美月らしく

美月らしく

2005.07.02
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カテゴリ: ストーリー
帰りたくない。帰りたくない。このまま帰ったら、ともだちで終ってしまう。


黙ってしまったガムに結局私は何も伝えられず、ふたりは反対向きの電車に乗った。

まもなく夏休みが来て、通学途中に会うこともなくなった。
ガムがいない夏がすぎていった。

母は、それを喜んでいたようだった。
毎日電話をかけてきて、毎日娘を呼び出す、困った予備校生。幸福な結末をもたらさない面倒な恋の相手。どうやらこの恋は終ったようだ。若いうちは新しい恋はいくつでもやってくるもの。

ガムがいない長い夏休みは無味乾燥にひからびていて、ひとつの輝きもない日々の連続だった。


あと一週間で9月になるという日、突然、ガムから電話があった。


いや、そんなことは私にはどうでもよかったのだ。
ガムは夏休み中にいろいろ考えて、やっぱり私のことを必要だと思ったのかもしれない。きっとそうだ。それを伝えるために今日呼んだに決まってる。他の理由なんて考えられないもの。きっと、きっと、きっとそうだ。

海までドライブして、散歩して、夏の終わりの人気のなくなった砂浜でゴルフごっこして遊んで、あっというまに夕方になった。

防波堤に腰掛けて、ふたり並んで海をながめていた。
会話もなしに長い時間をいっしょに楽しめる相手はガムしか考えられなかった。
私のことを全部受けとめてくれるのはガムしかいない。何も言わなくてもわかってくれるたったひとりのひと。いちばん大切なひと。
ガムをどうしてもなくしたくない。

初めてガムの腕が私の肩を抱いた。
そして軽く身をよじらせると、そっとキスした。
短いキスに、唇から全身に甘い幸せが、波が寄せるように広がっていった。
こんなに幸せなのに、こんなに好きなのに、ともだちなんかでいられない。

私の全身は形だけの残骸となって「私」はなくなってしまった。幸せな、長い、長いキスをした。離れられずなんどもくりかえしキスをした。

でも、別れがしっかり席を定めて待機していることに気づいていないのは私だけだった。
ガムの顔についた私の赤い口紅を、笑いながら拭いてあげると、ガムも笑いながら立ち上がった。

哀しかったのは、自分の幸せな気持ちをガムに伝えられなかったこと。
あなたとのキスがどんなに幸せであったかをわかってもらえなかったこと。

私の前から、消えた。消えてしまった。私は何も伝えられずに、ひとり夏の最後に取り残された。





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最終更新日  2005.07.02 18:18:12
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