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間違いだらけの靖国論議
三土 明笑 著
「政教分離」こそ議論の焦点
創価大学名誉教授 中野 毅 評
「靖国は今、鳴りを潜めた休火山のような状態だ」との書き出しで始まる本書は、靖国文愛とは何かを今再考する上で時宜に適った一書である。
著者は専門(経済学)外であったが、『靖国問題の原点』(二〇〇五年)を出版し、それ以来、この問題の評論家の一人として注目されている。実は三土の祖父・三土忠造は戦前の政友会の幹部政治家であり、靖国神社の宗教法人化を決めた一九四六年一月の閣議に内務大臣としてかかわっていた。そのことが著者の靖国神社問題への強い関心を生み、問題の解明は孫としての責任だという。
本書は第一部で靖国問題について誤解されている点を Q & A 形式で語り、第二部で靖国問題のキーポイントを解説している。また X 軸と Y 軸、三木武夫元凶説、垂れ込み売国奴説、分祀そそのかし型野党などのオリジナル術語を活用して分かり易い論を進めている。
靖国問題の原点は、敗戦後に占領軍が進めた「信教の自由」の尊重と「政教分離」の宗教政策にある。神道指令を起草した宗教課長バンスは、靖国神社を存続させるには、神道的な宗教性を外した戦没者慰霊堂のような形式に変えるか、それとも国家や天皇制との関係を断ち、民間の神社となって宗教性を維持するか、二つの道があることを示した。その結果、後者を選んで生き延びることを決断したのは、神社側であることを本書は初めて明らかにしている。伊勢神宮なども同様であった。故に、戦後の靖国問題は、憲法が定める政教分離原則に抵触するか否かが最も重要な焦点となる。
しかし今日に至る混迷の原因もそこにあった。神社は形式上は民間の一宗教として、「信教の自由」という錦の御旗の下で生き残ったが、信仰内容は政教一致の国家神道そのものであり、手段と目的が最初から「ねじれ」ていたのである。また近年は歴史認識問題、近隣諸国との関係、 A 級戦犯合祀・分祀という不要な論点まで加わってしまった。靖国問題の根本は「信教の自由」と「政教分離」であり、そこを正面から議論すべきだと、あらためて強調している。
◇
みつち・あけみ 1949 年生まれ。愛媛大学教授など歴任。三土明笑は通称。戸籍名の三土修平で『靖国問題の原点』など著書多数。
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