第二章~トリニトバル街道2



 リクとラーズ、そしてハチャマ緑地の水屋でばったり出会ったエルモの娘、キサラはトリニトバル街道をシジムに向かって歩いていました。

 キサラが同道することになって、リクは大きくバンザイの格好を、ラーズは小さくガッツポーズをしました。

リク:何で黙ってたんだよ~、こんな可愛いお姉さんと知り合いだってさ
   ~。

 リクはラーズの頬をチョイチョイとつつき、耳打ちをしました。

ラーズ:お前が聞かなかったからだろ

 と、ラーズが軽くリクのスネを蹴り返します。

リク:さては第2市街に足繁く通ってたのはキサ姐に逢うのが狙いか?

ラーズ:うるさい!

 二人が何やらひそひそ、ごそごそやっているのでキサラが振り返って「何か?」と訊ねると、二人は

「あ、いえいえ、別に何にも・・・はい・・・(´▽`;)ゝヾ(´▽`;)」

 と返事をして、キサラが前に向き直ると、また互いに肘で突いたり、頭を「ペチッ」と叩いたりしています。キサラは前を向いたまま「くすっ」と笑いました。

 すると後ろから、「よォ~、やけに綺麗な姐さん連れてるから誰かと思ったらよォ、くそチビと筋肉デブじゃね~か!テメーらまだ生きてやがったのか?」と下卑た声が飛んできました。

 振り向くと白い五色大牛(玉虫色の光沢がある被毛の大きな牛・今で言うアリスト級のアッパーミドルカーといったところです)に乗ったカダージでした。 

 彼はシジムのちょっと手前を南下した所にある植民都市マグオーリの総督・カディール(バンディの弟)の息子です。きっと中間試験前の連休を利用してマグオーリの家に帰るのでしょう。

 カダージはリクと同い年の19歳なのに、日頃の品行不良が祟って未だにシャルマン・ドーヴァ(2等修道士)の1回生で、今春2回目の留年が決定しました。

 ラーズは嫌なヤツに逢っちゃったな~・・・と思いました。顔を見ると、必ず何か一言、切れ味も後味も悪いイヤミを言って来るヤツです。
 ここがアカデミーなら一言でぐうの音も出ない辛辣な仕返し(お年寄りや子ども達には優しい反面、ええとこのボンボンには底意地悪い1面を持つラーズは結構得意です)をお見舞いするところですが、ここは間もなくシジムに到着する場所です。

 こいつの父親であるカディール総督には逢ったことさえありませんでしたが、どうせこのバカ野郎のオヤジです。

 下手にけなすと息子を苛められた腹いせに、総督の権威をカサに着てシジムの村人達に意地悪をするんじゃないか・・・という思いが頭をよぎり、とっさに反論できませんでした。 

 すると、

リク:おう、誰かと思えばアフォのカダージじゃん!相変わらずバカか?

 と言い放ち、ベロベロバーをしました。

カダージ:うるせぇこの野郎!!アカデミー次席のくそチビならまだしも脳
     キンのテメーにバカ呼ばわりされる覚えはねえや!!

リク:ムッ!!(▼▼メ)(意味は解らないけど、なんかすっげぇーバカにさ
   れた気がする!)なあ、脳キンて何だ?

ラーズ:脳味噌まで筋肉ってことだよ

 これを聞いてリクは激怒しました。そして、

リク:何だとッ!!悪いのは頭と顔だけじゃないみたいだなぁッ!!精神ま
   でブッ壊れてんじゃねえのか、この腐った牛糞野郎!!これでも食ら
   え!!

 と叫ぶと、カダージに向かってお尻を突きだし「ブーーーーッ!!」と大きなオナラをお見舞いしました。

カダージ:ムッキャ~!!やりやぁ~がったなぁ・・・、このゴリガン(ゴ
     リラ顔)めぇぇぇ~~~!!大牛!こいつらを踏みつぶせ!!

 カダージは激昂して手綱を目一杯引きました・・・が、大牛は大アクビをして、脱糞し、ただ突っ立っています。飼い牛にまでナめられているようです。

カダージ:おいっ!!何やってんだ!!言うことを聞けっ!!

 と大牛のお尻に思いっきりムチをくれました。すると大牛が怒って何度も後ろ足を蹴上げたので、まるでロデオ状態です。

 カダージはたまらず転げ落ち、大牛の糞の上に顔から落ちました。

カダージ:ぶぎゃっ!!

 リクとラーズは腹を抱えて大笑いです。そしてキサラの手を引いて「逃げろ~!!」と一斉に駆け出しました。

 その時、ラーズは誰かに見られているような気がして一瞬立ち止まりました。

 すると街道横の小高い丘の上から、アカデミー首席のダルヒムが、睥睨するような冷ややかな目でこちらをじっと見ていました。

 ラーズがシャルマン・トリダン(3等修道士)になった年の始業式で、「偉大なるアムリア(アムリ人全体)の叡智をもって、諸国・諸民族の頂点に君臨するイエルカの鳳雛たるべき我等云々」という選民思想の塊のような在校生代表挨拶をしたヤツです。

 しかし、「学校一の秀才」は、その実何を考えているのか解らない男でした。
 元老院議員の父親(バンディ)の権威を振りかざすでももなく、ただいつも冷ややかにラーズを見ているのです。

リク:ラーズ!カダージのバカが目ぇ覚ますぞ!早く行こう!

ラーズ:うん・・・、あのさ、あれ・・・。

 ラーズがちょいちょいと丘の上を指さしました。

リク:何だ?ダルヒムじゃねーか。あいつ何やってんだあんなところ
   で・・・?まあいいや、行こっ!

 リクはラーズの後ろに回り、背中を押しました。ラーズは再び振り返って丘の上に目をやり、そしてまた前を見て走り出しました。

キサラ:あの~、あの子すごい勢いで落ちましたけど大丈夫でしょうか?

リク:あっ、大丈夫です。落ちて壊れるようなモンじゃないです。(^.^)b

ラーズ:頭なんかもともと壊れてるしね・・・(`ー´)

キサラ:・・・(▽o▽;)

 半時程走ったところで3人は足を止め、「ふうーっ」と、大きく息をつきました。

  路傍の石の上に腰掛けて息を調えていると風に乗って磯の香りが流れて来ました。一行は知らず知らずのうちにシジムの村の入り口に差し掛かっていました。

つづく

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