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初期 And Also The Trees ベスト5

私が愛した初期 And Also The Trees

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パンク・ロックが収束し、デュラン・デュランやカルチャー・クラブのようなチャラチャラしたポップ・バンドが音楽シーンを賑わしていた80年代前半のイギリスでは、その一方でポジティブ・パンクとかネオ・サイケデリックなどと呼ばれる暗くて内省的なバンドが雨後のタケノコのように生まれていた。

このポジパンやネオサイケの一派として知名度を獲得しながらも、そのようなジャンル分けを拒むかのような独自の世界を奏でるバンドがイギリスの田舎町に生まれた。その名も「And Also The Trees」である。「そしてまた、木も」なんてバンド名はまるで「筋肉少女帯」みたいに人を食った感じがするが、音楽は暗くて内省的な上に、しっとりしていて、屈折していて、重く、熱く、深く、哀しい。

ただしこのバンドは1989年に発表した第4作目『Farewell To The Shade』で文字通り“陰影に別れ”を告げ、地下室または屋根裏の音楽から居間で聴ける音楽へと変貌を遂げ、さらには90年代半ばにアメリカのレーベルと契約してアメリカ市場に進出してからはジャズだのブルースだのの要素を取り入れ、すっかり青年期的なカドのとれたオトナのバンドになってしまった。

以下は、彼らが陰影に別れを告げる前の、私が愛した初期And Also The Trees アルバム3作から、特に好きな4作を選んで解説するとともに、その歌詞及び拙訳を載せたものである。(YouTubeで動画が見つかったものは、曲名の右にそのリンクを貼っている)

『Scarlet Arch』 (YouTubeビデオは こちら)
kn.jpg(LP『Virus Meadow』の輸出版にボーナス・トラックとして収録)


屈折度、暗い度、重い度、爆発度、哀しさ、リリシズム、繊細さのどれをとっても満点に近い初期AATTの傑作。サビでの錯乱気味のギターとフラストレーションが爆発したようなドラムがとても気持ちいい。歌詞のイマジェリーも音楽にピッタリである。

Lie in the pale summer heat
ほの白い夏の熱の中に横たわり
Find a clock as it ticks
見つけたのはカチカチと時を刻む時計
Oh, to never sleep
…ああ、まるで眠るなとでも言わんように
But the clock ticks so loud
時計は大きな音を立てて時を刻む
Like the cracking of whips
まるで鞭打つかのようなその音は
Till the sun slowly heaves
やがて日がゆっくりと
From the blood hungry land
血に飢えた大地から
To its heaven of blue
蒼い天上に昇るまで続く

Run, through the dust and the stones
塵と石の間を分け走る
Like a stream as it flows
平穏の王国を突っ切って流れる
Through the kingdom of peace
急流の流れのように
But a beast roamed his head
しかし野獣は徘徊する、その頭を
Like the aching of guilt
まるで罪の痛みのようにうな垂れ
As it bakes in the heat
夏の熱の中で焼き固められ
As its swollen tongue speaks
膨れた舌で何かを喋るままに
Robs the old of its breath
膨れた舌が旧い息を奪うままに

Hang beneath dawns scarlet arch
黎明に垂れ下がる緋色のアーチ
Where the wind ever moans
そこでは風が唸りを立てている
Like the slaveship it drifts
まるで風に漂う奴隷船のように



『Virus Meadow』 (YouTubeビデオは こちら)
kn.jpg(LP『Virus Meadow』及びライブLP『The Evening of the 24th』に収録)


曇天のイギリスの殺伐とした陰鬱な風景が目に浮かぶような、魂を掻き毟られるような名曲。サビ兼間奏がたしかに鐘の音のように聞こえる。ライブLP『The Evening of the 24th』の最後に収録されたこの曲を聴くと小便と涙が一緒に出そうになる。歌詞の最後に登場する”the night brothers”はボーカルとギターのJones兄弟自身か、あるいはホモの暗示か?

Rattled chime, slow ringing echo
ガタガタと揺れる鐘、鳴り響く鐘の音はゆっくりとこだまし
Roll around in virus meadow
ウイルスの草地を転がりゆく
Suck enchanted nightshade twine
呪われた毒の実が絡みつくのを吸い
Hear the bells beneath us chime
眼下の鐘が鳴り響くのを聴く

Sinking sermon, priest head murmurs
司祭の頭がつぶやいている 気の滅入る説教
Holy words across the meadows
聖なる言葉は草地を渡り
Kissed the plagues' black rolling hand
振れる悪疫の黒い手に口づけ
Through his lips the virus sang
司祭の唇からウィルスが歌う

And the rooks, they seemed to follow him
そしてカラスは、司祭の後を追うかのように
Wherever he goes
彼がどこに行こうとも
Flapping in the flat sky
平らな空に羽ばたき
Shrieking in the spire
尖塔の上に立って高声を上げる
Hanging from the lead sky
鉛色の空から吊り下がり
Dangling from the sun
太陽から垂れ下がり
The rooks, they seemed to follow him
カラスはまるで 司祭がどこに行こうとも
Wherever he goes
彼の後を追うかのように

