ掛かる。オキデンの後ろにいる彼女を見るが、未だに目を合わせてくれない。「あの・・・」「え?何?」引っ掛かりについて考えていたらオキデンが話し掛けて来る「着替えたいんですけど」「あ、いいよ。俺このままでいいから」オキデンに負けず、事も無し気に言うと「いえ、わたし達が着替えたいんです」「あーそうなの。いいよ着替えて」そう言うととりちゃん達が険しい顔で俺を見るが、まだまだ人間関係が希薄な為に、なぜそんな顔をしているのか分からない・・・事にしてると「坂口さん。いい事教えましょうか?」オキデンが優しい笑みで俺に言った。「え?何?オキデンのスリーサイズ?」「ゆっくり後ろを見てください」オキデンの優しい笑みに影が差す「ゴクリ」自分の息を飲む音がやけに大きく感じる「ゆっくりですよ・・・そうゆっくり」振り向くとやはり彼女がいた。「やあ・・・しばらく・・・」クイッ静かに燃える瞳の彼女が、アゴでドアを指した。ほら見ろ!具体的な言葉を発しなくても、人間関係が濃密ならばほんのワンアクションで意思疎通が来るんだ。俺はそれをとりちゃんに伝えたかったが、今は操り人形の様にカクカク手足を動かしながらドアに歩いて行くしかなかった。
July 22, 2010
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今日は水曜日。手伝っている劇団の稽古の日だ。俺は洗った豆絞りの手ぬぐいをポケットの中に大事に入れて稽古に出かけた。事の起こりは二日前・・・月曜日に稽古場に行った時だった。前回稽古に行ったのはまだ6月だったので本当に久しぶりに顔を出したのだが、駐車場に着くといつもより車の台数が多く、稽古場の入り口で脱いでいる靴も所狭しとばかり並んでいる。いったい俺が来ない間に何が起こったんだ?と思ったが、そこは1聞いて10知る俺。そう言えば新しい人が来るかもしれないと言っていた。きっとその人はネズミ年で、繁殖力が異常に強い体質な為に増殖を繰り返しているに違いない。ちょっとした疑問も冷静な視点を持って挑めば、慌てる事は無いと言う教訓だ。俺はスリッパに履き替え二階にあがりホールのドアを落ち着きをもって開けた。・・・え?・・・え?・・・なに?・・・もしかして・・・・確かに人数が多い事は覚悟していたが、まさか知った顔が一人もいないとは・・・パニックになりかけるが、冷静な俺がその場を取りまとめる。落ち着け!知った顔が無いぐらいで取り乱してどうする!お前は何日ぶりに稽古に着たんだ?浦島太郎だってほんの少し竜宮城に居ただけで帰って見ると知らない顔ばっかりだったじゃないか!しかし、ここで玉手箱を開けるのは愚の骨頂。冷静に周りを見渡して見ろ。浴衣に手ぬぐいに簡易PAからは盆踊りのリズム・・・・・・なるほど・・・俺は酷い勘違いをしていた。これは盆踊りの練習・・・そうか!そう言えば芝居の終わりに花火が何たらと言っていた・・・きっと芝居の最後に花火が打ちあがり、エキストラが緞帳の前で狂湾ばかりに盆踊りを踊りフィナーレを飾る寸方か!さすがハラダさん。やはり只者ではない。そうと分かればこうしている場合では無い。ちゃんと見ておかないと。俺は定位置であるステージの壁側に座りエキストラの踊りのを見ていたら、視界の隅に何か不吉な物が写った。俺の直感がそれを見てはならないと囁くが好奇心にはかなわない。チラリとその不吉な何かに視線を移すと身長 140センチぐらいで老婆が手招きしていた。「ニィーチャン。ちょっと来なせ」「え?・・・」「いいから来なせ」「はあ・・・」恐る恐る近づくと「ニィーチャン見ん顔じゃが、どこん人ね」「え?俺は照明の・・・」「は?」「いや、俺は照明を・・・」「はぁ?」「だ・か・ら照明の!」「はあはあ、道明んとこの孫か」「いや、違います」「わしゃ道明とこの周造とは昔馴染みでの、若い時は周造にはよく尻さわられたもんじゃ」人の話を聞け!いや、その前に、なんで俺が生え際が後退しつつあるオヤジに聞かされる「俺もこう見えて若いころはさんざんヤンチャしてな」的な話聞かされなきゃならないんだ?と言おうとして思いとどまった。相手は人生の大先輩だ。間違ってもそんな口を利く訳にはいかないので「ハァ」と言葉を濁していると「ニィーチャン何で踊らんのじゃ?」「いや、ですから俺は照明のプランを・・・」「はあはあ。そうか。豆絞りの手ぬぐいを忘れたんか。じゃあこれ使え」話を聞けババア!て言うか今どこから出したんだ?ちょっと湿ってるじゃねーか!こんなもん、よっぽどレアな変態じゃなきゃ使いこなせんわ!「豆絞りじゃぞ。乳搾りじゃないぞ。ひゃっひゃっひゃ」だ・か・ら!ドラえもんに頼んでタイム風呂敷でその乳元に戻してから言えっての!俺はこう見えてグロ耐性は低いいんだよ!「仕方ないのう。そこまで言うんならわしが踊り方教えてやろう」あれか?このババアはロープレの町の住人か?誰かが前にたったら自動的にプログラムされた言葉をしゃべるのか?いくら意思の強い俺でもスクリプトには適わない。仕方なく死んだ魚のような目をして踊る「ここはこうしてそうなってこうなるんじゃ」「はいはい、ここはこうでこうなると」「違う違う。ここがこうでこうしてそうなるんじゃ」「だから、ここがこうでそこにこうなってこうしてこう」「じゃからここはこうじゃと言うとるじゃろうが」「でもここはこうした方が未知なる何か挑む何者か的でいいんじゃね?」「馬鹿モン!ここはこうした方が円熟されたエロスがかもし出されてええんじゃ」「おいおい、そんなゴビ砂漠並みのシワからエロスなんて絞りだしちまったら、浴衣着る前に白い着物着る羽目になっちまうぜ?でここがこうと」「何言っとるんじゃ。他と比べて肌がしっとりしとるとお前んトコの周造も言っておったわ。そこはこうして」「他って像の足の裏と比べてか?分母がデケェと分子が少々酷くても値が同じになるから気をつけな。