little island walking,

little island walking,

2007/03/07
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 三十分ほどのところに父の家はあった。途中、道を人に訊いたりして、ずいぶん手間取ったけれど、一度道を覚えてしまえば、十五分とかからないところだった。
 こんな近くに父は住んでいるのだ、と思うと、これまでどうして会いにいってやらなかったのだろうと、おぼろげな彼の輪郭を思い出そうとした。すぐにそれこそが理由なのだと気づく。つまりは顔を思い出せないほどに父の存在は曖昧で、うすい霧のむこうにいる、かすかで、呼吸の音さえ聞こえないほどの存在だったからだ。
 あの祭の日だけが、私の、父との記憶なのだ。それしかなかった。

 その家は林のなかにひっそりとあった。木造の、築何十年かもわからない、古びた平屋建て。ガラス戸はなく、障子がその代わりをしている。屋根は少し傾いていて、ところどころから草が生え、瓦はすべて焦げ茶色ににごっていた。家の前には広い畑があって、鶏が放し飼いになっている。生まれたてのひよこが母鶏の後をついて歩き回り、ぴいぴいかわいい声をあげていた。
 車を降りて私は立ち尽くした。ここが父の生家であり、今も住んでいるところなのだ。意外にも思い、納得もした。変な感情だった。私の爪が剥がれたとき、父はここから飛び出したのだろうか。あわてる、という言葉が似合わないほどに時間から取り残された家だった。
 これからどうしよう、と思った。玄関のドアをあければ父はいるのだろうか。家に上がって、茶を飲みながら、これまでの何を語るというのか、何も考えていない。あの水飲み鳥が私を動かしたが、しかし、水飲み鳥はなにも教えてはくれなかった。
 やはり引き返そうか、と考えて車のドアに手をかけたときだった。玄関の引き戸が派手な音をたてて開くのを聞いた。一瞬体に力が入り、私は一気に車のドアを開いていた。
「なんかうちげに用ですか」
 女性の声だった。私はぎこちなく声のするほうへ踵を返した。玄関の前には年老いた農作業姿の女が怪訝な表情をして突っ立っている。まだ、そんなに日差しも強くはないのに手ぬぐいで頭を覆い、その上から麦わら帽子を被ったその女性は、少しばかり腰が曲がり、私よりも小さな出で立ちだった。いったい誰なのだろう、と思ってから、ああ、父の母なのだ、と思い至るのにしばらく時間がかかってしまった。ということは、つまり私の祖母なのだ、と気づいたのは、もっと後になってのことだった。

「よう、こんげ大きくなって、あのまゆちゃんが」
 それだけやっとのことで呟いた。






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最終更新日  2007/03/08 05:28:41 PM
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