まず思い出から語ることを許してもらえるだろうか。僕がストーンローゼスを初めてみたのは1989年の秋のことだった。彼らのデビューアルバムが発売されて、半年も経ずに実現した来日公演。一番最初の曲だったI wanna be adoredとWaterfallとI am the resurrectionの三曲のことを覚えている。 あまり上手な演奏とは思えなかったI wanna be adoredが混沌の中から一つの形になって最初のビートが打ち鳴らされたとき、会場は不思議な高揚感の磁場を形成した。あの不思議な高揚感は何だったのだろう。新しい時代の始まる音?新しい音楽が生まれた瞬間?その何だかよくわからない不思議な磁場がそのライブの全てだった。 その頃僕は18歳で何も持っていなかったけど、希望だけはたくさんあった。未来は漠然としているけど、この先には何かとても素晴らしいことが待っている。何の根拠もなくそれを信じることができた。それがきっと若さの証なのかもしれない。そんな記憶とごっちゃ混ぜになってローゼスのファーストライブを覚えている。 その後ローゼスは1995年ごろに解散してしまった。もちろんセカンドは買ったし、武道館公演は見に行った。だけど僕にとってのローゼスは1989年の秋のイメージが大きい。 2000年代を越える頃になるとローゼスの歴史的評価は定まってしまった。90年代の幕開け。セカンドサマーオブラブの代名詞。スパイクアイランド…。解散後数年くらい経つ頃にはローゼスは伝説のバンドに変わってしまった。 2011年の秋、ローゼスの再結成が発表された。そして2012年の夏に来日が決まった。フジロックフェスティバルの初日のトリ。 僕はそのライブ会場である苗場のグリーンステージの前にいた。夢みたいだと思った。フジロック、苗場、ストーンローゼス…。 色々な期待に胸を膨らませている観客。そんな人々の人並みがだんだん多くなってくる。そしてついにその瞬間が来た。グリーンステージの照明がおちる。観客の大歓声がこだまする。4人が登場した。
混沌としたギターの音。モコモコとしていて形にならない音。それがだんだん一つの形になっていく。一曲目は二十数年前と同じ。I wanna be adoredだ。
1990年代に何が起きただろう。イギリスではどうなのか知らない。でも日本の90年代は「失われた」とよく言われる。 そんな「ポジティビティー」だけでは言い表せない90年代の不安の深淵を彼らはそこでのぞかせたのかもしれない。もちろんそれをメンバー自身がはっきりと意識していたのかどうか。それは全くわからない。2012年だから言える後知恵みたいなものだけど。 色々あった20数年を思い起こさせる演奏で「聴く」体勢に入ってしまった僕達を振起すようにmade of stoneやThis is the oneが演奏され、また苗場で大合唱が起きる。
これだ これだ 僕が待ち望んでいたことは
またライブが始まったときの熱狂に戻された僕達。そしてI am the resurrectionが始まる。大合唱はピークを迎える。みんな知っているからだ。これが今回のライブの最後の曲であることを…。