宇宙は本の箱

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猫・・・愛惜


だからまるまる太っている。そんなに毎日一緒にいるのにまだ触らせてもくれない、どころか、餌は欲しくてなくくせに、私の姿を見ると必ず逃げる。けれど私がいないと私の枕でそっと寝ている。

愛おしい野良がいた。もうずいぶん年を取っていたように見えた。毛づくろいもしているふうがなく少し汚かった。
よその家出猫と間違えて網にかかった猫だ。最初は恐がって逃げたが、以後は毎日やってくるようになり、私も餌をあげるようになった。そうすると毎日二回は来る様になった。ベランダのガラス戸の前にチョコンと坐って待っているのだ。何日かが過ぎ、やがて頭をなぜられるようになってみるとゴロゴロと喉をならした。
こんな雨の日は寝れるところで食べさせるのが可哀そうで、中に餌を置くようにしたのだが、絶対に部屋には入らなかった。抱いて入れてやってもまた恐がって出ていつもの場所にもどるので、桟の所に置いてやると顔だけ中にいれて食べた。実に重たかったけれども抱き上げてやると、まるで私の子供のように胸に顔を埋めて目をとじる。そのしぐさがかわいかった。

ある日のこと、ベランダの一番向こうに坐っていた。餌をあげようとしても動かなかった。
声をかけるとこころなし頭を下げたような格好になって、そのまま行ってしまった。
猫はそれ以来来なくなった。
あれは・・・今までの食事のお礼の挨拶だったんだろうか?お別れの挨拶だったんだろうか?
死に場所に向かうんだろうか?そう思うと泣けてきた。
今来ている野良猫も随分太くて元気そうだが年寄りには変わりなく、いつかそうなっていくんだろう。

私は夜になると野良だった太閤を思い出す。
私が電気を消すのをじっと待っていて、消灯すると蒲団に入ってきた。
重たいので胸の上だと苦しいと知ると、頭だけ腹の上に乗せて、体は下ろして、以後はずっとそうだった。
太閤はオスだったから、いつか彼女を見つけて、どこまでも追っかけて行って、楽しい家庭を持ったらいいと思ったが、太閤はメスを追っかけようとはしなかった。獲物狩りも一切しなかったし、我が家の雌猫たちにも優しかった。
そういう猫だから恐い野良に勝てるはずもなかったのに、手術もしないでいた。首輪もつけなかった。それがいけなかった。

夜になると、、、
カーテンの陰で、消灯をじっと待っていた太閤が思い出されて涙が出る時がある。
あのこはまだ二歳だった。。。



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