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2006.09.26
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カテゴリ: 回想



父はいつも日曜日にヒゲを剃る時に、決まってナット・キング・コールの「キサス・キサス・キサス」かルイ・アームストロングの「セ・シ・ボン」あるいは「聖者の行進」をかけていた。

当時はまだ「デジタル」という言葉が存在しなかったばかりか、アナログという言葉すら聞いたことがなかった時代だ。

モダンな我が家には、既にビクターのステレオセットがあった。スピーカーとレコードプレイヤー一体の箱型ステレオだ。

33回転のSPレコードが何枚もあって、父親のコレクションはもとより、クラシック好きの母親もかなりたくさんレコードを所有していた。

ジャズという音楽を知るのと同時に、日本の「歌謡曲」という、今は「ジャパニーズ・ポップス」と呼ばれるジャンルもずいぶん昔からあったと記憶している。

最初に覚えた歌は山田太郎の「新聞少年」だったか、もしくはアイ・ジョージの「硝子のジョニー」だった。45回転のEP(ドーナツ盤と呼ばれたシングル盤)に合わせてよく歌ったものだ。我が家に父の友人が来られた際にはたいてい自分が歌ってもてなしたりもした。

グループサウンズ全盛期、ジャッキー吉川とブルーコメッツの「ブルーシャトウ」やタイガース(阪神ではない)の「花の首飾り」や「君だけに愛を」は歌詞を見ずにそらで歌えた。ピンキーとキラーズの「恋の季節」も十八番(おはこ)だった。

中学2年生になって、英語を担当してくれた先生の影響でポップスを聴くようになる。カーペンターズやサイモンとガーファンクル、ビートルズにモンキーズといった流行の歌にハマってしまうこともしばしば。今も実家に残っている「イエスタデイ・ワンス・モア」と「ミセス・ロビンソン」のシングル盤は擦り切れるほど繰り返し聴いた思い出の曲。初めて英語で歌えるようになった曲もこの2曲だった。

教師になって再びジャズに恋焦がれるようになる。パット・メセニーやキース・ジャレット、ビル・エヴァンス、マイルズ・デイヴィスは車の中でもよく聴いている。

デジタルの時代だからこそ、アナログでアコウスティックな音に自然と惹かれてしまう。特にギターやピアノ、サックスといった楽器は心に染み入る音を奏でてくれる。

このブログを書きながらナタリー・コールの「アンフォゲッタブル」を聴いている。古き良き時代のアメリカを彷彿とさせる華々しいメロディラインが聴く者に活力を与えてくれるから、仕事で疲れた時、特に夜ひとりで聴くのがいい。

父がジャズを聞いていたあの頃、世の中は今と比べてすべてがスローでメロウだった。世間全体がのんびりとして大らかな時代だった。今みたいに人々がせかせかと生きているような時代ではなかったから、誰もがマイペースで生きていればそれで良かったのだ。

1960年代、いろんなものが軌道に乗っていこうとして、至る所で新しい動きが見られる時代だった。心を病んでいる人もそんなにいなかっただろうし、新しいことを始めるのに最適の時期というものがあった。

ナット・キング・コールやルイ・アームストロングの音楽は、強くたくましく生きるアメリカそのものを象徴していた。日曜の朝、「さあ、今から何をしよう」というこの世に生まれたばかりの、生命力あふれる赤ん坊のような音楽だった。

ヒゲをそりながら、体をくねらせながら、スイングしていた父の後ろ姿が今も忘れられない。

あの頃、ジャズを聴くことが強い男のポリシーなのだということを、幼年時代の僕は薄々と感じ取っていたのかもしれない。

(Photo:カボチャのある風景2)







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Last updated  2006.09.27 00:14:27 コメント(4) | コメントを書く
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