でこうしてこうなると」などと踊りの練習をしていたらそこそこの時間になった。「ハアハア・・・もうこんな時間か。結構汗かいちまったぜ」「たまにはいいもんじゃろ?こうして世間をわすれて汗をかくのも」「まあそうだな・・・」悔しいが俺はババアの言葉に素直に同意した。年寄りは国の宝と言うが、きっとその通りなんだろう。このババアにしたって、俺がまだ経験した事のない辛さや痛みを乗り越えて今こうやて笑っているのだろう。俺に付き合って踊ってくれた為に汗をにじませ少々浴衣が乱れたババアを優しげな笑みで見つめた。すると俺の眼差しに気付いたババアはハッと浴衣の襟を直し「やらしい。何見とるんじゃ!」ババア!テメェ人類の尊厳を著しく損なうような言動を取るんじゃねえ!しかも頬を赤らめやがって。血色の悪さと相まって紫色になってじゃねーか。チアノーゼと間違われたらどうすんだ!「まったく男ときたら、油断するとすぐにそっち方面にはしるんだから」どっち方面だ?その人類がけっして向かってはならない方面は?「まあ今回は大目に見といてやるわ。ちゃと練習しとくんじゃぞ」そういってババアは歩き出す俺は手にしていた豆絞りに気付き。「おい、手ぬぐい・・・」ババアは振り向きもせずに「やる。今日つきあってくれた礼じゃ」そう言って去って行った。「まったく・・・適わねえな・・・」俺はため息を一つ付き、豆絞りを手に家路についた。そして今日。俺はいつでもエンディングの盆踊りの練習が始まってもいいように、すぐに豆絞りを取り出せるように待機していた。次か?・・・いや、違うみたいだ。今度こそ!・・・違った・・・結局今日は盆踊りの練習はしなかった。けれど俺はいつ始まっても出遅れないように、あのババアに貰った手ぬぐいが入ったポケットに手を当てて稽古を見つめていた。
July 8, 2010
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「紀美?」そう呼ばれて通路側から後ろを振り向く彼女。「あれ?今から学校?そう言えば今日来てなかったよね」どうやら彼女の友達らしい。「美容院行ってたのよ。今日サークルのコンパがあってね。H大の人も来るから気合入れなくっちゃ」「そんな事ばかりやってて留年して泣いても知らないよ」うむ、それは後ろを向いて言うより横を向いて言った方がいいかもしれない。「それよりさ、あんたこそ何やってんのよ。横にいる人男の人でしょ?」「え?ええ、女の人じゃあないわね」彼女は少しうろたえているが、キッパリ男だと言ってくれ。その言い方だとオカマも最大公約数に入ってしまう。「誰?」「演劇部の手伝いをしてくださるK大の方よ」「何だ。彼氏かと思った」「な、何言ってんのよ。そんなんじゃないわよ」じゃあどんなんだ?こ1時間ほど問い詰めたい。俺がウズウズしていると彼女の友達が「まだ演劇部ってあったんだ。もう活動してないって思ってた」「してるよ。次ももうきまってるんだから」ちょっと声がムキになる彼女。「だって、3年生はもうオキデンだけなんでしょ?2年生も一人は真面目だけどもう一人は部活に出てこないし新入部員は入ってないって聞いたわよ」「新入部員は入ったわよ・・・一人だけど」おいおい,そこで弱気にならないように。「大体何であんたが手伝ってんの?演劇になんか興味なかったでしょ?」「だってオキデンががんばってるから・・・」「あんたちょっとはカワイイんだから、そんな事してないでもっと出会いがある事したら?」これだから素人は!出会い・・・あるんだよ。アメリカンドリームみたいな出会いがな。「それはそうかも知れないけど・・・わたし頑張ってる人って好きだから」いや、そこは否定しとこうよ。俺拗ちゃうよ。「何ならうちのサークル来る?H大の人と知り合えるよ」余計なお世話だ!コノヤロー!偏差値?そんな物で歯の裏に挟まった鶏肉の筋が取れるか!「間に合ってるから結構です」よく言った。新聞みたいな言われ方でちょっと引っかかるがよく言った。俺が内心で彼女を褒めていると友達は畳み掛けるように言った。「k大の人?でも演劇部の人ってなんか暗そうじゃん」「な!・・・」「難しい事言えば女の子が感心するって思ってるみたいな感じ?」「そんな事ないよ!」「だって~」とクスクス笑う彼女の友達。彼女の眉がしだいに釣りあがり、瞳が怪しく輝きだす。マズい、彼女が切れそうだ。「あなたね!」と彼女が言い出す前に「やっぱりそう思う?俺も薄々そんな気がしてたんだ」「キャ!」座席の上側からヌッと顔を出した俺を見上げて友達が悲鳴を上げた。「いや、顔はねそんなに悪くないと自分では思うのよ、でも付き合ってると思ってた娘に「そんなんじゃないわよ」なんて言われちゃうし、やっぱ暗いからか?」「え?いいえ、そんな・・・」この慌てふためき様を見ると、当のK大生が隣にいる事をすっかり失念していたみたいだ。「あれか?中学の時にスーパーカー消しゴムに手を出したのが悪かったか?やっぱりビックリマンシールにしとくべきだったかなぁ?」「何してるんです!」彼女の怒りが俺に向いた。「大丈夫だよ。ちゃんと靴脱いでるから」シートに膝をついて後ろの人と話すときの基本だからな。「そんな事言ってるんじゃありません!」「だってこの人の言う事はモットモだぞ。暗いのはダメだ。キャンディだって一人ぼっちで悲しい時も鏡に写った自分に笑ってって言ってたから色々な男をとっかえひっかえできたんだ。ねえ?」友達に同意を得る「あ、ええ。まあ・・・」「俺も頑張って明るくなって色々な女の子をとっかえひっかえ・・・イテテテテテテテ」耳を引っ張られシートに座らされる俺。「君、最近えらく乱暴になってない?」「猛獣を手なずけるには鞭が必要なだけです」「角砂糖はどうした?まずは角砂糖で気を引くのもんだろうが」「もう!・・・」俺の正当な主張に溜息で返す彼女。「悔しくないんですか・・・」「何が?」