PR
Keyword Search
Calendar
Comments
Freepage List
私のブログに訪問してくれてありがとうございます。
大人はどうして二つの顔を使い分けているのだろう。そんな疑問からこの小説を書き始めました。大人への階段を、戸惑いながら歩いている青年ヒロシの苦悩を通じて。
青春の戸惑い (三十三ページ)
顔の傷を負った学生は、あの時遠藤を殴った学生に違いない。学生達は某大学の応援団に所属していた。店の中でも、先輩に挨拶する時は、直立不動の姿勢で、「オスッ」と最敬礼していた。
きっと学生達は、遠藤がこの前抵抗しなかったので、図に乗って絡んだのだろう。遠藤は普段は物静かだが、怒ると躊躇うことをしない、度胸の据わった男だ。憲二のようにrチャラチャラして、女を口説くタイプではない。
店が閉店に近づいた頃、ヒロシは店長に呼ばれた。店が終わったら出かけるので車の運転をしてくれとのことだ。
店の前に車を横付けして待っていると、店長が忙しく助手席に乗り込んできた。
「何処に行くんですか?」
ヒロシが店長に尋ねると、
「今から遠藤の女がやっている店に行くんだ!」
店長は機嫌が悪いのか、憮然とした顔で言った。
店長はキツネのような尖った顔付きで、鼻が高く、切れ長の大きな眼をしている。やさおとこで、口を尖らせて喋るのが癖で、何処か挑戦的な話しの仕方をする。ちょっとでも言い返したら何倍にもなって返ってくる。プライドが高く、神経質な性格だった。
知らなかったのだが、遠藤は女と一緒にスナックをやっているらしい。スナックは女に任せて、自分はキャバレーで働いていたのだ。今まで遠藤は、そんな話しを一度もヒロシにしたことがなかった。
遠藤の店は、渋谷から車を走らせ、一時間近くかかる埼玉の川口にあった。
大通りを左に折れ車を進めると、古い社宅の様な家が建ち並び、その奥に二階建てのアパートが建っている。
一階の角部屋の扉の上で、夕子と書かれたブルーの看板が、ポツンと寂しげな蒼白い光を放っている。周りに飲み屋らしきものは見当たらず、砂利道の奥で、鉄工所らしき建物が薄暗い闇の中に黒い大きな口を開けていた。
店長に続いて店に入ると、客は一人も居らず、カウンターに七つばかりの椅子が並んでいるだけの殺風景な店で、薄暗さが湿ったみたいに陰気臭く、かびた匂いがした。
「よぉー、居ないのかー!」
店長が大声で呼びかけると、
カタカタと、階段を下りてくる気乗らない足音が聞こえてきた。暖簾を分けて出てきたのは、頬に大きなガーゼを貼った、二十歳前後の若い女の娘だった。
「あっ!店長いらっしゃい」
女の娘は店長の顔を見るなり、弾んだ声で言った。
嬉しさからか、女の娘の瞳は潤いを見せ、艶やかな光を放っている。下膨れの、ふっくらとした頬に包まれた唇は張りのある柔らかさを保ち、瑞々しい若さを誇っていた。
店長とは親しい間柄なのか、直ぐに冷蔵庫からビールを取り出し、コップに注いで勧めた。
店長は、旨そうに一息で飲み干すと、遠藤が起こした事件のことをゆっくりと話し始めた。
女の娘は、黙って店長の話を訊いていたが、
「あの人怒るとハンパじゃないから」
と、項垂れた手で店長のコップにビールを注いだ。
「そんなに長く掛からないだろうから、一人で大変だろうけど頑張ってな」
「うん・・・・・」
女に娘は絡めた指に目を落とし、寂しげに頷いた。
以前、二人は何処かの店で一緒に働いていたような気がする。二人の態度から、慣れ親しんだ雰囲気が伝わってくる。
続く