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全身に鋼(はがね)の棒が打ち込まれたかのような、強烈な筋肉痛で目覚めた朝。
過去に6回走った100マラソンの翌日もみなそうだった。
特に最初に走った サロマ湖100キロマラソン
の翌日は、トイレ(和式)でもかがめないようなありさま。
この時はツアーで参加したが、翌日の温泉めぐりでは、温泉旅館の方に「障害を持った方の団体ですか?」と言われてしまった。
推定実走距離120キロ。全日本大学駅伝のコースを走ったつもりだったが、歩行者・軽車両進入禁止の箇所があってやむなくルート変更。化学薬品工場の多い四日市近辺は空気が悪く、大雪もあってかコース変更を余儀なくされた。ひとたび国道から外れて元の道に戻るのに苦労したことも少なくはない。地図は持っていたが、駅伝のコースのみを示した概略図だけだったために、迷子になってしまったことも数回。地元の人に道を尋ねながら何とか正しいルートに戻ることができた。
普通のウルトラマラソンでは、コースがきちんと設定され、距離表示があり、荷物を持って走ることはまずない。ウエストポーチに小銭やちょっとした食料やドリンクを携帯するランナーもいるが、「ランニング・ジャーニー(あえて今回のようなランをそう呼ばせてもらうなら)」では、1)ルートは自分で設定する 2)状況(気象条件・道路状況など)に応じてスピードやペースは変わる 3)荷物は持って走る(着替えやデジカメ、夜走る際のライトなど) といった準備も必要になってくる。経験に応じて好きなように走れば問題はないのだ。
*12月29日7時51分~12月31日13時26分にわたる29時間35分のドラマ
1)熱田神宮~川越町
7時半ごろには熱田神宮に着いた。境内に入り、交通安全のお守りを買う。宮司さんらしき人がいて、伊勢神宮まで走るということを話したら、車用の交通安全お守りではなく、生身の人間を守ってくれるお守りの方がいい、ということで800円を出して買った。お釣りの200円は賽銭箱に入れる。
「世界平和」を祈った。戦争や紛争が起こらない地球になるように。全ての人が平和で健康で幸せな暮らしができるように。いじめや殺人や交通事故がなくなるように。世の中の不正がなくなるように。敬虔な気持ちで祈りを捧げた。朝の早くから何人かおまいりに来ている人がいたが、みんなやさしい眼をしていた。人は祈りをする時にはみな同じ気持ちになるのだろうか。
熱田神宮西門前、予定より9分早めて午前7時51分スタート。
名古屋市は以前住んでいた町。今も別れた妻と10歳になる娘が暮らしている。もう5年近く会っていない。元気で暮らしてくれているだろうか。特に娘のことを思うと熱く込み上げるものがあるが、そこはぐっとこらえて走りに集中することにする。
往路の近鉄電車の窓から、激しく降る雪を見ていた。特に四日市から桑名にかけてかなりの雪が積もっている。太平洋岸でこれだけ降るなんて珍しい。幸い名古屋市内は積雪はなかった。国道23号線(通称名四国道)に入る辺りから雪が降ってきて、次第に辺りにうっすらと雪が積もり始める。
走っている分には寒く感じないけれど、いったん止まってしばらくすると寒さがやってくる。携帯電話で写真を撮影する時、ブログ更新のためのメールを打つ時、手がかじかんで指もまともに動かない。かといって手袋をしたままでは携帯電話の小さなボタンは押せない。
バッグにはいくらかの食料とスポーツドリンクを入れている。たいていの街の至る所にコンビニがあるので必要なものはその都度買えるからいい。
弥富市から愛知西端飛島村へ。何度か車でも通ったことのある場所。車の往来が激しい。帰省ラッシュの乗用車と年末も忙しく走る運送会社のトラックが道路を行き来している。特に乗用車の社内は走っている自分からも良く見える。渋滞でのろのろ運転のさなか、携帯電話でメールをやってたり、プレイステイションか何かのゲームをやってたり、中にはハンドル片手に漫画を読んでいる者もいたりする。よく事故を起こさないものだと思うが、事故は起こってから「しまった」となるものなのだ。
愛知県から三重県木曽岬町へ。木曽川大橋を渡ったところでドライブインに入る。雪が積もっている。幸いベトベト状態ではないので靴はまだ乾いているが、この雪が溶け出すと大変なことになる。2年前のPEACE RUN(伊賀市~伊勢神宮60キロ)では、靴の中にしみこんだ氷水が原因で足が冷えて膝もやられてしまった。
揖斐川と長良川を越えると桑名市。川越町に入って特に雪が多くなる。車道は雪が全くないのに歩道には10センチ近くの積雪。靴は埋まり、その都度走るのに苦労する。アスファルトと比べて膝への負担は少ないけれど、砂浜を走るのと同じで相当体力を消耗する。スピードとペースを上げようとするとキックを利かさなければならない。ふくらはぎにこたえるのは分かってても、あまりちんたら走ってもいられない。夜遅くになれば気温がさらに下がって道路が凍結するのではないかという不安もあった。時間制限はないもののある程度早い時間に切り上げたいというのが本音だ。後から考えると、ここでキックを生かした走りをしたことが、最後でトラブルが起こる原因となってしまっていたのだ。
2)川越町~四日市断続的に吹雪いている。ウインドジャケットのフードをかぶって、首にはフリースのネックウォーマーを巻く。オークリーのハーフジャケット(サングラス)で目に雪が入るのを防いでいる。青空が出て晴れてきたな...と思うのも束の間。冬の天気は変わりやすい。風が吹くと空模様もすぐにガラッと変わってしまう。
四日市のコンビナートはいつ来ても強烈なにおいがする。色の着いた煙が出ている煙突もある。昔は「ぜんそくの町」として名高い四日市だったが、今はどうなんだろう?国道を離れて少し内側に入った道を走っていたら何回か迷ってしまった。
海山道のコンビニで自分のブログをチェック。ブログをメールで更新。応援のコメントに励まされる。いったん止まると動きたくなくなってしまうのが辛い。この寒さ、この雪の中、何を酔狂なことしているんだろうと自虐的になるが、そこはストイックに行かねばならぬ。自分で決めたこと、自分で責任を取るのはあたりまえなのだ。
スタート後約7時間経過。雪のためにペースはかなり遅れている。予定では鈴鹿に入っている頃だったのに。
雪上ランニング。ラッセルといってもいいだろう。時々車道に出て雪のない乾いた道を満喫する。路面の硬さが逆にありがたいと思う。
路肩のない車道は危険で、高速で走るトラックの泥はねなんかまともにぶっかけられたら嫌な気持ちになるのも分かっている。
それにしてもこの雪よ。雪がわずらわしく感じられるどころか、火炎バーナーを持ってきてそこらじゅうの雪をすべて溶かしてやりたいと思うくらい。
雪が止んでも寒いのでフードは頭にかぶったまま。イヤウォーマーだけでは頭が寒いのだ。北西の季節風が身に沁みる。なぜ今まで降ってなかった雪が今日になっていきなり降るんだ???
