りとるあんじーより・・・

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2008/01/07
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カテゴリ: 創作




誰の声だったか、その声のする方を振り向くと
中庭に牡丹雪が華のように舞っていました。
つわぶきの大きな葉に遠慮がちに降りていました。
風花散るように斜めに吹きつけられた雪は、
窓ガラスをまるでノックしているかのようでした。

私は暫く雪の降るさまを眺めておりましたが、
香の切れたことを思い出し、外へ買いに出る支度をしようと奥の間に入りました。
文机の上にある桐の小箱が静かに置いてあるだけの部屋。

ひんやりとした部屋に入るとぞくっとしました。
そしてなにやらえもいわれぬ思いがしたのです。
どうしたのでしょう。
誰かがすっと横切っていったような気がしたのです。
音もなく。
形もなく。
強いて言えばそれは「影」みたいなものだったのかもしれません。
おかしなことがあるものね。
自分の感覚を訝しみながら苦笑したその時・・・。

ないことに気がついたのです。

桐の小箱が・・・。



慌ててそこいらを見渡しましたが見つかりませんでした。
あの中にはあの人からの手紙が、連絡先が入っているのよ・・・。
胸騒ぎがして文机の裏、戸棚の陰・・・探しましたがどこにもありません。
そう・・。
それは音もなくすーっと消え去ってしまったのです。







moon





買い物に出かけることさえ忘れて私は呆然とそこに佇んでいました。
連絡先・・・。
覚えているのはあの優しく染め上げられていた手漉き和紙の触り心地のみで、あとはどんなに思い出そうとしても記憶に靄がかかったようでどうしても思い出せないのです。
脳裏にまざまざと浮かび上がる墨染めの文字。
しかしその宛名がどこを指し示しているのかがどうしても思い出せないのです。


これは夢の中なのかしら。
半分夢見て半分目覚めているのかしら。

しかし・・・。
夢だと思うには、あの手紙から感じ取れた貴方の命の鼓動が指に焼きつきすぎているのです・・・。
古寺のあの場面での貴方の横顔の残像が心に蘇ってきてしまいすぎているのです・・・。

哀しくなって文机に顔を伏せて暫く目を閉じていました。
貴方の顔を思い出しながら。
去年のことを思い返していました。
柔らかい思い出に包まれながらいつしか微睡んでいたのでしょう。

気がつくと、そこは一軒の茶店の中でした。
誰もいない茶店の中に私は一人っきりで座っておりました。
よく考えてみるとそれは確かに不思議な光景ではあったのですが、私はその場にいることになんの疑問も抱きませんでした。

そこへ店の人らしき女性が私のほうへ歩いてこられました。
「お預かりしているのですが」
そういって私に一枚の紙片を渡そうとするのです。
私は、小さく会釈しながらそれを受け取りました。
見るとそれは乗車券でした。
行き先は掠れてよく読めなかったのですが、ひとつだけ読めた文字がありました。

「月屑色の船」

その下には「夢の流れ初めの場所からお乗りください」
と書かれてありました。

夢の流れ初め。
それは一体どこなのでしょうか。
仮にそこに行ったとして船に乗ってどこへ行くのでしょうか。









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Last updated  2008/01/07 07:38:22 AM
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