★Latin Dance Night★

★Latin Dance Night★

2004.08.27
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カテゴリ: カテゴリ未分類
タクシーに乗って帰宅していた真夜中に、
エルネストから電話がかかってきた。
声を聞くのは、久しぶりだ。

「仕事が忙しくてさ、今日はさっきまで
 トラベルエージェントの営業と、飲んでたんだよ」

日系人向けに航空券や個人旅行の手配をする
仕事をしている彼は、いまやすっかり旅行業界の人。
「営業と飲んでた」
いっぱしのサラリーマンのような口振りである。


まだあえて結婚はしていない。
最近は、結婚しないことの方が、
不自由に感じるようになってきたという。
生命保険の申込をして、受取人を同居の彼女の名前に
しようと思ったら、「ご結婚されていない場合は、10年以上
同居歴がないと・・・」と、担当者にやんわり断られたという。

「この生命保険の件で、彼女はよけい結婚にこだわるように
 なったんだよね。結婚、結婚、ってうるさくて・・・。
 今は、まさにentre la espalda y la paredという感じ。
 マヤ、この意味わかる? 『肩と壁の間』ってどういうことか」

「うーんと、

 追いつめられている・・・ってこと?」

「そうそう、そのとおり。オレ、このごろずっと
 壁際に立たされてるんだ。
 そこから一歩も動けないの。
 オレには、今、自由が全然ないの。踊りにだって全然行ってないよ。

 初めて日本に来るっていうのに、
 コンサートなんて冗談じゃないって感じ。
 仕事休みたい、なんて言ったら、彼女に軽く笑われたもんね」

あなたの国では、オリンピック選手だって、もっと踊ってるよ。
キューバチームの野球選手たちって、
ウォーミングアップがわりにサルサ踊ってるっていう噂じゃん。
金メダルの打力と脚力は、日頃の過激な練習に加えて、
さらに姉ちゃんたちとダンスを楽しんでるからだと思うな。

人生には、緊張と弛緩のバランスが大事なのだ。

キューバじゃ兵隊だって、あなたよりうんと
まっとうな週末を過ごしているよ。
軍事訓練の後は、たくさん飲んで、たくさん踊る。
明日のことなんて考えずに、狂ったように踊る。
だって私は見たもん。踊りまくるキューバの兵隊たちを。

私と最初に踊ってくれた、ちょび髭の兵隊のアントニオは、
革命だ、自由だ、チェ・ゲバラだ、カストロだなんだ、って
イデオロギーに染まった石頭だったけど、
裸足にサンダル履きで、ステップをばかばか踏んで
土ぼこりを上げてた。
ダンスパーティというより、キャンプファイヤーみたいだった。
そんなことはどうでもいいんだ。
踊れさえすれば、彼らは何もない砂漠の上でだってご機嫌になれる。
そんなご機嫌な彼らといると、私もつられて気分がよくなる。
赤く充血した目でじろじろ見つめられて、
酒臭い息を吐きかけられるのは、たまんなかったけど。

隣では、ふとっちょのお父ちゃん兵士が、
3歳ぐらいのかわいい女の子を
肩ぐるましながら、奥さんと踊っている。
肩車をしてるから手をつながずに、それでも、
ちゃんと手をつないでるかのごとく
ペアで息を合わせて、シンクロして動いてるところが
夫婦の年期を感じさせる。

ステージ、というにはおこがましいほどの、ボロっちい
木の高台でメンバーたちが、次々にソンやボレロ、チャチャチャやマンボを奏でる。
ホセを見やると、秋葉原で買ったというヤマハの電子ウッドベースをブンブン鳴らしている。
別人のようにキリッとしまったいい男。目が合うと時々、
ニカっと歯を出して笑う。
あいつは、ベーシストでいる限り、一生女に困らないだろう。

私は2,3曲で一気に疲れて、
一人で座り込んでラムを啜っている間、
痩せた足の長い褐色の少女が踊るのを眺めていた。
ふと、長時間踊れるひとつのコツを発見した。
足を地面からあまり離さずに、ずるずる引き吊り歩きをするように
ステップを踏を踏めばいいんだとわかった。
上半身はほとんど動かさず、
大股で引き吊るように歩きながら、重心を移動させる。
ステップ踏む、というより、足だけ見ると、
単にだらしなく歩いてるだけ。
歩いていても、全身はちゃんとリズムにハマってる。

