雨の日は音楽を

雨の日は音楽を

2023年01月03日
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カテゴリ: 歌曲
 幻日: 筆者も観たことが無いが、蜃気楼の一種で太陽の左右に幻の太陽(幻日)が出現して、太陽が3つ見えることがあるという。実際は太陽の左右22度離れた位置に見えるとのこと。

​​ 空元気(からげんき)であった としても、少しは立ち直 ったかに見える若者の前に、不思議な現象が起きている。なんということか!太陽が3つ見えている。若者は太陽に向かって立ち尽くす。弱い太陽を浴びながら若者は気がつく。これは違うぞ。

 楽 譜の先頭の速度指示は "Nicht zu langsam" 「遅すぎないこと」とある。筆者の解釈は、ゆっくりと呟くように歌うことだと思う。非現実的な3つの太陽を見ながら、別れてきたあの女の瞳を思い出す。あの目だ。

冬の最中に、任地から脱出して南下した ミュラーにとっても、珍しい経験をしたのではないか。歌詞も "Drei Sonnen sah ich am Himmel stehn" 「3つの太陽が天にかかるのを見た」で始めるのを見て、驚きの大きさが理解できる。通常の文脈ではまず見ることがない  "Drei Sonnen" を見たときの心情はいかがであったろう。それはこの若者にも言える。あっけに取られて見つめるうちに、まるで見つめられているかのように感じ始めたのだろう。

 先ず最初に考えるのは、歌詞のことである。詩の形として眺めると、全部で「10」行のしである。「冬の旅」は4行ずつの単位での形式が多いので、これは、4行、4行、2行と別れている。歌詞の翻訳者の中には、この部分は曖昧にして、全部まとめて並べて書いていたり(ベーレンライター版p.XIX参照)、機械的に5行ずつに分けて書く場合も見受けられる。

 シューベルトの作曲したこの曲も、4行の前半と後半で2フレーズ、5行目から8行目まででワンフレーズ、そして最後の2行は、英国のブランクヴァース(無韻詩)のエンディングカプレットと呼ばれる形の様に思える。シェークスピアの芝居の長いセリフは、2行の最後の部分の発音が同じ(この詩の場合は"hinterdrein"と"sein" 「...アイン」「ザイン」)ように作って、台詞の終わりを示すのである。ということで、4,4,2行に分けるべきではないのか。こうなると「連」と呼んで良いものか迷う。

 時刻はいつ頃であろうか。太陽高度が60度を超えると幻日は消滅してしまうのだが、歌詞の最後に「暗闇」という言葉が出てくるので、太陽は沈んでゆくところなのだろうか。

 若者は立ち止まって見ていると思われるので、伴奏は歩くテンポより遅くて当然である。4小節目で始まる
 "Drei Sonnen..." は、やっと声を出したかのようにピアノで絞り出す。最初の音は下がらないように注意することにしている。曲の哀しさは、この  "Drei" の高さで決まると思う。

 ゆったりとしたテンポのままで、ピアノから始まった2つのフレーズがクレシェンドして "Als wollten sie nicht weg von mir." 「僕から離れがたいように」で、ピアノとなり一区切りがつく。この後の伴奏が一旦フォルテからピアノになり音が切れる。楽譜ではピアノの15小節目は三拍目が四分休符と成っている。身勝手な筆者は、最後にこの曲をステージで歌ったときには、ピアニストさんにお願いしたのは、四分休符より長く無音部を作りたいので、インテンポで16小節の音を出さないで歌に合わせてほしいということだった。しばらく3つの太陽を眺めた若者は気づく。「ああ。君たちは私の太陽じゃないんだ。」だから15小節の "Ach" は少し遅れて気がついたことを強調したかったのでした。ここから曲想が変わるし。次の "Ja" (シューベルトは "Ach" だが、筆者はミュラーに合わせて "Ja")は、伴奏が8分音符の連続なので、間を開けるわけにもいかずインテンポで歌うのは当然かも。

 若者の心の中の3つの太陽は、その2つは、別れてきた女の瞳、でもその2つの太陽は沈んで消えてしまう。と、ここまで考えたあたりで、太陽は山の陰にでも沈んでしまい、若者の周りに闇が訪れる。2つの素晴らしい太陽が消えたんだから、3つ目も居なくなれ!「暗闇の中の方が性に合っているんだもの」。

 こうして全ての希望は消え失せ、若者はふらふらと歩き始める。いずこに?







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Last updated  2023年01月03日 00時00分14秒
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