モントリオール世界映画祭で深津絵里さんが主演女優賞を受賞したことで話題になっている 映画『悪人」 を公開初日に早速観にいった。
まず驚いたのは妻夫木君の大変貌、金髪だけでなく死んだ魚のようなそのさえない表情、土木作業員としての服装と雰囲気が身についてこれまでのイメージを100パーセント覆していた。日常は祖父母(井川比佐志、樹木)の面倒を見て暮らすおとなしい青年だが一方では殺人をおかす心の奥の危うさや母に置き去りにされ祖母に育てられた生育歴を感じさせる無表情で自己表現が苦手な若者になりきっている。しかし光代(深津)と出会い、行動をともにしていくうちに、自分のことを話し、表情にも変化が出て血の通った人間に変わっていく。最後の狂気的な目の光はすさまじかった。


草津絵里は地方の紳士服販売員という地味な役柄をそつなく演じていたが、後半になってがぜん輝いてきた。灯台で別れが近づく場面あたりの彼女の表情はモナリザかマリアのように見えすばらしかった。何より象徴的なのが灯台である。この灯台がすごく物語に精神性を与えている気がしてならない。
深く考えさせられたのは柄本明演じる被害者の父親が「あんた、大切な人はおるね?」というセリフである。「大切な人?」息子、娘などその大切な人を殺されたら私ならどんなことでもして復讐するだろう。本当に誰が悪人なのか考えさせられた。私だって悪人だ。
この映画はひとつの殺人事件を軸に殺人者とその家族、殺された娘とその家族、恋人とその家族などどの立場の人も平等に描いてその心情に迫っている。どの立場に身をおいてもその言動は共感できる。祖母の樹木希林と柄本明の演技には引きずり込まれた。自分もその立場にたっていた。更にマスコミに怒鳴るバスの運転手が小気味よかった。わさびのように効いていた。この映画は出演者みんなが卓越した演技者ですごかった。
最近「インセプション」「告白」「悪人」と奥深くに「家族」が潜む映画や小説にばかり出会っている。「家族を大切にしなさい」という警告にも思えた。
おまけに帰宅途中の車の中でふと「善人なおもて往生す、いわんや悪人をや」と唱えた人のことが頭にぽっかりと浮かんできた。ひょっとしてこの映画に関係がある?
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