のどが渇いたけど、腹が減ったけど、止まって荷物を降ろすのさえ面倒に感じるくらい...横着になる人間は自分を横着と感じるのもめんどうになってしまうものらしい。コンビニで座って食べることができるのは主にミニストップだが、最近はそれ以外のお店もいくらかあるようだ。疲れていすに座ったままうとうと...温かくて気持ちがいい。
おにぎりやサンドイッチがいつでも手に入るのがコンビニの利点。自転車旅行にハマってた頃には、ほかほか弁当のお店すらなかった。昔は「よろず屋」がメインだった。たいていおばあちゃんが一人でお店やってて、たばこやパンや飲み物が売られてて、商品の棚には期限の切れかけた缶詰がホコリかぶってて、冷凍庫には冷凍食品とアイスクリームが入ってて、なぜかそのアイスクリームが生臭いと思ったら、冷凍の魚と一緒に保存されてた...とか。
3)鈴鹿~津四日市あたりではやたら高架道路が多く、いちいち階段を登って歩道橋を渡る必要があった。鈴鹿から津はほとんど歩道橋がない。これってやはりバリアフリーの考え方だろうか。車を中心に物事を考えてしまうとダメなのだ。乳母車や車椅子の人にしてみれば、階段・段差がいかに妨げとなるか、世の政治家さんたちは、推して測るべしである
間もなく日が暮れる。気温が下がれば道も凍るだろう。ただ、鈴鹿に入ってから雪は止み、積雪量も減ってきている。ひょっとしたらこの先、雪はないのでは...と楽観的展望にひたってしまう。だが、「常に最悪の事態に備えよ」が旅での自分のポリシーでもある。予測される最悪の状態も考えておかねば...。
午後5時を過ぎて日は西に沈む。白子の手前のコンビニに入り、しばし休憩。ようかんや大福餅など当分取りすぎて少し気持ち悪い。さっぱりとした熱いお茶がおいしい。何もしたくない...という正直な気持ち。頭は空っぽ。ただ走るだけでいい、そう言われてもひとつのことをずっと続けているとどこかおかしくなる。普通の人間なら「もういい、やめる」で終わってしまうけれど、チャレンジャーはそうは行かない。とことんやりつづけて限界が来る前にキリをつけるひつようがあるのだ。「うどん早食い大会」とか王将の「ギョウザ10人前」とか、体を張ってやるイベントはみなそうなんだろう。普通ではないことを普通にさらっとやってのけるのがカッコイイのだ。
夜が来た。夜の闇に吸収されてしまわぬように、手にはLEDのハンディライト(1.5ワットで超明るい)、デイパックと体前面には点滅するテールライト。反射素材がついたベストをジャケットの上に着る。両足首にはリフレクタがついたバンドを止める。完全にナイトランの装備である。毎朝5時に走るのもこのスタイルだ。ただ、長時間荷物を背負っていて、肩の部分が擦れてやや痛い。腰にも負担になっている。もうひとつは雪上ランでのキックがふくらはぎに深刻な影響を及ぼしている。膝よりも右足のふくらはぎに問題がある。消炎鎮痛剤のサロメチールを塗布しておくがあと40キロ近く持つだろうか?
河芸の24時間営業のスーパーで休む。もう10時だ。夜を徹して走らなければならない状況が迫っている。寒い。震えが止まらない。走っている分にはいいが、いったん止まると体温が瞬く間に奪われていくのが分かる。それに、眠い。仮眠をとろうとしたがこの寒さではさすがに眠れない。眠ってしまえば凍死するに違いない状況だ。ストレッチとマッサージを施して、何とか次に備えることにする。さほどお腹も減っていないけれどおにぎりを食べた。スーパーの警備員さんはひょっとしたら自分を不審者というふうに見ていたのではないだろうか?と思ったら体の前後につけたままのライトが点滅していた。ウルトラマンのカラータイマーじゃないんだから...。
津に入る頃には雪は完全になくなっていた。このあたりは降らなかったのだろうか。何度も出張できている場所だけに距離感もはっきりしている。
( 総集編2 につづく)
*イラスト“PRAIRIE" by Kay T.
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