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株式投資は、自分の投資を「ポートフォリオ」全体として把握できるようになると、楽しみが拡がるように思う(筆者が思うだけかも知れないが)。もちろん、プロのファンドマネジャーの場合は、そのような把握ができなければ職業人失格だ。 ポートフォリオ把握の一つのサンプルとして、日経平均を取り上げる。日経平均は日本経済新聞社が選んだ225銘柄を基本的には50円額面換算で1単位ずつ保有するポートフォリオだ。日本経済新聞社独特の「みなし額面」(詳しくは日本経済新聞社の説明を参照されたい。)が使われているので、銘柄によっては、1000株ではなく、2000株や3000株といった単位で保有していると見なされるケースが出てきたが、大まかな性格は、TOPIXのような時価総額ウェイトではなく、株価ウェイトのポートフォリオだ。従って、株価の高い銘柄が占める割合が高い。 また、日経平均には、インデックス・ファンドや株価指数先物やオプションなど、「ポートフォリオとしての日経平均」を実質的に売り買いすることができる対象が存在する。 日経平均のポートフォリオとしての特性を知っておくことは、この種の対象の売り買いにも有用だ。 なお、ポートフォリオの分析ツールとしては、株式のマルチファクター・モデルである日立製作所の「Riskscope」を用いる(取り扱いは、株式会社インタートレード、03-3537-7450。データは2009年1月30日基準の週次ベースの分析を行ったものだ)。 ■リスクの要約 ポートフォリオとしての日経平均について把握するためには、まずリスクの定量的な全体像を知らなければならない。以下、特に、TOPIXとの差に注目して、日経平均の特性を紹介する。 1月30日現在のRiskscopeのトータル・リスク(ポートフォリオ全体のリスク)の推定値は日経平均が 29.44%(年率%、標準偏差。以下、リスク値については断りのない限り、同様)、TOPIXが26.65%だ。日経平均の方が動きが軽いイメージがあるが、数字もそれを裏付ける。 日経平均のTOPIXに対するβ値(ベータ値;TOPIXの変動率に対する変動倍率)は1.08である。 日経平均がTOPIXに対して持つ相対的なリスクの中で、β値が1.0と異なることに伴うリスク以外のリスクは、 5.98%だ。このうち、日経平均の業種ウェイトがTOPIXと異なることから発生している相対リスクが4.09%、日経平均の一般的特性(たとえば「企業規模」など)に起因するものが3.21%、業種や一般的な特性では説明しきれない、銘柄固有の変動に起因する相対リスクが4.68%だ。<表1>リスクの要約(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日) 以上のリスク特性から計算される日経平均のTOPIXに対する「推定トラッキングエラー」は6.36%だ。 これをアクティブ・ファンドのリスク度合いとして見ると、日経平均は「かなりアクティブなリスクを取ったファンドだ」と言えるくらいのリスクの大きさになっている。 率直に言って、日経平均と同じポートフォリオを持っているとすると、ファンドマネジャーとしては、かなり居心地が悪いだろうと思える。 ■ポートフォリオの一般的な特性 表2で日経平均のポートフォリオとしての一般的特性を見ると(注;表の数字は東証一部の銘柄の中で基準化された標準偏差単位の平均からのズレを表す)、まず目につくのは、「市場連動性」の大きさだ(+0.55)。日経平均は、毎日の市場変動に対する短期的な変動が大きな銘柄のウェイトが高いということを意味する。銘柄の売買回転率の高さを表す「流動性」も+0.137とプラス側に寄っている。日経平均の株価指数先物・オプションが存在することに伴い、市場全般の変化に敏感に反応しやすくなっているし、裁定取引に伴って日経平均の構成銘柄が頻繁に取引されることの影響もあるだろう。 米国株の変化に対する連動性もかなり高い(+0.483)。先物があって、米国の株価変動の影響を受けやすいことと、業種として電気のウェイトが高いこと(表3参照)が反映しているものと思われる。 利益や資産に対する株価の割安性は「利益割安性」「資産割安性」共に小幅ながらマイナスであり、割安だとはいえない(各々、-0.048、-0.086)。 TOPIXとの比較で業種を見ると、「電気」と「小売り」のウェイトの高さ(+7.13%、+4.84%)、「銀行」及び「電気・ガス」のウェイトの低さ(-8.46%、-6.46%)が目立つ。<表2>TOPIXと比較した日経平均の一般的特性(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日)<表3>組み入れ業種の特徴(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日) ■組み入れ上位銘柄と総評 日経平均をポートフォリオとして見た場合、全体の印象としては、かなり癖のあるポーフォリオだという事が分かる。 上位の投資銘柄とそのウェイトを見ると(表4参照)、当然ながら値嵩株のウェイトが高い。上位銘柄には、ファンドマネジャーが好みそうな銘柄が多いが、ウェイトの大きさは、いささか大きすぎる(ファンドの性格によって評価が多少変わるが)印象を持つ。 日経平均は、日本経済新聞社が運用する「かなり大胆なアクティブ・ファンド」だ、ということが言えそうだ。<表4>組み入れ上位10銘柄(日立製作所Riskscopeによる。分析基準日は2009年1月30日)
2009年02月06日
