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2002年02月04日
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「もう何年も前に、星野富弘さんの『速さのちがう時計』という本を、頂いたことがあるんです。でも、私、その本をまだ一度も開いていないんです。」

いつもどこか哀しげで、遠い所を見ているような感じの女性が、話し始めました。

「その本、私が好きだった人からの贈り物でした。どうしてこんな本をくれるんだろうと、私は漠然とした不安を感じました。もうあの時、私たちの時間はずれ始めていたのかも知れません。」

「心の時差のない関係なんてきっとないのでしょうね。ただ、その時差に気づかないようにしながら関係を保っているだけなのかもしれません。」

「私、時々思うんです。あかちゃんを抱いているおかあさんは、あかちゃんの時計の速さに自分の全てをあわせることを無上の喜びとしているんだろうなって。
自分の時計の速さを相手の時計の速さにあわせることが出来たら、きっとこの世に哀しみなんてなくなるのでしょうね。」

「相手との時差に苛立つのは、そこに愛がないからなんでしょうか。
あの時、彼が私に贈りたかったのは一冊の本ではなかったのかもしれないと思うこともあるんです。あの本に託して、感じ始めた心の時差を縮める努力をしてみようというメッセージだったのかもしれないと・・・・。」

「でも、私は本を開きませんでした。開いたらこれで終わりだと思ったのです。結果としては開いても、開かなくても、私たちの関係は終わっていきました。お互いの時計の速度を変えることは出来なかった。」



この女性は、その本を贈ってくださった方をまだ愛しているのだろか。この女性がいつも見ている遠いところには、まだその方がいるのだろうかと、私は思いました。

でも、それは違うように思います。この女性が見ている遠いところには、きっとどうしても捨てきれない自分自身。エゴという名の自己愛が、華麗な衣装を着、美しい仮面をつけて立っているにちがいない。たった一人の物語のヒロインとして立ちつくしているにちがいない。そう感じます。

・・・私にも、同じような苦しみがありますと、声に出すことはしなかったけど、彼女の冷たい手をそっと握りしめて月明かりの中に見送りました。
人間は哀しいけれど美しいものだと思いながら・・・





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最終更新日  2012年04月07日 17時11分57秒
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