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2009.04.26
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トウキョウソナタ
黒沢清監督


(つづき)-3-

さてそんな佐々木家だが、家族としては崩壊寸前、あるいは実質的に既に崩壊しているかも知れない。それをなんとか家族としてまだ成立させているのは、「お母さん」たる恵(小泉今日子)だろう。ここまで見てきたように、父と長男、父と二男の2つの親子関係はほぼ崩壊している。積極的悪意はないが、長男と二男の兄弟関係もないかのごとくだ。この2人が関わるシーンはたぶん1回もなかった。それに対して、恵は竜平の妻であり、貴の母でも健二の母でもある。

竜平の妻が恵で、その恵の息子が貴で、だから恵を仲介として竜平と貴は親子であり、また貴も健二も恵の息子だからやはり恵を仲介として2人は兄弟だという具合だ。「お母さん役も悪いときばかりじゃない」といったこの恵のセリフがあったが、正に恵はお母さん役を担うことで家族の軸となっている。

そんな恵ではあるけれど、彼女はアイデンティティー・クライシスにある。彼女は最近運転免許を取った。身分証明書として健康保険証ではなく自分一人のものが欲しかったと言う。健康保険証は竜平を筆頭人として家族4のものだ。つまりそれは彼女本人を証明するものではなく、佐々木家という家族の妻であり母であるという位置を示すだけだ。専業主婦だから家族と切り離された彼女だけの「佐々木さん」という顔を職場で持つこともない。しかもそのお母さんという役にしても「悪いときばかりじゃない」ということは「良いときは少ない」ということでもある。

竜平は総務部長としてそれなりに必要な仕事をしていたのだろう。しかしそれは研究・開発とか、宣伝とか、売り込みとか、そういう具体的に形をなす職種ではなかった。だから再就職の面接で何が出来るかと問われても、「人間関係を円滑に取り持つ」ことができるといった曖昧なことしか言えない。そして家でも、家父長的に権威をふるうという形で「一家の主人」「父親役」を演じてたに過ぎない。恵は恵で「母親役」を演じる。そんな母に貴は「離婚しちゃえば」と言う。貴は「まだイケテルよ」とも言う。これは一人の人として、あるいは女としてまだまだ十分に魅力があるという意味だろう。良き(?)息子という家族内の役割から脱して自分を生きようとしたのが貴のアメリカ外人部隊への志願であり、健二のピアノだ。

(つづく)







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Last updated  2009.04.26 02:52:01
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