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以前本欄で、「『バブル』を中心とする経済のサイクル」(第134回、2010年9月17日)という経済循環を一回転する円運動の図で説明したことがある。このたび、あの図をもう少し詳しく書き換えたので、ご覧に入れたい。以下の図1がその図解だ。山崎式バブルとボトムの経済時計(図1)時間を追って、大まかにご説明しよう。先ず、経済は、景気と資産価格を引き連れて循環する。12時から始めると、先ずバブルのピークの時期には、株価は「高値波乱」的なボラティリティーの高い状況で取引されることが多い。この段階では、金融の引き締めが徐々に始まっていることが多く、中央銀行は何度か政策金利を上げていることが多い。12時~1時の段階ではまだバブルが過ぎ去ったのかどうか、あるいはそれまでの上昇相場がバブルだったのか分からないことが多く、一時的な「調整局面」だと言われることが多い。1時~2時の段階に至ると、多くの人が高値の回復が難しいと思うようになり、株式、不動産などの投げ売りが始まる。この時点では「高すぎる資産価格自体が最大の悪材料だ」と見なされるようになる。尚、時計には万有引力が働いていて、右半分の方が回転が早く、左半分を回すには金融政策のサポートが必要だ。2時~4時は、資産価格が下落中だが、この間に金融システムに不良債権(多くの場合不動産などの担保割れが起こる)が発生する。4時~5時の段階ではまだ底が見えていないが、金融機関のバランスシートが悪化して、最悪の場合は大手金融機関の破綻が起こる。この段階では、流動性の低下、つまり金融機関同士の資金の融通が悪化する現象が起こる場合があり、中央銀行は「最後の貸し手」として行動する。5時~6時の段階では、バランスシートが完全には修復されていないので、「貸し渋り」つまり信用収縮から不況が起こり経済循環のボトムに至る。6時の段階では、ファンドの解約による売りなど、ファンダメンタルな判断に基づかないやむをえない売りの影響で株価や不動産価格は下がりすぎていることが多く、これが修正される「リバウンド」相場の時期が6時~7時だ。この時期には金融が緩和されているので、徐々に消費や投資が復活してくる。7時09時はこうした「自律回復」の時期だ。ここで経済時計の針が9時を超えるためには、十分な金融緩和を行うことが重要であり、バブル崩壊後長きにわたってデフレに苦しむ日本は、この段階が十分機能しないので、針が9時を回ることが出来ずにこの手前で前後している状況だと考えられる。経済時計の針が9時を回ると、資産価格の回復が、一つには消費や投資の余力を生み、また、金融機関でも資産内容が改善することによって融資余力が発生して信用拡大が起こりやすくなる。これが、9時~11時の状況で、景気的にはブームが起こる。信用拡大が行われる時期に、これが11時を超えてバブルに至る理由は、人間の欲望や付和雷同的な集団行動の他に、金融機関及び金融マンが他人にリスクを取らせてビジネスを作り、自分の収益やボーナスを稼ごうとする「リスクの拡大装置」が金融ビジネスに組み込まれているからだ。かくして、時計はまた12時に至る。経済時計のそれぞれの時間帯で、「これがベスト」あるいは「セカンドベスト」と言うべき投資対象は変化する。次回は、時間帯別の投資対象の選択について書いてみたい。
2011年11月18日
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前回は、景気と資産価格を引き連れてバブルとボトムを行ったり来たりする経済の循環パターンを時計の針の回転に譬えてご説明した。 資産運用を考える場合、この循環に対しては、それぞれの時間帯(=経済循環の段階)でベストな「お金の置き場所」、つまり資産運用対象が存在する。 もちろん、お金を増やすことができる時期とそうでない時期の差はあるのだが、「相対的に何がいいか」という比較は常に可能なので、それぞれの時間帯にあって、第一選択肢と第二選択肢をあげてみた。 表にまとめてみたので、早速見てみて欲しい。 (図) 山崎式バブルとボトムの経済時計 時間帯 第一選択肢 第二選択肢 12時~2時 現金 国債 2時~4時 国債 現金 4時~5時 現金 国債 5時~6時 国債 現金 6時~7時 株式 ハイイールド債 7時~8時 ハイイールド債 株式 8時~11時 株式 不動産 11時~12時 不動産 株式 12時~2時(バブル崩壊初期) バブル崩壊の初期は、第一選択肢が「現金」、第二選択肢は「国債」とした。 この場合、国債とは、基本的に長期国債を指すが、信用リスクが不安視されるような国の国債ではなく、日本国債、米国債、独国債のような信用度が高く て流動性が大きな国債だ。自国以外の国債を買う場合は、為替ヘッジの必要性を判断して欲しい(通常はヘッジして買う方がいい)。 「現金」と「国債」の選択は迷うところだが、一つにはバブル崩壊の初期は本当にバブルが崩壊しているのかが定か出ないことがあるし、バブルの熱が残っていて、インフレ率が高く金融引き締め中であることが多い。この場合、長期債の金利低下に賭けるのは危険な面がある。 バブル崩壊が本格化して加速度が付く段階(2時に近づく時間帯)では、流動性・換金性が重要だ。運用の世界には「キャッシュ・イズ・キング」という 言葉があるが、株式や不動産などは「高値であることが最大の悪材料だ」という状況になるので、現金(ファンドマネジャーの場合は短期性資金)が安心だ。 信用度の高い国債や通貨には「質への逃避」が起こる公算が大きい。流動性が十分確保できる範囲であれば、長期国債に投資して値上がり益を狙うのは十分成立する狙いだ。 