フォーカスチェンジ・フラッシュ

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2012.07.05
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おおきなバケツ


あるとき、あるところで、
あるコンテストが
ひらかれました。

テーマは、
「不幸自慢」です。


おおきな会場に、
おおぜいの発表者が
押し寄せました。

だれもが、自分こそ
一番だと思っています。

それぞれにはげしく
主張しあいましたが、
なかなか
決着がつきません。


すると、主催者は、
係のものに
何かを指示をしました。

係のものは、走って
いって、あるものを
もってきました。


それは、バケツでした。

係のものは、発表者
一人ひとりに、その
バケツをもたせました。


主催者は言いました。

「最後に、一番おおきな
 バケツをもっている
 ものが優勝者である」


みんなは、
顔を見合わせました。

バケツのおおきさは、
どれも同じなのに。


ところが、おもしろい
ことが起きました。

次の発表者が、
自分の不幸を主張すると、
バケツは、しゅるっと、
ひとまわり、
おおきくなったのです。


「おおっ!」

みんなは、
目を見張りました。


次の発表者は、さらに
意気ごんで、自分の
不幸を語りました。

バケツは、またまた
おおきくなります。


もうあとは大変です。

みんな、口角泡をとばし、
我こそはと、自分の
不幸をまくしたてます。

ときには、
身ぶり手ぶりを使って、
表現しようとします。


そのたびに、
バケツは、どんどん
おおきくなりました。

両手ではかかえて
いられないくらい、
いいえ、背丈を
はるかに越すくらい、
おおきくなりました。

それでも、やはり、
決着はつきません。


主催者は言いました。

「バケツのなかみを
 のぞいてみるといい」


発表者たちは、
言われるままに、
バケツのなかみを
のぞきこみました。

といっても、どのバケツも、
よじのぼって見なければ
ならないほどのおおきさ
になっていましたけれど。


どのバケツのなかにも、
小さな紙切れが、
いくつも入っていました。

紙切れには、なにやら
文字が書かれています。

「それが、あなたがたが
 語った不幸のなかみだ」


たしかに、自分の言った
ことばが、それらに
書き記されています。

主催者は言いました。

「バケツのなかみが、
 一番埋まっているもの
 こそ、一番不幸なはず。
 そのものを優勝者とする」


発表者たちは、ふたたび
顔を見合わせました。

バケツのなかみを
埋めるためには、
自分の不幸を
語らなくてはなりません。


でも、不幸を
語れば語るほど、
バケツは、どんどん
おおきくなるのです。

埋めなければならない
すきまが、そのたびに
増えるのです。


発表者たちは、
もう一度、バケツの
なかみをのぞきました。

底にたまった紙切れを、
しみじみと見ました。


「不幸だ、不幸だと
 言っているわりには、
 こんな程度の量しか
 ないんだなあ」

一人が、ぼろっと、
こぼしました。


そのとたん、バケツが
しゅるっとちぢみました。

みんなは、はっとして、
顔を見合わせました。

バケツがちいさくなれば、
結果的に、紙の
埋まっている部分が、
増えるではありませんか!


そのあとは、
また大変でした。

みんなが、我も我もと、
自分がいかに、
これまでの不幸を
乗り越えてきたかを
語り始めたのです。


そのたびに、バケツは、
しゅるしゅると、
ちいさくなりました。

そして、とうとう、
てのひらに乗せても
見えないくらいの
ちいささになりました。


どこからか、
笑いがもれました。

「なあんだ!
 自分の不幸なんて、
 こんなちっぽけな
 ものだったんだ!」


みんなもつられて
笑いはじめました。

会場全体が、
笑いにつつまれました。

あんまり笑い声が
おおきかったので、
通りかかったひとが、
「今日は、笑い声
 コンテストですか」
と、聴きにきたほどです。


もう、だれも、
自分のことを不幸だと
主張するものは
いませんでした。

だって、こんなに楽しく
笑っちゃったのですから。

不幸だなんて、言えなく
なっちゃいますよね♪


さて。

そのなかで、ひとりだけ、
おおきなバケツのままの
ひとがいました。

そのひとは、あのあと、
何も語らずにいたのです。


主催者は言いました。

「あなたの勝ちです。

 でも、なぜ、ほかの
 ひとのように、バケツを
 ちいさくしなかったのか、
 わけを聴かせてください」


そのひとはこたえました。

「このバケツを、不幸で
 満たすためには、
 もっともっとたくさんの
 不幸を知る必要が
 あるでしょう。

 そうすると、おそらく、
 バケツはまた
 おおきくなるでしょう。

 それもおもしろいと、
 思ったんですよ。

 自分が、どこまで
 おおきなバケツをもって、
 生きられるかを、
 見とどけてみるのもね」


みんなは、しんとしました。

だれも、そのひとほどの
不幸を引き受けて、
生きていくことができる
とは、思えませんでした。

そのひとが、
引き受けた不幸は、
世界の不幸でしたから。


静かな拍手が湧き起こり…。

やがて、ひとびとは、
散り散りに
去っていきました。


見えなくなったバケツを
放り出して。

かわりに、こころのなかに、
何かほかほかと湧き上がる、
あたたかいものをかかえて。


そして、だれもが
無言のうちに思ったのです。

あのおおきなバケツに、
このあたたかいものが、
流れこみますように。

そして、バケツ全体を、
あたたかさで
埋め尽くしますように、と。


--かめおかゆみこ発行
   「今日のフォーカスチェンジ」
   第1839号(2008年11月10日発行)より


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Last updated  2012.07.05 08:26:21
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ぱんちゃん@ Re:達人の出番です!(12/07) 心配り。心痛い!なかなかできない。心配…
ぱんちゃん@ Re:こころが動かないときは(12/07) 三秒でもよい。二日坊主の私はいつも片身…
黒澤まちこ@ Re:「あなたが採用決定者です」(10/04) そうなんです。みんなが幸せなら私は幸せ…
くろさわまちこ@ Re:からだの問題だけではありません。(10/04) 上手く言えませんが、そんな感じ。私のな…
みゆ@ Re:「今にして思えば…」 本当にそうですよね 過去をふりかえるより…

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