「何がって・・・あんな事言われて・・・」「まあ仕方ないんじゃない」「人の評価は気にしないんですか」「いいや、気にするよ。俺案外、そう言うの気にするタイプだから」「じゃあ何で」窓の外に目をやると小高い丘の上に立てられた校舎が見えてきた。そうそろそろ着くみたいだ。俺は彼女の問いにゆっくり答える。「芝居やっててまずやらなきゃならない事は人の評価を受け入れる事だ。見た人の評価が全て。後でいくらこう言うつもりだっただの、これにはこう言う意味があったって言っても面白くないものは面白くなかったんだからな」「でも・・・」彼女の言葉が終わる前に俺は話を続ける「人間関係もそうだろ?まったくの誤解や勘違いはあるけど、そう思われるのはその本人の問題だ。人の評価に対して問うべきなのは評価した人じゃなくて自分自身に問うべきだろ」それでも彼女は納得できないようだ。「でも、知りもしないのに偏見だけで決め付けるのは良くないと思います」「でも君は知ってくれているんだろ?俺の事」「え?」彼女の視点が俺の目に集中して固まる。「俺の事を知って、それで評価してくれているんだろ?」「・・・ええ」「じゃあ俺はそれだけで満足だ。お、もう着いたみたいだぞ」バスは広場の手前に止まった。彼女を促しバスを降りると目の前にキャンパスの芝生が青々と広がっている。あまりの気持ちよさに背伸びをしていると「あの・・・」「ん?」振り返ると、後ろの席にいた彼女の友達が恥ずかしそうに立っていた。「さっきはすみません。暗いなんて言っちゃって・・・」「何で?俺は君のおかげで人生の光明を見た気がしたぞ?これからは君を師匠と呼ぶつもりだ」「あ、いえ、ほんとうにすみませんでした」せっかくの俺の爽やかな笑顔に困った顔をして彼女の方に行き「ごめんね」「あ、いいよ気にしてないから」ウソをつけメチャクチャ気にしてただろ。「あの人おもしろ人ね。こんどちゃんと紹介して」と言って去っていった。「え?・・・ちょっと・・・」呆けた顔で去っていった方を見る彼女にニヤニヤしながら「で、いつ紹介してくれるんだ?よかったな君の思い通りになって。さぞや満足だろ」ガッ!向こう脛を蹴られてうずくまる俺を彼女は生ゴミでも見るような目つき見下し「ちなみに言っておきましょう。あなたを知って下した評価は・・・サ・イ・テ・イ・です!」と言って部室の方に歩いて言った。確かに人からの評価は飲み込むしかない。しかし、その作業は向こう脛の痛みを堪えるより難しかった。
July 3, 2010
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「フンフフフフンフフ~」鼻歌が出る状況。日常生活なら好きな作家の新刊を本屋で見つけ、それを買って帰る時。それと最近で言えば、バイト代が入って牛皿をオカズに牛丼を食った時も鼻歌がでたっけ。我ながら安上がりな性格だが、今回ばかりはそんな安すっぽい状況ではない。昨日・・・皆さんから距離を置かれた昨日、帰る時に彼女が明日はどうやって来るのか聞かれた。距離的に言えばバイクで来るのが近いが、夜にバイトが入っているので電車で来て、そのまま電車でバイトに行くと言うと。「じゃあ明日駅で待っててください。一緒にバスで行きましょう」なんでわざわざ一緒にバスで?と思ったが、断る理由は欠片もないので駅で待っているといつもの様に「待ちました?じゃあ行きましょう」あれ?バス停ってこっちじゃない?彼女に付いて行くと、そこに待っていた物は・・・T学院大のスクールバス。俺は蒼ざめながらバスを見つめて佇んでいると「バス代もバカにならないでしょ?これならタダですから」彼女はしたり顔で言うが、俺は蒼ざめた顔で彼女を見つめている。「・・・君・・・俺を犯罪者にするつもりか・・・」「大丈夫です。大学の許可取ってますから」俺は大きく首を横に振り「いや、そうじゃなくて・・・例えばだ、羊の群れに狼が放り込まれたとしよう。この場合狼が悪いのか放り込んだ奴か悪いのか・・・ふふふふ」「ふふふふ」俺の笑いに彼女の笑いが低く被せられる。「そんな事出来る訳有りません。だって、もしそんな事したら・・・ふふふふふ」気温が3度ばかり下がった。決して比喩ではなく下がった。「え?何なの?もしそんな事をしたら何なの!」「ふふふふ。ですからお痛したらダメですよ。」俺に背を向けバスに向かう彼女。「♪杭打て死なぬのは悪い魔女~♪」何だが薄気味悪い歌を口ずさんでいる。「だ、だからお痛したら何なんですか!気になって今日眠れないでしょ!」あわてて彼女を追う俺の頬に冷たい汗が伝わった。妙な緊張感を張り廻らしながらバスに乗り込んだが、根っからポジティブに出来ている俺の性根がそれを許さない。なんせ運転手以外の乗客は全て女性。しかも100%女子大生で構成されている。かと言って何かイケナイコトを起こせるわけじゃないが、それでも窓の外で暑い中自転車を走らせている奴らを見ると「見ろ人がゴミのようだ」とほくそ笑みたくなる。「フンフフフフンフフ~」ニコニコしながら鼻歌を歌う俺に彼女が「本当にあなたって無邪気なのかヤラシイのか判断に困る人ですね」と溜息と共に愚痴がこぼれるので。「もしも心の中が見れるなら・・・・」「なんですか?」「どれだけ俺の心が薄汚い欲望に満ち溢れてるか見せてやれるのに」「結構です!心の中どころか顔さえ見たくなくなります」「そんな事言わずに・・・あ!」急に声を上げる俺に彼女が驚いた。「な、何ですか?」「・・・なんかそんな歌詞無かったっけ?」「ありません!そんな薄汚れた歌詞は即座に発禁です」「いや、浜田省吾あたりが・・・」「浜ショーファンを敵に回す発言は止めてください!」それでも俺が能天気に鼻歌を歌っていると「いいんですか?」「え?なにが?」と聞くと彼女はちょっと言い辛いように「昨日の事です・・・あんな言い方して・・・」ああ、あの事か「いいんじゃない?