2時~4時(不良債権累積期) バブルが崩壊して資産価格が下落すると、金融機関の債権が劣化する。具体的には、不動産など担保となっている物の価値が下落してローン価値の毀損が起こる。一方、株価や不動産価格の下落は「逆資産効果」をもたらし、実物経済の消費や投資を縮小させる。 この時期の資産運用の王様は長期国債だ。金利が下落し、価格が上昇する。現金から長期国債に上手く切り替えるタイミングを掴むことが出来れば、大きなキャピタルゲインを得ることが出来るだろう。 4時~5時(流動性危機) 不良債権が累積すると、金融機関のバランスシートに対する相互不信が生まれ、金融取引が滞る状態が起こる。たとえば、日本のバブル崩壊の後は日本の 銀行が、現在の欧州情勢にあっては欧州の銀行が調達金利の上乗せを求められる事態が発生したが、この時期の主な関心事は流動性になる。また、財政状況に よっては国債が売られる懸念が生じる場合があるので、この状態では「現金」を第一選択肢とした。大手金融機関の倒産が起これば、経済がショック状態に陥る 場合もあろう。 もちろん、流動性と信用度に問題のない国債も有力な運用資産候補だ。 5時~6時(信用収縮期) 流動性危機を中央銀行の金融緩和で凌いでも、貸手・借手双方のバランスシート、特に金融機関のバランスシートが修復されて、資本が十分に手当てされないと、信用(=与信、貸出)は拡大に向かわない。「貸し渋り」による不況が続く。 流動性に緊急の問題はなく、民間に資金需要が乏しいので、資金は安全資産としての国債に向かいやすい。長期金利は意外な低金利が定着する可能性がある。この時期は「国債」、「現金」の順だろう。 6時~7時(リバウンド期) 景気が後退し、信用が収縮する過程では、資産が過剰に売られやすくなる。たとえば、株価は既に割安になっていても、ファンドの解約請求があればファンドマネージャーは、株価の判断に関係なく株式を売却しなければならない。 ボトムからの回復の第一歩は、金融緩和を背景に、売られすぎた資産価格がリバウンド的に底離れすることから始まる。 この時期、流動性があって反応が早くリバウンドを大きく取りやすいのは「株式」だろう。加えて長期国債の金利低下は一巡しているはずだが、危機から 時間的な距離が出来ることで、信用リスクのある債券は倒産リスクが遠のくので、スプレッドに注目されて買われる場合がある。「ハイイールド債」は、信用リ スクにより利回りにプレミアムのある債券のことだと解釈して欲しい。 7時~8時(自律回復初期) 前記のような理由で、信用リスクの分だけ利回りにプレミアムが乗った債券は投資妙味がある。リバウンドの初期の足の速さでは株式に一歩譲るが、景気 の回復に伴って信用リスクが縮小する時期は、スプレッドが縮小するので、リスクも加味すると「ハイイールド債」に相対的な妙味があるように思う。 リバウンドの後が続いてブームまで至るかどうかは、経済環境と、金融政策(金融緩和の程度と継続性)に依るが、常識的には「株式」も悪くないはずだ。 8時~11時(好況からブームへ) 「景気回復」から「ブーム(好況)」に至る時期なので、「株式」「不動産」といった収益資産がリターンを稼いでくれる時期だ。この種の物への投資はこの時期のためにやっていると考えてもいいくらいだ。 株式がいいか不動産がいいかは微妙だが、流動性・換金性に優れる点で株式を第一選択とした。 11時~12時(ブームからバブルへ) 現在の金融ビジネスの構造を考えると、ブームがバブルに至らずに継続することは難しい。どこまで続くか、いつまで続くかは渦中にあって判断しにくい が、ブームの末期は、広範な信用の拡大が起こるので不動産価格が高騰しやすい。過去にあって、多くの場合、ブームの末期には、信用拡大に後押しされた不動 産ブームが起こっており、これが将来の不良債権の種にもなることが多いのだが、バブルの終盤は「不動産」、「株式」としておこう。ただし、特に不動産は流 動性が乏しくなった時に売れなくなるので、逃げ時が大事あることは肝に銘じておこう。 不動産も株式も、バブルは末期の値上がりが大きいので、早く「降りる」と寂しい思いをすることがあるが、逃げ遅れて酷い目に遭うこともあるのだが、パターン化が難しい。この段階から参加する投資については、「ご幸運を祈る!」としか言いようがない。 尚、上記のパターンは、経験と論理を加味すると多くの場合こんな感じだろう、という筆者 の個人的な判断に過ぎない。そもそも、経済がどの時間帯に居るのか、どこに向かうのか(逆回転が起こりやすいのは、金融緩和の不足で9時を前に失速した 2000年代の日本のような場合だ)に関する判断自体が確実に出来るものではないし、どの資産がいいかという判断も些細に見える条件のちがいによっても変 化する。本稿で述べたパターンは、あくまでも投資のヒントに過ぎないことを申し添えておく。(2011年12月2日)
2012年03月01日
