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2007.11.26
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カテゴリ: フランス映画
UN COUPLE PARFAIT

108min
(桜坂劇場にて)

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物凄い美人っていうのではないかも知れないけれど、どこか不思議に恐ろしく魅力的で、そしてきっとかなり知的な女優さん。オゾンの 『ふたりの5つの分かれ路』 でも良かったけれど、ちょい役ながらヴァンサン・ペレーズの 『天使の肌』 の弁護士役は彼女の人間に対する理解や優しさが表現されていてとっても魅力的だった。そんなヴァレリアが主演で、一方監督としてはかなり好きな諏訪敦彦(←これでスワ・ノブヒロと読むらしいのだけれど、パソコン入力のときはスワ・アツヒコにしている)。最近は時間があまりなく常時寝不足気味で、夕方の4時~7時までの3時間は通常の睡眠時間なのだけれど、見に行かないわけにもいかないでしょっ!、ってわけで桜坂劇場16時10分の回を見に行ってきた。自分にとっては今年見たベスト5、少なくともベスト10には入る作品だった。

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諏訪敦彦の作品はこのブログでも 『2 デュオ』 『M/OTHER』 『H Story』 を取り上げている。印象として『2 デュオ』はやや薄いけれど、3作どれも面白かった。特にアラン・レネの名作『二十四時間の情事(ヒロシマ、モナムール)』の一種のリメイクの『H Story』はフランス盤DVDを安価に買って持っているものの1度半しか見てなくて、それも約1年前。でも今でも鮮烈に印象が残っている。諏訪監督の映画の撮り方はセリフ台本がなく、事前に役者と綿密に話し合い、役者の即興に任せるという演出。でもあの叙情は何なのだろう?!ってくらいに『H Story』は心に沁み入るものだった。

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先日ある人と映画の話をしていた。その人曰く「車はあんな風に爆発はしない」とかとか・・。確かに映画ってリアリティーがあるように見せ掛けながら、実はそれらしい作り事。でも車の爆破といった物的なことでなくても、映画における会話の場面なんていうのも現実にはあり得ないようなもの。映画では10分なんて1シーンは物凄く長いのだけれど、例えば男と女の別れ話なんて10分そこいらで終わるものではない。何度も同じことを蒸し返したり、長い沈黙があったり、そんなこんなで現実には数時間や一晩の場面なのだ。それを10分なら10分の場面に(現実にはもっと長い場面の抜粋ではなく、あたかもその10分ですべてが生起したかのごとく)上手いこと要約した脚本、それが映画。そう言えばアントニオーニの 『太陽はひとりぼっち』 は別れ話をきっと一晩して夜が明けた重苦しい早朝の場面から始まる。これは正直なリアリティーかも知れない。

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この映画は15年連れ添った夫婦が別れる、別れない、というお話。夫ニコラ(ブリュノ・トデスキーニ)は建築家、妻マリー(ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ)は元写真家というアーティストカップルで、今はリスボンに住んでいる。友人の結婚式でパリにやってきた2人がホテルに向かうタクシーの場面で映画は始まる。ホテルに着いて、部屋にエクストラベッドを入れてもらう。離婚を決めたらしいから、セパラシオン・ドゥ・コール(肉体の分離)というやつですか。こういう点ははっきりしていますね、フランス人は。なんとなくギクシャクで、会話も少ないのだけれど、自分の方が(簡易の)エクストラベッドに寝ると言い合ったり。なんとなく不満とかやり場の無さとか、意地の張り合いとか等々。複雑な思いですね。どちらかに愛人が出来たとか、そういう明らかな離別の理由はない。ただ相手に対する不満のようなものも感じてしまっている。でもそれって自分の人生の不満を相手に転嫁している感じでもある。そして何より互いに未練がないわけではない。そういう揺れ動く心理を描いている。レストランでの友人との食事。マリーがロダン美術館に行って物思う場面。結婚パーティー。ニコラの深夜の徘徊と、カフェでの老人との会話とパーティーで知り合った女性を呼んでの会話。再びロダン美術館を訪れたマリーがボルドーの高校時代の友人に偶然会っての会話。そういう場面を経て、ポルトガルには戻らず一人ボルドーに汽車で発つというマリーとそれを見送るニコラの最後の駅のホームの場面。そんな108分の映画は、揺れる2人の心を良く描いている。あるいは2人の役者が演じている。