俺のファーストインプレッションなんて無愛想とか怖そうとか何考えてるか分からない人ってのが殆んどだぞ」「わたしはそうじゃありませんでしたよ?」「変わり者ってのはどこの世界にもいるもんさ」カッ!俺が避けた靴先があった場所に彼女のヒールがヒットした音だ。「あんなの、うちのクラブでの第一印象に比べたらファンに手を振られるアイドル並みの扱いさ」「・・・何したんです?・・・」聞きたいような聞きたくないような、そんな感じで恐る恐る彼女が聞いてくる。「一回の夏休みが終わって、あまりに暇だったから見学に行ってさ、ちょうど一回生の新人公演の練習してて、スラップスティック・・・ドタバタ喜劇なんだけど」「どうでした?」「死ぬほど面白くなかった」「・・・ああそですか」「ああ、早く帰りてぇ、なんて思ってたら途中で議論しだすの。社会への皮肉だの、現代の貧富の縮図だの言い出して、面倒臭くなって適当に喧嘩売って帰っちゃおって思って」「それはもう第一印象の話じゃなくなってますよ。故意でしょ?何をしたかは知りませんが故意的にしようと思ったんでしょ?」「でさあ」「聞いてます?」都合の悪い事には俺のオプション機能の機能性難聴がONになる。「「何やってんの?」って聞いたらテーマがどうたらっていいだすから「テーマ?こんなスラップスティックにそんな物コジつける暇があるなら笑えない喜劇を何とかした方が時間の有効利用じゃねえ?」って言って帰っちゃった」「ハア・・・」彼女が深い溜息をつく「あなたの方こそ「何やってんの?」ですね」「だって初めから入る気なんてサラサラ無かったもん。暗いのって俺嫌いだから」「でも入部したんでしょ?」「その後一回生がバタバタと辞めちゃって3人だけになったのと、当時の二回生の先輩が面白がって入ってくれって言われた」どこでどうなるか世の中分からないものだ。「それに比べたら全然問題ないだろ?て言うか、むしろ好意を持ってくれてると考えてもいいぐらいだと思わない?」「ハア・・・呆れて笑いたい所ですけど、これが自分の彼氏だと思うと溜息しかでません」またも深いため息をつく彼女「始めに無理していい人ぶったって人との距離が縮まる訳じゃないさ。とことん付き合ってお互いを刷り合わせるしか人との距離を縮める方法はないからな」それがクラブを関して学んだ事だ。もっとももう関係なくなったけど・・・「紀美?」あやうくブルーが入りそうになった時、後ろの席から彼女を呼ぶ声が聞こえた。
June 30, 2010
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来週から本気出す!
June 27, 2010
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6月9日いつもお手伝いしている地元の劇団の次の公演が決まったので見学に行く。今回はどんなお芝居なのだろう。高鳴る胸を押さえながら車に乗り込んだ。あまりに胸がときめきノドが乾いたので途中コンビニによってコーヒーを買った。しかし、いつからなのだろう?こちらの手の下に手を添えてお釣りを渡してくれるようになたのは。始めの頃は、若いご婦人に手を添えられた時は「い、いや、ぼ、ボクには愛する妻が」とお釣りを貰うのもそこそこに頬を染めて走り去ったものだが、今では慣れてしまい。「どうせ遊びなんでしょ!いいかげんな気持ちなら止めてよね」と言う気持ちになってしまう。しかも、それが男だった日には、手の平に残る暖かさが何時までも残っている様な気がしてハンドルを持つ手も心なしか乱暴になり。「ああ、世の中の交通事故の3%はこれが原因なんだろうな」と考えてしまう。いやいや。今はそんな事を考えてる時では無い。俺には崇高な目的があるのだ。少し遅れて稽古場に着き、中に入ると新しいメンバーがいた。この娘は見た事がある。たしか去年の○高演劇部の座長だった娘だ。・・・○高・・・読み方で言えば○ノコウになるが・・・「の」はどこに行ったんだ?、「○」だけになると読み方としては「○コウ」となってしかるべきだ。そんな事ぐらいと言うかもしれないが、「の」の立場になって考えて欲しい。例えばだ、「たのきんトリオ」と言うのが昔あった。田原俊彦(トシちゃん)、野村義男(ヨッちゃん)、近藤真彦(マッチ)の頭文字をとって「たのきん」だ。しかしながら残念な事にヨッちゃんは人気が薄かった。理由は色々あるだろう。だが、かと言って「たきん」とかいて「たのきん」と読ませたらヨッちゃんが可哀想だろうが!ヨッちゃんはギターが上手いんだよ。浜崎あゆみのバックバンドだってしてるんだからね!あ、いやいや。今はそんな事力説している場合ではなかった。稽古に手中しなくては。少し遅れて演出が到着。俺は初めてなのでセットがどうなっているか分からないので薄板に簡単に舞台平面図を書いてもらう。ふむふむここがカウンターでこっちが庭で、じゃあここはアルミサッシみたいな・・・アルミサッシ?アルミサッシのサッシって日本語?それとも外来語?なんか語呂的に日本語のような気もするがどう言う漢字なのだろう?思い浮かばない。それともガラスの様に当て字で硝子をどう読んだらガラスになるんだ?って感じの字なのか・・・だいたい硝子だってもっと分かりやすい当て字にしろよな。よく走っているガラス屋の軽トラのボディに「西園寺硝子」とか書いてるけど、あれを見て一瞬「さいおんじしょうこ」って女性の名前が書いてあると思った事があるのは俺だけじゃないはずだ。「さいおんじしょうこ」いかにもお嬢様でしかも儚げな名前・・・何で俺が三角の鉄枠積んだ軽トラ見て、儚げに溜息付かなきゃならないんだ!あ、いやいや。今はそんな事に気を留めている暇はない。集中しなくちゃ。稽古は9時半を過ぎ一応終わりとなる。しかし、ここで重大な争議が持ち上がった。キャストの一人が仕事が忙しく稽古に出れない為、キャストを降りるかも知れない。