バックマンの思考と試行

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2005年12月08日
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カテゴリ: カテゴリ未分類
タロと呼ばれる犬がいました。
タロは豪邸に住んでいる女の子の飼い犬でした。
タロにはこの家に来る前の記憶がありません。

気付いたらこの家の飼い犬としてここにいました。
女の子にはタロの他にもう一匹飼い犬がいます。
ジロという名の年老いたその犬はタロに「この家の犬としてのあり方」を一から教え込みました。
タロは厳しくも優しいジロは好きでしたがそれより大好きだったのが飼い主である女の子でした。

女の子の喜ぶ顔を見るのが大好きでした。
その顔を見るとタロも嬉しくてたまりません。

が「絶対服従」の意味がタロにはよく分かりませんでした。
けどジロには作法のことではよく怒られましたが「もっと服従しろ」とは一度も言われなかったので女の子を大好きなことが絶対服従の意味なのだと勝手に解釈しました。

ジロはタロに教え込みます。
「この家にふさわしい犬のあり方」を、
「この家にふさわしい犬」は、むやみに吠えたりしません。
吠えるのは主人の言われたことに返事をする時だけ。
「この家にふさわしい犬」は、歩くのも走るのも優雅でなくてはなりません。
「この家にふさわしい犬」は、どんなにお腹が減っていても、どんなに暑くても下品に舌を出したりしません。
タロは必死に「この家にふさわしい犬」になろうとします。
女の子はそんな変わって行くタロが悲しくありましたが、
女の子の前では以前のタロに戻るので安心していました。


そんなタロにも苦手なものがありました。
水がどうしてもダメでした。
最初の頃は水が飲めなくて死にかけたこともありました。
女の子が凄く心配して泣きじゃくっているのをみて、なんとか女の子の与える水は飲めるようになりました。

何ヶ月後にはタロはりっぱに「この家にふさわしい犬」になっていました。

タロは歩くのも走るもの優雅です。
タロは下品に決して舌を出したりしません。
ジロはとても喜んでいます。
実はジロはもうあまり生きれません。
自分の後を継ぐものを欲しかったのです。
タロも、女の子も、ジロも、みんな幸せ、みんな笑っていました。
でもタロは水がダメなままでした。

その日はみんなで庭で遊んでいました。
いつもの様にタロは女の子が投げる肉を食べていました。
一個、二個と投げていき四個目で肉が奪われました。
最初はタロにも奪われたことが分かりませんでした。
何か黒いものが横切った、それはほんとに瞬きをするほどの一瞬でした。
振り向くとそれは黒い犬だと分かりましたが、すぐにその認識はタロの頭のなかで否定されました。
犬ではありえない速さ、いえその存在そのもの、雰囲気がタロにとって犬で
ありませんでした。

タロはすぐに追いました。
けど追いつけません、タロの「優雅に見えるだけの走り」では追いつけるわけありません。
その上相手は犬では無いない「何かわからないもの」なのですから、
見失わない様にするのが精一杯でした。
けどココは僕達の庭決して逃げられない。
そう、ココは四方高い壁に囲まれたタロ達の庭です。
けどタロは忘れていました。
この「黒いモノ」はそれを飛び越えてきたことを

「それ」は路地に入っていきました。
その先は行き止まりでした。
これで追い詰めたぞとタロは思いました。
しかし、しかし、「それ」は目の前に壁が確認できても一向に速度を落としません。
むしろ上げています。
タロは困惑しました。
「バカな、ぶつかるぞ、その速度じゃ死ぬ」思わず脚を止め叫びました。

次の瞬間信じられないものをタロは目撃します。
タン、タン、タン、ターン
それは両脇の壁を蹴り続けて前方の壁を優雅に越えて行きました。
タロはしばらくその場を動けませんでした。
タロは心の底からその姿を美しいと思ってしまいました。

その日からタロの中の何かが目覚めました。
正確には思い出したのですが・・・
ジロにあの黒いモノが何なのかと聞いても
「分からない、多分物の怪の類だろう」と言いましたがタロには「物の怪」が何なのかわかりませんでした。

あの日から女の子もジロも幸せでしたがタロは幸せではありませんでした。
あの日からタロは庭の路地へ行きあの黒いモノのように両脇の壁を使って前方の壁を乗り越える練習をしました。

タロは自分を幸せではなくしたあの黒いモノが許せなかったのです。
ジロはそのことにすぐに気がつき何度もタロにやめるよう言いましたが毎日身体がボロボロになりながらタロは決してやめませんでした。
ただ女の子がタロの姿を見て心配していると聞くと心が痛みました。

そして、その日がやって来ました。
あの日と同じ様にタロが女の子から肉を投げてもらい、
あの日と同じ様に四個目で奪われました。
ただあの日と違ったのは、「それ」はやはり犬だと通りすぎる瞬間タロが確認できたこと、黒い犬の後のすぐ後ろにタロの姿があったことでした。
タロは「彼自身の走り」を取り戻しつつありました。

黒い犬も最初自分が追いつかれそうなことに驚きましたが、すぐ平静を取り戻し、本気の走りを見せはじめました。
タロが追いつきそうなことに喜んだのもつかの間その瞬間に離され始めました。
「くそ!」とタロは言い、あの日と同じように見失わないようにするのが精一杯の自分に腹が立ちました。

あの日と同じ様に路地に入ります。
タン、タン、タン、ターン黒い犬は相変わらず普通のことのように壁を越えていきます。

タロはあの日からずっと練習を続けましたが一度も成功したことがありません。
ただこの時は成功するであろうと直感で悟りました。
今日あの犬を見た瞬間から自分の中の何かが弾け飛ぶのが分かりました。
タン、タン、タン、ターン
あの犬ほど優雅ではありません、必死にギリギリではありますが壁を乗り越えました。

だが次の瞬間タロは絶望します。
着地点は大量の水、そう川でした。
向こう岸にはあの犬がタロにお尻を向けて、尻尾を振りながらタロの存在に気付かぬまま肉をおいしそうに食べていました。
タロは悔しさに全身を震わせながら自分の存在を主張するように雄たけびをあげますがあの犬が振りぬくことはありませんでした。

タロは、流されながら自分が川に落ちることが初めてでは無いことを思い出しました。





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最終更新日  2005年12月09日 13時29分52秒
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