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名探偵金田一耕助最後の事件とされている。粗筋: 企業グループを運営する五十嵐家は、代々医師を輩出する法限家との結び付きを強化した。法限家はそれが縁で法限総合病院を建てるに至った。 五十嵐家は、縁組みや養子などで法限家を取り込んでいったが、いつの間にか五十嵐グループも法限病院も法限家の娘弥生の管理下にあった。 昭和28年(1953年)。金田一耕助の元に、写真屋本篠徳兵衛の息子直吉が訪ねてきた。彼は、自分の奇妙な体験について話す。 ある日、女が写真屋を訪れた。知人の結婚記念の写真を撮ってもらいたいと。直吉は承知し、指定された場所に出向かう。その場所とは、空襲で破壊されて使用されなくなった法限病院だった。直吉は、注文通りカップルの写真を撮る。新郎は毛むくじゃらの男で、新婦は写真撮影を頼みに来た女性だった。直吉は、なぜ女性が「知人の」だと言ったのかと思う。帰る途中、ジャズバンドの連中が法限病院に向かうのを見た。 直吉は首を捻った。一体この結婚記念写真撮影は何だったのかと。警察に相談したところ、金田一を紹介されたのである。 金田一は、この事件に興味を持つ。数日前に、法限弥生に別件で雇われていたのだ。弥生の孫娘由香理が何者かに誘拐された、と。金田一は、誘拐事件と写真撮影は何か関係があると見た。ジャズバンドのルートから、毛むくじゃらの新郎の身元が判明する。ジャズバンド「アングリー・パイレーツ」のメンバー山内敏夫だった。 そんなところ、弥生から連絡が入る。由香理が帰ってきたので、捜査を中止しろと。金田一はそれに逆らって捜査を続ける。そこで、金田一は気付く。山内敏夫の妹とされる小雪という女が、由香理そっくりだと。しかもその小雪は、弥生の夫が別の女に生ませた子だった。 写真屋本篠徳兵衛の元に、また撮影の依頼が来る。再び法限病院で、と。徳兵衛と、息子の直吉と、助手の房太郎は、言われたとおり病院に向かうと、そこには人間の生首が風鈴を見立てて吊り下がっていた。生首は山内敏夫のものだった。 警察は事件捜査を開始する。山内敏夫の胴体は発見されなかった。また、妹の小雪の姿が見当たらない。警察は、小雪を巡ってジャズバンド内でもめ事が起こり、殺人に至ったのでは、と推測するが、ジャズバンドの者はどれも無罪だった。小雪の行方は不明のままだった。殺されたのでは、と思われる。 誘拐事件について知っていた金田一は、由香理が関係しているのでは、と思う。が、法限家は今回の事件とはあくまでも無関係だと言い張った。 事件は未解決のまま、20年が過ぎた。 法限弥生は五十嵐グループと法限病院の実権を握り続けた。 一方、法限由香理は親戚の五十嵐滋と結婚し、弥生の補佐役になった。由香里と滋の間に鉄也という男子が産まれる。 昭和48年(1973年)。金田一の元に、写真屋本篠徳兵衛の息子直吉が訪れる。彼は父徳兵衛の写真屋を引き継いでいた。写真屋は、徳兵衛の時代で大発展していたが、つい最近亡くなった。直吉は、なぜ父親の写真屋が急成長したのか知らなかったが、父が死ぬ前に打ち明けた。自分は法限弥生を強請っていたのだと。その強請の証拠が手元にあるから、自分が死んだ後は法限弥生に返せと言う。さもないとお前の命が危ないと。事実、徳兵衛が亡くなった後、直吉は数回にもわたって狙われた。恐れをなした直吉は、金田一に相談しに来たのである。 金田一はその証拠物件を預かる。 そんなところ、とうの昔に解散していたジャズバンド「アングリー・パイレーツ」の同窓会が始まった。そこで、直吉の死体が発見される。やはり殺されたのだ。 数日後、「アングリー・パイレーツ」の別のメンバーが殺される。その現場には弥生の曾孫で由香理の息子鉄也がいた。鉄也に直吉殺人の容疑までかかるが、いずれの事件にもアリバイがあった。 鉄也は、手紙を受け取っていた。お前は由香理と滋の間にできた子ではない、由香理と、由香理を誘拐した山内敏夫の間にできた子だと。事実、鉄也は滋とは似つかぬ毛むくじゃらな男で、山内敏夫そっくりだった。 直吉と「アングリー・パイレーツ」のメンバーを殺したのは、鉄也ではなく、鉄也の父滋だった。彼は息子が受け取った手紙を読み、鉄也が自分の子でないのを知った。自分が法限家すなわち五十嵐グループの実権を握る弥生と全く縁がないことを知らされ、逆上した。手紙の送り主だと判断した直吉と「アングリー・パイレーツ」のメンバーを次々殺したのである。 実は、手紙を送ったのは直吉でも「アングリー・パイレーツ」でもなく、徳兵衛の助手だった房太郎だった。滋は房太郎も殺そうとするが、由香理に阻止される。その際、由香理は誤って射殺されてしまった。 金田一は、弥生の元を訪れ、自分が知っている事実を告げる。20年間にわたって由香理として知られていた女性は、実は小雪だった。本物の由香理は、20年も前に死んでいた。 山内敏夫は、由香理と同じ外観で同じ血を引きながら生活状況が全く異なる小雪を哀れんでいた。そこで由香理を誘拐し、自分と「結婚」させ、法限家に恥をかかせることにした。その「結婚」の証拠が、本篠徳兵衛の息子直吉に頼んだ写真である。来店したのが小雪で、山内敏夫と一緒にいたのが由香理だった。直吉はなぜ「知人の結婚写真」と言いながら本人が写真を撮って貰っているんだと不思議がっていたが、実は別人だったのだ。 由香理は、誘拐犯山内敏夫に解放された後、戻って、山内敏夫を殺しに行ったのだが、逆に殺された。しかも山内敏夫も深手を負って、死んでしまった。小雪は、その現場を発見した。生前敏夫に言われたとおり、敏夫の首を切り落として風鈴に見立てた。その後、小雪は弥生の元を訪れ、彼女と相談した。すると、弥生は山内敏夫の胴体と孫由香理の死体を処分することにした。見た目が由香理とそっくりな小雪を由香理として自分の後継者に据えることにした。山内敏夫の胴体と由香理の遺体を処分した人物こそ写真屋本篠徳兵衛だった。だから本篠徳兵衛は弥生を強請れたのだ。 なぜ弥生は自分の孫娘である由香理の遺体を処分し、彼女の死の原因となった小雪を由香理の身代わりとして保護したのか……。それは、弥生の娘で、由香理の母である万里子は、実は夫との間にできた子ではなく、五十嵐家側の叔父との間の子だった。万里子が弥生にも弥生の夫にも似ていなかったのは、それが原因だった。弥生はそのことを引け目に思っていたので、夫が他の女に生ませた子である小雪を拒絶できなかった。 金田一は、この事実を弥生に突き付ける。弥生は何もかも認めた。金田一は、本篠徳兵衛が20年間も持っていた「証拠」を処分することに合意する。弥生は、それを見ながらあの世へ旅立つ。 金田一は、病院坂の事件を20年間もかけて解決したが、それにいたたまれなくなり、日本を去る。アメリカに行くが、消息を絶った。解説: 500ページ近く、原稿用紙で1000枚以上にもなる大作。ただ、そこまで長くする必要があったのか、といった内容の事件。 ペースがのろい。 まともに書けば300ページくらいに収まったのでは、と思ってしまう。 横溝小説といえば複雑な家系を持った家族が登場する。本編も例外でなく、弥生の父や祖父のことや、五十嵐家と法限家の関係がくどいほど述べられている。もう少し整理できなかったのかと思う。縁組みや、孫を子として養子にするなど家系が複雑になっていて、訳が分からない部分が多かった。 金田一耕助は名探偵で、警察も一目置いているとされているが、本編を読んだ限りなぜそうなのかと疑ってしまう。そこまで優秀な探偵とは思えなかった。 金田一は、昭和28年に滋と一緒にアメリカに発った由香理が、実は由香理ではないことを知っていた。指紋を照合できたからだ。にも拘わらず、何の手も打たない。その為、山内敏夫殺人事件と小雪失踪事件は未解決になってしまった。20年後、本篠徳兵衛が死んで息子の直吉が訪れるまで何の行動もしなかったのである。その直吉も、金田一がきちんと手を打っていれば死なずに済んだと思われるが、彼が何もしなかった故に誤って殺されてしまった。 金田一は直吉から預かった証拠物質について弥生に教えるが、それを弥生に渡さない。渡したのは直吉が殺され、滋が誤った人間を殺し、由香理(実は小雪)が死んだ後。彼はその時点で事件は解決したと思っているが、証拠物質を弥生に早期に渡し、滋や鉄也に事情を説明していれば、今回のことは「事件」にならず(時効は過ぎていた)、小雪も由香理として天寿を全うできた筈。しかしそうしなかった為、法限家も五十嵐家も崩壊してしまった。 これのどこが「解決」か。 金田一の自己満足では? 本当に名探偵かよ、と言いたくなる。 驚きも少ない。由香理と思われていた女性は、実は小雪で、本物の由香理はとうの昔に死んでいた、という内容は、二人がそっくりだった、という下りを読んだ時点で予想できた。由香理の許嫁で、後に由香理(実際には小雪)と結婚した滋がすり替えに気付かないなど、他の登場人物の知性を疑いたくなった。 ストーリーそのものも現実的とはいえない。たとえ親類とはいえ、一卵性双生児でもないのに、二人の女性が許嫁さえも欺けるほどそっくりになるとは思えない(滋はかなりとろい男として描かれていたが)。水戸黄門みたいな設定である。 金田一は今回の事件でむなしくなってアメリカに旅立ったというが、そこまでむなしくなる事件だったのか。獄門島や本陣殺人事件の方がもっとむなしい感じがしたが……。 失敗ばかりする自分自身にむなしくなったのか。関連商品:人気blogランキングへ
2006.11.28
