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「アバター」をみました。3DのSF映画ということ以外、ほとんど何の予備知識なしに見てきました。映画館に来たのは、多分「ソラリス」のリメーク版をみて以来だと思うので、なんと数年ぶりですね。3Dと言っても、目の前に何かが飛び出してくるようなこけおどし的な効果を狙ったようなシーンはなく、自然な奥行き感があって、いやーすごく良くできて、美しいです。目も思ったより疲れず、3Dも進歩してるんだな、とびっくりしました。2時間42分というからソラリス(タルコフスキーの方)とほとんど同じ、長~い上映時間なのに、まったく飽きないし、眠くなる暇もなく、ストーりーにぐいぐい引き込まれていきました。戦闘シーンのテンポも良く、はらはらどきどきで、娯楽作品として実に良くできてました。エンドクレジットで、監督がジェームズ・キャメロン、女性科学者役がシガニー・ウィーパーと出て、おー、そうだったのか、とうれしくなりました。キャメロンというと世間ではまずタイタニックの監督ということになるようですが、SFファンの僕にとっては断然「エイリアン2」。シガニー・ウィーパーとともに、強烈な印象でした。今回のこの二人の顔合わせは、なんと「エイリアン2」以来23年ぶりだそうです。で、エイリアン2に出てきたモビール・スーツまがいの機動戦士が、今回も登場するし、最後の戦闘シーンのテンポの良さ、のりの良さは、まさにエイリアン2を思い出します。そういえば、資本主義社会の大企業の論理の冷徹なエゴ(利益追求のみ)という舞台背景も、エイリアンシリーズと同じです。しかししかし、この映画ただの娯楽SF大作ではなかった。ただめがねをかけて立体映像を楽しむ映画ではなかった。単なるエイリアン2の延長線上のバトル・サバイバル映画ではなかった。SFというジャンルを超える主張が、熱く示されていて、そこに強く共感しました。わたくし、こういうSF映画こそ深く敬愛してやまない、いちSFファンであります。ここから先は、ネタバレというほどでもないんですけど、ちょっとストーリーの展開にも関わることを書きますので、これから見ようというかたは読まないでください。この映画では、地球から遙か彼方のとある惑星に住む先住民の大切な「母なる木」に、大企業に雇われた軍隊がレアメタル欲しさに攻撃をしかけて、倒しにかかります。このシーンをみていて、だいぶ以前にテレビでみたシーンと完全に重なり合いました。もう数年、いや10年くらい前になるでしょうか、お正月のテレビの特番でした。女性シンガー・ソングライターのEPOさんが、世界のさまざまな文化・民族・史跡などを旅する番組で、お正月にふさわしい見応えがありました。その中で、インディアンたちが大事にしている神聖な木を、どこかの会社がその土地の所有権を主張して、開発か何かに邪魔だから切り倒す、というシーンがありました。やめてほしいと祈るように懇願するインディアンたちが見守るなか、無惨に切り倒されていく木。EPOさんも涙ながらにそれを見つめていました。この木は誰のものなのか。。。アバターは、キャメロンが監督のみならず脚本も書いています。キャメロンがアバターで描く先住民は、映画が進んでいけばいくほど、インディアンとの類似性が明確になっていきます。キャメロンさんがこのインディアンの木のシーンを見たのかどうかはわからないけれど、このシーンと同じようなことはアメリカのそこら中で起こっていたのだろうし、今も起こっているのだと思います。それに対するキャメロンさんの静かな怒り、自分たちの利益・繁栄しか考えない人類(先進国の人々)のおごりに対する、それでいいの?というきびしい問いかけがこの映画のメッセージ、と僕は感じました。この映画で、先住民たちは自分たちの命だけではなく、すべての生き物の命を敬い、自然とともに調和した生活をしています。そういった方向を目指さないと、人類はもうダメだよと。宮崎駿さんの「ナウシカ」を、映画でなくて漫画の方を読むと、人類固有の利益にとらわれることがいかに小さいことで、人類の存亡なんてどうでも良いこと、そういった大きなスケールの視点から描かれています。ガイアというともはや陳腐かもしれませんが、そういった大きな視点を早々と示した宮崎さんの、先見の明ですね。このアバターも、そういった視点でナウシカと共通するところがあると思います。ところで、そのEPOさんの正月特番の番組テーマ曲に使われたのが、EPOさんの「満ち行きて」。その音楽に感動してしまって、後日CDを探して買いました。オリジナルのアルバムは1997年の「聖き彼の人」だそうですけど、僕の買ったのは、EPOさんのベストアルバム「TRAVESSIA/EPO」です。このアルバムの13曲目に、この「満ち行きて」がはいっています。とってもいい曲です。歌詞を途中まで書きましょう。天のふちから見守られて生きるもののはじめと終わりあなたの指を握りしめることに力つきても私はどこかでまた産まれ見えない糸をたぐりよせる満ち満ちて 満ち満ちてさんさんと さんさんと光はそそぎそれぞれに それぞれに営みをくりかえす命のさざ波(EPO「満ち行きて」より)
