彼女がたった一人、恋人以外で褒めている人がいました。
ご興味のある方は、まあご覧ください。
「いつ会っても同じ人でした。
しかしこの世の中の現実に、
無一文のときでも億万長者のときでも、
態度が変わらないという人は、他には見たことがありません。
こんなことはありえないことです。
その人はありえない人の一人でした。
いつでも大抵、にこにこと笑っているよりほかの顔をしていることはありません。
家へ行くと、国宝級の美術品がごろごろと転がっています。
日本でどこそこと言われる骨董屋の主人も、
その鑑識においてはその人を抜くことができないどころか、
てんから甲を脱いでいるのです。
それでいて、当の本人は、至極さっぱりとした顔付きをしているのは、
端から見て、一大壮観です。
この不思議な人は、ほんとうの意味で自然人なのでした。
生まれた時のままの心情を、そのまま保有しているとでも言うのでしょうか」。
「野心はあるのですが、しかし野心はないのです。
欲望はあるのですが、しかし欲望はないのです。
世間普通の意味で、仙人とでも言うのでしょうか。
艶々した血色の好い顔に総白髪という風貌は、
まだ60歳にもならないのか、70歳を過ぎているのか、誰にも分かりません。
この人の好きな種類の人間は、植木屋と魚屋とゲイバーの人たちです。
人を咎めたり、人に求めたりすることの全くない彼は、
どんな人間とも、対等に付き合っているからです」でした。
その人とはあまり知名度は高くありませんが「青山二郎(故人)」です。
とにかく小林秀雄や白洲正子の「目利きの指南役」でした。