第七章~胎動3



 翌日、テオとシグルは例の6人とともにマグオーリ総督府に来ていました。

この6人は王都の衛兵を希望していましたが、王都の慣習とフグ大人の根強い反対によって却下されてしまいました。
 社会復帰を目指す若者が希望を失わない様案じた2人は、いつだったか総督のカディールが「海賊が近海に出没する様になったので、もしもの時のために警備を強化しておきたい」と言っていた言葉を頼りに陳情に来たのです。

 カディールは6人の外国人が一昨日の狂戦士達だと先刻御承知でした。しかし、彼らの目から殺気が消え、今は何かすがる様な目で自分を見つめていることも肌で感じ取っていましたし、シグルの掌陽観の効果の程はカダージのことで身に染みて解っています。

総督は2つ返事で了承してくれました。

カディール:そうですか、ちょうど自警団を組織せねばと思っていたところで
      すから、修練を積んだ元・兵士が来てくれるなんてこちらとして
      は願ってもない好機です。喜んでお受け致します。

 カディールはにっこりと微笑んで6人に握手を求めました。

6人が戸惑っていると・・・、

シグル: 君達、良かったな。総督閣下は君達を歓迎して下さるそうだ。

テオ:《総督閣下は君達を歓迎して下さるそうだ。閣下は握手を求めておられ
   るのだよ》

 テオの通訳によって総督の意を汲んだシグルの言葉が伝えられると、6人は顔を見合わせて喜び、代わる代わるカディールの手をしっかり握って感謝の意を表していました。

カディール:そうだ、君達の名前を聞いておこうかな?

 6人は再び「今何て言ったの?」という風にテオの方に向き直りました。

テオ:《君達の名前が知りたいそうだ》

兵士A:《えっ?》

操縦士B《名前・・・?》

テオ:《そう、名前》

操縦士C:《・・・(‐_‐)》

操縦士A:《こいつはγ88-23、俺はγ88-21》

操縦士B:《俺はγ88-22》

兵士A:《俺はμ49-12》

兵士B:《同じくμ49-13》

兵士C:《俺、μ49-14》

テオ:《・・・!!》

操縦士B:《γ88っていうのは海上機動隊第88小隊ってことです。俺の場
    合その部隊の22号隊員ってことです》

兵士A:《俺は海兵隊第49小隊12号です。親につけて貰った名前はもう忘
    れてしまいました》

カディール:彼らは何と・・・?

テオ:彼らに個性を表現するための名前は無いそうです。所属する部隊の認識
   番号が彼らの存在を示すものなのだそうです。

カディール:何と痛ましい・・・。


兵士C:《そう、今はこれが俺達の名前です。小隊長になればそれらしい名前
    が与えられるんですがね》

兵士B:《そう、俺達が所属するμ49小隊の隊長には「ギルタブ(サソリ)」
    って通り名がありました。この人は弓の名手です。狙われたら最期、
    急所へ一撃必殺っていうんでそう呼ばれてます。

テオ:《その小隊長も君達と同郷の人?》

兵士B:《いや、よくわかりませんが流れ者みたいです。肌の色は黄褐色で俺
    達のいた師団には一人しかいない人種です。とにかく目が細くて身体
    が小さいんですよ。まあ、ギルタブとも師団とも縁が切れた俺達には
    もう関係ないですけどね》


兵士C:《俺達の任務は「飛行艇」を入手することでした。でも俺達が何日
    も帰還しなければ彼らは飛行艇乗りが火薬玉で我々を殺して、とっ
    くに逃げちゃったと見るでしょうから・・・》

テオ:《火薬玉?あの飛行艇乗りは火薬の知識や技術を持っているのかい?》

兵士C:《ええ、彼は花火職人です。兵器として転用できるくらい大きな火
    薬玉を扱えます。彼を捕らえれば製法と職人を一度に入手にできま
    すが、下手をすれば吹っ飛ばされかねませんからね。そこで我々使
    い捨ての奴隷兵士が出動となったわけです》

テオ:《だとしたら尚更その奪取に向けて軍を送り込んでくるのでは?》

兵士A:《その可能性が全くない訳ではありませんが、アスラ王は実は気の小
    さい、猜疑心が強く用心深い男だと聞いたことがあります。我々が爆
    死したという情報が流れれば、慎重にならざるを得ないでしょう。或
    いは意図的にそういう噂を巷に流すと一層効果的かもしれません
    ね。》


操縦士A:《そうですね。別に5万の兵を養うために穀倉地帯を襲うこともあ
     りましたが、ここは穀倉地帯どころか自国の食糧を賄うことさえ難
     しそうですし、侵略するだけの魅力には乏しい気がします。当面侵
     略の心配はないでしょう》