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話題の「タリウム母親毒殺未遂事件」の容疑者である女子高生が楽天広場で公開していたとされる日記の内容:6月27日日記を書き始めようと思います。学校の人はこの事を知らないので、嫌な事とかも全て書くつもりです。6月28日今日は暑かったです。昨日も真夏のようでした。昨日は水泳の授業がありました。憂鬱な体育の授業です。7月2日久しぶりに買い物に行ってきました。買ったものは、以下の通りです。瓶500ml・・・5瓶、瓶750ml・・・2瓶、8/4スプレー・・・1缶、チャッカマンミニ・・・1個7月3日今日は本の紹介します。 グレアム・ヤング毒殺日記 尊敬する人の伝記、彼は14歳で人を殺した。酒石酸アンチモンカリウムで、毒殺した。7月7日晴れのち雨そして快晴、この間買った酔い止め薬の通常使用量の8倍の量を飲み干しました。なんか浮かんでいる気がします。ふわふわして地に足が着いてない感じがします。7月11日頭が痛いです。エフェ錠の副作用でしょうか?周りで女子の甲高い声が響いているのが聞こえます、其の音が耳に入る度に、後頭部に鈍い痛みが走ります。7月14日道を歩いていた野良犬を蹴ったら、キャンキャン喚きながら、地べたを這いずり回った。あはは、まるで本当の犬みたい。7月16日今日は図書館に行って本を借りてきました。「死体を語ろう」や「日本列島毒殺事件簿」、「薬物乱用の科学」、「有機科学入門」等を借りました。7月18日お昼頃、買い物をしに歩いていたら道端に血まみれの猫の死体が落ちていました。頭が潰れていて、中から脳髄がはみ出していました。7月19日ネット上の性別は、戸籍上のものとは違うものが使われることが多いのでしょうか?だとしたら、僕の罪も少しは許されると思います。7月23日そんな事は在りえないけれども、もし、一度だけ生まれ変われるとしたら、僕は植物になりたい。大きな喜びは無いけれど、代わりに深い悲しみも無い。7月26日暗闇の大木に揺ら揺らと紅い光を馳せて蝉が光る茶色く干乾びた其の体に命の残り火を燻らせニイと啼く木々の沈黙の中其の声は雨の様に僕の下へと降り注ぐ7月28日僕の中に居る彼女の存在を感じなくなりました。消えてしまったのでしょうか。とても寂しいです。7月30日唐突だけど、僕は酒鬼薔薇少年が好きではありません。自作の詩だという「懲役13年」は、神曲等の有名な詩を切り貼りしただけの代物ですし。8月5日テトラヒドロゾリン―目の充血、鼻づまり改善薬『ABC点鼻スプレー』『ナーベル点鼻・点眼』『リン酸コデイン―鎮咳剤』『コデイン』『リンコデ』『リン酸コデイン』8月6日西友は薬品の品数が少なくて、思った様には行きませんでしたが、テトラヒドロゾリンを5mg/10mlで含んでいる物として、バイシン1箱を手に入れました。早速飲んでみました。同日今まで様々な生物を僕は殺戮してきた。彼等で遊ぶのは楽しかったが、同時にとても疲れた。何故なら、残った肉塊の処理だけでも数時間は優に要したから。同日僕の周りの、僕以外の全ての人にオキシトシンを嗅がせたい。8月9日もしも人間が悪魔であるなら・・・種族そのものが邪悪な存在であるなら・・・その対極にあるべき『善』とは何だ?8月10日赤いマントで興奮するのは、牛じゃなくて観衆。牛は色が見えない。8月14日Benzene Hexachloride―ベンゼンヘキサクロライド―を昨日合成しました。 別名ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH)とも呼ばれる、有機塩素系の殺虫剤の一つ。8月19日薬局から電話がありました。問屋が“酢酸タリウム”と“酢酸カリウム”を間違えたらしいです。直ぐに取り替えるそうですが、待ち侘びています。8月24日酢酸タリウムが届きました。薬局のおじさんは「医薬用外劇物」の表示に気付かず、必要な書類を通す事無く僕に其れを渡してきました。8月25日変な夢を見ました。僕が彼女を食べる夢です。僕は彼女を手、足、胴体、頭の順に食べました。細い腕は魚みたいに痙攣していて、引きちぎれても未だ動きました。同日昨日から母の具合が悪いです。全身に発疹が起こり、特に顔面に症状が強く出ています。今日は皮膚科へ行きましたが、医者もただ首を傾げるばかりで原因は分からないそうです。8月26日お腹が痛いです。原因は解っています。タリウムです。昨日、それの水溶液を誤って指に付けてしまったのです。直ぐに手を洗ったのですが、指先は白く濁ったままです。8月27日寝ても起きても気持ち悪いし、指先とか脚とかが痺れてきたので、解毒剤を作りました。タリウム中毒の治療はプルシアンブルーと塩化カリウムの経口投与によって行なわれます。8月31日暗い部屋で、蝋燭の炎を見る。ゆらゆら、ゆらゆら、おもしろいよ・・・9月4日生き物を殺すという事、何かにナイフを突き立てる瞬間、柔らかな肉を引き裂く感触生暖かい血の温度。漏れる吐息。すべてが僕を慰めてくれる。9月12日今日も母の調子は悪いです。2,3日前から脚の不調を訴えていたけど、遂に殆ど動けなくなってしまいました。二階にある僕の部屋まで来る事も出来なくなりました。9月13日今日は体育の補修で500mを泳ぎました。カフェ錠を飲んでいたので、比較的楽しく泳ぐ事ができました。同日アトロピンの抽出朝鮮朝顔の根もしくは葉を熱湯で湯掻き、炉液をケン化させる。アルカロイドが沈殿するため此れを濾過し、希硫酸を加え硫酸アトロピンとする。9月19日現実の方が大変になってきてしまったので、暫くブログの更新を停止します。すいません。9月26日明日、母は入院します。未だ原因は不明のままです。残念な事に母は余り良い保険に加入していないため、生活は少しばかり苦しくなるでしょう。9月27日隠れる事は喜びでありながら、見つけられない事は苦痛である。見つけられることは危険である。しかし其の逆に、自分が存在していることを確認するためには、誰かに見つけられるしかない。9月28日母はよく泣くようになった。僕に“毒を造って欲しい”“誤って飲んだ事にして貰いたい”とぼやく。自殺衝動が出始めたようだ。10月2日母は入院した。父が呼んだ救急車で連れて行かれた。入院先は近くの病院、布製の担架で運ばれて行った。父も同伴した。少し悲しそうな顔をしていた。同日銀色のベルを揺らせば涼しげな音が鳴るだろう銀色の刃物の先で命が震えている此れはどんな音色を奏でているのか。母の顔を暖かいタオルで拭いてあげた。10月3日今日は病院へ行ってきた。祖父母と兄と僕とで母の見舞いに訪れたのだ。先客として叔母さんが居た。まあ、呼ばれて行ったのだから当たり前ではある。10月某日今日は調子が良い。何でも新しい薬を貰ってきたという。病名も分かった、ストレスによる多発性神経炎だそうだ。検査で何も出なかったからそう判断したらしい。10月某日星が空から落ちる。兔たちはオーブンの中で草むらの記憶すらも硬化させる。500mgに増やしたステロイドの影響だろうか、顔の腫れが目立っていた。10月某日人は輪になって踊る。丘の上で死体を数え、微笑みながら飲み交わす。撃ち殺された男の匂い、引き裂かれた女の匂い。10月某日部屋が変わっていた。4階のB棟、3人部屋だ。10月某日血圧は上が115、下が85であった。殆ど戻ってきたところだ。しかし病状は悪化している。日直の先生も異常を察し、集中治療室へ連れて行った。10月某日特に変化なし、今日も昨日と同じように写真を撮って帰った。長男に目つきが怖いと言われた。寒気がするって、僕は“毎日この顔を洗面台の前で見ているんだぜ。10月16日叔母が言うところによると、母は幻覚を見始めたらしい。居もしない虫や、ドアの傍の白い陰に悩まされていると言う。同日今日の朝、先生に筆記用具を借りた。其の時泣きながら母の話しをして、同情を得た。人って案外簡単に騙されるものなんだと思った。同日蒼ざめた馬の通る道に、規則は存在しない。暗闇を進む足跡は草木を枯らし、死を招く。其処に生命は宿らない。在るのは寂しい同じ形。 ……以上。人気blogランキングへ
2005.11.03
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テレビシリーズを原作として制作されたイコライザー・シリーズ第3弾。 主人公のマッコールはデンゼル・ワシントンが引き続き演じる。 原題は「The Equalizer 3」。日本では「THE FINAL」となっていて、最終作である事を強調している。 制作者側も3部作としているので、最終作と称しても間違いは無いのだろうが、興行収入によっては第4弾の制作も有り得るので、日本で勝手に「THE FINAL」としてしまうのはどうかねと思わないでもない。粗筋 アメリカ情報局の特殊工作員であったロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)は、イタリアのシチリア島を牛耳るマフィアが所有するワイナリーを襲撃する。 目的の品を取り返したマッコールはその場を去ろうしたが、マフィアのボスの子供に油断し、銃弾を背中に受けてしまう。 重傷を負ったマッコールはイタリア南方のある田舎町で力尽き、車の中で意識を失っていたのを地元の国家憲兵に属するジオ(エウジェニオ・マストランドレア)に発見される。 ジオは、マッコールを町で長年医者を務めてきたエンゾ(レモ・ジローネ)の元に運ぶ。 エンゾとジオは、マッコールが被弾していた事を知るが、エンゾは「転んで負傷した」という事にし、ジオもそれを受け入れる。 マッコールはエンゾの計らいで、町で療養する。 一方、CIA局員のエマ・コリンズ(ダコタ・ファニング)は、マッコールからワイナリーで偶然発見した代物について通報を受ける。現場に赴くと、ワイナリーでは死体と共にテロリストに流れていると思われる薬物や資金を発見。捜査を開始する。マッコールの身元や居所も直ぐ掴み、接触。何故自分に通報したのか、と彼に問うが、マッコールは適当にはぐらかす。 マッコールは、町の人々との交流を通し、町での生活に安らぎを感じる様になっていたが、この町も平和でない事に次第に気付いていく。 マルコ(アンドレア・ドデロ)一味が率いるチンピラが、場所代と称して町内の店をカツアゲしていたのだ。支払いに応じない者に対し、マルコは暴力を振るって金をもぎ取っていた。 マルコはナポリを拠点とするマフィアのボス・ビンセント(アンドレア・スカルドゥツィオ)の実弟とあって、町民は誰一人反抗出来なかった。 マルコは、ビンセントに対し、カツアゲでは物足りないのでもっとでかい事に参加させてくれ、と願い出る。 ビンセントは、カツアゲはただの始まりで、町ごと地上げしてリゾートとして開発するつもりだ、という計画を打ち明ける。その為にもカツアゲをしっかりやれ、と命じる。 マルコは、カツアゲを激化。支払いに応じていなかった店を放火する等の行動に出る。 監視カメラ映像から、ジオは放火犯らしき人物らが利用していた車両のナンバープレートについて、当局に問い合わせする。しかし、その捜査活動はマルコ側に筒抜けだった。 マルコ一味はジオの住まいを強襲し、ジオの家族の前で暴力を振るい、次はお前の妻と子供を痛め付けるぞと脅迫する。国家憲兵のジオも、ここまでされると手も足も出なかった。 マルコの行動を監視していたマッコールは、後日ジオに対し難題を押し付けようとしたマルコを撃退。 正体不明のアメリカ人に恥をかかされたマルコは、直ちに戻ってマッコールをぶっ殺してやると宣言。 が、マッコールはその行動を読んでいて、マルコ一味を容赦無く殺害する。 弟を殺されたビンセントは、息が掛かっている警察署長に対し、弟を殺した奴の正体を掴んで来いと命じる。 警察署長は、今は派手な行動を控えた方がいい、と忠告する。CIAの女がやって来て、ビンセントが絡んでいる薬物や資金の取引について嗅ぎ回っている、と。 ビンセントは、その忠告を一蹴。警察署長にも暴力を振るう有様だった。 エマは、ビンセントらによって車ごと爆殺されるところを、マッコールの電話による警告で間一髪で逃れたが、重傷を負ってしまう。 ビンセントは、町に自ら乗り込み、弟を殺した奴を差し出さないと町民を全て殺すと脅迫。 町民が集まる中、マッコールが姿を現し、お前の弟を殺したのは俺だと名乗り出る。 ビンセントはその場でマッコールを殺そうとするが、町民がスマホでその場面を撮影し始める等して抵抗した為、お前を殺しに必ず戻って来る、と告げて町を一旦離れる事に。 住まいに戻ったビンセントは、翌日にも町に戻って町ごと潰してマッコールも殺すと誓い、その夜は眠りに就く。 が、それはマッコールの思うつぼだった。