そうなると当然一人足りなくなり、その一人をどうするか。とりあえず現在高校生役をやっているグッチを大人の役に変えて、その高校生役を誰かにしてもらうとして・・・は!今この中でキャストに付いてないのは俺一人・・・もしかして高校生役を俺に?・・・いや、だがリアルに高校生の娘がいる俺に高校生役など・・・それはいくらなんでも限界が・・・「バカヤロー!」ガッ!ドタ「何すんだよ!」唐突に始まる俺劇場出演 すべて俺「何すんだよじゃねぇ!人間に限界なんてねぇんだよ!」「でも、そんな事言ったって・・・」「限界なんてもんはなあ、弱い心が作り出すまやかしじゃあねえか!」「・・・」「これを見ろ」「ハッ、それは俺の心の中の宝箱・・・」開けて見ると、そこには楳田さんのお母さんが言った「川口さんって何時までたっても若いねえ」という言葉がティッシュにくるまれて大事に入れてあった。「そうか・・・俺まだ戦えるんだよね・・・」拳を握り締め立ち上がるとした時、高橋君がボソリと言った「あ、でもこの役、女の子でもいいですよね」空気読め~~~~!!! たかはし~~~~!!!・・・いくらなんでも・・・さすがにこの年でセーラー服は恥ずかしいぞ心の奥底に勝算が無いわけではない。学生時代からの変わらぬプロポーション。十代では発揮出来なかった乙女の恥じらいも、四半世紀を経た今なら程好く熟成されている筈だ。しかし問題はそこでは無い。問題はスネ毛の処理をどうするかだ。黒いストッキングという手も無いわけでは無い。しかし女子高生は生足がデフォであるし、スカートは膝上10センチソックスは白。それが俺のジャスティス。異論は認めない。確かに大事な物の為に何かを失う覚悟は国家錬金術師になる時に出来ている。これすなわち錬金術の基本、等価交換なりでも・・・それでも失いたくない物もある。もし、スネ毛をそってしまったら・・・嫁は「あなたは変わってしまったわ」と、遠くを見つめるだろう。娘は「スネ毛をもじゃもじゃして蟻さんが出来ないなんて父さんじゃないよ」とヌイグルミを俺に投げつけるだろう。息子は「何でゴスロリじゃないんだよ!フリルのないコスなんて俺絶対認めないからな!」と俺を攻め立てるだろう。高橋君・・・君のその熱い思いは痛いほど良く分かる・・・でも少し待って欲しい一度家に帰ってゆっくり・・・そう、ゆっくり家族と話をして決めようと思う。なぜなら、それが家族だからだ。
June 13, 2010
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朝会社に出社して階段を上っていると後ろから同僚が「それケツ破れてない?」と声を掛けられた。すぐにズボンに手を当てて確認して見るとパックリ15センチは破れている。朝タンスから引っ張り出して穿いたが、考えて見ればこのズボンを穿くのは久しぶりだ。きっと破れてそのまま洗ってしまい、そのまますっかり忘れていたようだ。このままではマズイので朝仕事が一段落したら一度家に帰ろうと思っていたら急に忙しくなり、まあ昼にと思っていたら夜帰るまですっかり忘れていた。ここで「シュレーディンガーの猫」という量子力学で有名な話が出てくる。まあ簡単な話、猫と猫を死に至らしめるかもしれない装置を一緒に箱の中に放り込む。一定の時間放置して猫が死ぬ確立は50パーセント。一定の時間の経過後、箱の中の猫が死んでいるか状態と生きている状態が重なり合っていると考える事が出来る。逆に考えれば箱を開けて人が確認して始めてどちらかの状況が起きるという事だ。つまり、昼の間俺はその事を忘れて見てもいないので、俺のズボンのケツは破れていなかったのだ。恐るべし!シュレーディンガーの猫。幾度も人類の進化に関心する事があったが、これほどまで社会に貢献出来うる理論は始めてかも知れない。何にせよ、この理論のおかげで事なきを得た。ご機嫌な俺は鼻歌を歌いながら食卓に付き夕飯を食べていると嫁が「ちょっと、また口の下にご飯付いてるわよ」うむ?「あんた、ご食べたら必ず同じ場所にご飯粒付けてるけど、その部分細胞死んでるんじゃない?」などど失礼極まりない暴言を吐く。「何を非科学的な事をいってるんだ?これはな、きっとこの部分の磁場が狂ってるせいなんだ」「あんたの顔は富士の樹海ですか?」「男の子の身体は神秘に満ち満ちてるんだよ!」実に科学的な夫婦喧嘩である。「この前も帰って来た時、お昼ご飯のご飯粒つけたままだったじゃない。気をつけてよね社会人として恥ずかしいから」・・・恥ずかしいから?・・・・ふっふっふ・・・はっはっはっはこの愚か者め!己の無知を恥じるがよい!俺が居丈高に笑うと嫁は「ちょっと。恥ずかしいからご飯粒つけたまま偉そうに笑わないでくれる」と俺の勢いを殺ごうと必死だがそうはいかない。「君はシュレーディンガーの猫って言う話をしらないのかい?」「またアニメの話?」「違います。間違っても猫耳つけた萌え少女は出てきません」俺は実に有り難い話を嫁に聞かせるが。「だから?」・・・へ?「だから何の?」「だからって・・・いや、異なる二つの状態が同時に存在・・・」「現実は一つなの!」実に主婦らしい夢の無い言葉である。「あんたのはシュ・・シュ・・シュガーのウエディングベル?」シュレーディンガー。ちょっと無理やりすぎるぞ。「そうそう、その何とかの猫じゃなくて、あれ何て言うの?病気とかで毛をそった猫がラッパみたいな奴つけてるの」エリザベスカラーの事か?「それそれ。あれみたいに自分だけが恥ずかしい事に気付いて無いだけでしょ」いや、そんなはずは・・・異なる二つの・・・でも良く考えたら女子から何時にない熱い視線が・・・「あんた勘違い甚だしいんだから、せめて人の目ぐらいは気にしてね」どうやら俺はシュレーディンガーの猫では無く、エリザベスカラーの猫だったらしい。
June 9, 2010
