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今回は日本国内のある児童館で起きた、危険・不衛生・無計画な労務命令についてご紹介したいと思います。20代から30代の若い人が上に立つことが多くなった児童館・学童保育の現場において、労務管理の意識が著しく欠如している事例として社会に警鐘を鳴らす意味合いをこめてご紹介します。なお本例は、実際にまさに本日起きた事例として聞いたケースですが、固有名詞に関しましては伏せさせていただきます。(事例) 児童館の下水が詰まり流れなくなった。よく調べてみると、施設内に敷設された下水管が破断しており、そこから逆流した糞尿が、おそらく数年から10数年分、地下のスペース(コンクリートで四方を囲われた窓も排水溝もない地下空間)に蓄積していた。そのスペースは部屋の広さで言うと20畳くらいの広さがあり、そこに7分目ほどの高さ(約1.5メートル)まで糞尿がたまっていたから、半ば糞尿のプールになっていた。 当初はA館長の「何か施設が臭いのだけれども」といった相談から、C職員がその原因究明をしその原因を突き止め対策を考えたが、素人の手に負える状況ではないとC職員は判断したため、A館長経由で専門の下水道工事業者に来てもらい、詰まった汚物や大量の糞尿をポンプなどで吸い上げ、丸一日かけて原状回復した。 下水道工事業者は、汚物の堆積した地下空間に入り、清水によってすべての汚物を取り除き破断した部分の修繕を済ませ、ひとまずその地下空間は元のとおり何もない状態になったのだが、A館長とB主任はその地下空間をただ清水で流しただけでは気が済まず、洗濯用洗剤とブラシで全てを洗い、次亜塩素酸ナトリウムを全てに貼付して処理したいと考えたようであった。要は業者のした作業は「雑で不十分」だから、もっと徹底的にやりたいと思ったようであります(のちに業者はそこまでやる必要はないとコメントしています)。そこで、A館長とB主任は、その作業をC職員に10分程度でやってほしいという指示を出しました。というのも、その地下空間には排水設備がなかったため、業者が仮敷設したポンプが設置されているまさに「今」やっておきたいと考えたようでありました。 しかし、C職員は4つの理由でその作業に取り掛かることを躊躇しました。ひとつは、作業そのものが危険であることです。著しく密閉された地下空間において作業することは酸素欠乏作業に該当するため、酸欠状態になること。洗剤や次亜塩素酸ナトリウムを用いて作業することは、化学反応により有毒な塩素ガスが地下空間を充満し生命に危険を及ぼしかねないことがその理由でありました。そばにいた業者のベテラン作業員に訊いても、酸素欠乏と塩素ガス中毒が心配なので、その作業をするのなら自己責任でしてくださいと言っていたようです。 また二つ目の理由は、突然その作業を指示されたことです。経年の累積した糞尿汚物が充満していた空間に入って作業するには、糞尿まみれになってもいい作業着であるとか道具の準備を前もってしなければなりません。そうした準備も道具もまったく用意されていない中で、突然その作業を一人で行うように指示したそうなのです。児童館指導員であるからその時点での着衣はジャージにフリースだったそうです。長靴も手袋も用意されていない中で、突然着の身着のままで作業を開始しなくてはならないことになると、細菌やウィルスが身体や衣服に付着し本人ばかりでなく、その後接触した利用者児童や帰宅後の家族まで感染する可能性がでてきます。よって、それは躊躇してしかるべきだと考えられます。 三つ目の理由は作業時間であります。20畳ほどの空間を壁から床まですべて洗剤で洗い、塩素で消毒しきれいな状態に原状回復させるのに、10分という時間はあまりも短すぎます。なぜ10分かというと、ポンプの片づけを待っている下水道業者に迷惑がかからないようにとのことだそうです。常識的に考えて、それほどのスペースを一人できれいにしようとするのなら、少なくとも半日は必要だと考えられます。だいたい小学校のプールの半分くらいの大きさのスペースです。作業量と求められていた作業時間に明らかな隔たりがあったため躊躇したそうです。 四つ目の理由は、下水道業者に対する思いやりの心です。まだ糞尿が深く堆積している中でも、その糞尿の中に入って汚物を掻き出してくれたその行動に(仕事とはいえ)敬意を払うのではなく、作業が完了した(と業者が言っていた)後でも、洗剤と塩素で漂白するところまでの作業はやってくれないと文句をいい、「だったら自分たちでやるので、その作業が終わるまでポンプを貸してください」というのはあまりにも心無い発言だと思ったからであります。仮に作業結果に満足がいかなかったとしたならば、業者に追加注文という形で依頼するか、あるいは自分たちでやるのなら業者が帰った後に自分たちだけでやるべきではないかと考えたそうであります。事実、業者の作業員はその職員の姿をみてあまりいい顔をしていなかったようであります。 以上の理由から、A館長とB主任から依頼された作業を躊躇し、C職員は「今のこの状態でそれをやるのは無理ではないですか。明日以降ゆっくりやりましょう」と提案したそうです。ところが二人は「だったらこっちでやるからいいです」とふてくされた態度をとって、B主任はD職員を連れてその地下空間に自ら入り30分ほど自ら洗浄作業をしたそうです。のちに作業中、酸素欠乏状態であったことや薬品のにおいで眩暈がしたことなどを「C職員がやらなかったから俺たちがそういう目にあった」という表現で大愚痴をたたいていたそうであります。 