マルコの背後にいた黒幕の正体を掴み、その居所も掴めたので、マッコールはその夜の内に強襲。 ビンセントの手下を抹殺してビンセントを孤立させた後、気を失わせる。 目を覚ましたビンセントは、マッコールに告げられる。お前が扱っていた薬物を大量に投与してやったので、過剰摂取で間も無く死ぬ、と。 解放されたビンセントは、街中を彷徨った後、薬物による症状で死ぬ。 それを見届けたマッコールは、その場を去る。 CIAとイタリア当局による合同捜査により、マフィアが中東のテロリスト集団と組んで薬物取引して資金を得ていた事実が明らかになり、多数が摘発された、というニュース報道が、テレビで流される。 その報道を病室で見守るエマの元に、マッコールが見舞いに来る。 エマは、マッコールが何故イタリアにまでやって来てマフィアを始末し捲ったのか、その理由を問う。 マッコールは答える。知人がサイバー強盗で老後の資金を盗まれてしまったので、それを取り返そうと辿って行ったらワイナリーに行き着いたので、そこに乗り込んで金を回収しただけだ、と。ワイナリーを隠れ蓑にしていたマフィアが薬物取引や中東のテロリスト集団と絡んでいたのは乗り込むまで全く知らなかったし、その薬物取引にビンセントが絡んでいて、ビンセントが自分が療養していた町を地上げしようとしていたのは全くの偶然だった、と。 エマは、知人の為にそこまでやるのか、と疑うが、マッコールはワイナリーから回収した金を病室に残して去る。 エマは、マッコールに教えられた老夫婦の元を訪れる。その老夫婦は老後の為の資金を全て失い、家を手放さなければならないところだった。エマは、マッコールが回収した金を返すが、老夫婦はどこの誰が回収に動いてくれたのか、全く分からなかった。マッコールと老夫婦の接点は、ほんの一瞬の出来事だったのだ。 CIA本部に戻ったエマは、イタリアでの薬物取引の摘発の功績が認められ、昇進する。同時に、マッコールからのメッセージを受け取る。お前の亡き母も喜んでくれるだろう、という内容だった。エマは、マッコールが自分の母親でCIA局員だったスーザン・プラマーの知人である事を知った。感想 イコライザー・シリーズ第3弾。 第1弾、第2弾と同様、マッコールの容赦無い殺戮が描かれている。 よって、日本ではR-15に指定されている。 圧倒的な強さで、無敵のマッコール。本気を出すと、イタリア国家機関を牛耳るマフィアですら、一方的に倒されてしまう。 そこまで隙が無い筈のマッコールなのに、冒頭のワイナリーの襲撃後、マフィアのボスが連れ添って来た少年に背を向けてしまい、撃たれ、重傷を負って今回の舞台となる町に辿り着き、新たな戦闘に巻き込まれていく。 子供でも油断出来ないというか、子供だからこそ油断出来ない筈なのに、何故背を向けたのか、よく分からない。 マッコールの事だから、ワイナリーで薬物を発見し、只事じゃないと察して、ある町が関係していると推測し、その町に潜伏し易い状況を作る為あえて銃弾を受けた、というのは考え過ぎか。 マッコールは死体の山を築き、その殺戮の現場に警察が乗り込んで捜査を開始するが、警察の手がマッコールに及ぶ気配を見せないのは、第1弾と第2弾と同様。 用意周到に殺すので証拠を残さない、という設定なのかも知れないが、その割にはビンセントに薬物を投与して殺した時は、意識が朦朧として街中を彷徨うビンセントの後を付け、彼が息を引き取るのを大勢の目撃者の前で確認した上でその場を立ち去っている。これはどう切り抜けたのか。「知らない人が自分の側で突然倒れただけ」と言い訳したのか。 この手のご都合主義を一切排除して作品を制作しろ、となったら何も制作出来なくなってしまうんだろうけど。 敵も味方も全てマッコールの思惑通りに動き、死ぬべき者は全て死に、助かるべき者は一応死なずに助かり、とりあえずハッピーエンド。 R-15指定されているとあって、暴力の描写はかなり強烈だが、頭を空っぽにして楽しめるハリウッド的なエンターテインメント作品に仕上がっている。 マッコールは普段は温和な性格で、一般市民の間に難無く溶け込めるが、実際は殺しのプロ。 いざ殺すとなると相手が抵抗する間も無く、問答無用で、無表情で、効率的に殺す。 が、それは雑魚相手の場合に限り、本当の悪に対してはじわじわと効率悪くなぶり殺しにする残虐性も持ち合わせている。 演出の仕方によっては非常に陳腐になってしまうが、この二面性を説得力ある形で演じられるのは流石デンゼル・ワシントン、といったところ。 本作を観ると、イタリアはマフィアが牛耳る危険な国家、という印象を受けてしまうが、実際はどうなのかね、と思う。 確かに、マフィアのルーツとなる地かも知れないし、マフィアが現在も暗躍しているのかも知れないが、作中の様に表立って悪事を働けるのか。 流石に今は摘発されていると思うが。 本作で、イコライザー・シリーズは完結との事だが、シリーズ作はどれも評価が高く、興行的にも成功しているので、要望があれば続編が制作されそう。 デンゼル・ワシントンも、一応その意欲はあるとの事だし。 一方、もし続編が制作されるとなったら、本作の続きではなく、前日譚になる可能性もあるという。デンゼル・ワシントンより若い俳優を起用し、マッコールの工作員時代を描くものを構想しているとか。 それだと全く違うものになってしまうので、それはどうかねと思う。 本シリーズは、アメリカではそれなりの扱いを受けているが、日本では全く取り上げられていない。 デンゼル・ワシントンも来日してプロモーションする等はしていない。 本作に於いては、公開を偶然知り、急遽劇場に足を運んだ。 邦画も洋画も結構しょうもないものは執拗に推してくるのに、何故本シリーズがここまで冷遇されているのか分からない。イコライザー [ クロエ・グレース・モレッツ ]価格:1,320円(税込、送料無料) (2023/10/26時点) 楽天で購入
2023.10.26
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福井晴敏のデビュー作。 第44回江戸川乱歩賞受賞作品。粗筋: 米国海兵隊が突如沖縄から撤退する、と宣言。 日米共に混乱に陥る。 ……と思われていたのだが……。 平は、陸上自衛隊でリクルーターの仕事をしていた。以前はヘリ部隊に所属するパイロットだったが、墜落事故をきっかけに精神上の問題で操縦桿を握れなくなってしまい、リクルーターの仕事へと飛ばされたのだった。 ある日、平は、元自衛官の東馬と再会。平と東馬は、防衛省が編成を試みていた自衛隊版海兵隊のメンバーだった。が、平がそこでの訓練中に起こった墜落事故で入院している間に自衛隊版海兵隊は解体されてしまい、東馬とも連絡が取れなくなっていたのだ。 平は、その時点では東馬との再開に特に疑念を持たず、そのまま別れた。 それから間も無く、平は何者かに拉致される。 拉致したのは、同業者である筈の自衛隊に属するスパイ機関だった。そこで、機関に属する由梨という女性と会う。 由梨は、米海兵隊が沖縄から撤退したのは、東馬の仕業だと説明。コンピュータウィルス攻撃で在日米軍施設を無力化し、米軍が撤退せざるを得ない状況を作り出したのだ、と。 それだったら東馬をさっさと拘束しろと平は疑問に思うが、状況はそう簡単なものではなかった。東馬にコンピュータウィルスを持たせたのは、日本の軍国化を狙う防衛省の一派だという。また、東馬は米国政府そのものを揺るがす情報を握っていた。東馬は、日本側も、米国側も、自分に迂闊に手を出せない状況を作り出した上で、テロリスト「トゥエルブ」として、コンピュータウィルスによるテロを繰り広げていたのだ。 東馬の行動は防衛省によって監視されていた。これまで誰とも特に接触していなかったが、ふとした所である人物と接触。それが平だった。東馬の手にあるコンピュータウィルスの回収を任務としていた由梨は、平を人質にすれば東馬が何らかの行動を起こすのでは、と期待した。 東馬は、その期待に応えるかのように、平を奪還する計画を実行。実働部隊の先頭に立っていたのが、東馬の「娘」とされる少女の理沙だった。理沙は、その見掛けからは想像出来ない戦闘能力を発揮し、平を奪還。東馬の元に連れて行く。 平は、自分の意思に反してあちこちに連れて行かれるのを、許すしかなかった。 東馬と再会した平は、彼や、日本側や、米国側が何を企んでいるのか、どういった思惑で動いているのか、と問いただすが、明確な返事は得られない。東馬が日本の欠陥だらけの防衛政策や、それを許す日本政府、更にその状況を受け入れている日本国そのものに対し不満を持っていた。その上米国政府にも嫌悪感を抱いており、たった一人で日米双方を相手に戦いを挑んでいたのだ。 東馬の生い立ちも明らかになっていく。 東馬は、実は後に米国大統領にまで上り詰めた情報局員と、日本人女性との間に生まれた子だった。大統領に混血の隠し子がいて、しかもその隠し子にスパイ活動させていた、というのは米国にとっては表沙汰に出来ない弱みで、それこそが東馬に迂闊に手を出せない理由だった。 が、流石の米国も業を煮やし、ついに実力行使に打って出る。東馬の隠れ場所を襲撃したのだ。 そのゴタゴタで平は再び自衛隊スパイ機関に拘束される。 一方、東馬は理沙と共に命辛々逃げ出し、最終目的地である沖縄へと向かう。 沖縄では、唯一残っていた米国の特殊部隊が東馬を迎え撃つが、周到に準備していた東馬の奇策により壊滅状態に陥る。 東馬は、沖縄の普天間基地の奥底に隠されていた化学兵器「GUSOH」へと向かう。これを使うと、沖縄は全滅する。日米共に混乱に陥る。これは、日本の軍国化を狙う防衛省の一派にとって、願ってもない事だった。だからこそ東馬を「利用」していたのだ。 そこへ、ヘリを再び操縦出来るようになった平が、ヘリを飛ばして到着。 東馬を阻止するのと同時に、軍国化を狙う防衛省一派の野望も打ち砕く。解説: 日本ではなかなか有り得なかったミリタリーアクション。 血湧き肉躍るサスペンスを期待して本を開いたのだが……。 不完全燃焼のまま最後のページを迎えてしまった。 冒頭から小難しい文章が延々と続く。 それはそれで、ハードなテクノスリラーとしては悪くない。 が、それから間も無く物凄い戦闘能力を持つ美少女戦士理沙や、美人の女性自衛官由梨が登場する。 この時点で、シリアスな筈の小説が、ただのミリタリーオタク向け漫画のノベライゼーションに。 ミリタリーオタク向け漫画のノベライゼーションも、そうと割り切って書かれていれば、読む側としてもそれなりに楽しめる。 しかし、美少女戦士・美人自衛官登場後も文体はテクノスリラー振っており、小難しい軍事用語、そして著者個人の押し付けがましい国家論と防衛論が延々と続く。 ストーリーそのものと、文体のバランスが取れていない。 著者は、自身は物凄くシリアスな内容の小説を書いているのだと信じて疑っていないらしい。が、読む側は「結局ミリタリーオタク向け漫画ノベライゼーションでしょ?」と一歩引いた目で見てしまうのである。 シリアスなアクションが続き、漸くテクノスリラーらしくなってきたかなと思うと、また例の美少女理沙が現れて超人的な戦闘力で敵をバタバタ倒す、美人女性自衛官由梨が登場して男勝りの大活躍をしてみせる、といった場面が挿入され、ミリタリーオタク向け漫画ノベライゼーションへと引き戻してしまう。 