【恋の行方】

【恋の行方】

2007.04.30
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テーマ: 恋に落ちて(17)
カテゴリ: 「恋に落ちて」

「恋に落ちて」



今まで感じたことの無い風が、身体全体を包み込んだ気がした。

 朝の通勤途中。
麻奈美は電車の中で揺られながら、
秋深くなってきた景色を眺めていた。
 …といっても、
外は都会の街並みばかりで秋を感じさせるものといえば
秋・冬ファッションと秋ビールの広告くらいだけど。
 暫くすると、一回目の乗り換えの為、混雑した電車から抜け出た。

 急行電車が来るまでにまだ時間がありそうだ。

バッグから携帯を取り出し、夢中になって画面を見つめていた。
 乗り換える電車が来た事に気が付き、
目線は携帯に残したまま歩き出したその時、ドンッと誰かとぶつかった。
 右肩に強い衝撃を感じ、少しよろけると強く右腕を掴まれた。

「すみません…」
 同時に、優しい声が耳に聞こえてくる。
 その声が聞こえてきた時、何かが私の中を駆け巡った。

 会社に勤め始めてからもう2年が過ぎた。
 通勤ラッシュにもとうの昔に慣れ、
押そうがぶつかろうが謝られる事のない環境が
当たり前になってきたこの頃。


何の躊躇も無く謝罪の言葉を述べたその人物に、視線を合わせてみる。

 風が私の周りを取り巻いた感覚に襲われた。
 優しくて暖かくて…
 それでいて強く激しい風が。

 私が倒れないようにとしっかり腕を掴んだままの彼は、

背の低い私には充分過ぎるほどの高さから私をしっかりと見据えていた。
 高級そうなスーツを軽く着崩して、
紳士的な眼差しで私を心配そうに見つめている。
 年齢は…私と然程変わらなそうだけど、
すごく落ち着いた雰囲気が年齢より上に感じさせる。
 男の人に言うには失礼だけど、とても綺麗な顔立ち。
 少し茶色がかった髪に涼しげな目許、その奥には薄茶色の瞳が見える。
 通った鼻筋に形の整った薄い唇…

 思わず見惚れて何も言葉を発することが出来なかった。
 ジッと私を見つめ続けている視線が痛い。
 …ううん、本当いうと気持ちいい。
 全身が高揚して、息が少し跳ね上がった。
 薄い唇は軽く開かれ、自然に吸い寄せられそうな気持ちに苛まれる。


 何だろう、この感覚…
 この人に見つめられているだけで、身体中が熱くなる。
 何かに似ている…この感覚。


 どれ位の時間が過ぎたことだろう。
 電車の発車ベルが鳴り響いてハッと我に返った。

 この電車に乗らなければ、朝の会議に遅れてしまう。
 そう思った瞬間咄嗟に電車に飛び乗ってしまった。
 右腕を掴んでいたその手が、解かれる。
 途端に全身の熱が下がっていくようだった。

 プシューッ
 電車のドアが閉まり、彼との間に分厚い隔たりが出来る。
 ガラス越しに視線を絡ませると、彼の唇が何かを告げた。

『きっと、また逢える』


「恋に落ちて」第1話
でした。
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Last updated  2007.04.30 20:07:27 コメントを書く
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