この事例は、まず大きな問題として、仕事の安全管理がまったくなされていないことが分かると思います。酸素欠乏作業や密閉空間での薬品の使用に関してはたいへん大きな事故につながる状態にありました。もし仮にそうした作業を職員に依頼するのであれば、十分な安全対策が施された後でなければなりません。今回の事例ではそうした安全対策がまったくなされないまま、場当たり的にあるいは思いつきで作業の指示をしたことに上司としてまた労働安全責任者として重大な過ちを犯していると考えられます。また衛生管理においても、糞尿や細菌あるいはさまざまなウィルスの巣である場所に入って作業させるのであれば、着衣や防護対策を完全にしなければなりません。長靴も手袋も用意されていない中で、また着の身着のままの状態での作業を指示したという事実は、先進国である日本の労働衛生環境とはまったく考えられないことであります。 今回は労働安全衛生という側面からこの事例をご紹介しましたが、それだけではなく、仕事の指示の出し方、仕事の進め方、仕事の依頼の仕方、他人への配慮といった仕事全般にわたって問題が多い事例であります。この事例はある特殊な児童館の事例ではありません。全国的にもこうした職場が決して少なくないのです。適切な管理者のもと施設が運営されていくことを望むばかりです。
2013年02月05日
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労働時間と開館時間 公務員であっても会社員であってもNPOスタッフであっても団体職員であっても労働基準法が適用される限り、それに従って勤務するのは自明の事実です。一日8時間労働、週40時間労働、一日2回の15分の休息時間(使用者の拘束のある休憩)と一日1回の45分の休憩時間(使用者の拘束のない休憩)が基本となります。こうした労働問題については別の機会にしっかりとご紹介します。最近の会社や団体には労働組合のないところがあり、労働に関する基礎的知識のない職員がたくさんいるようです。労働者の労働組合離れが結果として労働者自身の権利を奪っているのではないかとちょっと心配しています。 それはさておき、そうした労働時間の問題と施設の開館時間の問題に矛盾が起きたときに、みなさんならどちらを優先させますか。労働時間を優先させて利用者に使用の制限をさせますか、それとも開館時間を優先させて労働者の権利主張は別問題として使用者と協議しますか。答えはもうお分かりでしょうが、後者でなければなりません。 たとえばこういう施設がありました。昼休みの児童館で職員の休憩時間を保障するために12時から13時までの1時間一部の部屋以外は閉鎖し、職員室も扉を閉め職員がだれ一人として子どもたちの中にいなくなりました。その自治体の条例上は開館時間が9:00-18:00までなのでもちろん12:00-13:00も開館時間の中に入っています。しかし、その時間は児童館の一部は使えるものの、児童指導というサービス提供はなくなっているのです。・・・実際には子どもが怪我をしたと訴えてくれば対応しますが、折り紙ください・塗り絵ください・ボール貸してくださいには一切対応しません。確かに労働基準法に照らしあわせれば休憩時間は権利であり必要です。であるのなら、昼休みに職員が一斉に休憩にはいることはなく、交代で休憩をとればいいのです。 昭和時代にはこうした児童館は当たり前のようにありました。学童クラブは子どもたちの保育を放棄するわけにはいかないので、このようなことはありませんが、児童館に限って言えば今でもこういった施設が多く存在します。これには時代背景があります。それは労働組合の主張と交渉によってそうした状況が生まれてきたのです。すなわち、児童館・学童クラブは開館時間中子どもがいるので昼休みをとれる環境がなく、また昼休みと言えば12:00-13:00が社会的に標準なのでその時間をずらすことは健康上よくない、という理屈です。今では通用しないおかしな話ですが、昭和40-60年頃まではこうした主張によって条例上は9:00-18:00まで開館時間となっていても運用上は12:00-13:00は施設を閉鎖しても構わないという解釈をしていました(私が最初に勤務した児童館にも施設の外の標示に開館時間は9:00-12:00,13:00-17:00と記載がありました。実際の条例とは違う標示だったのでそのことを課長に伝えたところ看板が変更されました)。利用者もいちいち条例を参照して利用する人はまずいないので、そうした慣例が当たり前になっていました。 しかし平成に入ってからそうした条例違反を内部で問題にする人が現れ、昼休みを交代勤務にしたり「ランチタイム」などの行事を当てたりするような児童館がでてきました。それによって革新的な自治体や改善を積極的に行っている自治体はそうした是正がなされてくるところもでてきましたが、まだ保守的な考え方の自治体では未だに昭和時代の名残が残っている施設があります。子どもの施設では食事をとる時間も場所もないとか、忙しいなどで十分な休憩時間がとれないという事情はあると思います。しかし労働者の権利を行使するために利用者にその利用を制限することはよくありません。うちの施設がそうかも?と心当たりがあるのであれば、ぜひ早めに改善を試みていただくようお願いします。
2012年09月24日
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