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秋田のお盆行事
神奈川大学教授 山本 志乃
秋田の日本海沿岸に、お盆の行事を見に出かけた。鳥海山を望む象潟海岸の砂浜に小屋を建て、ご先祖様を迎え送る行事だ。小屋の大きさは一間四方ほど。掘っ建て柱に蓆や藁束を巻き付けた簡易なものだが、ほおずき、カボチャ、梨、素麵などで奇麗に飾られた祭壇の片側に、二~三人が入れそうなちょっとした部屋がある。昔はもっと大きくて、地区の子供たちがここに籠って夜明かしした。その子供たちが、家々を回って賽銭をもらう習慣もあったようだ。集めた賽銭で花火を買い、小屋ごとに競い合ったりもしたという。盆小屋は、子供にとって自治と自立を学ぶ場であったのだろう。
八月一五日の夕刻、海に日が沈む頃になると提灯を手にした人々が三々五々海岸の小屋にやってくる。提灯のろうそくを祭壇にお返しし、線香に火をつけ海岸に立てる。ろうそくは、一二日の迎え盆に小屋からもらってきたもの。ろうそくに灯した火で海からご先祖様をお迎えし、再びその火で海の彼方に送る。水際の砂に立てた線香に手を合わせ、海に向かって「またね」とつぶやく人もいた。旅立っていった大切な人への思いが、線香の煙とともに海に流れていく。
行事の最後、壊した小屋の材に火をつける。大きな焚火を囲んだ子供たちが「じぃだ、ばんばぁだ、この火の明かりでいとうね、いとうね(おかえりください)」と、声を揃えて唄う。この世にやってきたばかりの子供たちは、あの世との交信を担う使者でもある。この小さな命こそ、ご先祖様が残してくれた宝物だ。
日本の盆は、終戦の日とも重なる。失われたたくさんの命の上に、今の世がある。ご先祖様が穏やかに去来できる平和な日々を守る責務が、我々にはある。
【すなどけい】公明新聞 2025.8.29
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