外伝~イエルカ興国譚4



 猿仮面の集団は、「恭順派」の構成員と噂される人物の家をチンドン屋の形(なり)や道化のような出で立ちで訪れ、訝(いぶか)しがる家主に猿仮面のリーダーが「やーやーやーどうもどうもどうも!」と陽気に握手を求めると、大抵反射的に「あ・・・どうも」と握手に応じてきました。
 その瞬間、リーダーが「発雷!」と叫ぶと、家主は硬直した様に真っ直ぐな姿勢になって、ばったり倒れました。 

 それを合図にリーダーの後ろで押しくらまんじゅうの様に体を擦り会わせながら踊っていた猿仮面達が、家人達の手を次々と握って行きます。

 その時、掌で「パチーン!」と弾ける様な音がして、家主と同じ様に倒れる者もいれば、「痛~い!何すんのよー!!(>o<メ)」と文句を言う者もいました。

 倒れた者の中には左右どちらかの目からずるずると小人がはい出てきて、青黒い液体を吐いて倒れるタイプと、耳の後ろや頭頂部から小人が剥がれ落ち、それと同時に「えっ?えっ?何~!?俺何してたの?」と騒ぎだし、まるで別の人格になったように正気に返るタイプがいました。

 「恭順派」とは「捕食者」に寄生された人々で、彼らは徐々に肉体を浸食されて行きます。

 適合率が低いと脳を食い荒らされて遺体を放棄され、適合率が高いと1年程で完全に体を乗っ取られてしまって、次の餌食になる「適合者」を眼光を放って洗脳し、幼生をバラ撒く様になってしまうのです。

「痛い!」と文句を言えた者は未だ「洗脳」の前段階にあるだけで寄生されていない健常者でした

 さて、この「猿仮面」の集団による「電撃作戦」はサリエスの発案で、実働部隊はスクナヒコや「捕食者」の犠牲になった少年少女の遺族達でした。

 なんで猿仮面なのか・・・?ですが、スクナヒコがイツァークに「小猿」と言われたことへの意趣返しだった様です。

  雷の多い雨期に「捕食者」による犠牲者が出ないのはなぜだろう?もしかしたら彼らは雷が苦手なのでは?という疑念をサリエスは持ち続けていました。

 そしてスクナヒコが吹き飛ばされ、あと一撃で止めが刺せるというのに「捕食者」は止めを刺さずに姿を消しました。サリエスが、倒れているスクナヒコを発見した時、上空には雷の音が響いていました。そのことでサリエスの疑念は確信に変わりました。

 一方、スクナヒコは一度死にかけて、蘇生してから両手の甲の刺青が左右とも弓矢の形に成っているのに気づきました。それはまるで翼竜が羽ばたいている姿の様に見えました。そしてもともと強烈な帯電体質だったのですが蘇生後は瞬間的に高圧電流を発する能力まで身につけていました。

 スクナヒコの「発雷!」の発声に併せて「水輪宝珠の指輪」が淡い水色の光を放ち、胸のダルマチャクラの様な刺青、背中の翼の刺青と両腕の弓矢の刺青が薄紫色に輝いて、雷が発生するのです。

 サリエスは「捕食者」達に息子や娘、兄妹姉妹を殺害された遺族の中から特に強烈な帯電体質の人々を選りすぐって「猿面電撃隊」を結成し、一気に攻勢に転じました。

 復讐に燃える「猿面戦隊」の活躍で、ユートムの「恭順派」は瞬く間に駆逐され、「電撃」を喰らうのが余程恐ろしかったのか、イツァークは「おのれェ~猿ッ!!黄色い猿めェェ~~~!!覚えてらっしゃい!! ((((▼ж▼メ))))」と捨て台詞を残し何処へともなく姿を消しました。

 「猿面電撃隊」のリーダーの正体に気づいていたのでしょうか?

 イツァークの屋敷では、地下の隠し部屋に怪光線を放ったり、猛スピードで飛び回っていた怪物が数体横たわっているのが発見されましたが「ぴくり」とも動かず、「鬼の仮面」の様な顔の部分をこじ開けようとハンマーで叩いても、斧でたたき割ろうとしても傷一つつきませんでした。

 「もしかしたら?」というサリエスの閃きでスクナヒコの電撃をお見舞いすると、「プシュー・・・」と蒸気の様なものを吐き出しながら、「鬼の仮面」と「プロテクター」の胸部が観音開きの要領で開きました。

 「怪物の素顔とはどんなものか?」と、固唾を呑んで見守る街の人々でしたが、そこに現れたのは頭部には視覚用の高感度カメラ、暗視カメラ、集音マイク、サーモグラファー、GPSアンテナなどの各種センサー類、胸部には小人サイズの操縦席がありました。

