雨の日は音楽を

雨の日は音楽を

2023年01月14日
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カテゴリ: 歌曲
 このまぼろし?の辻音楽士がハンドルを回す。最初の伴奏の2小節は、半音の前打音が鳴り始めたライアーなのだろう。いやに物悲しい音だ。Etwas langsam 「心持ち緩やかに」という先頭のテンポ指示だから、若者が近寄って歩く速度を示しているのか?やはり辻音楽士は現実の登場人物なのか?最初から歌唱部分の最後で少し盛り上がり、伴奏のフォルテが一瞬出現するまでピアニシモの設定で、辻音楽士は遠慮がちに音を出している。若者はすでに辻音楽士に魅入られたごとく、他のことには目を向けない。

 注目すべきは、歌の部分が2小節の歌と2小節の伴奏が交互に出現することである。3小節から4小節のピアノフレーズが11〜12小節と15〜16小節へと「コピー」されている。また6小節から7小節のピアノフレーズが19〜20小節と23〜24小節へと「コピー」されている。同じことが31小節〜52小節までの後半に見られる。いわゆる有節形式の一番と二番の歌として存在している。

 しかし大事なのはそこではないだろう。歌の2小節ごとに2小節の間奏が合いの手の如く入って来ることに注目すべきであろう。歌の部分10小節は、「つなげて」10小節を歌ってもおかしくはないだろう。ミュラーの詩をこれ程細断することは、この曲まで、シューベルトは行っていない。ここにこの曲の秘密を解く鍵があるのだ。シューベルトが感じていたライアーの無限に繰り返すかのような響きを再現するとともに、若者の混濁した意識をも表している。

 歌のフレーズの始まりは53小節目のミ(E )以外はすべてラ(A )で始まっていることも、混濁して思考が循環している若者の心境を示している。淡々と50小節目まで同じように歌うべきだとシューベルトが頼んでいるように筆者は感じている。

 この曲そしてこのリーダークライスの最後は、6小節の歌のフレーズが出現して、若者はこの眼の前にいるかのように思っている、指がかじかんで、雪の中裸足で金ももらえずライアーを回す老人に声をかけてしまう。もう正気の沙汰ではない。

Wunderlicher Alter,  soll ich mit dir gehn?  おい、おかしな爺さん 一緒に行こうじゃないか
Willst zu meinen Liedern deine Leier drehn? 爺さんのライアーで僕の歌の伴奏をしてくれるかい?

 どこへ行こうと言うのだろう。待っているのはどこかの納屋、木の洞、雪の原っぱ、教会の庇の下での凍死。こうして若者の冬の旅は悲劇的な結末を迎えることを、「辻音楽士」は暗示しているのだ。58小節からの後奏が一度だけフォルテになって、すぐにピアニシモになって消えてゆくのも同じように、若者の命の短さを暗示している。

オマケ:とうとう24曲の「冬の旅」全部について日頃思っていたことを全部書いてしまった。「なに寝ぼけたことを言ってやがんでぃ!」とお怒りの方もおられるとは思う。

生まれて初めて購入した歌曲のレコードが、フィッシャーディースカウの「冬の旅」を聞いて感激した高校生の自分が買った、ジラールスゼイの「冬の旅」であった。高校の合唱部の部長をしていたので、自由にさせていただいていた音楽室のステレオを聴いていたら、二期会のオペラ歌手でもあった高校の恩師が入ってきて、スゼーのレコードジャケットを手に取り、「ふん、甘いな」と仰ってそのまま出て行かれたのを今でも鮮明に思い出す。ああ、歌手によって歌い方がそんなにも違うのかと目を開かされた記憶が蘇る。





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Last updated  2023年01月14日 22時06分57秒
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