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脱初級者を目指す投資家に 投資、特に株式投資が好きで、自分の投資の腕前を上げたいと願っている投資家に新刊書籍を一冊お勧めしよう。マシュー・シフリン「となりのバフェットがやっている凄い投資」(小野一郎訳、ダイヤモンド社。以下「となりのバフェット」と略記する)がなかなか面白い。 この本では、フォーブス・メディア副社長で投資編集者のキャリアが長い著者が、あらかたのプロを上回る投資パフォーマンスを上げたアマチュア投資家を10人取り上げて、彼らの投資手法とライフスタイルを紹介している。 登場するアマチュア投資家の中にはトラックの運転手もいれば、引退した元ビジネスマンもいるし、投資の実績を買われてファンドを運用し始めた今やプ ロと呼ぶべき投資家もいる。彼らが、どのような手法を使って、プロも羨むようなハイ・パフォーマンスをあげたのか、がこの本の最大の読みどころだ。 初級者・上級者といった分類は他人が勝手にするものであって、投資家本人はどうでもいいことだが、脱初級者を目指す投資家に、筆者は、しばしば、有 名ファンドマネジャーへの伝記的インタビューのような本を薦める。たとえば、ジョン・トレイン「マネーマスターズ」(座古義之、臼杵元春訳。日本経済新聞 社)のような本だ。 この種の書籍で上質なものは、「投資のアイデア」とはどんなものかということを、これを考え、実践する楽しみと苦労とともに教えてくれるので、読者 である投資家は、知識を増やすと共に、投資技術向上へのモチベーションを高めることができるのがいい点だ。大雑把には、野球少年が、優れた野球選手・監督 の伝記を読むようなものだと思えばいい。 但し、あらかじめ申し上げて置くが、この本は、ある程度個別株の投資に経験があって、複数の投資銘柄を保有した経験がある程度の投資家が読むのでなければ無駄だろう。 内外のインデックス・ファンドで積立投資をしていて、これに満足している、という投資家は、それはそれで十分立派な投資家なのだが、彼らがこの本を読んでも得るものは少ないだろう。 「投資家記録本」の読み方 成功した投資家の伝記は、投資家にとって貴重な読み物だが(なぜなら、読む価値のある投資本は数少ないから)、読み方には、幾つか注意がある。 一つは、商業的宣伝の本や単なる自慢話に付き合わないことだ。 これは、その書籍を通じて著者がファンドなりセミナーなり他の商売をしようとしているか、また、投資手法について語るときに曖昧さを残そうとしてい るか、という態度を見分けることによって多くが判別可能だ。実績らしき数字をくどいくらいに強調する一方で、本文を読んでもどのようにポートフォリオを 作ったのかが分からないような本は「商売」か「自慢話」だ。 「となりのバフェット」は、このレベルの本ではないので大丈夫だ。 次に、投資家の記録を読む際に最も重要なポイントだが、そこに書かれていることは「ある時期に上手く行った事例に過ぎない」という事実を絶えず念頭に置いて読むことだ。 ウォーレン・バフェットもピーター・リンチも、運用していた時代がちがうと、優れたパフォーマンスをあげられたかどうかは、よく分からない。まし て、そのノウハウを真似しようという投資家が、別の時代に彼らの方法(とその投資家が思った方法)を使って上手く行く保証は全くない。 そもそも投資家について語った文章で取り上げられる人たちは、過去の成功者であって、たまたま運が良かった人である可能性が無視できない。たまたま儲かった人を後から探して讃えているだけかも知れない、という「健全な疑いの心」が読者の側では常に必要だ。 また、本に登場する投資ノウハウの有効性をそのまま信じてはいけないことはもちろんだし、さらに、積極的に、「その方法に嘘や弱点はないか?」という疑いの心を持って読むことが必要だ(たいていは、ある)。 たとえば、「となりのバフェット」に一番目に登場するバリュー投資家リーズ氏は、「10以上の銘柄をきちんとフォローできるはずがない」と言って、投資銘柄を絞り込むことを提唱するが、敢えていえば、これは正しいアドバイスではない。 実のところ、一銘柄でも絶対に大丈夫というレベルで「きちんとフォロー」などできないから、分散投資をするのであり、「同様に有望な銘柄、10銘柄 のポートフォリオ」よりも、「同様に有望な銘柄、50銘柄のポートフォリオ」の方が、期待リターンが同じ(=同様に有望)で、リスクが小さい筈(業種分散 その他にもよるが、傾向として)だから、ポートフォリオの構築方法としての優劣は明らかだ。「経験」にはリアリティがあるが、リアリティよりも論理を優先 させる方が利口だ。 参考になるのは誰だ? 紹介されている10人の投資手法を詳しく書くと、映画評などで言うところの「ネタバラシ」になってしまうので、具体的な投資手法については、是非、本を入手して読んでみて欲しい。中級以上の株式投資家なら面白いと思う部分が幾つかあるはずだ。 その前に、「となりのバフェット」を読むコツを一つお伝えしよう。 それは、投資家を紹介した本文を読む前に、「投資に役立つサイト」と題された末尾にある第11章を先に読むことだ。 紹介されているアマチュア投資家の投資パフォーマンスの多くは、投資サイトに記録された模擬ポートフォリオの運用成績だ。また、紹介された投資家 は、有名投資サイトの中で評判の高い人の中から選ばれているし、彼らの多くは、各種の投資サイトを情報の収集と発表の両方に使っているヘビーユーザーだ。 米国の投資家がどんなサイトを使っているのかが分からないと、背景の理解に苦労する。 著者によると、大手のファイナンス系サイトの掲示板などは、勧誘と、デマと、何よりもノイズ(意味のない情報)に満ちているという。 本書で紹介されているサイトの中には、「ヴァリュー・フォーラム」のように、年会費が250ドル必要だが、会員相互の意識が高く(現在、会員数は約 1,200人だという)、ノイズが殆ど無くて、会員がお互いを助け合うサイトもあれば、「バリュー・インベスターズ・クラブ」のように、匿名ではあって も、本会員が年間2本以上の本格的なレポート書きと20本以上のレポートの評価を行う義務がある、本格的な内容のサイトもある。長年思っていることだが、 アカディミック、アマチュア、プロフェッショナルいずれにあっても米国の投資研究の層の厚さは羨ましい。 