わがらし法律事務所

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Jan 4, 2014
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カテゴリ: 日々湯猫
※注1 この記事は司法修習とは全く関係ありません。

※注2 この記事には、一部リーガルハイ2最終回のネタバレを
含みます。






1.殺人未遂罪は成立しないのか!?


安藤貴和の殺人・同未遂被告事件は、無罪判決で幕を閉じましたね。



これについて、一部ネット上で(安藤のストーリーに乗っかっても)
殺人「未遂」が成立するのではないか!?という意見があります。


殺人未遂が成立するのは、(A)殺人罪の実行に着手したが、
(B)被害者が死亡しなかった、又は被害者は死亡したが被告人の


本件では、被害者のうちお父さんは死んでしまっているので、因果関係
が認められないという趣旨なのでしょう(見たこともない調味料らしき
ものをカレーに突っ込むという、被害者の過失行為が介在していますが、
これで因果関係が否定されるかと言われると・・・)。


ただ、本件ではそもそも(A)殺人罪の実行に着手したと言えるのでしょうか。

殺人罪の実行に着手したというためには、死亡結果発生の現実的危険性を
惹起する(引き起こす)必要があるとされていて、例えば、ピストルで
撃つとか、ナイフで刺すとか、そんな行為を思い浮かべてもらえれば結構です。


今回、安藤がやった行為(自称)は、

(1)毒薬を購入した

(2)その毒薬を持って被害者宅のキッチンまで行った



というものです。



このうち(3)は、意図的に置いてきたのではなく、うっかり忘れてきた
ということですから、過失行為(=ミス)にあたります。

殺人罪は故意犯(=わざとやった犯罪)ですから、(3)は除外して
考えることになります。





「未必の故意」とは、絶対殺してやる!とまでは思っていないが、
「もしかしたら死んじゃうかもしれないけど、そうなってもいいや」と
思っていた場合にも故意犯が成立しますよ、というものです。

この主張は、安藤が意図的に毒薬を置いてきたことを立証しない限り、
厳しい線だと思います。



さて、脱線しましたが、(1)・(2)だけで、ピストルで撃ったり、
ナイフで刺したりした場合と同じくらい、被害者の死亡する現実的危険性
を引き起こしたと言えるでしょうか。

裁判員裁判なんかでは、意見の分かれるところかもしれませんが、これだけ
では現実的危険性はないと思います。

となると、殺人罪の実行に着手していないことになるので、殺人「未遂」罪
も成立しません。




2.無罪判決はおかしいのではないか!?



では、他に犯罪が成立する余地はないのでしょうか。


ありうるとすれば、

(A)殺人予備罪

(B)過失致死罪

(C)毒物及び劇物取締法違反罪

あたりでしょうか。



これらの犯罪が成立するのだとすれば、東京地裁の出した「無罪」判決
は間違いなのではないか!?と思いますよね。

「刑事裁判=真相究明の場」と考えると、他に犯罪が成立するのに「無罪」
ってのはいかにもおかしく感じられます。

が、刑事裁判は、そこまで真相究明を前面に押し出した制度設計には
なっていません。


そもそも罪を犯したことが明らかな場合であっても、検察官が起訴しなければ
刑事裁判すら開かれません(現実にも結構あります。)。裁判所が、「こんな
犯罪が起きてるでしょ!」って勝手に裁判を始めることはできないのです。

刑事裁判にかけるか否かを検察官が決定できる以上、刑事裁判で審理する対象
も検察官が自由に選択できることになります。

実際によくあるのは、被告人が被害者宅に侵入して強盗したというケース。

この場合、住居侵入罪と強盗罪が成立しますが、検察官は強盗罪だけで起訴する
ことがあります。

裁判所は、強盗罪の成否だけを審理することになり、(いくら住居侵入の事実が
明らかであったとしても)勝手に住居侵入罪で有罪判決を下すことは許されません。

ここでいう強盗罪にあたるもの、すなわち検察官が裁判所に判断を求めている
対象を「訴因」といいます。

裁判所が住居侵入罪でも有罪判決をするには、検察官に訴因を追加してもらう必要
があるのです。




以上を前提に本件を見てみるとどうでしょうか。

羽生検事が判断を求めている訴因はあくまで殺人罪で、他の犯罪を追加・変更
していません。

となると、裁判所は殺人罪以外の犯罪が成立するとの心証を抱いても、その犯罪
について有罪判決をすることはできないことになります。

結果、殺人罪の成立が認められないのであれば、無罪判決をすることになります。





ただし、殺人予備については有罪判決をする余地があるようにも思われます。

裁判所が検察官主張の訴因に縛られるというのは前述のとおりですが、この原則
には例外があります。

それは、検察官主張の訴因が、裁判官の考える真犯罪を含んでいるようなケースです。


たとえば、検察官が殺人罪で起訴したが、裁判官は被告人に殺意まではなく傷害致死
だろうと考えた場合です。

殺意(=殺してやろう!)は、傷害の故意(=ケガさせてやろう!)のいわば延長線上
にありますので、検察官が殺人で起訴している場合には、傷害致死も含んでいると
考えることが可能だからです。


殺人罪の場合、(素手で絞殺したような場合を除けば)凶器の調達等を伴うことが
多いので、殺人罪の主張が殺人予備の主張を包含していると考えることも不可能では
ないと思います(凶器の準備という新たな事実が加わるのでダメかなって気もしますが)。




仮に殺人罪が殺人予備罪を包含していると考えると、訴因の問題点は解消されます。


じゃぁ、本件で殺人予備の事実が証明されたと言えるのでしょうか。

これが二つ目の問題点です。


安藤が毒薬を購入した上、これを被害者宅に持ち込んだという事実が認められれば、
殺人予備の成立は揺るぎないでしょう。

しかし、これはあくまで安藤が言ってるだけ。

この事実を裏付ける証拠を検察は一切提出していません。

それどころか、安藤の供述は、安藤の購入した薬物と本件犯行に用いられた薬物
とが異なる(可能性がある)という事実(最高裁で判明)と矛盾します。

結局、安藤のストーリーも有罪判決を下してよいほどに立証されているとは
到底言えないことになります。



長くなりましたが、以上からすれば、無罪という本件判決は法律的には正しい
と思います。




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Last updated  Jan 5, 2014 02:09:44 AM
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