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クラブセンターを出て6時前にはT学院に着いたが部室に行くまでの足取りは重かった。今日の俺はどうかしている。彼女が怒っていたのは俺の事を心配していたからなのに、俺はそれとは関係ない彼女の言葉に腹を立てた。揚げ足取りもいいところだ。とにかく謝ろうと思うが、部室が近づくにつれて足取りが重くなる事自体、自己嫌悪が増幅される。部室に着いた。まだ日は沈んでいないが、建物の北側にある非常階段の下にある部室は薄暗くなっている。明かりはついていない。もう彼女はいないのかと覗いてみると、薄暗い部室の中で一人俯いて机に座っていた。罪悪感で胸が締め付けられそうになった。ドアを開け中に入ると俯いていた彼女が顔を上げた。カタン彼女が立ち上がった拍子にたてた椅子の音が静まり返った部屋の中に響く。なんて声を掛けようかと考えていると、彼女が足早に俺のそばに来た。「大丈夫でした?」彼女が心配そうに尋ねる「え?」「木下さんの所に行ってきたんでしょ。ケンカなんかしませんでした?」眉をしかめ真剣な眼差しで問いかける彼女に押されて視線を外しそうになったが、何とか堪え彼女の目を見つめたまま答える。ウソをつくコツは第一に視線を動かさない事にある。「大丈夫だよ。誤解を解きに行っただけだ。木下も分かってくれたよ」俺の言葉にホッと息を吐く彼女。「よかった・・・もしケンカでもして坂口さんがクラブに行きにくくなったらどうしようかと思ってました」本当によかった・・・俺が嘘つきで。彼女はここで俺の事をずっと心配してくれていたんだ・・・そう思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。「あのさ、さっきはごめん」すると彼女は顔を曇らせ俯いた。やっぱりまだ怒っているのだろうか「寝不足でイライラしててつい・・・」と言おうとして止めた。寝不足だろうが何だろうが自分の口から出た言葉には変わらない。言えば速攻で自己嫌悪に陥る。ただ、次の言葉が出てこない。どっちにしても自己嫌悪だ。俺がただ「ごめん」としか言えないでいると「わたしの方こそごめんなさい]彼女が消えそうな声でつぶやいた。「わたし酷いこと言っちゃって・・・カッとなって思ってもない事を・・・本当です。わたしそんな事思ったことありません」「わかってるよ」だからこそ謝っている。「君は俺の事を心配してくれているのに、俺は俺の事ばっかり言ってた」俺が自嘲的にそう言うと、彼女は視線を落とし少し考えて言った「・・・わたし憧れてたんです」「何?」唐突な彼女の言葉についていけない俺「好きな人と一緒にキャンパスを歩いたり、教室で話したり・・・でも女子大だから無理だし、それどころか彼もいなかったし・・・」「はい?」やはりついて行けてない。「それでチャンスかなと思ったんです・・・坂口さんが客演に来てくれれば堂々と大学の中で歩いたりお茶飲んだり出きるかなって・・・」「それで俺を?・・・」「それだけじゃないです」いじけ顔の彼女に「でも、一番の動機はこれだと」コクンとうなずく彼女。「ハッハッハッハ」思わず笑ってしまった。「反省してるんですから笑わないでください!」真っ赤になりながら抗議する彼女「そんな自分勝手な気持ちで坂口さんに無理させてしまって・・・呆れました?」俺の顔色を見ながら聞く彼女に「呆れはしないけど驚いた」「そうですか・・・」沈み込む彼女に「彼氏いなかったんだね。驚いた」「そこじゃありません!」「君って以外にモテないの?」「身持ちが硬いと言って下さい!」ムキになる彼女に「たとえどんなに身勝手な理由でも、君が俺を誘ってくれた事には感謝してる。本当だ」彼女の顔がゆっくり上がって行く「その機会をどうするかは俺次第だ。だから俺は俺の為に多少の無理はする。いいね」彼女は少し考えて小さくうなずいた「それと、君が言った言葉は君は取り消して謝ってくれた。俺は君がそんな事思ってないとわかってて怒鳴った。それについては謝る・・・ごめん。これで全て解決でいい?」「はい」今度の返事はさっきより大きく、しだいに安堵の表情に変わっていった。「よかった・・・わたしの我が侭でみんなに迷惑かける所でした。これであなたがクラブの人と喧嘩でもしてたら、わたしあなたと会えないって思ってました」・・・それを忘れてた・・・「俺はそんなに馬鹿じゃないし大人だぞ?」つまり馬鹿で子供で、おまけに嘘吐きって事だ。「そう言えば卒業公演とかどうするんですか?」「やるとしても来年に入ってからだから問題ない」出来るだけ優しく笑うとする俺を彼女はなぜかジッと見つめている。「何?」「本当に喧嘩してないんですよね?」危うく固まりかけた表情を何とかキープする事に精一杯だった。ペンタゴンが女のカンを軍事利用しようとしているって噂もあながち嘘じゃないかもしれない。「なんで?喧嘩なんかしてないよ」「なんだか寂しそうでしたから・・・」視線を外さない事と、もう一つ嘘をつくコツ相手の言葉をやんわり反らし微妙に話を変える事。「そうか?俺はもともと小ウサギ並に寂しがりや屋なんだ」すると彼女は俺の胸におでこを付けて言った。「大丈夫です・・・わたしがいますから」彼女との距離は0センチ手を前に回せ彼女の腰に回り熱き抱擁が完成する。でも、それはひどく卑怯な気がして、俺は電信柱のように突っ立っているだけだった。「みんなの所に行こうか?もう練習始まってるだろ」「そうですね」名残惜しそうに俺からはなれた彼女と一緒に部室を出る。練習場所は本校舎の二階にある講義室の一室で行われている。キャンパスの中心にある芝生を歩きながら「腕でも組むかい?憧れなんだろ」とからかうと「こんなに明るいと誰が見ているかわかりませんから今度にします」「でも、暗くなると腕を組むだけじゃすまなくなるぞ」すると彼女が「あの、みんな男の人に免疫がないですから、そんな調子で大丈夫ですか?」