K氏のひとりごと

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2021.11.30
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カテゴリ: 感動


「虫養い」つまりお腹の虫を黙らせるってことで
小腹が空いた時に軽い食事をとって、少し満たらせることだ。



生活圏の足、京王線で福岡のバカ男が老人を刃物で刺し
車内に火を放ったのは記憶に新しい。
惨めで卑怯な奴だ。

中学生の男の子が刃物で刺殺された。犯人は同級生。
子供が死ぬのは耐え難いことだ。



・・大阪にある小さな駅前で、老人は「立ち食いそば」屋を営んでいる。
人通りは多いほうではないだろうが、いつも満席でにぎわっている。
安くて早くて、そこそこ美味い。立ち食いそばは好きだなあ。

・・お昼は席の空く間もなく、人の出入りがあり
老人は忙しくしていた。そこへ子供が外から店内をしきりに見ている。
「ん?誰だ」直ぐには思い出せなかったが、それは孫の弘明だった。
東京へ行った息子の子供で、最後に会ったのはもう5年も前だ。
ずいぶんとおおきくなっている。学生服を着ているので中学生か。

「おぉ 弘明!」 「ひさしぶり!」老人は嬉しそうに声をかけたが
孫はなんだかうかない顔をしていた。

「・・もうすぐ休憩に入るでな」「少し待っとれ」


しばらくして、大忙しの時間を過ぎ 老人は休憩中の看板を外に出した。
弘明に「さあ 待たせたな」「こっちに来い」
「どうした?」「一人で東京から来たのか?」

老人は矢継ぎ早に話しかけたが、孫は小さくうなずくのみだった。
やがて、弘明はぽつりぽつりと話はじめた。


「がんばって勉強してもいい点がとれない」
「それをずっと責められる」
「じいちゃん 俺もういやだ」

孫は泣きながら
「・・このままだと、俺 親父を刺すかもしれない」
震えながらそう話すのだった。

そうかそこまで追い詰められていたか。老人は深い息をすると。

「おまえちょっと来い」
そう言って孫を厨房に招き入れるのだった。

孫には偏見があった。じいちゃんがやってるこの店は
安くて、ちゃんとしたレストランなどに比べれば数段下に見ていた。

じいちゃんは「そうだ。ここは安い店だ」
「でも世の中が、ちゃんとした店ばかりじゃ窮屈だろう」
「ちょっとお腹が空いた時に、いつでも気軽に食べられる」
「そんな店があってもいい。それがムシヤシナイや」

じいちゃんは孫に包丁を持たせた。
「このネギを切ってみい」
孫は初めてのことに戸惑っていたが、やがてことことと
ネギを切り出した。

そして、孫ががんばって切ったふぞろいのネギを
あたたかいそばに入れて 「どや食ってみい」

そばは美味かった。今まで食べたどんなものより。
自分で切ったねぎがそう感じさせているのか。


「なあ 包丁は人を刺すためのものじゃない」
「ネギをきるためのものや」

孫はじいちゃんの言わんとすることをもう理解していた。

くどくど言葉で説教されるより
この社会体験が真実を教えてくれた。


「おまえはもう だいじょうぶだ」

その言葉に押されるように、弘明は東京へ帰ることにした。
家に帰ったら、親に正直に話してみようと。

「じいちゃん ありがとう」
「またムシヤシナイにくるね」



(原作「ムシヤシナイ」高田 郁)






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最終更新日  2021.11.30 05:43:00
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