Nodding thistle, english sun dew
頭を垂れたアザミに 英国の淡い日に照らされた露
Swansneck woman, child-bed meadow
白鳥のように首を垂れた女、子供ベッドのような草地
Aching shoulders sink and grow
痛む肩が沈んでは浮かぶ
As the bells from ditches toll
水路から聞こえてくる鐘の音に合わせて

And the smeared skin wrapped limbs
薄汚れた肌は
Of the night brothers
夜の兄弟の四肢を包んでいる
Struggling.... crawling
這いつくばり、もがいている
Through the empty crack of morning
その夜の兄弟のもとに
Of the night brothers...
空っぽな夜明けがやってくるまで



『Slow Pulse Boy』 (YouTubeビデオは こちら)

(LP『Virus Meadow』及びライブLP『The Evening of the 24th』に収録)


溶岩流のように熱く重くかつ静かで激しいAATTの代表曲の1つ。真夏の夜の夢のようなイマジェリー。『The Evening of the 24th』収録のライブ演奏も必聴である。

Somewhere the blast furnace explodes
どこかで溶鉱炉が爆発する
Plumes of amber in the night sky
琥珀色の火の柱が夜空に上がる
Each explosion bounces rom horizon to horizon
その爆発は地平線から地平線へと跳ね返る
From horizon... to horizon
地平線から… 地平線へと

And for a while, the slow pulse boy
暫らくの間、その遅い脈拍の少年は
Stood by the window
窓際に立ち
And let the fire sink into his skin
その火を自分の皮膚に染み込むに任せている

(中略)

Then we were standing very close
我々はお互いのすぐ傍に立っている                          
I could live in the space
少年の鼓動と鼓動の間のスペースに
Between his heartbeats
住もうと思えば住めるのではないかと思う
Outside the blast furnace errupts again
外では溶鉱炉がまた爆発している
And dark red rivers
そして、濃く赤い河が
Filled our veins with frenzy
我々の静脈を激高で満たす
We could tear up the floors
床を引きはがしたら
And find all the things we'd ever lost
これまでに失ったものすべてを見つけられるのではないかと思う

(中略)

Somewhere a girl is singing
どこかで少女が歌っている
There is calm in the air
空気には静けさが漂っている
But there is greater calm than I can bear
その静けさは私には耐え切れないほどだ
Tomorrow the sun shines
そして翌日、日が照る



『The Suffering of The Stream』 (YouTubeビデオは こちら)

kn.jpg (『The Millpond Years』収録)


LP『The Millpond Years』のレコード(CD)をプレイすると、いきなりギターの不協和音で始まるのが、1曲目のこの曲である。なんだかAATTらしくないメロディアスなキーボードだと思って聴いていると、歌詞も珍しく女のことを歌っている。これまで不調和の中で痛々しく叫んでいたAATTが、世界と折り合いを付けて安定したかと思わせるような、優しくも少し痛々しく哀しい曲。

There is a place where she would always be
彼女がいつも居る場所がある
Where the blossom snows between the cankered trees
腐りかけた木々の間に花びらの雪が積もるその場所
Holding his sour breath
その酸っぱい息を押し殺しながら
He knows she's there
彼は知っている、彼女がそこにいることを
Watching the torrent as it flows
奔流が流れるのを眺めながら佇んでいることを

Watching her soft white dress, it flows
彼女の柔らかそうな白いドレスが
In the innocent breezes
流れの底にある石を滑らかにしながら
Smoothing the stones
無垢な風に流れるのを見つめている
Watching her cold white dress, it floats
彼女の冷たい白いドレスが流れるのを

He could see his love like a long forgotten dream
長い間忘れていた夢のような彼の愛、
He could see his love veiled beneath the stream
彼はその愛が急流の下に隠されているのを感じている
He could see his love grow pallid and suffer as he weeps
彼が嘆き悲しむにつれ その愛は蒼白くなり傷むのが分かる
His tears fall around her in oil-rainbow streaks
彼の涙の雫は油に浮かぶ虹のような跡を残して彼女の周りに落ちる
He could see his own reflection cloud the stones
水面に映る彼の姿が水底の石を曇らすのが見える

There is a place where she will always be
彼女がいつも居る場所がある
Where the blossom floats above her through the reeds
葦の合間、彼女の頭上に花びらが舞い
Where cling the willow roots
柳の根が絡みつくその場所
His fingers reach
彼の指が延びる
Searching for her lost arms to seize
失ってしまった彼女の腕を掴まんとして

Watching her soft white dress, it flows
彼女の柔らかそうな白いドレスが
In the innocent breezes
流れの底にある石を滑らかにしながら
Smoothing the stones
無垢な風に流れるのを見つめている
Watching her cold white dress, it floats
彼女の冷たい白いドレスが流れるのを


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