それの繰り返し。 作中の米国の描き方も、あくまでも反米思想を持つ(らしい)著者の視点に立ったものに過ぎず、アメリカの実情を正確に捉えたものとは言い難い。アメリカ人寿司職人がカリフォルニアロールを「正統な日本の寿司」と称して出すのと同じ。当の寿司職人は真剣なのかも知れないが、日本人の感覚からするとずれている。本作の「アメリカ」も、アメリカ人の感覚からすれば物凄くずれたものになっている。 そもそも米軍が、日本で作り出されたコンピュータウィルスによる攻撃で完全に不能に陥り、沖縄からの撤退を余儀無くされる、という事態は有り得ない。 サイバー戦争においては、昔も今もアメリカは最先端にあり、日本如きに振り回される程弱くは無い。「技術大国ニッポン」の虚構を未だに信じているのか、と呆れてしまう(本作は発表されてからかなり経っているので、現在だったらこの手のものを書かなかったかも)。 テロリスト「トゥエルブ」である東馬は、米国大統領にまで上り詰めた人物の隠し子だった、というのが本作の鍵の一つとなっていて、この事実は日米関係は勿論、米国政府をも大きく揺るがず、とされているが……。 大統領に隠し子がいた、戦後間も無い日本で駐在中に現地の女性との間に生まれた、しかもかなり後にその隠し子と再会した時、スパイとしてリクルートし、利用した、という事実は、あくまでも大統領個人のスキャンダルに過ぎない。国家元首とはいえ、超大国アメリカが、一個人のスキャンダルを隠蔽したいが為に長期的国家戦略を大転換する、というのは有り得ない。下手に隠すより、事実を全てさらけ出してやり過ごす方が得策だ、と考えるだろう。よくよく考えれば、米軍兵が他国に駐在中に現地の女性と深い関係に陥り、子を作ってしまった、というのは珍しい出来事ではなく、それが大統領であったとしても、国家を揺るがすスキャンダルとして騒がれるか、というと疑問である。 たったこの一つの「事実」により、米国は迂闊に東馬に手を出せない、という設定になっている。が、様々な特殊部隊を有する米国が、サイバーテロ攻撃を慣行した犯人が特定されているにも拘わらず、平が関わりを持つまで何の手も打てなかった、打たなかった、というのは有り得ない。海兵隊を沖縄から撤退させる労力を考えれば、東馬一人をさっさと確保した方が早い、と判断する筈。 日本側も、東馬を利用する側と阻止する側に分かれて戦う、というグダグダ状態。 それに「同盟国」である筈のアメリカが「敵」として加わるから、一層グダグダ。敵味方が裏切りや「予想外の展開!」でガンガン入れ替わるので(東馬も極悪人として描かれてはいない)、最終的にはどうでも良くなってしまっている。 勧善懲悪とまではいかなくても、敵味方はある程度固定し、シンプルに進めてほしい。 これといったサスペンスが無いのも問題。 ……米国を沖縄から追い出したテロリスト。 その正体とは……? こうして、謎のテロリストとそれを追う防衛省の攻防を描くのかと思いきや、テロリストの正体は冒頭で明らかにされてしまう。よく分からない「協定」の為、身元が分かっているにも拘わらず当局は手を出せない(出さない)。テロリストは、美少女戦士の手を借りて、最終目的である沖縄攻撃を実行。 あるテロリストがとんとん拍子で計画を実行する模様(多少の犠牲は払うが)と、それに対しろくな手を打てない政府機関の無能振りが描かれているだけで、「この後どうなるのか?」と期待させる部分が無い。 主人公・準主人公クラスのキャラが無駄に多いのも問題。 悪役の東馬、それに従う美少女戦士理沙、二人を阻止しようと動く平、自身の思惑で東馬を追う美人自衛官の由梨。 美少女戦士と美人自衛官を省いて、東馬と平という男同士の命懸けの戦い、という構図にしていたら、もっと分かり易い、シリアスなものになっていたのに、と思う(ミリタリーオタク向け漫画ノベライゼーションにもなっていなかっただろう)。 何故著者は美少女・美人を挿入する事にこだわったのか(他の著作でも同じ構図になっている)。 本作のタイトルの「Twelve Y.O.(12歳)」は、戦後日本を統治したGHQ司令官マッカーサーが、日本について述べた言葉を基にしている。 日本の精神年齢は12歳で、昔も今も大人になり切れていない、日本は国防や主権について真剣に取り組んで、「大人」へと成長すべきだ、が本作のテーマらしい。 ただ、マッカーサーの「12歳」の発言は、日本における民主主義の成熟度についてそう述べた、というのが一般的な見解で、日本や日本人そのものを「12歳」と貶した訳では無い。戦後のマスコミにより「日本」「12歳」に本来無かった尾頭が付けられて一人歩きし、「日本人の精神年齢は12歳」報道へと繋がったとされる。 著者は、「大人になり切れていない日本」をテーマに様々な小説を発表している様だが……。 シリアスな筈の小説に美少女や美人を当たり前の様に登場させる矛盾からすると、本人も完全に大人になり切れていない感じ。 結局小説家(というか人間全体)なんて皆そうだろうと言ってしまえば、確かにそうななのだが。 本作は、江戸川乱歩賞受賞作品。 江戸川乱歩賞は、国内では最も歴史があり、権威のあるミステリー小説文学賞。 ただ、受賞作そのものは、受賞作であるという事以外はこれといった特色の無いものが殆ど。 本作も、その例から漏れない。
2015.06.12
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ショーン・コネリーとニコラス・ケイジが主演するアクション映画。 1996年公開。 敵役として、エド・ハリスが出演する。 また、SEAL部隊の隊長として、マイケル・ビーンが出演。 日本ではPG12指定となっているが、観る限りではそう残酷なシーンは無く、何故PG12指定になったのか、よく分からない。 原題は「THE ROCK」。舞台となったアルカトラズ島の別名でもある。粗筋 アメリカ海兵隊のハメル准将(エド・ハリス)は、政府に憤りを感じていた。 ハメルはこれまで数多くの非合法作戦に従事し、多くの部下を失っていた。非合法活動であるが故に、作戦が失敗すると見殺しにされ、公にされる事も無い。また、見殺しにされても遺族に恩給が支払われないのも当たり前だった。 ハメルは上層部や政府に、せめて遺族に恩給を与えるべきだと訴えてきたが、ことごとく無視されてきた。 事態を打開する為に、ハメルは強硬手段に出る。部下と共に化学兵器VXガスを奪取し、サンフランシスコ湾に浮かぶ元刑務所アルカトラズ島(通称「ザ・ロック」)に観光客81人を人質に立て籠もり、遺族へ渡す補償金として現金1億ドルを要求する。要求が受け入れられない場合はVXガスを搭載したロケットをサンフランシスコに撃ち込む、と。ロケットが撃ち込まれた場合、サンフランシスコに居住する90万人は全滅してしまう。 事態を重く見た政府は、海軍特殊部隊SEALをアルカトラズに送り込む事を決める。ただ、SEALも、相手に気付かれず侵入する方法が必要だった。アルカトラズからの脱走に成功した者なら、侵入に利用出来るルートを知っているのでは、と考えたが、アルカトラズは脱走不可能とされた刑務所。脱走を試みた者は何人かいたが、成功した者は一人もいない、というのが公式記録だった。 が、FBI長官は知っていた。実はアルカトラズからの脱走に成功した者が一人いる事を。その人物は存在しない事になっていたので、公式記録には載っていなかった。 FBI長官は、その人物が収監されている場所へ向かう。アルカトラズからの脱出は成功したものの、後に捕まり、30年間裁判すら行われず収監されていたのだ。 FBI長官は、その人物―ジョン・メイソン(ショーン・コネリー)―に、協力を求める。 メイソンは、恩赦を条件に、協力する事に。図面を見せられ、脱出の際に利用したルートを示す様、命じられるが、脱出は三十年以上前の事で、しかも暗がりの中で数日間掛けて行ったので、現地に行ってみないと記憶がよみがえって来ない、と言う。 FBI長官は、それは許可出来ないと主張するが、SEALは作戦成功の為に同行させるのが必要ならそうすべきだと主張。メイソンは、SEALと同行する事になった。 VXガスを安全に処理するには、化学の専門家が不可欠だった。FBI捜査官スタンリー・グッドスピード(ニコラス・ケイジ)がサンフランシスコに派遣される。研究所で毒ガスを処理するのが仕事なので、戦闘が起り得る現場には送り込まれないだろう、と思っていたが、現場に行ってVXガスを処理しなければならないと説得され、SEALに同行する事になってしまう。 アンダーソン中佐(マイケル・ビーン)率いるSEALは、メイソンの案内で、アルカトラズに侵入する事に成功する。 が、ハメルは政府が特殊部隊を送り込んで来る事は想定していた。 SEAL部隊は、ハメルの部下に包囲され、銃撃戦で全滅する。 銃撃戦の場に居合わせなかったメイソンとグッドスピードだけが生き残った。 メイソンは、自分の役割は終わったと判断し、逃走しようとする。 が、グッドスピードは、逃走しても無駄だ、とメイソンを説得する。VXガスを搭載したロケットが発射されたら、サンフランシスコが全滅するので、お前も死ぬぞ、と。 メイソンは、嫌々ながらもグッドスピードに協力する事に。 グッドスピードは、アルカトラズ各所に配備されたロケットを発射不能にする作戦に出る。発射出来なければ、仮にVXガスが放出されても、アルカトラズに留まり、犠牲は最小限に留まる、と。 メイソンとグッドスピードは、ロケットを次々と発見し、内蔵された基盤を取り外して破壊し、発射出来ない様にした。 ハメルらは、侵入者が全滅していないのを知り、メイソンとグッドスピードを執拗に追う。 多勢に無勢のメイソンとグッドスピードは、捕まってしまう。 独房に入れられている最中に、グッドスピードはメイソンの素性を知らされる。 メイソンはイギリスの工作員で、アメリカに潜入し、様々な機密情報を記録したマイクロフィルムを盗み出したが、出国する直前にアメリカ当局に拘束された。イギリス政府は、同盟国に対しスパイ活動を行っていたと認める訳にはいかなかったので、メイソンの存在を関知しなかった。アメリカ政府は、盗んだマイクロフィルムの在処を教えろとメイソンを責め立てる。が、イギリス政府が自分の存在を関知しないとした以上、マイクロフィルムの在処を教えたら人知れず葬られるだけと読んだメイソンは、頑として教えなかった。そこで、アメリカ当局はメイソンを「身元不明者」としてアルカトラズに収監したのだった。 メイソンは、30年前と同じ手法で独房から脱出。グッドスピードと共にロケットの無効化作戦を続行する。 一方、ハメルは残ったロケットで脅迫を続ける。 政府はテロリストの要求には応じられない、と拒否。 ハメルは、ロケットを計画通り発射すべきと主張する強硬派の部下らに押され、ロケットを1発発射。 ロケットは、数万人の観客がいる競技場を標的とし、向かっていたが、到達直前にハメルが標的を変更。ロケットは海に落下する。