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「空海の風景(下)」(司馬遼太郎著、中公文庫)に、次のような箇所があります。


 私事になるが、太平洋戦争中の夏、学生のまま兵隊にとられるというので、似た運命になった友人二人と徒歩旅行をした。
計画というのは吉野からまっすぐに熊野の大山塊を突きぬけて潮ノ岬へ出、熊野灘を見ようということで、吉野の下市の小さな駅舎にあつまり、やがて山へ入った。
友人の一人が、熊を追うための脇差をもってきたのは、滑稽というべきだった。
最初は昼歩いて夜は野宿した。
そのうち昼の暑さがつらくなり、昼は山中のお堂や炭焼き小屋などを見つけて睡眠をとり、夜、星明かりを頼りに歩くことにした。
やってみると、体がくたびれず、都合がよかった。

 当時、物が欠乏していて、参謀本部の地図なども売っていなかったように思うが、ともかくあらかたの方角さえ見当をつければ行けるだろうと思い、地図をもたずに歩いた。

 吉野の黒滝村は、暗夜に通り過ぎた。

そのあと、やはり川筋をたよりにさかのぼったが、途中、川筋をとりちがえたのか、ゆくほどに流れが細くなり、道もけものみちのようで、空木(うつぎ)の木などがはびこり、歩くのに難渋した。
それでも一晩中登りにのぼるうちに、不意に山上に都会が現出した。
悪いものにたぶらかされているようでもあり、夢の中にいるようでもあった。
深いひさしの下にある門燈に寄って行ってきくと、ここは高野山だという。
いまふりかえってみると、このときの驚きが、私にこの稿を書かせているようでもある。



 1942年夏のことのようです。

 今であれば、吉野からだと、大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)に入ってしまえば、標識が整備されているので、とりあえず、道に迷うことはないのでしょうが、当時は、多分、あまりにも無謀。
 まあ、今でも、充分な装備が必要ですが。

 ということで、黒滝村・・・天川村・・・大塔村・・・十津川村と行くつもりだったのでしょうが、大塔村から方角違いの高野山に行ってしまった、ということのようで、そのことが原因でこのような面白い本ができているとしたら、迷いがいがある。

 ちなみに、大塔村から十津川村へは、現在、国道168号線で行くことができますが、途中に、谷瀬のつり橋がある道で、奈良県南部の幹線道路とはいうものの、車で行くには、お世辞にもいい道とは言えません。

 話を戻し、私が面白いと思ったのは、紀伊半島の主要な霊場である吉野から高野山に行くことができる山中の道があるということです。




 というようなことを考えながら、昨日、インターネットも見ていると面白いものを見つけて、一日中それを見ていました。

「ニートで馬鹿だから歩いて高野山いった」


 この方は、大阪市から高野山をめざして歩きます。

 大阪外環状線(国道170号線)に沿う道を河内長野まで南下するが、河内長野から橋本へは向かわない。

 京都・大阪から高野山への参拝の道は、河内長野に集まったのち、国道371号に沿って橋本に行くのがメインのルートで、実際、高野街道という名前がついています。

 この方は、お公家さんでも通れるような道には興味がないようで、旧国道170号線に入り、天野山金剛寺に行った後、さらに、170号線を西へ進み、国道480号線から山に入って、和泉山脈を越えて紀ノ川に至ろうとするようです。



 この方は、出雲大社にも歩いて行っているようで、その際、兵庫県から鳥取県への県境越えは、わざわざ、兵庫県最高峰氷ノ山(1510メートル)を越えているが、そのあたりも、修験道の開祖である役行者によく似ている。
 また、日本古来の神仏習合の伝統にそって、神社仏閣を問わず神聖な場所を訪れている。
 吉野の金峯山寺などに行くと、どこで売っているのか、私のスーツよりも高そうな山伏の衣装一揃いを着ている方を見かけて、ちょっと、違和感があるが、この方は、違う。
 おにぎり数個で、山の中を一日中歩くことができる恵まれた体質らしい。


 大阪和泉地方から高野山へ行くには、わざわざ、河内長野まで行くのは遠回りなのですが、国道480号線は車で行くには、道が悪い。
 私は、途中まで行って、引き返し、河内長野へ迂回したことがあります。

 話を戻して、この方は、国道480号線沿いにある子安阿弥陀寺に寄った後、府道40号線に移動し岸和田市の紅葉の名所である大威徳寺に参拝し、さらに、そのまま和泉葛城山山頂まで登っています。

 和泉葛城山は大阪府と和歌山県の境にあるので、そのまま、和歌山県側に下ることもできるのですが、その後、さらに、和泉側に下り、泉佐野市にある修験道で有名な犬鳴山七宝滝寺を訪れ、大阪府道和歌山県道62号線を通って和泉山脈を越え、和歌山県に入ったようです。
「和泉葛城山に登った」、「犬鳴山にハイキングに行った」というレベルではなく、山中の霊場を自由に移動しています。

 紀ノ川側に入ってからは、粉河寺、八王子神社、丹生都比売神社などに寄った後、二つ鳥居で、高野山の表参道である高野山町石道に入って、高野山に一泊して、帰路は、高野山町石道を九度山にある慈尊院まで下り、その後、JRで帰宅のようです。




 紀伊山地の霊場と参詣道と同じように、紀伊山地とは吉野川・紀ノ川で隔てられた和泉山脈・金剛山地の山中にも多くの霊場とそれらを結ぶ道があります。

 それらの道の一部は、大阪府によって整備された自然歩道であるダイヤモンドトレールと重複しているようです。

 私としては、自然に親しむためのダイヤモンドトレールもいいですが、先ほどの、大威徳寺から七宝滝寺に至る道のように、かつて、霊場を結ぶ道としてあった道を探り出して整備する方が、より自然な感じで、魅力があるような気がします。

 北アルプスなどは、ヨーロッパ流の登山が似合うのでしょうが、関西の山々はそうではありません。

 「日本百名山」に数えられる山は、むしろ、少ない。










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最終更新日  2014年03月05日 10時13分30秒
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