さて、本書に登場する投資家の投資方法はバラエティに富んでいるが、彼らの多くが、何らかの意味でバリュー投資家(割安株投資家)だ。はじめに紹介 される、リーズ氏、クレブス氏、コーザ氏、ペタイネン氏は何れもなにがしかバリュー系の投資哲学だ。順に、バフェットに近いスタイル、バリュー投資にオプ ションの売りを組み合わせるやり方、バリュー株が更に下落する「バリュー投資の罠」を避ける工夫をしているリカバリー投資が得意な投資家、バリュー投資の 方向性を重視したクオンツ(数量分析投資家)、といったところだ。 筆者は、本書全体の中で、二番目に出てくるクレブス氏、三番目のコーザ氏、四番目のペタイネン氏の三人が、特に一般個人投資家の参考になると思った。 詳しくは本を読んで欲しいが、オプションではロング(買い)の投資家が儲かっていないことから、ゼロサム・ゲームなのだからショート(売り)が儲かるはずだと考えて、オプションのショートを投資に組み込んだクレブス氏の方法は、日本の一般投資家にも応用が利く。 たとえば、ある株(インデックス・ファンドでもいい)を買おうとする場合、先ずその銘柄のプットをショートして実質的に現値よりも安く買い始めて、 現物の保有に乗り換えて、株価が値上がりしたらカバード・コールを使ってプレミアムを取りつつ利食いに入るといったパターンは、「基本パターン」の一つと して、覚えておくといい。 また、コーザ氏の株式の「内在価値」に関する考え方と、これに結びつけた売買のルールの作り方などは、日本の投資家にも参考になるはずだ。 ペタイネン氏は、ミシガン大のコンピューターセンターに勤務していて、専門の運用会社並みのデータとシステムを使える恵まれた立場を生かして、多くの仮説を試して有効と思われるもの(現在11のルールがある)を自分の投資に組み入れている。 経験的に有効と思える複数のルール間の矛盾に悩む箇所などは、やや微笑ましいが、こうしたことに悩む以前のレベルのプロフェッショナルなファンドマネジャーを何人も知っているので、彼を笑うわけにはいかない。 また、本文を読んでいると、デビット・ドレマン(バリュー投資のプロ)やジム・クレイマー(有名な投資コメンテーター)などが、近年の相場の下落で かなり痛い目に遭ったらしいことなども分かって興味深い。株式投資自体が低調で人気の無いゲームになってしまったかのような日本と違って(もちろん、その 中でも熱意を持ち、儲けている投資家もいるわけだが)、米国の株式投資家はまだまだコミュニティー全体が熱い。 5番目のヒル氏は、ネットから情報を取って投資するタイプ、6番目のウェイランド氏はバイオ株に特化、7番目のマクダフ氏は「バフェット1にテンプ ルトン2の割合のカクテル」と紹介されるグローバルなマクロ経済分析を重視視する(再び)バリュー投資家、8番目のスワン氏は金鉱株の専門家といった具合 に、紹介される投資家は多岐にわたっている。 ここまでご紹介すると、投資好きの方なら、是非読んでみたいと思われるのではなかろうか。 もう一度繰り返すが、それぞれの投資家のアイデアの参考になる部分を吸収するとともに、投資手法の穴や弱点を探しながら、一人一人について検討しながら読んで欲しい。投資家にとっては「いい栄養」になるはずだ。
2011年09月02日
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読者の多くは、株式会社SBI証券、カブドットコム証券株式会社、マネックス証券株式会社、および楽天証券株式会社の4社による投資信託の販売協力プロジェクトがあることをご存じだろう(「資産倍増プロジェクト」という名前が付いている)。このプロジェクトにあって、上記4社は、協同で各種の広報宣伝活動を行ったり、ネット証券専用ファンドの選定を行ったり(第一回、第二回、各3本ずつ)、ネット証券を通じた顧客の投資信託運用を拡大しようとする活動を行っている。筆者は、楽天証券の一社員として同プロジェクトの関連書籍の作成に協力したし(ダイヤモンド社より刊行予定)、4社協同での公開セミナーに参加する予定になっている(大阪では2011年11月7日、東京では2012年3月18日開催予定)。投資信託及び投資信託ビジネスについては論者によって様々な意見があり、また、これらを述べるに当たっては、ビジネス上の状況や立場の制約を受ける。筆者もその例外ではないが、以下、ネット証券における投資信託の販売に関して何を期待し、これがどうあるべきだと思うかに関して、正直な意見を述べてみたい。日頃の本欄のレポートもそうなのだが、今回は特に、以下の意見が会社(楽天証券株式会社)の意見を代表するものではない、山崎元個人の意見であることをお断りしておく。ネットにおける投信販売の二大メリットネットを通じた投資信託販売は、顧客に2つの大きなメリットを提供すると筆者は考えている。第一に、金融機関のセールスマンが介在しないことで、第二に、ローコストであることだ。順番は、本質的には逆かも知れないが、現実的には、この順で強調したい。日本の投信顧客の多くは、セールスマンが介在し顧客にアプローチすることによって、「不適切なファンド」に投資するに至っている。「不適切なファンド」を筆者は、(1)ほぼ同じリスクを取るファンドの中で他のファンドに明らかに劣るファンドか、(2)顧客の運用にとって不適切なリスク・内容のファンドか、の何れかであると定義する。筆者は「高コストでも、イメージや商品性格などに顧客が満足してこれを選ぶなら、価値あるファンドだ」といった誤魔化しは、認めない。お金の運用の場合、目的はお金を増やすことで、インプットもアウトプットもお金だから、ダメなものはダメなのだ。