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2006年10月18日
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カテゴリ: 御伽衆
其の五


船中で黒龍の武将は、戦に巻き込まれていく娘のことがとても気がかりでなりませんでした。

「全てはあの場所からだったな。そなたを守る事もできず、このような形で再びあの島に戻るとは。」
「もったいないお言葉。親元を離れ、あの島に迎えられた時より覚悟はできております。」

島に到着した一行はすぐさま神殿に迎えられ、娘もその祈祷に参加しました。
激しい怒りにその身を焦がしながらも、気にかかるのは都にいる両親のこと。
この時代、敵国の加持祈祷をしている寺が襲撃されるのは、珍しいことではないからです。
『どうぞご無事で・・・』娘は心の中で必死に祈りました。

「青龍将軍、ご報告いたします。ただいま都より使者が戻りました。」

「今残っている兵は1000ですが、思ったより梃子摺っております。何でもその都の僧侶たちが武器を持ち、兵士顔負けの働きをしているとかで・・・。それに加え、我が軍の兵士たちの中には『僧侶を殺すことなどできぬ』と申す者たちが続出し、進軍できずにいるそうです。」
「いったい何をしておるのじゃ、坊主も同じ人間ではないか!すべて焼き払え、皆殺しにせよ!!」

あまりの事に叫び出しそうになりながらも、娘は必死でこらえました。
ここは敵の本陣、そんなことをしようものなら即座に殺されるか、自分が見せしめにされてしまう。
それだけはなんとしても避けなければなりません。何とかこの事を都にいる両親に伝えないと。

「怖れながら申し上げます。わが国の氏神の強さを見せ付けると言うのはいかがでしょうか」
「うむ。神は、我らの氏神以外にはおらぬと知らしめてやるが良い」
「我らが巫女の祈りは龍神すらも呼び寄せ、必ずや勝利を呼び込む事でしょう」

自らの口から咄嗟に出た言葉に驚きながら、娘は必死に動揺を押さえ、震える手を握り締めました。
これで都に入る事由ができた。隙あらば父上にお知らせしようと強く心に決めました。
「明日にはたくさんの兵たちと共に都へ向かう・・・」娘は一睡もできずに出発の朝を迎えます。



都はすでに火の海で、娘が生まれ育った懐かしい景色はもうどこにもありません。
娘は誰にも悟られまいと涙をこらえ必死に、前を向いて進みます。
この様子に黒龍の武将は、ただならぬものを感じていました。

『この数日の言動といい・・・。もしやこの地は、我が君と関係があるのでは?』
そんな考えが頭をよぎり始めたものの、娘に問いかける事ができませんでした。


一行は本陣に到着し、さっそく祈祷をするための祭壇が組まれる事になりました。
娘はその隙に、父親の元へと駆けつけ作戦の一部始終を伝え、逃げてくれるように懇願します。
でも父は首を縦には振らず、皆と共に死ぬ覚悟だと娘に告げました。
「よく帰ってきたな、今まで大変だったろうに。しかも戦の中ここに来るなど、余程の勇気がなければ来る事は叶わぬ。さすがは我が娘だ。」父は号泣しながら娘の頭をなでました。
「こんなに美しい娘に成長してくれて、父は嬉しいぞ。今一度、共に不動明王に祈ろう」
母とともに舞い踊り、父と祈る。それは親子で過ごせる最後の幸せな時間でした。

「もうこれで思い残す事はない」そう言い聞かせながら娘は本陣にもどり、神殿に向かいました。
娘は龍神を呼び、弁財天にこれ以上戦火が広がらないようにと祈り続けました。
祈りが始まって半時ほどして、都は青龍の軍が制圧したという報告が娘の耳にも入りました。

「朱雀の都は今どうなっておるのじゃ?」
「青龍将軍のお言葉通り、女、子供に至るまで皆殺しに・・・それはもう酷い有様です。抵抗していた僧侶たちに至っては、家族と共に寺ごと焼き払われたそうです。」

怖れていた最悪の事態が・・・。娘の激しい悲しみと怒りは、自分の人生を狂わせただけでなく、この戦を始めた青龍将軍ただ一人に向けられていきました。

「許さぬ!絶対に許さぬ!!子々孫々、八十連續きに至るまで呪い殺してくれる。おまえの土地も兵も、全て残らず海の底に沈めてくれるわ!消えろ、この世からすべて消えてなくなるがいい!!」

娘の激しい祈りを聞き届けたように雷鳴が轟き、激しい豪雨と荒れ狂う波が戦のすべてを飲み込んでいきます。その勢いは止まることなく増していき、大量の水と土砂が都へ流れ込みました。
これではひとたまりもありません。本陣にいた武将たちは退散を余儀なくされ、慌てて船に戻ろうとした時には既に遅く、あっとゆう間に船も町もすべて沈んでしまいました。
そう。娘は、本当に龍神をこの地に呼び寄せたのです。

膨大な量の力を一気に放出した娘は、精も根も尽き果て、気を失ったかのように深い眠りに誘われていきました。そして半時ほどして。。。

娘はゆっくりと目を覚まし、目の前に広がる光景の、そのあまりの変わりように愕然とします。
なぜなら、自分が生まれ育った朱雀の都もそこにいた人々もすべて、海の底に沈んでしまい、生き残ったのは娘ただ一人だったからです。娘は泣き叫び、自分が犯した罪に身を震わせました。
神職者が自分の激情に任せ、呪い言葉を言ってしまうことは何よりの大罪だと知っていたのに・・・。

あまりのことに娘は龍神に許しを乞い、その身を海に投げました。
そして娘は、鯤鯨(こんげい)となり自分が沈めてしまった土地を守り続けたとさ。

(※ 鯤鯨・・・想像上の大魚。大きく成長するとその姿を龍に変え、天に昇っていくという伝説の魚)



【 終わり 】





【 おまけ 】

娘と父親が祈った不動明王は、海に沈むことなく新しい寺に運ばれていきました。
そして月日は流れ・・・。娘の意思を継いだかのようにこの像は遷都された都に送られ、たくさんの僧侶たちにより、青龍を滅ぼすための祈祷が続けられました。
それからほどなくして、青龍の一族最後の一人が暗殺され、永き渡った戦が終焉を迎えました。

そしてこの不動明王は大切に奉られ、今もなおたくさんの修験道を目指す者たちが訪れては、祈祷が続けられています。都を滅ぼすためではなく、都の平和を祈るために。






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Last updated  2006年10月18日 18時06分05秒
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