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2008.06.08
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カテゴリ: オリジナル小説
新宿のデパ地下で買物を済ませた柚子たちは、タクシーで帰ることになった。

 真紀子の、

「どうしても、そうさせて下さい」

との秋子のことを気遣った想いに感じて、柚子は遠慮する母を制して甘えることにした。

 柚子は父を亡くしたが、真紀子はその翌年、母親を亡くしている。

それ以来、真紀子は大の親友柚子の母、秋子を母親と思って接して来たのだった。実の母を亡くした。

 ただそれだけの理由だけではない。



 小2の頃、脚を骨折したあの時・・・わずか8歳にして親元を離れての入院生活。

毎日午前中に来てくれる母も夜の7時には帰って行く。あの別れの切なさ。



それを癒してくれたのは柚子の母親、秋子だった。

 彼女は真紀子が眠ってしまうまで側を離れず、優しく子守唄を歌ってくれた。

退院する時、真紀子は母に手を引かれながらも、何度も、何度も秋子を振り返り手を振って別れを惜しんだと言う。



 実の母を亡くした後、真紀子は柚子にこう言っている。

「ねえ、柚子。私、あなたのお母さんのこと2番目のお母さんだって、そう思っていい?」

 柚子の答えは彼女らしく、簡単明瞭であった。

「良いも、悪いもないよ。真紀子は私の母のこと大切に思ってくれてるって、ずっと前から分かってた。

だから、これからも母をよろしく」

そう言って柚子は、真紀子が見て来た中で一番優しい目になった。

真紀子は飛びつくように柚子に抱きついて涙を流した。



何度も繰り返してそう言いながら。



 三人揃った、楽しい夕食が賑やかに始まった。秋子は柚子に付き合ってヘルシーな料理を心がけてきた。

だが今日は柚子の、たまにはいいかも。の一言でジューシィな肉料理が並んでいる。

 勿論、野菜も用意してある。あるのだが、やはり柚子の前には「野菜ジュース」が置いてある。



 秋子は、久しぶりに食べる、たっぷりと脂の乗ったステーキに舌鼓をうってご満悦だ。

「やっぱり、たまには高カロリーの脂肪も必要よね、若くなくても」

 なんと言われたって、たまには食べるわ。と、宣言するように秋子が言った。

真紀子は、秋子の科白の終わりの部分を否定するように、

「そんなことない」と、軽く首を振ったあと、続けて言った。

「おば様は、まだ充分若々しいですから」

 秋子はナイフとフォークを持った手を止めて、真紀子へ嬉しそうに微笑みながら言った。

「ありがとう!あなただけよ、そんなふうに言ってくれるのは」

 柚子は母の喜ぶ顔を見た後、真紀子に顔を近づけるようにして言った。

「あんまり乗せないで。また派手な色のルージュを買って来るから」

秋子の表情が明らかに変わった。面白くない、という風に。

 真紀子は慌てた。このまま本気の喧嘩に発展するとは思っていないが、

久しぶりの三人揃ったディナーを台無しにしたくない。その想いが真紀子の表情に表れた。

必死に懇願しているように見えた。秋子と柚子の顔を2度ほど往復してから柚子に視線を止め、

「柚子、お願い・・・」

 と、そう言った。何をお願いなのか、それは言葉にしなくても通じる。柚子と真紀子は、無二の親友である証を示した。

 「分かった」と、

柚子は真紀子の目を見て、そう言い。手にしていたナイフとフォークを置いてから母を見て、神妙な顔をしてこう言った。



「お母さん、さっきは口が過ぎたわ。ごめんなさい」

「あら、いいのよ、小さな事だもの。私があなたに、『あかんべ』をすれば済んだ事なんだから」



竹を割ったように、さっぱりとした性格と言える。



「そこがいいんだ、お母さんのそこが好きなんだよ」

中学生だった柚子の前で、父親が良くそう言っていたものだ。

母親のそんな気性を歓迎して柚子が笑い声を立てた。それにつられて真紀子も笑う。

一瞬「?」になった秋子も直ぐに笑いの中に加わった。笑顔の輪が出来て、三人の楽しいディナーが再開された。



三人とも、良く食べた。そして良く飲んだのは秋子。柚子はこの後、

真紀子に聞いてもらいたい事があるのでワインを2杯だけ。

真紀子も昨日、携帯で話した時に柚子が言った

「聞いてもらいたい事がある」

そのことを忘れてはいない。彼女は秋子に付き合ってビールを1本だけ飲んだ。それだけ。

秋子は少々不満だったが、せっかく再開した楽しいディナーを台無しにするほど無分別では無かった。

 今日の彼女たちにとって、アルコールは楽しいおしゃべりの潤滑油に過ぎなくなっていた。






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最終更新日  2008.06.08 23:35:29
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