 「なんだこりゃ?」「目のところのこれ・・・水晶玉か?」(註・視覚用カメラのレンズです)「寄生虫かな~?うえ~・・・(>_<)」(註・各種ケーブルや電導用の基板です)「人形にしては趣味が悪いなぁ・・・」

 青銅器文明~鉄器文明の過渡期といってもいい程度の科学水準の人々にハイテク兵器ロボットを理解しろと言っても無理な話です。

 「勝った勝った!」とはしゃぐ群衆の傍らで「神々の遺産」の片鱗を知るサリエスだけはこの文化水準の差を理解し、総毛立つ恐怖を感じていました。

サリエス:(イツァークはどこへ消えたのだろう?もし、他方に仲間がいて、
     そいつ達に助けを求めに行ったとしたら・・・?もし、もっと多く
     の怪物が一度に押し寄せてきたら・・・?もし「猿面電撃隊」の正
     体がバレているならもう奇襲作戦は通用しない。そうなったら私達
     は勝てるのか?3柱の神々はなぜ“護神像”を封印し給うたのか
     ・・・(-""-;))

スクナヒコ:(それにしても・・・、イツァークが言っていた「アンラ・マン
      ユ」って一体何だったのかな~?)
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 それから2年が経ちました。懸念されたイツァークの逆襲もなく、街は益々活気づいて、城壁の外に新市街が築かれる程の賑わいを見せていました。

 そしてスクナヒコとジョカはいつの間にか所帯を持ち、二人の間には「イエルカ」という名の、生後半年にして、それはそれは端正な顔立ちの可愛い男の子が生まれていました。


サリエス:ホントに可愛いらしいお顔でちゅね~、女の子みたいでちゅね~、
     お母さん似で良かったでちゅね~、ベロベロバ~!!

 イエルカはサリエスや、その息子のセージ(3歳)によくなついていて、きゃっきゃとはしゃいでいます。スクナヒコは「ガビ~ン!」という顔で、

スクナヒコ:えっ?それって「お父さん似じゃなくて良かった」って意味です
      か?

サリエス:いえ、決してそういう意味では・・・、ただ顔立ちが端正なのはお
     母さん譲りだな~って・・・(゜〇゜;)。

スクナヒコ:ほ~ら、やっぱりね・・・(-_-メ)端正じゃなくて悪うござんした!

サリエス:いやぁ~、スクナヒコさんはお猿さんみたいで可愛いですよ~。

スクナヒコ:ムッキャ~~~~!!それってけなしてるんですよね?(〇ж〇;)

サリエス:あれ・・・?(‥?・・・いや

ジョカ:くすっ!

 思わずジョカが吹き出しました。大人のやりとりが解っているのか、セージが「カカカカカ!」と笑い、イエルカも「きゃっきゃっ!」と笑っています。

 さっきまでムキになって怒っていたスクナヒコが子供達を見て、ふと遠い目をして呟きました。

スクナヒコ:この街であんな恐ろしいことがあったなんて、今となっては夢み
      たいですよね。

サリエス:そうですね、あんな悪夢・・・、二度と見たくありませんね。

ジョカ:全くです。子供達にはあんな恐ろしい思いを二度とさせたくありませ
    ん。

 周囲を見渡すと、新市街の大通り公園で芝生に寝そべるカップル、蹴鞠の様な球技に興じる子供達、筵(むしろ)を広げて弁当を食べている親子連れ・・・。

 皆、「捕食者」の襲撃を受けていた時には見られなかった表情です。誰もが輝く様な笑顔をしています。

サリエス:貴方が伝えて下さった「大豆」や「ヒヨコ豆」はこの国の食卓を豊
     かにしています。豆の栽培は荒れ地を豊かな農地に変えてくれます。
     そして貴方は「悪魔」を退治して皆に笑顔を取り戻してくれました。
     皆、貴方のことを「神」だと思っています。私もね・・・。貴方は
     「神そのもの」ではないけれど、私の様に「神殿に仕える神の下僕」
     という意味の神子じゃなくて、きっと「神」が遣わして下さった本
     当の「神子」なんじゃないか・・・?そんな気がしています。

スクナヒコ:よして下さいよ・・・。豆は旅の途中で自生してたのを採取して
      きただけです。もともと食いしん坊なんでね。それにあの作戦は
      貴方の発案です。「電撃」だってジョカから貰った「水輪宝珠」
      があってのことですしね。

 故郷であまり褒められた記憶のないスクナヒコは、思いも寄らないサリエスの言葉を聞くと、恥ずかしそうに俯くのでした。

つづく

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