じゃくの音楽日記帳
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2024年4月27日 アマオケのマーラー3番を聴きました。指揮者佐伯正則(さえき まさのり)さんのマーラー3番への大きな愛がひしひしと伝わってくる、大感動をいただいた演奏でした!「マーラー交響曲第3番特別演奏会」~~佐伯正則生誕50周年記念~~ 指揮 佐伯正則 メゾソプラノ 花房英里子 ポストホルン ヨウコ・ハルヤンネ 女声合唱 ESMT祝祭合唱団(合唱指揮 山神健志) 児童合唱 ゆりがおか児童合唱団 ESMT祝祭管弦楽団 2024年4月27日 調布市グリーンホール 指揮者佐伯正則さんという方が、ご自身の50歳の誕生日に、念願のマーラー3番を演奏する特別演奏会だそうです。佐伯さんを慕って集まった方々による演奏で、オケは全国沢山のアマオケから集まった臨時編成ということです。 春のあたたかな日、会場に行ってみました。舞台を見ると、オケは両翼配置で、コントラバスは下手側。ハープは上手側に2台で、ハープの奥にティンパニーです。 そして舞台奥には雛壇が何段かあります。チューブラーベルは、雛壇(最上段?)の上手側の端に設置されていたので、スコアの指定どおり高いところなのでうれしいです。これと対称の位置にあたる下手側の端には、譜面台が一つ置かれています。これは独唱者用の譜面台なのかどうか、この時点では不明でした。 オケが入場してきました。女性陣はさまざまなカラフルな衣装で、綺麗です。 演奏が始まりました。冒頭のホルン主題の途中(第5小節から)、上行音型を繰り返すところで、ややテンポを落とします。ここでテンポを落とすのはCDではセーゲルスタムがやっています。実演ではノット、アルミンク、大植さんなどがひところやっていて、私が勝手にギアダウンと名づけているやり方です。最近はあまりこの方法に遭遇することはなくて、久々でした。(再現部のホルンもややギアダウンしていました。)シンバルの数は、私の席が前すぎて、オケの後ろの方は全然見えず、確認できませんでした。 この第一楽章、とても魅力に満ちた演奏です。特に、美しくやさしい歌が奏でられるところで、テンポを落として、じっくりと歌うのが素晴らしいです。たとえば、練習番号39の直前、トランペットの信号音型(第490~491小節)あたりからぐっとテンポが落とされます。そして続く練習番号39,40, 41とホルンとソロヴァイオリンが織りなす美しい歌が、ソロチェロを経て、やがて低弦のメロディーに引き継がれていくところ、このあたりの美しさが、大切なものを慈しむかのようにやさしくあたたかく歌われ、本当に素晴らしいです。指揮者が3番に寄せる共感の強さがじんじんと伝わってきて、聴き惚れます。 それから弦が半分で弾くところ(練習番号21あたりから)も、斬新なアイデアがありました。コントラバスは見えなくてわからなかったので他の弦楽器についてだけ書きますが、最初は後方のプルトで弾かれはじめました。この後方プルト方式、近年はときどき見かけるようになっています。この方式、普通だと、このまま進んでいき、練習番号26から弦が全員で弾くという流れになります。しかし今回、練習番号26よりもだいぶ前から、気が付いたら前方プルトの奏者が弾いていて、あれっずいぶん早い弾き始めだなと思ったら、後方プルトは弾くのをやめていました。すなわち途中から、弾く奏者が後方半分から前方半分に交替していたのでした!そして練習番号26からは、弦全員が弾きはじめました。いろいろな3番に接して来たなかで、私が気がついた範囲では、同じパートでこのように途中で後方から前方に途中で切り替わる、という方式は初めてみました。夏が遠くから次第に近づいてくるというイメージをはっきりと示したいためと思います。佐伯さんの素晴らしいこだわりです。なお楽章後半での弦楽半分のところ(練習番号62~65)は、半分で弾く箇所が比較的短いためか、後方プルトの奏者がずっと弾き続け、途中で前方後方が交替することはなく、練習番号66から全員で弾く、という方式でした。 また再現部直前の小太鼓は、舞台裏でなく、舞台上でした。会場の都合で舞台裏の演奏に対応していないのか、あるいは人手の点などで指揮者が妥協したのでしょうか。 今回の演奏会では、第一楽章が終わったあと休憩20分がとられることがプログラムに明記されていたのを事前に目にしていました。聴いている途中から、この素晴らしい第一楽章が終わったら拍手ができたらいいなぁと漠然と思っていました。そうしたら幸いにも、第一楽章が終わってタクトが下りてから、ある程度の拍手が始まったので、私もそれに乗っかって、しばし拍手しました。指揮者もうれしそうに、こちらを向いて一礼したので拍手は結構強まり、指揮者が引っ込んだあともちょっとの間ですが拍手が続き、やがて治まりました。アルマの記述によれば3番初演時、第一楽章の終了後に拍手がわき起こったということですので、私かねがね、良い第一楽章の演奏終了のときにいつか拍手ができればいいと思っていました。過去に少し拍手が起こりかけたことは何回かあるのですが、今回は音楽内容が本当に素晴らしかったし、沸き起こった拍手の音量、時間ともにこれまでで一番充実した拍手となったので、うれしい気持ちになりました。 なおアマオケでは、このような第一楽章終了後の休憩は、かなり稀に見られます。私が経験した中では、2016年5月のオーケストラ・アンサンブル・バウムによる3番の時がそうでした。これも温かく素晴らしい3番演奏でした。 休憩のあと、合唱団が入場してきました。