と心配げにしているので「大丈夫だって、4人兄弟末っ子長男の協調性がどんな物か見せてやんよ」そんな話をしながら練習している講義室に着いた。後ろの入り口から入ると、もうすでに始めている。俺と彼女は後ろの机に並んで座り、しばらく見学しているとオキデンが頭の上にクエッションマークを付けて俺を見た。俺は親指を立てて無事話が終わった事を伝えると、オキデンはコクンとうなずく。さすがオキデン。話が早くて助かるオキデンが手を叩いて練習を一時中断してみんなに言う。「今回客演で出演してくださる坂口さんです。みんな知ってるよね?」みんなと言ってもそこにいるのは三人だけとりちゃんは無表情で、由美ちゃんは怯えるように、もう一人は良く知らない娘。おや?もう一人キャストがいるはずだが?俺の疑問をよそにオキデンが「坂口さん。練習見られていかがです?意見があれば言って下さい」「言っていいの?」「どうぞ」じゃあ挨拶代わりに軽く気になる所でもいってお茶をにごそう「セリフの言い回しとかは始めたばかりだから今言うってもしかたないけど、誰かのセリフの後、自分の番だって予備動作もなしに前に来てセリフを言って元に戻る・・・これね、世間では・・・」ここで言葉を止め一人一人を無表情で見渡した後「学芸会って言うんだよ?」ピシッ!あ、空気が凍った。横を見ると、さっき「わたしがついてます」って言った彼女すら50センチほど身を引いている。いきなり四面楚歌?まだ始まったばかり・・・ガンダムで言うところのアムロが連邦の新型モビルスーツに乗り込み「こいつ・・・動くぞ・・・」って段階で?テムレイエンジンの性能並みの、俺の協調性の威力に俺はただ驚くばかりだった。
June 6, 2010
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通常、バイクで40分かかる道のりだが、30分もかからずクラブセンターに到着した。階段を上がり部室のドアを開けると一番奥に木下がいた。後輩の「おはようございます」の挨拶にも応じもせずに木下の前に行き、俺に気付き後ろめたい顔をしている木下に「どういう事だ」いつもの砕けた感じを微塵も見せず低い声で問いただす。「え?何の事です」「とぼけるなよ。オキデンに電話したんだろ?何で俺に言わない」「いや、電話しようと思ったんですけど連絡取れなくて・・・」「それでかよわい女の子に苦情の電話か?・・・ずいぶんお偉くなったもんだな」不安定に視線を揺らす木下を冷たく見据える。「し、仕方がないでしょ。こう言う事はちゃんとクラブを通じて話を通してもらわなきゃ示しが付きません」「示し?どこのヤクザだ?俺には面子つぶされたお前の嫌がらせにしか見えないぞ」本来木下は人懐っこくて人情にもろい奴なのは俺も知っている。部長に押し上げられて肩を張る気持ちや本来もっているコンプレックスが木下を意固地にさせているのもわかる。だが、それとこれとは話は別だ。「で、わざわざ出向いてやったんだ。お話をお伺いいようか?部長さん。俺の客演はなぜ許可できない?」不規則に動く木下の視線がより不安定になる。「ちょ、直接個人に頼むなんて筋が違います。しかも台本まで書かせて・・・」「じゃあなぜ俺が話した時にそう言わない?」「お、俺だけの意見じゃありませんよ。これは執行部で決めた事です」「・・・そうか、お前らの総意ってわけだな」俺は近くにいた三回生を見渡すと皆目を伏せる。「やっぱり個人が外の大学の依頼を受けるのはマズイですよ。クラブとして成り立ちません」「じゃあ俺がここと関係なければ問題ないわけだな」慌てる木下を無表情で見つめる。「問題ないだろ?どうせ俺は引退した身だ。後は卒業公演か追い出しコンパぐらいなもんだからな、お前らには迷惑かからん」「そんな事いってるんじゃ・・・」「なんだ?退部届けが必要か?」そう言って木下を見据えると、木下は俺の意思に気付いたようで言葉を失う「じゃあな」そのまま振り返りドアへと急ぐ「坂口さん・・・」三回生の一人が呼ぶが「世話になったな」とだけ言って外に出る。中庭に面した廊下を通り階段の手前まで来た時、ボギャンとサキエちゃんが階段を上がってきた。「あー坂口さんだー」「なんや、邪魔や言うてんのに、また来はったんですか」何もしらない二人はいつもの様に声を掛けてくるが、人間が出来ていない俺は顔が戻らない。いつもと様子が違う事にボギャンは気付き「・・・どうかしはったんですか?」サキエちゃんも心配そうな顔で俺を見ている。「いや何でもない」と階段を下りようとすると「もう帰るんですか?」「邪魔ですけど、たまになら我慢しますよ」こいつらに心配されるなんて俺もどうにかしている。俺はなんとか笑い「ちょっと用事があってな」「そうですか、また来てくださいね」心配そうなサキエちゃんの頭をポンポンと叩き「元気でな」と言って階段を下りた。今度はちゃんと笑えたのがせめてもの救いだ。俺は階段を下りて中庭に設置されている自販機の横を過ぎ、吹きざらしの守衛室の前を通ってクラブセンターの外に出た。ふと振り返り、守衛室の上にある練習場を見上げた。まだ誰も来ていなくて灯りの消えているその場所がやけに寂しそうに見えた。
June 3, 2010