特に、(1)の場合は、「よりまし」な選択肢と実際の選択肢とを比較することによって(例えば、同じリスク=投資対象のファンドなのに手数料が違うようなケースが典型的)、投資家の「愚かさの値段」を金銭的に評価する事が出来る。例えば、同様の投資対象に投資するファンドの中で相対的に手数料コストが高いファンドや分配金を頻繁に払って課税上損なファンドは(1)の理由で「不適切なファンド」だ。高齢退職者の退職金の大半を新興国通貨のリスクを取らせるファンドに誘導するような場合、このファンドは(2)の理由で「不適切なファンド」である。この種のビジネスに関わっている方には申し訳ないが、毎月分配型のファンドや通貨選択型の新興国通貨コースのファンドなどは、殆どが投資家にとって「不適切なファンド」であり、銀行、対面型証券会社といった金融機関のセールスマンがいなければ、顧客の多くは、こうしたファンドに投資せずに済んだだろう。また、高齢者に明らかに本人が理解できないような内容の、しかもハイリスクな商品を販売するようなケースは、明らかに「適合性の原則」上問題があるが、近年、その種の販売事例を、かつては「おとなしい」といわれていた銀行の投信窓販でも頻繁に聞くようになった。銀行窓販は、すっかり「肉食化」した。投資信託は、顧客が自分で理解し、他の商品とも(特に同類の他のファンドと)広く比較した上で、最も有利なファンドを自分が決めたタイミング・金額で購入すべき商品だ。筆者は、大学の授業で運用にあって「最も恐ろしいのはマーケットのリスクではなく、あなたの目の前に現れる金融マンだ」と日頃から学生に教えている。特に、近年は、商品の開発にあっても、売り方にあっても、行動経済学的なバイアス(非合理的な判断をもたらす心理的傾向性のこと)を積極的に利用した金融マーケティングが横行しており、その中で、対面型のセールスマンが果たしている(悪い)役割が大きい。ネット証券で投資信託に投資する場合、セールスマンの影響を受けずに意思決定ができるということは、特筆大書したいくらいの大きなメリットだ。もう一点、ネット販売による実質的な手数料コストの下落は、顧客の側から見た時に分かりやすいメリットだ。同じファンドを買うにも、対面型の窓口で買うと販売手数料が2~3%かかるのに対して、ネット証券で買うとノーロード(販売手数料ゼロ)というケースが頻繁にあり、投資信託という商品にあっては、既に「一物一価」が崩れている。このことは、顧客にとって非常に重要な情報のはずだが、まだ世間に十分知れ渡っているとはいえないのが大変残念だ。ネットを使った販売によってコストを下げて、そのコストを実質的な価格引き下げの形で顧客に還元し、これを競争力として、需要量を拡大する、というビジネス・モデルはネットのビジネス・モデルとしては、最も古典的且つ基本的なものだ。シンプルなだけに強力でもある。ネット証券各社は、かつて対面型の証券会社が顧客から取っていた分厚い手数料を、ネットを使って引き下げることで「株式の委託売買」というビジネス分野で、対面型の証券会社からシェアを奪う形で今日のビジネスの基礎を築いた。ネット証券の登場によって、顧客は、株式投資をかつてよりも遥かに安い手数料コストで行うことができるようになった。これは、多少手前味噌になるが、ネット証券の投資家、ひいては社会に対する「貢献」として誇っていいものだと思う。結論の先取りになるが、これを投資信託に対しても適用することが、ネット証券の投信販売に関する、筆者の期待の中心だ。率直に言って、対面型の証券会社で売っているようなファンドをネット証券で売ることについては、意欲が湧かない。期待と現実先日、資産倍増プロジェクトのイベントに関する打ち合わせで、SBIグループのオフィスを訪ねた。この際に、受付の横にあるモニターに映った同グループのキャッチフレーズ「全力顧客還元主義」という言葉に感銘を受けた。コストを下げて、そのメリットを顧客に還元することで顧客に報いて、その結果としてビジネスを発展させ、顧客と共に栄えよう、という趣旨だと筆者は読んだ。筆者が、ネット証券の投信販売に期待する方向性そのものだといっていい。問題は、投信に関して、それぞれの時点で、ネット証券がどの程度までやれば「全力」だといえるのか、ということだろう。仮に、全てのファンドをノーロードにして、且つ、信託報酬の中の代行手数料部分も顧客に全て還元するとすれば、顧客サービスに関して全力であることは間違いなかろうが、ネット証券は運用会社の大半を自社の傘下に置くのでもない限り(まずあり得ないが)、投信販売ビジネスで収益を得ることが全く出来ないから、投信販売ビジネスを継続することが出来ない。投信ビジネスに関する限り、資産倍増プロジェクトに参加するネット証券4社は、投信の預かり残高も、投信ビジネスからも収益も「まだまだ全く不足だ」と思っているはずだ(だからこそ、このプロジェクトがある!)。たとえば、現在、ネット証券が投信に関して受け取っている手数料を半分にするなら、投信の預かり資産残高は、少なくとも、倍以上が期待できる必要がある。これが、ビジネス上の半ば「制約条件」だ。ただし、かつて株式の売買手数料を各社が競うように引き下げた時にそうだったように、投信の手数料値下げについても、「やってみなければ分からない」面が多大にある。かつて楽天証券にあっては、「株式の手数料をこれ以上下げるのはもう無理だ」と社員の多くが反対ないし心配する中で、経営陣が値下げを決断して、結果的に良かったという経験が何度かあった。他の3社の事情も似たようなものだったのではないだろうか。投資信託についても、手数料引き下げの投資家にとってもメリットを十分訴えることが出来ると、手数料の引き下げ率を大幅に上回る預かり資産の増加率が得られる可能性があるのではないだろうか。