グランマの手料理レシピ

2023年01月24日
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カテゴリ: スープ&鍋物
この冬は寒さが厳しく、鍋物の出番が多くなります。
定番のおでんダネに加えて、今回は里芋とお餅を入れてみました。





おでんの美味しい煮方は、沸騰させないでコトコト弱火で煮ること。
だし汁に、大根、こんにゃく、茹で玉子を先に入れて、ゆっくりと 煮ます。
練り物は食べる寸前に加え、あまり煮込まずに、味を含ませるようにします。



ブログ連載 長編時代小説 ​密かごと
第2章 御船手組

​3.寿美の恋​

組船持惣代の伊勢屋九兵衛から今夜の接待客の名を聞かされたとき、さちは居ても立っても居られず、板場と座敷を行ったり来たりしていた。

恐れていた日が遂にきたのだ。
坂上進之助、その名を口にするだけで怒りが込み上げてくる。
歳月は悲しみを取り去ってはくれなかった。
さちは気がつくと寿美の位牌の前に座っていた。

  *    *    *    *    

あの日は海が荒れて、坂上進之助は安房へ向かうことができず、木更津に足止めされていた。さちは夕刻になって寿美の姿が見えないことに気づいた。何も言わずに出掛けるような娘ではない。
「およねさん、寿美の行き先を聞いていない?」
 子どもの頃から寿美の面倒を見てくれている仲居頭のおよねも知らなかった。
「どこへ行ったのかしら?」
「おかみさん、そう言えば」
およねが何か気づいたようだった。
「どうしたの?」
「船宿千鳥の手代が、お嬢さんに付け文らしいものを渡しているのを、板場の若い者が見たそうです」
「千鳥の手代が付け文を?」
「いえ、付け文かどうかはわかりませんが」
およねは慌てて打ち消したが、さちは嫌な胸騒ぎがした。

それから小半時(30分)ほどして、裏木戸が開く音がした。
入ってきた寿美を見て、さちは愕然とする。
「寿美、お前!」
髪が乱れ、慌てて身繕いしたのか、胸元がだらし無くはだけている。男に襲われたとしか思えぬ風体だった。寿美の手を取ると、さちは店の者に気づかれないように居間へ連れていく。
「何があったのか、おっかさんにきちんと話しなさい!」
寿美は下を向いたまま黙っている。
「付け文は、誰からもらったの?」
寿美は答えない。
「おっかさんの顔を、ちゃんと見て、答えなさい!」
寿美は体をぴくりとさせたが、それでも貝のように口を閉ざしている。
「いいから、さあ、話してごらん!」
さちが諭すように言うと、
「御船手の坂上進之助様です」
寿美は蚊の鳴くような声で答えた。
「まあ! なんてことに・・・」
さちが一番恐れていたことだ。御船手が見えるときは、寿美をなるべく近づけないように気を使ってきたつもりだった。

寿美は母に打ち明け、気持が少し楽になったのか話しはじめた。
坂上進之助と初めて出会った夜のこと、文で呼び出されたこと、安房行きの船が滞り、船宿に誘われたことなどを打ち明けた。
「おっかさん、あたし、後悔していません!」
寿美が急に大人びた顔をみせる。
「後悔していないんだって?」  
さちはため息をついた。
「進之助様は、優しい人よ!」
「会ったばかりで、優しい人かどうか、わかるはずはないだろう」
「わかるわ!」

そう言うと寿美は横を向いてしまう。その顔は母親をも寄せつけないほどの覚悟を決めた女の顔だった。

翌日には風がおさまり、安房行きの船が出ることになった。
寿美は北河岸の隅に立って、進之助の乗った船が見えなくなるまで見送っていた。
三日後には木更津にまた戻ってくると、進之助は寿美に約束した。
だが、三日が経ち、五日が経っても、進之助は戻ってこなかった。
それでも安房からの船が北河岸に入ってくると、寿美は船に向かって飛び出していくが、進之助は乗船していない。安房から直接、江戸へ向かう船に乗って帰ってしまったのだろうか。

ひと月が経っても進之助からは、文ひとつ届かなかった。
普段から口数の少ない寿美が一層、無口になった。部屋に閉じこもり、海原に置き去りにされた海猫のように動かない。ひとり泣いていた。
さちは悲しみにうちひしがれる娘を放って置けなかった。坂上進之助と会ってもどうなるものではない。娘の恋が叶わぬものであることもわかっている。ほんの遊び心から娘に手をつけたのかもしれない。それならそれでもいい。だが、娘に戻ってくるなどと甘言を囁き、約束したことの始末だけはつけてほしかった。さちは思い悩んだ末に、江戸の坂上進之助を訪ねることにした。

江戸橋の木更津河岸で船を下りると、霊岸島八丁堀の御船手組屋敷に向かった。
屋敷内を分けるように一本の道が走っている。片側には同心の住む小屋敷が並び、反対側は同心見習が暮らす長屋になっていた。
さちは道端に立って、しばらく中の様子をうかがっていると、小屋敷の方から三十前後の女が出てきた。
「あの、少々、お尋ね致しますが」
さちが駆け寄ると、
「何でしょう?」
女は怪訝な顔をして、さちを見る。
「こちらに、坂上進之助様というお方は、お住まいでございましょうか」
「坂上様ですか?」
「同心見習の坂上様です」
女は小屋敷に住む、同心の妻のようだった。
「坂上様でしたら、いま、お取り込み中でございますよ」
「お取り込み中といいますと?」
「奥方のお登勢様に、初めてのお子が、いまにも生まれそうなのでございます」
「お子さまが!」
さちの顔から血の気が引いた。
「どうか、なさいましたか?」
「いえ、べつに」
平静さを装ったが、動揺を隠すことはできなかった。
「坂上様を、お呼びして参りましょうか」
同心の妻が長屋の方向に行きかける。
「いえ、結構でございます」
さちは慌てて引き留めると、礼もそこそこに逃げるように組屋敷を出た。

<坂上進之助には妻がいたのだ!>
いまにも子が産まれそうだとは・・・何ということだ。男の真意をただすまでもない。寿美は遊ばれただけなのだ。
坂上進之助の厚顔無恥にも程がある。寿美の軽はずみな行動にも腹立たしさを覚え、持って行く場のない怒りを胸に抱え、さちは帰路の船に乗った。(つづく)





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Last updated  2023年03月18日 07時46分48秒
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