2010.01.06
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カザルスホールの閉館がいよいよ迫った3月は、31日まで連日のように、最後を惜しむ数々のコンサートが開催されていました。その中で僕が日程的に行けるのは3月10日のボッケリーニのスターバト・マーテルなどのコンサートだったので、これを聴きに行くことにしました。3月10日がやってきました。今回は音楽もさることながら、カザルスホールにお別れを告げることがメイン目的でしたので、早めに行って、写真をとることにしました。御茶ノ水駅から歩くこと数分、ホール前に到着したのが、ちょうどたそがれの頃でした。表通りのあたりから、奥に少し引っ込んだエントランスの方を臨んだ写真です。ホールは、上の写真で正面の入り口を入って右に進んですぐ、写真右手の建物の中です。写真中央遠方に立つ高層ビルは日大の建物かと思います。このあたり一帯が日大の御茶ノ水キャンパスで、ホールの周りには時間貸し駐車場や、広い空き地やグラウンドが不規則にあって、なるほどいかにも再開発前の土地です。。。ホール入り口です。まだ開場時刻の少し前なので人はほとんどいませんでしたが、このあとほどなく、開場を待つ人が大勢この前に集まり始めました。さて今夜の演奏会は、オール・ボッケリーニ・プログラム。キアラ・バンキーニ(音楽監督、ヴァイオリン)アンサンブル415(古楽アンサンブル)マリア・クリスティーナ・キール(ソプラノ)前半は弦楽五重奏曲(2Vn,1Va,2Vc)が2曲で、後半はそれにソプラノ独唱が加わった編成で、スターバト・マーテルでした。ボッケリーニの曲はメヌエットくらいしか聴いたことなかったです。プログラムの解説によると、ボッケリーニは自身が卓越したチェロ奏者で、彼が長く仕えたスペインの宮廷には優れた弦楽四重奏団があり、それで自らが参加して演奏できるように、チェロ2台という編成の弦楽五重奏曲が多いということです。なるほど。そしてスターバト・マーテルは、第1稿がソプラノ独唱と弦、改定稿がソプラノ、アルト、テノールの3人と弦、という編成ということです。これほど小さな編成のスターバト・マーテルがあるとは知りませんでした。今回の日本公演の企画・招聘元のアレグロミュージックのチラシに掲載されているインタビューによると、アンサンブル415の創設者バンキーニさんは、ボッケリーニの音楽が大好きで、このスターバト・マーテルの第1稿を含む数々のボッケリーニの曲を録音しているそうです。バンキーニさんはスターバト・マーテルについて、「この作品の編成は本当に独特です。人の声はあたかも6番目の声部のようになっています。第1チェロのソロが歌に対して同じ強さで応答します。」と語っています。前半の弦楽五重奏曲も良かったですが、休憩のあとのスターバト・マーテルがなんといっても圧巻でした。キールさんというソプラノ、とっても素敵です。弦楽器五つと独唱という小編成による祈りの音楽は、このホールならではの長く豊かで自然な残響がふさわしく、じんわりした感動に浸ったひとときでした。演奏が終わって、盛大な拍手喝采が起こりました。演奏者に対してのみならず、ホールへの感謝の気持ちをもこめて拍手したのは、きっと僕だけではなかったでしょう。やがて拍手が鳴り止み演奏者が退場したあとも、名残を惜しむようになかなかホールから出ようとしない方々が大勢います。そしてホールの係の方も、いささかも帰りをせかそうとせず、そういう人々の想いを暖かく見守ってくれています。ホールの写真をとる方も少なからずいて、係りの方はそれもにこやかな笑顔で見守っています。僕はコンサートが終わった後でもホール内の写真撮影はいつも差し控えています。今回もホール内部を撮るつもりはありませんでした。けれど、このような特別な雰囲気の中で、今回ばかりは内部を撮らせていただいても良いかなぁと思って、ホールを出る前に1枚撮らせていただきました。(舞台上にいるのは譜面台などを片付けに出てきたステージマネージャーさんと思われます。)これは帰り際に撮った、ロビーの壁にある定員511名の表示です。そしてこれは入り口を入って目の前の壁にある、カザルスホールのマークです。素敵なマークですよね。そうそう、ホールの開演5分前を告げるベルは、カタロニアのあの「鳥の歌」を、低い鐘の音で重々しく歌ったもので、意味深く印象的な響きでした。あの音ももう耳にすることはないのでしょうか。。。僕の古い机の引き出しに眠っていた、カザルスホールフレンズの会員証です。右下の紙は、2010年3月31日、カザルスホール最後のコンサート「カザルスホール331」のチラシの一部です。8年前には、再会を信じつつ、ひとまずさようならをしたカザルスホール。今度は本当にさようならでしょうか。。。数々のすばらしい音楽を、ありがとう。
2010.05.18
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