何れにせよ、投資家、ひいては社会の目線から見ると、ネット証券の投信販売は、上記のような展開になるのでなければ、大きな意味はない、といえる。どこまでが「全力」なのか、については、4社各社が考えるべきだし、おそらくは競っていく必要があるだろう。この「全力」のためには、目先の手数料を一時的に減らす覚悟と共に、既存の対面型の証券会社や銀行と全面的に対決する胆力が必要だが、これは、かつてのネット証券が株式売買ビジネスに於いて発揮したことがあるはずの力だ。取り敢えずの中間目標としては、手数料率(資産当たりの)を2分の1に、投信の預かり資産残高は4倍に、という両方を早期に達成する、というくらいがいいのではないか。環境的に大変な時期ではあるのだが、「資産倍増」とだけいうのではいかにも夢が小さい。夢は大きくネット証券の投信販売に関しては、これを、投資家にとって真に好ましくて、且つ面白い投資信託商品の登場に結びつけることが筆者の夢だ。理想をいえば、「不適切なファンド」は売りたくない。しかし、ネット証券はセールスマンを使ってファンドの押し売りをするわけではない。顧客の側で、「不適切なファンド」を避けてくれればいいし、そのことによって、ネット証券、さらには投信の運用会社がより良い商品に注力するようになればいい。ポイントは、「良いファンド」をどれだけ安く売ることが出来るかだ。将来の「良いファンド」の中に、広範な市場をカバーする十分に分散投資されたローコストなインデックス・ファンドが入ることは間違いないが、「インデックス」が常にベストなポートフォリオだとは思わない。インデックス・ファンド並みの手数料のアクティブ・ファンドがあってもいいはずだ。アクティブ運用は、大きなアナリスト部隊と多大な調査コストが掛かり高く付くのだというのは運用会社の言い訳だ。現実には、社内のアナリストに頼らないファンドマネージャーが多数いるし、システムに対する負荷も、数百・数千銘柄の売買が一気に生じるインデックス・ファンドの方が大きい。仮に手数料は掛かるのだとしても、投資顧問を見ると運用に対する手数料は資産残高が数百億円単位になると十数ベイシス(前半)だ。たとえば、運用会社が15ベイシス(1ベイシスは百分の1%)、受託銀行が5ベイシス、販売会社が取る代行手数料が15ベイシスで、35ベイシスくらいの信託報酬でもちろんノーロードのアクティブ・ファンドは十分成立するはずなのだ。こうした手数料のファンドでも、残高が1兆円になると、運用会社と販売会社にそれぞれ毎年15億円の収入をもたらす。1兆円という残高は、米国のミューチュアル・ファンドを見ると、それほど非現実的な金額ではない。また、金額さえ十分に集まるなら、インデックス・ファンド並みの手数料のアクティブ・ファンドがあっても全くおかしくない。ネット証券に投信の資金が大量に集まるようになれば、ローコストな商品を提供する運用会社は必ず現れる。証券直系、銀行直系の投信運用会社は1番手にはならない公算が大きいが、外資系、独立系など、他にも運用会社はある。先行する1社が大きな資金を集めるようになると、証券・銀行系も追随するはずだ。「ネットによる証券販売を梃子にして、個人向けの運用商品を根本的に改善すること」。これなら、仕事として十分なやり甲斐がある。
2011年11月04日
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世の中には色々な人がいて、様々な運用商品がある。現実の運用は、人それぞれなのだが、果たして、お金の運用は人の事情によってどの程度変化すべきものなのだろうか。下の図は、有名なCAPM(Capital Asset Pricing Model。資本資産価格モデル)の導出過程の説明によく使われる図で、リスク資産の有効フロンティア上の一点とリスク・フリー資産(借入を含む)との組み合わせを表す直線(証券市場線)が最も効率的な投資機会集合となって、リスクに対して慎重な投資家も、リスクに対して積極的な投資家も、保有するリスク資産の組み合わせは同じものになるという部分を説明する際によく使われる。CAPMを説明する典型的な図ここで、全ての投資家が同じポートフォリオMを選択する理由は、投資家が保有する情報が共通であり、全ての投資家が共通の有効フロンティア(リスクに対する期待リターンの効率がベストの投資機会集合)に直面していると仮定されているからだ。この理論的仮定自体は現実的ではないが、個人のポートフォリオ選択行動を考えると、自分にとって最も効率のいいリスク資産の組み合わせを一つだけ知っていれば、それと無リスク資産を組み合わせれば、リスクに対して慎重でも、積極的でも、全て用が足りるという部分のロジックは利用できる。従って、リスクに積極的だから外国株式と国内株式のファンドを組み合わせるが、そうでもないからバランス・ファンドを買うし、リスクにもっと慎重だけれども少し高いリターンを狙って外貨預金を少しやってみる、というような、リスク態度別にリスク資産を運用する運用商品を変える必要はないし、そのような変化は非効率的だということになる。これは理屈としては全く正しいのだが、現実の運用はこのようには行われていない。この理由は、一つには、リスクの大きな運用商品でも、投資額を小さくすればほどほどのリスクで運用できるといった「金額によるリスク調整」が盲点になりやすいことがあるだろうし、もう一つは、金融機関が投資家の使える資金を全額使わせようとすることだろう。運用目的ではリスク資産はほとんど変わらないお金の運用のアドバイザーは、しばしば顧客に対して、将来そのお金を何に使うかを聞いて、購入を勧める運用対象商品を変化させる。