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上の方に書いたように映画には普通セリフ台本があって、監督なり映画全体が一つの物語を観客に物語って見せる。でもそこで役者は何をするかと言えば、作り話である人物を演じる。中には本人が役に成り切るタイプの役者さんもいるけれど、そうでなくても役者が自分の経験等に則してその作中人物を理解して演じる。アニメや人形劇映画と違って、どんなに独断的独裁的演出の監督の下であっても、この役作りをする役者という人間が存在するのが映画の面白さだ。「自分の俳優たちのドキュメントを撮る」と言ったのはユスターシュだし、「自分の映画は映画作りに関するドキュメンタリーだ」と言ったのはフィリップ・ガレルだ。それなら設定だけを与えて役者に自ら演じさせるのはそのような方向性の一つのやり方ではないだろうか。そしてそのようなやり方で巧みに映画に仕上げていく諏訪監督の手腕は大したものだ。撮影開始2、3日後くらいに一緒にラッシュを見ながら諏訪監督はヴァレリアに言ったと言う。「ねえ、マリー、君は女優じゃなくて、ただの一人の女性なんだ」と。ブルーニ=テデスキは「感情表現のレベルを下げるように」という監督の注文だと理解したようだが、その背後にあるのは、役者的に役を演じ表現することのある種の否定だ。ここで監督が「ねえ、ヴァレリア・・」ではなく「ねえ、マリー・・」と言っているのも面白い。

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今回も前作『H Story』と同じくフランスの名撮影監督キャロリーヌ・シャンプティエがカメラを担当している。彼女はゴダール作品のカメラも回しているし、フィリップ・ガレルの『ギターはもう聞こえない』も撮っている。ちなみにこの『ギターは・・』も大好きな作品でレビューを書かねば・・と思っている。今回はあまりフランス語の出来ない諏訪監督がフランスでの撮影であり、単なる「カメラ番(cf:小津安二郎)」からは程遠い大きな役割を果たしているらしい。エンドロールでもNobuhiro Suwaと2人同時に同サイズの文字でCaroline Champetierとクレジットされていた。

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それにしてもヴァレリアは素敵ですね。カップルの別れ話ということでオゾンの 『ふたりの5つの分かれ路』 とも多少つながるけれど、彼女の自分や他者の人間の尊重という性格でしょうか。 『M/OTHER』 の渡辺真起子、 『H Story』 のベアトリス・ダル、そして今回のヴァレリア・ブルーニ=テデスキと、思うに諏訪流の撮影法は男優より女優に有効なような気もします。やはり男性よりも女性の方が頭ではなく生理で演じる面が強いのかも知れません。ヴァレリアのそういう自己表現的演技が見られるのが嬉しい作品でした。先日『沙羅双樹』が良かった河瀬直美監督のカンヌ・グランプリ作品『殯の森』も桜坂劇場でやっていて、こちらも見にいかねばと思っているのですが、もう一度この『不完全なふたり』を見てしまいそうな気もします。ちなみに原題「Un Couple Parfait」は英語訳すれば「A Perfect Couple」で「ある完全なカップル」。日本語とは真逆のような感じですが、皮肉でも反語でもないと思います。あまり上手くいっているカップルというのは、ある種欺瞞と言わないまでも、信じ込みとか思い込みとか我慢のようなものがあるのかも知れない。そんな意味で2人あくまで別々の人間が作るカップルというのは、決して1つにはなれない、あるいはなるべきではない、こういうものだという意味で、このカップルは完璧にカップルらしいカップルだ、という意味なんだと思います。

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Last updated  2007.11.27 02:51:09
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