VXガスは誰も傷付ける事無く海に沈む。 ロケットが競技場ではなく海に落下したと知った強硬派の部下らは、何故ハメルがそんな事をしたのか、と問い詰める。脅迫の意味が無いではないか、と。 ハメルは、あくまでも政府から譲歩を引き出したかっただけで、民間人を殺す気は無かった。譲歩を引き出せなかった以上、計画は失敗したと宣言し、部下らに自分を残して逃げる様、指示する。 が、強硬派の部下は、その指示に納得できなかった。金の為に今回の計画に参加したのに、何の報酬も得られず、しかもアメリカ政府に追われる立場となっては、骨折り損のくたびれ儲けではないか、と。 ハメルの部下の間で銃撃戦が起り、ハメルは致命傷を負う。 ハメルは、最後のロケットの場所をメイソンらに教えると、息を引き取った。 メイソンとグッドスピードは、最後のロケットが設置された灯台に向かう。 一方、アメリカ政府は、SEAL部隊が全滅し、VXガスの脅威がそのままである以上、強硬策に出るしかない、と判断。 戦闘機でアルカトラズに爆弾を投下して島を丸ごと破壊し、VXガスを無害化する、という作戦を実行に移す。これにより人質に取られた80人の観光客は犠牲になるが、90万人を救うにはそれしかない、と。 爆弾を搭載した戦闘機が、サンフランシスコへ向かった。 メイソンとグッドスピードは、ハメルの部下の生き残りを始末し、ロケットを無効化する。 グッドスピードは、事態が解決した事を示す合図である発煙筒を焚く。 それを確認した政府は、爆弾投下直前の戦闘機に作戦中止を命じる。 グッドスピードは、FBI長官に連絡。メイソンは死んだ、と嘘を吐いた。FBI長官がメイソンに恩赦を与える約束を反故にする事を知っていたからだ。 メイソンは、グッドスピードにマイクロフィルムの在処を教えた後、その場を去る。 グッドスピードは、その後メイソンに教えられた教会に向かい、マイクロフィルムを回収した。感想 ハリウッドらしいアクション映画。 主演が60代のコネリーと、3枚目っぽいケイジという組み合わせも、いかにもハリウッドらしい。 検証すると、ストーリーが穴だらけ、というのも、まさにハリウッド。 SEALは、メイソンの脱出ルートを逆になぞって、アルカトラズに侵入する事に成功。 島に上陸する事に成功したのだから、それから先はメイソンの脱出ルートにこだわらずに、臨機応変に動いて制圧すれば良かったのだが、どういう訳かメイソンの脱出ルートを逆になぞる事にこだわる。 メイソンは、収監者用のシャワールームの排水溝から脱出していた。SEALは、何故かそのシャワールームを経て館内に侵入する事に。 ハメルは、アルカトラズ内の至る箇所に感知センサーを設置していて、シャワールームにも設置されていた。「SEALは感知センサーを発見出来ず、運悪く作動させてしまい、ハメルらに包囲され、全滅した……」という展開ならまだ分かるが、SEALは光ファイバーを使って感知センサーを発見している。その時点で「ここには罠が仕掛けられている可能性があるから、別ルートを探して侵入しよう」と考えるのかと思いきや、SEALは感知センサーを少しずらして、排水溝からシャワールームまで上がろう、と何故か決めてしまう。 シャワールームは、収監者が大勢で利用しても看守が見下ろして状況を把握出来る設計になっていた。ハメルの部下らは、SEALの頭上から銃撃して、全滅させる事に成功。 SEALが全滅した事で、「この危機を打開出来るのはメイソンとグッドスピードの二人だけ!」という状況を作り出し、映画の緊迫度を上げる事に成功しているが、何故SEALをここまで無能にしたのか、制作者の意図が分からない。 SEALを一人くらい生存させ、後に死亡する、という展開にすれば良かったのに。 VXガスは、ガラス容器に入れられた状態で保管されていた。 ガラス製なので、落として割るとガスが四散し、周囲にいる者を殺す。 そこまで危険なガスを、何故破損し易いガラス容器に収めたのか、分からない。衝撃に耐えられる容器に収めるのが常識だろう。 冒頭シーンでは、ハメルの部下の1人が誤って落としてしまう。その結果、VXガスを吸い込んで死んでしまっている。 ここまで壊れ易いものだと、取り扱いで事故が発生し捲っているだろうし、ロケットに搭載したら、発射の衝撃や振動で破損してしまい、標的に辿り着く頃にはガス残っていない可能性もあるのではないか。 といっても、映画のクライマックスでは、グッドスピードが容器を胸ポケットに突っ込んで取っ組み合いをするシーンもある。その時だけはやけに頑丈だった(これもハリウッド的)。 本作が公開されてから数年後、イギリス政府はイラクが化学兵器を大量に生産している証拠を掴んだと発表し、それを口実にアメリカ主導のイラク侵攻に参加し、当時のフセイン・イラク大統領の排除に貢献した。 ただ、口実となった証拠は、後に偽物と発覚。化学兵器がガラス容器に入れられて保管されているという証言が記されている等、本作と酷似していたという。 この件に関しては、本作の制作者も驚いたらしい。「化学兵器をガラス容器で保管したのはあくまでも映画上の演出。化学兵器をガラス容器に入れて保管するなんて有り得ないと専門家なら気付く筈」とコメントしている。 制作者も充分理解していた以上、本作で「VXガスをガラス容器で保管するのはおかしい」と指摘するのは野暮か。 元イギリス諜報員メイソンを、ショーン・コネリーが演じている。 007を引き継いだ感のあるキャラで、よくコネリーが出演を承諾したな、と思う。 もしくは、コネリー自身が色々提案した結果、007寄りになってしまったのか。 初代007でありながら、降板後は007嫌いを公言していたコネリーだが、何だかんだで007から逃れられない運命にあったらしい。 30年間収監されていた、という設定の割には、よく動ける。イギリス諜報員だったとしても、動き過ぎだろう。 FBI所属の化学専門家を演じるのは、ニコラス・ケイジ。 本作では、少々頼りない役を演じている。 悪役も善役も、二枚目も三枚目も演じられるのは、ケイジならでは。 ただ、コネリーとハリスに挟まれ、存在感が薄れてしまっていた。 流石のケイジも、コネリーと同時出演だと、個性が活きないらしい。 勿体無いのが、SEAL部隊長を演じたマイケル・ビーン。 ターミネーターではヒーローを演じる等、数々の大作に起用されていて、1980年代から2000年代までは、特殊部隊員=マイケル・ビーンというくらい当たり前に登場していたが、何故か主役には起用されない。本作でも、途中であっさりと退場。 最後までまともに生きている、という役を演じたのを観た事が無い気がする。 ハリウッド大作の俳優としては大成はしていない様だが、その後も数々の映画やテレビ番組に出演しているので、本人はそれなりに満足しているのかも知れないが。 敵役のハメル准将を演じるのが、エド・ハリス。 当初彼の役柄はひたすら残酷なテロリスト、という設定だったらしいが、ハリスの意見を取り入れ、ハメルを人格者にしている。 ただ、あまりにも人格者にしてしまった為、そもそも何故ハメルはこんな行動を起こしたのか、という矛盾を生み出している。 ハメルは数々の非合法活動に従事したものの(アメリカによる交戦記録が正式に無い中国にも潜入して戦闘を繰り広げた、という事になっている)、それが政府に全く認められなかった事が、動機とされる。 一方で、VXガスを奪う際は警備隊員を気絶させるだけで一人も殺さず奪っているし(部下の一人がVXガスで死んでいるが)、アルカトラズを乗っ取る直前に学校行事で観光に来ていた子供らに対しツアーを切り上げてさっさと帰れと促しているし、VXガスを搭載したロケットを発射するものの標的を変えて海に落下させて誰も死なせずに済ませている。SEALとの銃撃戦も彼の命令で始まったのではなく、部下が勝手に始めたもので、彼はSEALをあくまで生け捕りにしたかった様子を見せている。 ハメルは、VXガスを盾にアメリカ政府を脅迫したものの、誰も死なせずに済ませたかった様である。 それだったら、こんな強硬手段に打って出るより、さっさと退役し、回想録でも出版し、その中で自分が指揮した非合法活動を洗いざらい語る、という手段に出た方が、誰も犠牲にせず済んだだろうに、と思う。 そんな回想録を出版したら機密保持に違反したと見なされ、軍法会議に掛けられるだろうが、VXガスを奪って脅迫するのと比べたらまだまだ「合法的」と言えるだろうし、世間の共感も得られただろう。 ハメルが起こしたテロ活動は、公にはされていなかったので、結局事件そのものが無かったという事で処理される可能性が高い。ハメルやその部下は事故死した、等。当然ながら、ハメルの訴えもそのまま葬られ、遺族に恩給が支払われる事は無い。 ただただ無駄死にした、という事になる。 それも全て踏まえて今回の強硬手段に出たのだとしたら、何の為に、という疑問が拭えない。 また、ハメルの部下は、ハメル追従派と強硬派に分かれてしまい、内輪で揉めた結果銃撃戦になり、半減。ハメルも死亡する。 人格者の筈のハメルが、何故自分の考えを理解してくれる者で固められなかったのかも、理解に苦しむ。 本作の撮影は、実際にアルカトラズ島で行われたという。 国立公園なので、撮影の為に貸切る事は出来ず、観光客が歩き回っている中で撮影が行われたとか。 観る限りではそうした状況下で撮影された事は感じられないので、どうやって撮影したんだと不思議に思う。 ラストシーンで、マイクロフィルムを入れていた像をグッドスピードが教会から盗み出す。 この教会は、数々の映画で利用されてきた有名な建物らしいが、後に火災で全焼してしまい、現在は残っていない。 アメリカでも文化財の喪失は頻発している様である。 アーノルド・シュワルツェネッガーは、オファーを断った事を後悔している映画として、本作を挙げているらしい。 シュワルツェネッガーが主演していたら、全く違う映画になっていただろう。誰の訳をオファーされていたのか。 そのバージョンも観てみたかった気がしないでもないが、興行的にはどうなっていただろう、とも思ってしまう。 本作の続編も検討されたが(メイソンのその後を描く)、立ち消えになったという。 体力的にコネリーが出演出来るとは思えないので、立ち消えになったのは当然といえる。ザ・ロック 特別版 [ ニコラス・ケイジ ]価格:1100円(税込、送料無料) (2021/4/16時点)楽天で購入
2021.04.16