ここじゃ、ダンスレッスンを受けてるヤツなんて、
誰一人いないだろう。
見てくれをよくすることよりも、
自分がどう踊れば気持ちいいかだけを考える。
気どったハイヒールなんてはかず、長時間踊れるサンダルを選ぶ。
派手に大きく踊るのが好きなやつもいれば、
だるく緩めに踊るやつもいる。

褐色の少女が、大股の引き吊り歩きで、延々と緩く
踊っているところを、写真に撮ろうと思ってカメラを構えたら、
アントニオに怒られた。

「なぁ、セニョリータ、ここは、写真を撮るのは禁止なんだ。
 軍事基地だからな。わるいね・・・ほら、もう一度
 オレと踊ろうぜ」

あわててカメラをナップサックの中にしまい、アントニオに
引っ張られて、またの輪に加わる。
アントニオに次ぎ、おやじ兵隊たちとかわるがわる
ペアを組み、私も負けずに土ぼこりを上げる。

酔いが回った頭で朦朧としているうちに、
辺りはすっかり日が暮れて、いつの間にか
パーティはお開きになった。
帰りがけにメンバーたちに住所をメモして
もらおうと思って、テーブルの上に置きっぱなしにしていた
黒いナップサックのファスナーを開けた。

ノートとペンを探そうと思って、
手を伸ばしたら、指先に何かひやっとした液状のものが触れた。
中を覗くと、たぷたぷした水のような何かが暗黒の底に漂っている。
ナップサックの底は、ハバナクラブ3年物の海と化していて、
なにもかもが酒浸しになっていた。

それまで何枚も写真を納めていたコンパクトカメラも、
お気に入りのキューバンサルサCDも、CDウォークマンも、皮の財布も
旅行ガイドブックも、携帯用スペイン語辞書も、なにもかも
ぐじょぐじょ。

中味を取り出したら、プーンときついアルコール臭を放つ
ラムのしずくがぼたぼたと、したたり落ちてきた。
全てのものを取り出して、ナップサックを逆さまにすると、
ラムがじゃーっとこぼれて、乾いた土の上に黒い大きな
シミができた。
ホセが近寄ってきて、悔しそうに言い放つ。

「あ~あ、なんてこった! オレのラムのボトル、
 割れちゃったのか。
 誰かが、君のカバンを床に落としたんだ。ひどいな。
 君のカバンが、ラムを飲んで酔っぱらってるぜ」

っていうか、あんたが欲ふかして、ラムのボトルなんかを、
あたしのカバンに入れるから、こんなことになったんだよ。
日本人なら、こんな時、めちゃくちゃ謝るぞ。

ホセは、悪びれる様子もなく、
ナップサックの底から、割れたガラスの
細かいかけらをひとつひとつ拾い上げている。
「アイッ・・・!(イタタ!)」と叫んで、
血がにじんだ指をあわてて大袈裟に舐める。
<オレはちっとも悪くない、ほら、こうして指まで切っても
ちゃんと片づけを手伝ってやってるぜ>といいたげに。

カメラの中にまでラムが入ったらしく、レンズが水滴で曇ってる。
シャッターを押したが、もう音がしない。
バンドのメンバーや兵隊の家族たちが、一緒になって
私の荷物を、ティッシュやタオルを総動員して
ふき取ってくれた。

持ち物まですべて、キューバの味になってしまうとは。

ラムで濡れて自然乾燥させた、スペイン語の辞書は
ミルフィーユのパイ生地のように、細かいしわがよった。

今でもよれよれのページを、はがすようにめくるたび
あのラムと土ぼこりにまみれた、
兵隊パーティのことを思い出す。

~つづく~





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Last updated  2004.08.29 05:09:04
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アンデス音楽が好きで見にきました@ Re:<第32話>コンドルは泣きながら飛んでゆく(03/03) サイモンの翻訳は直訳すると変になるので…
ケイコ@ Re:<第1話>Latin Dance Night(02/01) ラテンの曲が好きで、スペイン語をもっと…
Mine@ Re:<第86話>キューバの日本語クラスに潜入(06/17) こんにちは。この夏にキューバへ一人旅し…
王様@ 潮 吹 きジェットw サチにバ イ ブ突っ込んだ状態でジェット…
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