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2002年05月04日
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「ねえ、うさぎとかめの話しって、どんなにのろまでも放り出さずに努力すればうさぎにだって勝てるってはなしだよね。」「そうそう、それからもう一つ、どんなに足が速くても慢心したり怠けたりしたら、かめにも負けるぞっていうことなんでしょう。」「けどさあ、この話しって、今の世の中には通用しないよな。」若者たちのグループがわいわいと話し合っています。

「ほんとにそうかもしれませんねえ、いくら努力したって、努力だけでどうなるという世の中ではないのだもの・・」と40歳代の男性。「うさぎに生まれた人の人生と、かめに生まれた人の人生は、もう生まれたときから決まっているみたいなもんかもしれませんねえ・・・」と60歳代の女性。「運命って絶対にあると思うなあ。かめがうさぎに勝つなんて千載一遇の奇跡みたいなもんですよ」と30歳代の男性。「あらあら、千載一遇なんて言葉、よく知っていること・・」と茶化したのは先ほどの女性。「へへへ、オレ、恥ずかしいんだけど世間では秀才の誉れ高き大学の出なもんで・・・」と、定職もなくアルバイターで日銭を稼いでいる男性の応酬。

あちこちでにぎやかに繰り広げられる話を聞いていた、出版関係の仕事をしている男性は誰にともなくつぶやきました。
「うーん、そうなんだなあ。昔話はまさしく昔の話なんだろうな。昔話は、この厳しい時代の人々の心に届かないんだろうな。昔話を書き換えることは出来ないけど、新説・うさぎとかめというような、なにか新しい解釈の出来る糸口が必要かも知れない・・・」

そのとき、思いがけない人が思いがけない発言をしました。「あのぉ、私、小さいころからうさぎとかめのお話しが大好きでした。どれだけこのお話しに励まされてきたかわかりません。ねえ、かめはうさぎに勝つことが目的だったのかしら・・・・努力は勝つためのものだったのかしら・・・。結果としてかめはうさぎに勝ったのだけど、かめはきっと自分の生まれてきた道を、自分の足で一生懸命歩いただけのような気がするんだけど・・・・」

お説教がましく年配の人がしたり顔に言ったのではなく、その女性が発言したことで会場はうろたえました。その女性は生まれながらに足と腰の骨に障害があって、何度も何度も自分の人生設計の修正を否応なくさせられてきたことをみんな知っていたからです。努力することは勝つためではなく、ただ自分のいのちを生きるためだという、その女性の明るい顔を見ながら、私たちはみんなふっとわれに返った部分がありました。

そして、一つの前向きな言葉がその周りの空気を変えるように、投げやりで、悲観的で否定的な言葉は、もしかしたら同じようにその周りの空気を腐らせていくに違いないと、みんなは思いました。

「・・そうか。出してみようかな。思いっきり古典的な、思いっきりこの時代に逆らった正統派の教訓集を。もしかしたらどこかに奇跡を生むかもしれない・・・」くだんの出版関係者は、心なしかうきうきとスキップをするような足取りで会場を出て行きました。






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最終更新日  2002年05月04日 21時28分27秒
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