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東宝による二本立ての一本。PG-12指定。しかしもう片方の「狗神」がR-15だったので、多くの映画館は本作品もR-15扱いし、中学生の入場が制限されたようである。 本作品の制作スタッフにとってはえらい迷惑だっただろう。というか、致命的だったのではないか。粗筋 奈美(奥菜恵)は両親と思っていた夫婦が実は叔父と叔母だったのを知る。実父は別にいて、彼女に屋敷を遺産として残していた。 奈美は元恋人の男性を伴ってその屋敷を訪れる。ボロボロの洋館だった。中に入って調度品を見ている内に、実父が有名な画家であったのを知る。日本より海外での評価が高く、人嫌いの変人だったという。 奈美は、洋館を歩き回っている内に実父や自分の恐ろしい過去について知る……。感想 そこに転がっているホラーもどきの作品。ネットを最大限に取り入れて新鮮味を出そうとしているが、部分的にしか成功していない。 日本の小説や、アニメや、マンガや、映画から思うことは、日本人はストーリーの設定造りや、ストーリーの盛り上げ方に関しては超一流だが、いざ完結部分に至るとまるで駄目。「あ、いけね。終わらせなきゃならないんだったけ。仕方ねえなあ、えい、これでええや」とでもいうようなとってつけたエンディングが多い。 アニメでの典型的な例が「エヴァンゲリオン」で(結局使徒は何だったんだ?)、テレビの例が「仮面ライダー・クウガ」である(未確認生命体は結局何者で、何のためにあんなに殺しまくってたんだ?)。いずれも途中までは面白かったのに(少なくとも惰性で見ていられた)、終盤に近付いたらガタガタと崩れ、時間をわざわざ割いて見ていた自分が惨めになった。 本作品は結局「目を覚ましたら全て夢でした」という、「今更何でこんな手を?」と叫びたくなる反則パターン。最後はちょっと捻っているが、尻すぼみであるのは変わりない。 また、奥菜恵に一人二役を演じさせたのは間違いだった。 いや、一人二役を演じさせること自体に問題はないが、妹と思われていたのが実は弟だった(だから「弟切草」か)、というのは駄目である。マンガや宝塚ならともかく、女優が男役をやれる訳ない。 いくら男言葉で喋ろうと、いくら声を低くして喋ろうと、男に見えないのだ。 本作品はアニメだったらそれなりに効果的だっただろうが、実写にしたため説得力が半減してしまった。残念である。 撮影方法も奇妙だった。普通のカラーでなかったのである。コンピュータで画像処理して着色したらしい。同じ手法は「アヴァロン」でも取られたが、そちらは退廃した「近未来」の雰囲気を演出する為だったので効果的だった。今回のは設定が「現在」だった為、単に見難くなり、現実性に欠け、その意味でも説得力を減らす結果だけとなった。「全て夢でした」エンディングなので、現実性は元々追求していなかったのかもしれないが、それは制作者側の自分勝手だろうが。 本作品も「狗神」同様、小説が基となっているそうだが(原作者は長坂秀佳となっている)、背景が分かり難い。テレビゲームがどうのこうのと言われているからだ。ゲームの作者がゲームをベースにオリジナル小説を書き、それが映画化されたのか。テレビゲームをここ十年以上遊んでいない自分にとって、ややこしい。 あともう一つ。ウィンドウズが市場をほぼ独占しているのに、本作品ではマックを使っていた。嬉しいことである。しかし、自分が使用しているパワーブック1400の電池は映画で描かれているほど長持ちしない。こちらの機種が古いからか、映画の登場人物はスペアのバッテリーを何本も持ち歩いていたからか、それとも映画がいい加減なのか。人気blogランキングへ関連商品:弟切草
2006.11.24
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2022年に公開されたインドのミュージカルアクション映画。 監督・脚本はS・S・ラージャマウリ。 N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア、ラーム・チャラン、アジャイ・デーヴガン、アーリヤー・バット、シュリヤ・サラン、サムドラカニ、レイ・スティーヴンソン、アリソン・ドゥーディ、オリヴィア・モリスが出演。 実在した独立運動指導者コムラム・ビームとアッルーリ・シータラーマ・ラージュを主人公としているが、内容は完全に創作で、2人が歴史上に登場する以前の時代を舞台にし、2人がイギリス領インド帝国に戦いを挑む姿を描いている。 原題は「RRR」で、「アール・アール・アール」と読む。制作関係者らのイニシャルを並べただけの仮タイトルだったが、特定の言語のタイトルにしてしまうと多言語のインド国内では成立しないとの事で、インド国内の言語に左右されない仮タイトルが正式な映画名になったという。粗筋第一部 1920年のイギリス領インド帝国。 インド総督スコット(レイ・スティーヴンソン)の一行は奥地にあるゴーンド族の村を訪れ、そこで芸術の才のある少女マッリと出会う。マッリの才能を気に入ったキャサリン総督夫人(アリソン・ドゥーディ)は僅かな金を親に投げ付けてマッリを買い取り、彼女を総督府のあるデリーに連れ去ってしまった。 後日、ニザーム藩王国の特使が総督府を訪れ、マッリをゴーンド族に返すべきと勧告する。対応したスコットの側近エドワードは、勧告を一蹴。特使は「引き渡さなければ、彼らの守護者がイギリス人に災いをもたらすだろう」と忠告した。 一方、ゴーンド族の守護者ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・ジュニア)は、マッリを取り戻す為に仲間を連れてデリーに向かい、行方を捜していた。 デリー近郊の警察署。 イギリス当局によって逮捕された独立運動家の釈放を求めるデモ隊が押しかけていた。 インド人ながらも警察官としてイギリスの為に働くラーマ(ラーム・チャラン)は、単身デモ隊の中に飛び込み首謀者を逮捕する手柄を立てる。が、イギリス人署長はその功績を認めなかった。 総督府では、ゴーンド族の刺客が総督の命を狙っている事態について、協議が開催される。 しかし、刺客の正体が全く分からない以上、莫大な数のインド人の中から探し出して確保するのは不可能に映った。 業を煮やしたキャサリン総督夫人が宣言する。刺客を捉えた者は特別捜査官に昇進させる、と。 特別捜査官という名誉ある地位を餌にされても、不可能である事は変わらず、誰も手を挙げない。 そんな中、ラーマが現れ、担当捜査官に名乗りを挙げる。 突然名乗り出たインド人に、会議参加者らは疑いの目を向けるが、会議に出席していたラーマの上司である署長は、刺客を捕らえられる者がいるとしたらこいつしかいない、と一応太鼓判を押す。 キャサリン総督夫人により、ラーマは担当捜査官に任命された。 ラーマは、同じく警察官の叔父ヴェンカテシュワルルと共にデリー市内の独立運動家の集会に潜入。ラーマは独立運動家を装い、総督の命を狙いたいと何気に話してみると、マッチュという男が接触してきた。 マッチュが異様にも総督府への潜入にこだわっていたので、ラーマは話を聞き出そうとするが、ふとした事で独立運動家ではなく警察官だ、と正体がばれてしまい、逃げられてしまう。 マッチュは、ビームの下に逃げ戻り、警察官がお前を探している、と告げる。 ビームは、自身の存在を相手側に知られてしまった事に動揺するが、今更使命を諦める訳にもいかない。マッチュに対しお前は身を隠していろ、使命は自分と残った仲間で進める、と伝えるしかなかった。 マッチュが姿を消した直後、追手のラーマが側に姿を現す。 その時、近くで列車事故が発生し、少年が事故に巻き込まれそうになる。 ラーマとビームは、誰にも命じられる事無く協力して少年を助け出した。 これをきっかけに、二人は互いの正体を知らぬまま交流を重ねていく。 ビームは、マッリが拘束されていると読んだ総督公邸に潜入する機会を窺っていた。 目を付けたのが、スコットの姪ジェニー(オリヴィア・モリス)だった。ジェニーは他のイギリス人とは異なりインド人との接し方が寛容だったので、事情を説明すれば助けてくれるのでは、と期待していた。が、ジェニーと接触する機会にもなかなか恵まれない。 そんな姿を見ていたラーマは、ビームがジェニーに片思いしていると勘違い。 ラーマは、ビームがジェニーと接触するのを手助けする。 ジェニーと親しくなったビームは総督公邸に招待される。隙を狙って公邸内を偵察し、マッリと再会。ここで救出すればビームの使命は完了するが、この時は居所を確認するのが精一杯で、救出は無理だった。 直ちに救出されないと知ったマッリは落胆する。 ビームは、必ず戻って来て助け出すと約束し、総督公邸を後にする。 一方、ラーマは警察官としてデリー内を捜索してマッチュを見付け出し、拘束する。 ラーマは仲間の居所を吐けと拷問するが、隙を突かれて蛇に噛まれてしまう。マッチュから「解毒方法はゴーンド族の者しか知らない」と告げられたラーマは、意識が朦朧としていく中、親友のビームの下へと向かう。 ビームは仲間と共に総督公邸に乗り込む準備を進めていた。 そこに蛇毒が回って瀕死の状態のラーマが現れる。 ビームはゴーンド族に伝わる解毒方法でラーマを介抱した。 意識が薄れる中、ラーマはビームがマッチュと同じ装飾を身に着けている事に気付き、自分が追っていた刺客がビームだと悟る。 ビームは、ラーマが自分を追う警察官だと知らないまま、自身の正体を明かす。 自分はマッリを助け出す為に総督公邸に乗り込む、仮に失敗して死んだとしても後悔は無い、自分の正体をこれまで明かしていなかったのは親友であるお前を巻き込みたくなかったからだと告げた後、ラーマを残して総督公邸に向かう。 その夜、総督公邸ではパーティーが催されていたが、そこにビームが野生動物を満載したトラックで乗り込んできた為、会場はパニック状態になる。 ビームがこれに乗じてマッリの解放に向かおうとした矢先、蛇毒から回復したラーマが姿を現す。 ビームは、警察官の制服姿のラーマを見て驚く。自分を追っていた警察官は親友のラーマだったのかと。 ラーマは、冷酷にもビームに対し、総督の命を狙った罪で逮捕するから受け入れろと命じる。 ビームは、自分は総督の命を狙ってなんかおらず、マッリを救出したいだけだと反論。 ラーマはその言葉を受け入れず、逮捕に動く。 ビームは抵抗するが、格闘の末に逮捕されてしまう。第二部 ラーマは、ビームを逮捕した功績により、約束通り武器庫の管理権限を持つ特別捜査官に昇進した。 特別捜査官の制服に身を包んだラーマは、この日をどれだけ待っていたかを回想する。 ラーマの父ヴェンカタは警察官だったが、スコットの圧政に耐えかねて脱走し、独立運動家として村人らに戦闘訓練を施していた。 ある日、イギリス軍が村を襲撃し、ヴェンカタと幼いラーマは村人らを逃がす為に戦いを挑むが、その中でラーマの母親と弟が殺され、ヴェンカタも重傷を負わされる。 ヴェンカタはイギリス軍に投降する振りをして、自身が隠し持っていた爆弾をラーマに狙撃させ、イギリス軍を巻き込んで爆死する。 数年後、成長したラーマは警察官となり、父の指示で警察官になっていた叔父ヴェンカテシュワルルと行動を共にし、警察組織での出世を目指していた。 イギリス人を欺いて特別捜査官にまで出世すれば、管理下にある武器を横流しして村人に手渡し、イギリスの武器でイギリスと戦えるようになる、と考えていた。 ただ、特別捜査官にまで昇進するには、イギリスを欺き続けなければならず、その為には同胞のインド人を犠牲にする事を躊躇してはいられなかった。 漸く念願の特別捜査官となり、武器を横流し出来る立場になったものの、武器を村人に手渡して独立運動を起こせたとして、果たして同胞のインド人を散々痛め付けていた自分にインドの人々が真意を理解して後に続いてくれるのか、とラーマは悩む様になる。 