この際に重視されるのは、運用期間だ。一般に、運用期間が長いほど、大きなリスクを取っても大丈夫だと判断されて、リスクの大きな運用商品が勧められる傾向がある。しかし、これまでに何度も書いたので詳細は繰り返さないが、リスクに対する態度を一定だと仮定した場合「運用期間が長くなると、取ることのできるリスクが大きくなる」というのは間違いだ。取ることができるリスクの大きさは、運用期間が変化してもおおむね変わらない。たとえば、リスクの負担力が年齢で変わるように思うのは、個人の人的資本の価値が若い人の方が大きいし、若年者は傾向として大きな金融資産を持っていないことが多いからだ。また、「お金に色は着いていない」から、将来の使途が、老後の生活資金だろうが、子どもの教育費だろうが、旅行代だろうが、医療費だろうが、お金は自由に使うことができる。資金の「使途」で運用方法を変える必要はない。要は、より安全に、より大きく殖やすことが期待できるお金の運用方法を一つ知っておけば、殖やしたお金は、何にでも使える。ある程度の貯金があれば、各種の保険が不要になるのは、こうした理由だ。現実問題としては、医療保険が不要であるケースが圧倒的に多い。治療に必要なほとんどの高額医療費は、健康保険の高額療養費制度でカバーできるし、保険料を自分で貯めた方が、医療費の作り方としても圧倒的に得だ。収入源との関係は少し考えた方がいいリスクに対する態度も、運用の期間も、運用する資金の将来の使用目的も、運用内容には影響しない、特に、リスク資産の運用内容には関係ないとすると、正しい有効フロンティアさえ分かれば、リスク資産の運用内容は誰でも同じでいいのだろうか。たとえば、電力会社の役員Aさんと、自動車メーカーの役員Bさんを考えてみよう。いうまでもなく、為替レートの変動に対する勤め先の業績は、電力会社(輸入企業)と自動車メーカー(輸出企業)では、逆の方向になる。役員なので、収入が会社の業績に連動すると考えると、Aさんの人的資本(将来の稼ぎの割引現在価値)とBさんの人的資本では、為替レートの変動、ひいては外貨建て資産の収益の変動に対する変化の相関関係が異なることになる。この場合、たとえばAさん、Bさん共に、人的資本が2億円で、運用資産額が5千万円だったとすると、5千万円の中で取る為替リスク(外貨の買い)は、Aさんの方がBさんよりも大きくていい、ということが考えられるだろう。仮に、1千万円を銀行に置いて、4千万円をリスク資産で運用する場合に、Aさんは国内株4割・外国株6割でいいが、Bさんは国内株6割・外国株4割の方がいい、といったことがあるかも知れない。こうした観点を考えるなら、将来の資金使途が例えば不動産の購入である場合に、不動産の将来の価格リスクをヘッジするために、ポートフォリオにREITを含めるといった、資金使途とポートフォリオの相関関係を意識することで、運用を改善できるかも知れない。人的資本と将来の資金使途の(価格)の影響の大きさを考えると、変動リスクが大きくて、また金額で評価した場合の規模も大きいのは人的資本の方だろう。もっとも、将来の自分の収入やその期待が反映する自分の人的資本の価値変動と金融資産の間の相関関係を計測して、運用に反映している人にはまだ会ったことがない。当面は、金融資産の中で、負担するリスクに対する効率の良い運用を追求していけばいいのではないだろうか。だが、人的資本と金融資産の相関関係に気をつけた方がいいケースが一つだけある。それは、勤務先の株式だ。社員持株会といった制度が多くの会社にあるが、愛社精神を持つのはいいとしても、運用のセオリーからすると、金融資産の多くを自社株で持つのはお勧めできない。会社の業績が悪化すると、ボーナスが減り、給料が減って、さらに金融資産も激減していた、ということが起こりかねない。筆者は、自主廃業発表時に、山一證券に在職していた。山一證券には社員持ち株制度があって、さらに、自社株を買う場合に会社から融資が受けられる制度まであったのだが、これらの制度の存在は、社員にとって裏目に出たとしか言いようがなかった。筆者は、確定拠出年金の運用商品メニューに自社株を加えることにも反対だ。老後の資産形成に関するセオリーに反する運用方法を、税制面でサポートするのはおかしいと考えるからだ。暫定的な結論人によって運用内容を変えるべきか否かについて、現時点で、筆者はおおむね次のように考えている。(1)大雑把には、リスク資産の運用内容はみな同じでいい、(2)将来のお金の使用目的や運用期間はなすべき運用の内容にほとんど関係ない、(3)あえて言えば、将来の収入源の違いによっては多少の違いがあるかもしれない、(4)ただし、最適なリスク資産での運用額(リスク量)は個人によって差がある。お金の運用目的は、誰しもが「お金を増やすこと」であり、もう少し丁寧にいうとしても、より安全により多くのお金を得るという意味で「効率的に」お金を増やしたい、ということに尽きる。リスクをより小さく、リターンをより大きくすればいいのだから、負担するリスクに対して、追加的に得られるリターンが最も大きな、つまりリスク当たりの効率がベストな商品ないし、その組み合わせさえ知っていれば、後は、それをどれだけ買うか、だけが問題だと割り切っていいだろう。また、現実問題としては、リスクとリターンの効率もギリギリのベストを追及する必要はない。運用が趣味でも仕事でもない普通の人は、「おおむねベスト付近」と思われる運用の組み合わせを一つ知っていれば十分だ。お金の運用は、金融機関が期待するよりもかなりシンプルなものでいいはずだ。
2010年10月15日
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