高いひな壇に児童合唱、その手前の低い雛壇に女声合唱が位置しました。すなわち高いところにチューブラーベルと児童合唱を配置するという、スコアの指示をしっかり守るやり方で、これもうれしいです。 第二楽章、第三楽章とも、やや遅めのテンポを基調にした落ち着いた演奏でした。ポストホルンは、私の席からは見えませんでしたが、明らかにホール内、舞台上で吹いている音だったので、おそらく雛壇最上段の下手側の端の譜面台のところで吹いたのだと思われます。舞台上で吹くと、同じ空気を共有してしまい、「遠くで」というマーラーの意図と大きくずれてしまいます。佐伯さんが3番を愛し、3番に並々ならぬ共感をお持ちということはこの演奏の随所から非常に良くわかるだけに、ポストホルンを舞台上に配置したという点だけは、いささか残念でした。 第三楽章最後近くの、トロンボーンからホルンに受け継がれる「神の顕現」のところは、テンポを落とし、実に深々とした素晴らしい音楽になっていました。 第四楽章、メゾソプラノの方は、舞台上手、ハープの手前(客席より)の位置で、歌いました。良い歌唱でしたし、指揮者の歌心が、この楽章でも良く現れていて、美しい、充実した味わいの第四楽章でした。 第四楽章の最後の音の響きが消えるとともに、合唱団がさっと立ち上がり、アタッカで第五楽章が始まりました。プログラムに記載されている人数をみると、女声合唱50数人に対して児童合唱は20数人と半分ほどの人数でしたが、児童合唱がしっかり歌っていました。この楽章も、良かったです。楽章途中の練習番号6、暗闇を束の間覗き見るように盛り上がる部分は、テンポをぐっと落として、深みがすごく出ていました。それから楽章の最後の方(第104~107小節)、歌詞の最後を歌うところも、いきなり大きくテンポを落として締めくくりを作っていました。この部分、スコアにはテンポに関する指示は何も書かれてないので、ほとんどの演奏はここをテンポをあまり変えずに軽やかな感じで進んでいくのですが、テンポを大きく落とすこのやり方は、斬新で、音楽に重みがつく、佐伯さん独自の解釈による、ひとつの素晴らしい方法と思います。 そして第五楽章終わりの児童合唱の座り方も秀逸でした。この楽章は120小節あって、児童合唱が歌うのは第119小節までで、最後の第120小節は、三声部の女声合唱のうち高声部のパートだけが「bimm----------」と歌い、オケのごくわずかな楽器とともに静かに消えていきます。児童合唱は、自分たちが歌い終わってすぐ、この第120小節(フェルマータがついているので長い)が演奏されているときに、着席していったのでした!(女声合唱は私の席からは良く見えず、いつ座ったか不明です。どなたかご存じの方がいらしたら教えていただけるとありがたいです。)この、楽章最後の小節の演奏中に児童合唱が座るという方式もユニークで、私は初めて見ました。これによって第六楽章がきちんとアタッカで開始されました。(着席によるノイズがごくわずかに発生しましたが、必要な静寂・緊張は十分に保たれた、素晴らしいアタッカだったと思います。) 結局第四、第五、第六楽章のアタッカの扱いに関しては、綿密に考えられ、一部独自の方法を用いた、必要十分なアタッカを実現していました。アタッカ、あるいは合唱の立ち座りのタイミングに関しては、以前シャイーがやっていた方式(私は勝手に「シャイー方式」と呼んでいます)がもっとも完璧な、妥協しない方法だと個人的には今でも思いますが、この「佐伯方式」も、なかなかに良い方法だと思いました。 そして始まった第六楽章、ゆっくりとした歩みを基調とし、ときどきテンポを落とし、大事な声部を丁寧に紡いでいく、その歌のすばらしさ、もう何も言うことはありません。佐伯さんが抱くこの曲への大きな愛がひしひしと伝わってきます。ただただその音楽に包み込まれ、落涙する幸せ。いよいよ金管コラールも、そしてその後も、ゆったりとした足取りはいささかも急ぐことなく、主題が高らかに歌われ、そしてティンパニーの歩みも悠然と進みます。このティンパニーの音も柔らかく温かく、素晴らしかったです。 オケの最後の和音の響きが消えて、会場からは拍手が起こり始めましたが、佐伯さんは両手を高々とあげたままおろしません。そのうちに拍手は止み、あらためてホールを静寂が包みました。貴重な静寂のひとときでした。そしてやおらタクトが下ろされ、あらためて拍手が始まりました。 しばしの拍手喝采が続きます。誕生日なのできっとハッピーバースデイソングをやるんだろうなと思っていましたが、なんと突然、ホルンが3番冒頭の主題を豪快に吹き始めました!それがしずまったとき、コンマスの指揮で、いよいよ合唱団とフルオケでバースディの歌が始まりました。転調もして盛り上がり、ついには会場全体も巻き込んで歌や拍手や雨あられ、そしてさらに驚きは、最後に第一楽章最後の部分が演奏されて締めくくられました。3番の第一楽章による、ハッピーバースデイソングのサンドイッチ!なんとも型破りで最高の祝福ソングです。 佐伯さんの長年の夢だったというマーラー3番演奏、50歳の誕生日の日に、愛に溢れた稀有な3番を聴かせていただきました。オケの方々も全国から集まっているということで、あまり練習時間が取れなかったことと思います。そんな中で佐伯さんの思いに共鳴して作り上げた素晴らしい3番演奏、大感動をいただきました。佐伯さんはじめ皆々様、本当にありがとうございました! 願わくば10年後の還暦3番、また聴かせていただければ、と思います。
2024.04.29
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