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部室に顔をだして三日目朝方バイトから帰って眠たい目をこすりながら机に向かい昼過ぎまで掛かりようやく最後まで台本を書き上げた。達成感はない。何とか約束の日までに書き上げた安堵感と眠気が頭の中を占めているだけだ。とりあえず布団に潜り込み夕方まで寝ようと思ったらノックがあり大家さんから呼ばれた「坂口くん、電話よ」彼女からだ。昨日の夜も電話があったらしいが俺はバイトに出かけていた。俺は階段を駆け下り受話器を取る「もしもし、ちょうど良かった。俺も電話しようと思ってたんだ。台本書けたよ」「・・・そうですか」???当然喜んでくれるものだと思っていたら、思いの外彼女の反応が薄い。いや、それどころか彼女の声が硬く低い・・・怒ってる?「もしもし?」確かめるように言うと「お話があります。どこかで会えませんか」「今日は出来た台本もってそっちに行くつもりだったけど・・・」「それなら三時に部室にきていただけませんか」「あ、ああ。いいよ」「じゃあ待ってます」そして電話が切れた。怒ってる・・・確実に怒っている。原因は分からないが、それだけは分かる。いったい何に?この前の由美ちゃんの件はあの後部室の外に連れて行かれてこっぴどく怒られ話が済んでいる。いったい何だろう?すっかり眠気が失せた俺は、とにかく風呂に入り約束の時間が来るのをジリジリと待ちバイクに乗った。三時ちょっと前に大学に到着して部室に行くと彼女が待っていた。俺は彼女の座っているテーブルに近寄り、俯いたままの彼女に台本を差し出した。彼女は差し出された台本を辛い表情で眺めた後「ご苦労様でした」と頭を下げた。「ねえ、どうしたの?なんかおかしいよ」あまりにおかしな彼女の態度に俺は率直に聞くと「おととい木下さんからオキデンに電話がありました」木下から?「クラブを通さずに直接客演の以来はルール違反じゃないかとクレームの電話です」あの野郎・・・「それも、台本の書き直しまでさせるなんてと怒っていたそうです・・・だからこの話は無かった事にして欲しいと・・・」「ちょっと待て。木下には俺から話を通している筈だ。それに俺はそんな話着てないぞ」それで彼女の態度がおかしかったのか。せっかくここまで話が進んでいるのに、これでは彼女らも困るだろう。「嫌な思いさせて悪かったな。木下には俺からもう一度話をしとく。だから気にしないでくれ」そう言って彼女をなだめようとすると「いいえ、それはいいんです・・・それはわたしが無理にあなたに頼んだ事だから・・・でも、みんなに迷惑かけちゃって・・・」消え入りそうな声でつぶやく彼女が痛々しかった。「ちょっと木下に会って来る」怒りで震える声を抑えながら席を立とうとすると「やめてください!」急に彼女が叫んだ「・・・もういいんです・・・もう無理はしないでください」もういいって・・・何が無理だんだ?俺を見据える彼女の表情に辛さが増した。「この一週間・・・ほどんど寝てないんでしょ」何が言いたいんだ?「木下さんが言ってました」あの野郎そんな事まで・・・「そんな事ないって。ちゃんと寝てるよ」「ウソです!・・・顔を見ればわかります」「・・・大丈夫だって。ちょっとは寝不足かも知れないけど大した事ないよ」平気を装おうと思ったが、彼女の厳しい顔に押された俺はつい目を逸らしてしまった。「・・・坂口さん言ったじゃないですか。嫌な事があったら必ず言うって言ったじゃないですか!」「待てよ、別に嫌でやってる訳じゃない」「そんな事して、もし身体壊したらどうするんですか!」「だから話を聞けって!」彼女の怒気に触れ、俺も声が大きくなる。「・・・仕方ないだろ。書くのが遅くなればそれだけ練習が遅くなるんだ。約束をした限りは俺に責任がある。少々の無理はしょうがないさ」「わたしがお願いしたからですか?」彼女の声が震えている。「そうじゃないって」「わたしがお願いしたからって、あなたに無理させてわたしが喜ぶと思っているんですか!]「だから、違うって言ってるだろ!」「そんな事をしてわたしが恩に着るとでも思ってるんですか!」その言葉に何かが切れた「・・・誰が恩にきさせてるんだ?」彼女の顔付が変わった。苛立つ心を抑えようとしていた冷静さが吹き飛び、逆に言葉が氷の様に冷たくなる。怒りと言うより悲しみを凝縮させた物に近かった。「そうか・・・俺はそんな奴だと思われていたのか・・・」ちがう!言葉の綾だ!彼女は俺の事を心配してくれているから怒ってるんだ。心のそこで鉄格子に入った俺が叫んでいるがどうしようも無かった。「・・・俺はお人よしなんだよ。自分でも嫌になるぐらいにな。だから人から頼まれるとなるべくの事をしてやろうと思う。 断ってもどうせ後で、してやれば良かったのにってウジウジ考えるのが嫌だからな。 だから全部自分の為なんだと思うようにしている。誰かに恩を着せようなんて考えた事なんかねえ!」そんな事で言い争っているわけではない。でも言わずにいられなかった。そういう自分を彼女にわかって欲しかった・・・そう言う自分?・・・どんな自分なんだ?「でも・・・初めにお願いしたのはわたしです・・・その為にあなたが無茶をするのを見るのは辛いです・・・」震える唇でようやく紡いだ彼女の言葉に「じゃあ君の喜ぶ顔も見るなってのか?人の楽しみを奪うようなマネすんな!」・・・ほら化けの皮が剥がれた・・・つまるところ、俺はただのエゴイストなんだ。俺は居た堪れなくなり席をたった。茫然とする彼女に「木下の所にいってくる」と言って逃げるように部室を出ると外にオキデンがいた。「おはようございます」いつもの通りの顔で挨拶するが、さっきからここにいた事はわかる。気まずさが先立ったが、その前に謝らないといけない事がある。「オキデン悪かったな。嫌な思いさせちゃって」「え?ああ、気にしてないですよ。わたしノンキだから」そうは言うが迷惑かけた事には変わらない。「木下にはちゃんと話をつけてくる。俺公演に出るから、いや、今度は俺からお願いするよ。いいよな?」オキデンはもったいぶった顔で「ん~ 仕方ありませんね。出演を許可します」「助かるよ」これで全部俺の責任だ。「それじゃあ練習に遅れますから早く行って来てください。・・・紀美も待ってますよ」心にズンと重石がのしかかる。「わかった、行って来る」俺は走り出し、古巣である部室に急いだ。
May 31, 2010
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