テオ:《悪かったね・・・麦くらいは自給自足できてるよ(‐_‐;)宝飾品の産
   業だって結構繁盛してるんだよ》

操縦士A:《ああっ!ごめんなさい!(;^_^A いや、我々の言う魅力って軍事的
     な利用価値ってことなんですけど・・・すみませんでした》

操縦士B:《いや、俺は一つ気になることがある。座礁した船にいたヤツがギ
     ルタブにどことなく似ていたんだ・・・背格好といい弓の射出スタ
     イルといい・・・どこかでギルタブと繋がってるヤツじゃないかっ
     て不安があるんだ》

テオ:《座礁した船の乗客?》

操縦士B:《ええ、あなた方と同じ様な服装で・・・淡い水色の服を着てまし
     た。黄金のアンクレットをした娘を庇ってましたよ。その人の従者
     か何かなんじゃないでしょうか?》

テオ:《アンクレットだけ?バングルはしてなかった?》

操縦士B:《いえ、アンクレットだけです。腕には何もつけていませんでした》

テオ:《う~ん・・・バングルもせずにアンクレットだけ・・・っていうのは
   我が国の習慣ではないね。淡い水色のローブって言ったらシャルマンな
   んだろうけど・・・棍(こん)ではなく飛び道具を使って闘うシャルマ
   ンなんて聞いたことがないな。・・・え~っ!?どこの国の人だろう!?》

シグル:テオ大兄、何か問題でも?

テオ:いやね、彼らが所属していた部隊の小隊長と似ている人物がマグオーリ
   発の客船に乗っていたらしいんだ。弓で武装したシャルマンらしいんだ
   けどね・・・。小隊長との繋がりを気にしているらしいんだ。

シグル:そうですか。「戦鬼帝国」の内通者がいるかも知れないということで
    すね。我々も取り締まりを強化するから、怪しい者を見かけたら教え
    て欲しいと伝えて下さい。

テオ:解った。ψλαμοκι=τσυκελυσαχ、κετ=ξναψα
   τσυοτταλαοσψετψα。

操縦士B:θξνα。(解りました)

 以後、懇談は和やかに進みました。
 カディールの「彼らに相応しい名前を考えなければ・・・」との提案を受け、皆が腕組みをして考え込んでいると、応接室の窓の外から何者かが「ぴょこん、ぴょこん」とジャンプしながら中を覗き込んでいました。

ラーズ:ほらねっ?やっぱりいた!( ̄^ ̄)えっへっへ~~~。

 得意満面と言った面持ちのラーズにロンガーが「すご~~~い!天才っ!」とでも言っているみたいに「ぶるるるるっ!」と鼻を鳴らして足をカタカタ踏み鳴らしました。

リク:お前って、シグル先生を探知する触覚でもあんの?犬だってこうはいか
   ないよ・・・(´ヘ`;) ここまでくれば立派なストーカーになれるぞ。

ラーズ:人聞きの悪いこと言うなよ!きっとあの黒装束の連中は国外退去にな
    るから、船に乗せるならここだろうって推理しただけだってばっ!!

 外で2人がひそひそ話をしていると・・・。

操縦士B:《あ~~~~~~~~~っ!!あいつだっ!!やっぱりスパイか
     っ!!このヤロ~~~~~!!》

 と、操縦士Bが窓から飛び出してラーズに飛びかかり、ラーズを逆手に取って地面に押さえつけました。

ラーズ:おっ!?何だ何だ!?

操縦士B:《先生!捕まえましたよ!こいつです》

ラーズ:いきなり何だい!?えっ!(>_<)あいた!あたたたた!!何だお
    前!!ちょっとちょっと、何すんだよ~~~~~っ!!

リク:まだ狂戦士のままだったのか?ラーズを放せこのヤロー!!

 リクは助走をつけて操縦士Bにラリアットをかましました。

操縦士A:《22号!!てめぇ何しやがんだ》

他4人:《何だ何だ!?》《何だこいつら?》《22号をぶっ飛ばしやがったな》
   《・・・(▼▼メ)》

元・黒装束がラーズに危害を加えようとしているのを察知してロンガーが乱入して来ました。

総督府の庭はたちまち6対2+1頭の大乱闘になってしまいました。

テオ:ラーズ、リク・・・(;゜〇゜)おい!君達、やめなさい!

シグル:こらっ!やめないか!場所柄を弁えなさい!

 2人が制止しても乱闘は止みません。まるで野良犬のケンカです。しかし・・、

カディール:バカモ~~~~~ン!!いい加減にせんか~~~~~~!!

 超特大の落雷の様な総督の怒号に、「ぴたっ!」と乱闘が止みました。

 辺りはまるでそこだけ時間が止まったかの様に「し~ん」と静まりかえっていました。

つづく


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