逮捕されたビームは、見せしめとして、スコット夫妻や民衆の前でラーマの手によって鞭打ちの刑に処せられる。 が、ビームは屈せず、歌で民衆を鼓舞する。 触発された民衆が暴動を起こした為、刑の執行が中止されるに至った。 その姿を見たラーマは、ビームの様に歌だけで民衆を奮い立たせられる者の方が独立運動を起こすのに相応しいのでは、と考えを改める。いくら武器を民衆に渡したところで、民衆を奮い立たせられなければ独立運動にならない、と。 ラーマは、ビームを逃す事を決意する。 ラーマは、ビームをデリー郊外に連れ出してマッリの目前で処刑してはどうかとスコットに提案する。 スコットは、ラーマの面従腹背を知らず、その提案を受け入れる。 ビームとマッリは、ラーマの思惑通りデリー郊外へ連れ出される。 ラーマの計画は処刑場でビームを解放し、マッリと共に逃げし、序にスコットに致命傷を与える、というものだった。 が、直前にスコットがラーマの企みに気付き、兵を差し向ける。 ラーマはビームの解放とマッリの救出には成功したものの、銃撃されて重傷を負い、その上事情を知らないビームに殴られてしまう。 ビームはマッリを連れて逃走。 ラーマは、意識が朦朧とする中、2人を逃がす為にイギリス兵の追跡を妨害した。 数カ月後。 デリーから逃れ、ある町に潜伏していたビームらは、警察の捜査網に掛かり発見されそうになる。 が、居合わせたラーマの婚約者シータ(アーリヤー・バット)の機転で難を逃れた。 シータは、ラーマがイギリスの為に働いている振りをしながら実は独立闘争を起こす為の計画を立てていたが、ある親友を解放する為にそれらを全て捨てる決意をした、との手紙を受け取ったと話した。 ラーマは親友を解放する事に成功したが、自身は捕まり、反逆罪で近々処刑される事になっている、と。 ビームは、ラーマが言うある親友とは自分の事で、独立運動を起こすという大きな目標を達成する為に己を殺して長年動いていたにも拘わらず、自分の為に全てを捨てたと知って驚愕する。 ラーマは、シータに対し、その親友とは自分の事だ、自分にはラーマを救出する義務がある、絶対に救出するから待っていてくれと約束する。 ビームはジェニーの協力を得て、ラーマが収監されたバラックを突き止める。 バラックに潜入したビームはラーマの救出に成功して森の中に逃げ込む。 が、スコットに命じられたエドワードが特殊部隊を率いて追跡を始める。 ラーマは、森の中にあったラーマ神の祠にあった長弓を手にしてビームと共に反撃。 特殊部隊は全滅し、エドワードも戦死する。 2人はそのまま総督府に向かい、オートバイを突入させる。オートバイは武器庫で爆発し、弾薬の誘爆により総督府は崩壊する。 キャサリン総督夫人は崩壊に巻き込まれて命を落とし、追い詰められたスコットもビームに射殺された。 スコットを倒した2人は総督府の武器を持ち出してデリーを後にし、シータ、ジェニーと合流する。 ラーマは故郷の人々に武器を送り届ける事に成功し、ビームはマッリと共に村に戻り彼女の母親との再会を成功させる。感想 インド国内でインド人鑑賞者のみの為に上映する事を想定して製作されながら、ふとしたきっかけで海外でも上映されるようになり、インド人以外からも好評を得て大ヒットするという、ひたすら幸運に恵まれた作品。 幸運に恵まれるのに相応しい力作だった、という事もあるが。 インドは多言語国家で、言語があまりにも多く隣人同士でも会話が出来ないくらいだという。 英語が使用されているのも、植民地時代からの共通言語として合理的だから、という理由(本作から滲み出ているインド人のイギリス嫌いからすれば、仮に英語以外の共通言語が現れればそちらに速攻で移行すると思われる)。 映画業界も、その特異的な社会を反映してか、言葉が通じなくてもストーリーを追える様な演出にする事に長けている。 それが、インドの言語が全く通じない他国の者でもストーリーを追える、という事に繋がり、世界的にヒットした理由にもなった。 ただ、元々インド国内限定の映画として制作された為、国民感情を汲み取って旧宗主国のイギリスを徹底的に悪者に仕立てていて、その描写はインド以外の国の者が見るとえげつなく、イギリスは抗議しないのかと心配してしまう程。 インドからすれば、「お前らイギリス人はフィクションとしてでなく、実際に我々に酷い事をしてきたんだから、映画での描写くらい許して当然だ」という事になるのかも知れないが。 ストーリーは非常に分かり易い一方で、お決まりの様にご都合主義も多い。 舞台となった1920年代でも人口が圧倒的に多かったとされるインドの首都デリーで、追う者と追われる者が互いの正体を知らずに出会って友情を育む、というのは出来過ぎ。 また、追う者であるラーマは、追っている相手の正確な似顔絵を作成しているのに、それを見て目の前の親友そっくりだといつまで経っても気付かないのもおかしい。後に親友が持っている装飾品が、追っている者の仲間が持っていた装飾と同じだと気付く事で親友の正体を知るが、寧ろそちらの方が有り得ないと思った。 デリーを脱出したビームが、潜伏先である女性と知り合い、それがラーマの婚約者だった、という展開も出来過ぎ。 インドはどこまで狭いんだ、と思ってしまう。 ただ、この手のご都合主義は日本の捕物帳でもよく見られるので、排除してしまうとストーリーが成り立たなくなるので、仕方ないといえる。 ラーマがイギリスの警察組織に潜入し、そこで15年間も己の野望を隠して組織の中で昇進していき、やっと待望の地位にまで上り詰めたのに、親友を助ける為とはいえ全てを捨てて自分の本性をイギリスに明かしてしまうのもどうかね、と思う。 作中では同胞のインド人を躊躇い無く痛め付けているので、その落差に観ている方が戸惑ってしまう。 ラーマがもう少し同胞のインド人に配慮する姿勢を見せていたら、ビームを助ける事に方針転換したのも理解出来たのだが。 ビームが総督の命を狙っている(とイギリス側は勝手に思った)事が発覚し、総督府内で大暴れした後も、総督の姪に当たるジェニーがビームに協力してラーマの居所を教える、という展開も理解し難い。 ジェニーは、ビームがあくまでも総督府に潜入する為に自分に近付いた、という事に気付いて憤慨しなかったのか。 ラーマもビームも常人なら致命傷になるであろう怪我を負いながら、数分後には何でも無かったかの様に暴れ捲れるのも、本作ならではのご都合主義。 二人とも無敵なのでは、と思ってしまうが、一応拘束されて拷問を受ける等酷い目に遭わされるので、不死身に近い様ではあるものの無敵ではないらしい。 本作の上映時間は182分と、3時間を優に超える。 作中、第1部と第2部の間に「休憩」という画面が現れる。インドでは実際に休憩時間が入れられたらしい。 日本での上映では、休憩時間を挟む事無く、そのまま第2部に移る。 通常、上映時間が3時間にも及ぶとどこかで中だるみが起こってしまうが、本作に至っては中身が濃い為中だるみが無く、上映終了後は「え? もう3時間経ってしまったのか」と時計を見て驚く程。 インド映画というと歌と踊り。 大勢の人間が突然歌って踊り捲る。 よって、本作も一部ではミュージカル映画と紹介されている。 だが、実際には作中で歌と踊りは2回導入されているだけで、ストーリーの流れからして不自然ではなく、ミュージカル映画に慣れていない者でも違和感を抱く事無く観られる。 ストーリーと直接関係無い歌と踊りはエンドロールのみ。「ミュージカル映画」として本作を紹介されると逆に違和感が。 インド人からすると「歌と踊りが少な過ぎる」という意見もある様だが、その代わりにアクションシーンをふんだんに盛り込み、意図せずして海外向けにしたのもヒットの要因といえる。 本作の主人公であるラーマとビームは、実在したインド独立活動家で、インドでは英雄視されている。 ただ、本作のストーリーは完全なフィクション。 二人はほぼ同時期に活動したが、地域が離れていて、出会った可能性はほぼ無いとされる。 また、本作ではインドの神話の要素も盛り込んでいて、ラーマは『ラーマーヤナ』、ビームは『マハーバーラタ』で登場する神のイメージと重ね合わせたという。『ラーマーヤナ』と『マハーバーラタ』はインド神話の2大叙事詩だが、その中でもモデルとなった神は互いと接しないという。 史実では、ラーマことアッルーリ・シータラーマ・ラージュは現在のアーンドラ・プラデーシュ州でゲリラ的な武装蜂起を展開するが、イギリス側の大規模な鎮圧作戦により捕まり、1924年に処刑されている。享年は25から26だった(正確な生誕日なので、享年が不明)。 一方、コムラム・ビームは現在のテランガーナ州辺りで活動した革命指導者で、長年蜂起を指導するが、1940年に武装警官により殺害されている。享年39。 2人とも天寿を全う出来ていないが、志半ばで倒れたからこそインドでは英雄視されているのかも。 敵が大英帝国なので、西洋人の俳優も多数出演。 その中で印象的なのが、キャサリン総督夫人を演じたアリソン・ドゥーディだろう。 アリソン・ドゥーディのメジャー映画デビューは『007/A VIEW TO A KILL』でボンドガールとして(当時史上最年少だったという)。その後『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』では一応ヒロイン役を演じている。 ただ、『007/A VIEW TO A KILL』ではボンドガールと言いつつも敵の手下の一人で、後半で敵のトップに裏切られて呆気無く死んでしまう役。『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』では前半ではヒロインとして登場するものの途中で主人公を裏切って敵役となり、最終的には死んでしまうという役。 いずれでもろくな死に方しかしないキャラ。 メジャー作では自分はこうしたキャラしかオファーされないと悟ったのか、それ以降はメジャーな作品には登場せず(一時は俳優業から離れていた)、俳優歴はあまりパッとしない。 ただ、『007/A VIEW TO A KILL』ではロジャー・ムーアと、『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』ではショーン・コネリーと、そしてボンドに起用される前のピアース・ブロスナンとも共演しており、歴代のボンド俳優3人と共演を果たしているという、見方によっては物凄い経歴の女優である。 本作でも、メインの悪役である総督を上回る残酷振りを披露する夫人を演じており、最終的にそのキャラは死んでいる。 ろくな死に方をしないキャラをどこまでも演じ切るつもりらしい。 本作は日本円に換算して100億円にもなる資金が制作に投じられたという。 インドの1人当たりGDPは日本よりまだ低いので、日本の感覚だと500億円くらいの制作費に相当するのではないか。 巨額の制作費を投じれば必ず面白い作品が出来上がる、という訳ではないが、少なくともケチりにケチり捲った末に制作された映画より面白く仕上がる可能性が高い。 鑑賞者からすれば、鑑賞料金は同じなのだから(制作費が10倍だから鑑賞料金も10倍、なんて事にはならない)、低予算で制作された安物映画より、莫大な予算で制作された大作の方が費用対効果が良いと感じるだろう。 日本は弥生時代から江戸時代まで、歴史的イベントや人物が豊富にあるし、神話だって多岐に亘るのだから、大作の題材なんていくらでも見付けられそうだし、そうして制作されたものを海外に発信して日本の存在感を世界にアピール出来そうだが、しょうもない国内向けの低予算ドラマの制作に留まり、国内での消費だけで終わってしまうのは不可解である。 暴力満載で人がガンガン死ぬし、イギリスの描き方が観ていて引く程えげつない映画だが、ラーマは独立活動を促す為の武器を持ち帰って婚約者との再会を果たし、ビームは少女マッリを救い出して母親と再会させるという使命を完遂。 冒頭でマッリの母親がイギリス兵により撲殺された様に描かれていたので(イギリス人からすると銃弾1発にも物凄いコストが掛かるのでインド人は可能な限り撲殺する)、ラストで生きて登場した事に少々驚いた。 全体的にはハッピーエンドな作品。 踊りと歌のエンドロールで終わるし。 エンドロールの歌と踊りでは、ガンジー等インド独立に携わった英雄が掲げられる。 インドの文化をあまり知らない者からすると、「へえ、インド映画では作中では登場しない歴史上の人物を掲げるのか」で終わってしまうのだろうが、インド人からすると、本編の高揚感を更に上げる演出なのだろう。 その意味でもインド国内向けの作品で、海外で好評を得たのは奇跡としか言えない。 単作として制作された本作だが、あまりの大成功で続編も話も出ているという。 制作されればインドではまたヒットしそうだが、海外では二匹目のドジョウとなるかは疑問。 ヒットしたとしても、流石に本作程のヒットには至らないと思う。RRR 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2023.02.17
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2024.06.16
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ロバート・A・ハインラインによるSF短編小説「輪廻の蛇(原題は「All You Zombies」で、邦題は直訳になっていない)」をベースに、映画化。 出演はイーサン・ホーク、セーラ・スヌーク。 製作は、オーストラリアで行われた。 原題は「PREDESTINATION」。粗筋 1970年代。 ニューヨーク市民は、「フィズルボンバー」という謎の爆弾魔によるテロ攻撃に怯えていた。 そんな中、バーを訪れた青年ジョン(セーラ・スヌーク)は、バーテンダー(イーサン・ホーク)に対し、自身の半生について語る。 ジョンは、ジェーンという女性として生まれた。孤児院に何者かによって捨てられ、そこで育つ。成績は優秀だった為、女性宇宙飛行士の候補となるが、ふとした事で権利を失ってしまい、雑用で生活費を稼ぐ毎日を送る羽目に。 流れ者の男と恋に陥るが、その男はある日忽然と姿を消し、二度と会えなかった。が、その僅かな接触で子供を宿してしまい、出産。この子を育てるのが自分の新たな目標と思っていた矢先に、赤ん坊は何者かによってさらわれてしまう。 同時に、彼女が実は両性具有者であった事を医師から伝えられる。赤ん坊を産む際、大量出血の為子宮や卵巣等が全て切除され、今後は男性として生きなければならない事を告げられる。 男性となり、ジョンと名前を変え、今度は男性として雑用で日々の生活費を稼ぐ毎日を送る羽目になった……。 ここまでジョンが話したところで、バーテンダーは彼に言う。もし、お前の人生を滅茶苦茶にした流れ者の男と再び会えたら、そして何をしようと罪にも問われない状況が整っていたら、どうするか、と。 ジョンは答える。勿論躊躇無く殺すが、実際そんな事は有り得ない、と。 バーテンダーは、その男と会わせてやろう、と言い出す。 ジョンは、訳の分からないままバーテンダーに連れ出される。 バーテンダーは、実は時空を行き来出来る特殊捜査官だった。フィズルボンバーを阻止する為、過去に潜入していたのだ。 バーテンダーは、ジョンを過去に連れて行く。 ジョンは、ジェーンだった自分が、流れ者の男と出会った瞬間に立ち会う。その流れ者の男とは……。 自分自身だった。 ジェーンは、男性となった将来の自分自身と恋に陥り、結ばれ、子供を宿したのだった。 衝撃の真実を知って、困惑するジョン。バーテンダーに対し、何故こんな目に遭わせたのだ、と問う。 バーテンダーは言う。自分は、まだフィズルボンバーを捕まえていないにも拘らず捜査官を引退しなければならず、後継者を必要としていた。その後継者として、以前から目を付けていたジョンを指名したい、と。 ジョンは、これは自分の運命なのだと悟り、バーテンダーの跡継ぎとなり、捜査官としてフィズルボンバーを追う。 一方、バーテンダーは、過去に赴き、病院からジェーンが産んだ赤ん坊をさらい、孤児院に届ける。この赤ん坊こそ、将来ジェーンとなる。 要するに、ジョン/ジェーンは、父親・母親・子供が全て一人だったのだ。 バーテンダーは、自身の使命は全て終わったと判断し、最後のタイムスリップを行う。 そこで、静かに余生を送る予定だったが、停止する筈のタイムマシンが停止しない。おかしいと思って調べると、フィズルボンバーの居所を示すメッセージがあった。バーテンダーは、それに従って、フィズルボンバーと対面する。 フィズルボンバーは、年老いた自分自身だった。 フィズルボンバーがこれまでなかなか捕まらなかったのは、タイムマシンを使って時空を自由に行き来出来たからだったのだ。 この事実は、捜査当局も全てお見通しだった。フィズルボンバーと捜査当局は、結局は同じ穴のムジナだった。 バーテンダーは、フィズルボンバーとなった自分自身を射殺する。 そして、バーテンダーは、捜査官となった後の自分の過去を振り返る。 実は、バーテンダーは、捜査の過程で顔面に大怪我を負い、整形手術を受ける羽目になったジョンだった。バーテンダーは、過去の自分を、自分の後継者としてリクルートしていたのだ。 自分は父親であり、母親であり、その間で生まれた子であり、捜査官であり、犯人だった。 バーテンダーは、全てが自分を中心に動いていた事を悟る。 そして、バーテンダーは、フィズルボンバーとして、新捜査官として着任した昔の自分自身が追ってくるのを、迎え撃つ事を決意する……。感想 タイムパラドックス物としては、物凄く斬新なストーリー展開ではなく、オチも何となく読めてしまうが……。 それを承知で、ここまで大胆に扱った物は、これまでなかった気がする。 作中では、蛇が自身の尾を食いながら自分自身を消化していく、卵が先か鶏が先か、といったくだりがあったが、まさにその通り。 ……ジョン/ジェーンは、自分自身と恋に陥り、自分自身を生み、赤ん坊だった自分自身を誘拐された後、子を失った母親として子供の父親である自分自身を恨み、未来からやって来た自分自身により恨んでいた男が後に男性となった自分自身だったと知り、更に自分自身によってリクルートされて爆弾魔を負う捜査官になるが、実はその爆弾魔も自分で、それを知った後に老いた自分自身を殺すが、既に精神を病んでいた自分が爆弾魔となり、その爆弾魔を負う新任捜査官としての過去の自分と対峙する事になる……。 ……何が何だか分からない。 にも拘わらず、きちんと完結しているのは、見事としか言いようがない。 無論、細かく観ると、おかしいというか、理解し難い部分も。 ジョン/ジェーンは、自分は優秀にも拘わらずろくな人生を送れていない、と考えているようだが……。 折角のチャンスを掴む度にどうでもいいというか、常人なら避けられていたであろう失態でチャンスを不意にしていく様子は、とても優秀に映らない。異性からちょっと声をかけられただけで、これまで人との関わりを避けていた事をすっかり忘れて、素性の分からない謎の男にのめり込む場面は、その典型的な例。 学校での成績は優秀だったのかも知れないが、取り得という取り得ははそれだけ。その一つの取り得で「自分は他より優れているんだ」という思考に陥り、他人にもそういう態度で接したら、煙たがれるのは当然。ろくな人生を送れていないのは、ある意味自業自得と言える。 ジョン/ジェーンが、結局はそこらにいる普通の人間にしか見えなかった(両性具有者、という点を除く)。 また、本作では両性具有者が、妊娠し、妊娠させられる、という風に描かれているが、実際にはそこまで「完璧」なのはおらず、機能的には男、女、もしくは不妊になってしまうらしい(卵巣と睾丸は、誕生前に、ホルモンの影響でいずれかになるので、双方が揃う、という事態は有り得ないとか)。 1970年代の女性が、ボクシングさながらに殴り合いをする、というシーンも、違和感があった。キャットファイトくらいにしておけば、リアリティがあっただろうに。 本作は、人は、いかなる状況においても、結局は運命からは逃れられない、という事を強調している感じ。 ジョン/ジェーンは、輪廻の輪を断ち切れる場面に何度も遭遇するが、最終的にはこれまで通りに行動し、輪廻を輪を断ち切る事無く、時空の狭間で生きている。 空しいといえば空しい。 仮にタイムマシンが実現したら、こんな人生を歩む者が続出するのだろうか。 舞台は、1960年代から1970年代のアメリカとなっているが、ファッション等は未来予想の雑誌に載っていたものをそのまま実現した様なのが見られ、実際の1960年代から1970年代というより、仮想現実であるかの様。もしかしたら、作品そのものがどこか別の時代、もしくは別の世界で起こっているのかも、と思わせる。 出演者は、ほぼ全員がマイナーで、説明されない限り「誰?」といったのばかり(俳優らからすれば失礼な話だが)。 それ故に、ストーリーや演出や演技に集中出来るようになっているのも、本作の良さと言える。 本作は、両性具有者、という微妙なテーマを扱っているからか、R15に指定されている。 観る限りでは、そこまで神経質にならなくても、と思ってしまう。 R15に指定されて当然にも拘わらず指定されていない映画は、他にいくらでもある。 本作は、ハリウッドではなく、オーストラリアで製作。 ハリウッドの関係者が全く携わっていない、という訳ではないだろうが……。 それでも、予算はかなり抑えられたと思われる。 にも拘わらず、全体の完成度は、同程度の予算で製作される邦画よりずっとマシ。 莫大な予算をかけなくても、良作は製作可能だという事を示している。 何故日本の映画界は、こういう作品から学び取ろうとしないのか、不思議に思う。人気blogランキングへ【楽天ブックスならいつでも送料無料】輪廻の蛇 [ ロバート・A.ハインライン ]価格:972円(税込、送料込)
2015.03.04
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